◆9(1/5)
 季節は木枯らしを通り過ぎて、いのち芽吹く季節を待ち望む。吐く息はまだ白い。
 
 膝震わす寒さのある日、この公園にやって来た。
 
『春になると、桜がすげえ綺麗なんだ。ほら、あの奥』
 
 土地馴染みのないあたしにとって、彼の案内する世界は新鮮だった。
 
 よく通る公園、かさつく落ち葉。
 
 その奥に実は、紺碧の池がたたずみ、鏡映すように囲う桜の木々。
 
 彼が語った景色を二人で眺めることは無い。
 
 何故なら彼はあたしを誘わず、あたしも誘わない。
 
『この歌詞訳すっと、どういう意味』
 
 図書館が大好きなあたしと比べて、音楽馬鹿。
 
『にしご、ってなんだこれ』
 
 人の時間割を覗いて吹きだしたけど、西語(せいご)はスペイン語だよ、と伝えると目尻に皺を寄せて笑った。
 
『寒そうだな、ほら』
 
 あたしの薄着に顔をしかめ、手渡す缶コーヒーの温もり。
 
 バイト後にも、幾度か夜を歩いた。
 
 乾いた空気、闇を落としていく街。
 
 束の間の静寂、取り残された喧騒に包まれる世界。
 
 一人では、歩けない。
 
 一定の距離を保っているのに、頼もしく見える背中。
 
 異常、だろうか。
 
 葉一つ無い枯木を見て、思いだすというのは。
 
 一年前はおぞましさだけだったのに、今は。
 
 かばんの中の携帯を握りしめる。
 
 ――どうしたらいいか、分からない。


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