#4 責任の所在
「この責任をどうとるつもりだ」
顎を摘ままれて上向かされる。あたしより20センチ高い世界。
「な、んの話よ」
「俺のアイス食っただろ」
うっ。
「俺が今日一日どんな思いで仕事してきたか分かってんのか。抹茶。抹茶だぞっ」
彼は異常な程の愛をハーゲン○ッツの抹茶味にそそぐ。
「買っといて一日我慢して翌日食べる。それを、どれだけ楽しみにしていたか」
一応、生まれは京都といったところか。
「……今、違うことを考えてることに対しても、反省の弁は」
読心術も使えるミラクルな夫。それより、
「手を離してよ」
「俺に離せだと。一体、お前は何を考えている」
「この場をどう切り抜けようかなーと」
「俺がお前を離せる訳がねえだろが」
「ですから。真顔で鼻血もんの台詞をさらりと吐くのはやめて頂けませんか」
「んなこたいい。なあ、知ってるか? お前の丁寧語は」
彼は顔を一気に寄せて、
「俺を誘うサインだ」
耳たぶを甘く噛んだ。
腰が抜けるかと思った。
脱力したあたしをすかさず支えに入った彼は、しかも、いきなり。
――舐めた。
「なっ、なにすんのよっ」
「抹茶の味がする」
「しないってば。大体二時間前に食べたん――」
手が離れた。唇が離れた。
そして、あたしからからだを離した彼は、目も合わせず歩きだす。
「え、ちょ……」
スーツのジャケットを脱ぎ、無造作にベッドに落とす。
怒ってる?
ネクタイを緩める、均整のとれた肢体。白いワイシャツの背中、細いウエスト。って、見惚れてる場合じゃなくて。
ショコラが吠えている。
この人の帰宅をあたしは出迎え、ラブラブしながら居間に向かい、ショコラをケージから出す。
だが、本日、真っ先に冷蔵庫に向かった彼。よっぽど楽しみにしていたと思える。
一言も口をきかずにお風呂に向かおうとするものだから、
「やだ、待って」
止めに入った。
「そんなに怒ることないでしょう」
いつもなら直ぐに振り返ってくれるのに。
「あなただってあたしのラムレーズン食べたじゃない」
「お前が食えねえと言ったからだろ」
「食えねえじゃない、『食べない』って言ったのっ。楽しみに取っといたのに」
「その腹いせが、抹茶強奪か」
振り向いた彼は、真顔で言った。
「報復とは、人類が犯す最大の過ちだ。世界の声を聞け」
「あなたはあたしの声を聞きなさいよ」
「ああ、そうだな」
口許わずかに緩ませた彼、その行動は素早い。
「わ、きゃ」
いつもながらにお嬢様抱っこ。いつまで経っても恥ずかしい。
「あ、の。いまから買ってくるからそれでどうにかご容赦」
「この時間にお前を外に出させたくはない。危険だ」
「ふっ、なにそれ。ねえ、それより夕飯出来てるから」
無視。シカトのほうがよっぽど問題に思うんだけど。
「ねえってば」
こうなるとなにを言っても無駄だ。あたしは大人しく洗面台前に下ろされて、
「ひょわぁあっ」
下ろされた。ちょっと待って。「寒――」
脱がされた。包みこまれた。右の首筋に顔をうずめられて、あたしは必然と鏡のある右を向かされる。
一糸まとわぬ自分を、仕事帰りのサラリーマンが抱きしめる倒錯的な構図。
「ぬ、脱ぎなよ」羞恥を隠しきれないでいると、
「食わせろ」
もう二度と、彼のおやつに手を出すのはやめようと誓った。
*