◇2(1/5)
 桜の季節がやって来る。
 
 例えば、この公園を彩る緑は見事なものだ。
 
 青々とした芝生を走り回る子どもたち。
 
 桜散る並木道を闊歩する人々。
 
 ベビーカーを引いた仲睦まじき夫婦。

 通りざま、母親が腕に抱く赤子を盗み見た。
 
 紅葉の手のひら。人差し指を無邪気に掴む姿。
 
 殺意を覚える自分は、病んでいる。
 
 あんな風に、無償の、無作為に選び抜かれた愛を受けられたなら。
 
 穢れの無いままでいられたら。
 
 今の自分は醜く腐っていて、触れあうことすら許されない。
  
 桜の季節がやって来る。
 
 人々は華の歌に魅了されるだろうに、あたしを埋め尽くすのは、恐怖と凌辱の記憶だった。
 
「香枝」
 
 呼びかける女性の声。現実に立ち戻すのは、
 
「彩夏(さやか)、凄い……偶然だね。図書館行ってたの?」
 
 あたしの唯一ともいえる親友だった。


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