五十音順の詠
きみの瞳に移り込む(TOX2/ルドガー)








久々に会った彼は、色々変わっていた……







「これで終わりっと!」



ぐるん、と槍をなぎ払えば襲ってきた魔物は絶命した。辺りを見れば、他のみんなも倒し終わったらしく武器を仕舞っている。



「エル、大丈夫?」
「エルは大丈夫だよ!」


岩陰に隠れていたエルを見る。巻き込まれて怪我をしてないのを確認して安堵する。



「なまえこそ怪我してるよ」
「そう?」
「見せて」



エルに指摘されて剥き出しになっている肘を見ればじんわりと血がにじみ出ていた。いつの間にかぶけたようだ。私の怪我に気付いてジュードが側に寄ってきて精霊術で治してくれる。黒匣を使わずに怪我を治せる精霊術はすごいと思う。私たちエレンピオス人はそんなジュードたちリーゼ・マクシア人を忌み嫌う。異なる文化を受け入れられない彼らの心は貧しいと私は常々思う。



「……すまない」



何故か頭を下げるルドガー。たぶん私を巻き込んだことを言ってるのだろう。別に巻き込まれたとは思わないけど、たまたま私がドヴォールにいてあの列車事故に遭ったルドガーを救出しただけ。でもそれだけで治療したのは私ではない。



「ルドガーが気にする事じゃないでしょ?」



目の前で莫大な借金を背負った級友が困ってるのだ。助けてあげても罰は当たらない。それに男二人が女の子のエルの世話をできるとは思わなかった……けどジュードが以外とできて驚いた。前に女の子三人とも旅をしてたという。慣れてるはずだよね。



「私がやりたくて私の意志でやってるんだからいいの!さっ、クエストの報告に行こう」



頼まれた魔物討伐は終わった。結構金額が大きいからこの報酬で次へ行く為の借金は返せるはず。エルの手を取ってトリグラフへと歩き出す。あまりルドガーのあの目は見ていたくない。困ったような泣きそうな、私に気を使うようなあの目は見ていたくない。そんな風に見てほしくないから。



「なまえってルドガーのこと嫌いなの?」
「えっ?あ、いや……き、嫌いじゃないよ。別に」



時々子供ってストレートすぎて困る。嫌いだったらこんな大変なこと手伝わないし。けど素直に好きとか気になってるとか言ったらきっとエルのことだからルドガーにはっきりと言っちゃうだろうし。あー、いやいや、放っておけなかったのは確かだから間違っちゃいないんだけど。



「エルはルドガー好き?」
「うーん、わかんない。でもパパは大好き!」



パパを好きというエルは可愛い。なんの因果があって二人が巻き込まれているんだろう。それにつきあう私もジュードのこと言えないくらいお人好しなのかも。そんなことを考えてれば、ルドガーはノヴァに返済の手続きをしていた。



『はいはーい。毎度あり〜。この調子で頑張ってね!』



もう一人の級友であるノヴァが満面の笑みでGHSを切る。悪い子じゃないんだけど、相変わらずすぎるんだけどね。



「次に進めるようになったけど、今日は休もうか?」
「そうだね。結構疲れたし」



ルドガーとジュードはトリグラフに部屋がある。エルはほとんどルドガーにくっついてる。今はこの街に家がない私は必然的に宿屋で休むことになる。



「なまえも一緒に行こうよ」
「大丈夫、大丈夫。私まで行ったら狭くなっちゃうでしょ?」
「なら僕の部屋に来る?それともみんなで宿屋に部屋を取ろうか?」



私の手を引っ張るエルにやんわり断りを入れる。今度はジュードがそう言ったけどそれも断る。ジュードの部屋は研究のための本やレポートがいっぱいでジュード一人が寝るスペースくらいしか空いてないのは先日お邪魔したときに見て知ってる。みんなで宿屋を取るのはお金がもったいない。



「じゃ、また明日駅でね!」



ルドガーが声を掛けようとしたのは気付いてたけど、気付かない振りしてそのまま手を振って走り去る。



「……はぁ」



宿には向かわず海停にあるベンチの一つに腰掛ける。そして溜息。何に対してかと聞かれると困る。いやいやわかってるけど。私避けてるんだ。自分から彼に関わっておいて必要以上に彼と接しない。



「ダメダメだなぁ」
「何がだ?」



海に向かって呟いたつもりだったのに何故か返事が。一瞬フリーズしてしまう。だってその呟きは彼に対して如何に自分がダメかと呟いたつもりだったから。それをまさか当の本人が聞いてるなんて思いもしない。



「なまえ?」



ど、どうしよう。どうしたらいい。べ、別にどうすることもなく何でもないって言うだけでいいじゃん。



「……えっと」



ダメだ。何もいうことが思い浮かばない。だって、彼の瞳に私は写ってない。私を見てるのに、瞳の奥は違うものを見てる。ああ、そうか。わかっていながらも認めたくなかったんだ。だから避けてたんだ。彼にはやるべき事があってそれしか見えてなくて、私の入る隙間なんてなくて、それが寂しいなんて私が認めたくなくて。



「なまえ!?」
「ごめっ……なんでもない……」



目にゴミが入っただけ。自覚して流れる涙をそう誤魔化す。知られたら一緒にいられないから。



「……やっぱり、無理してないか?」



ぐいっと自身の親指で私の目から流れる涙を拭うルドガー。



「俺のためになまえが無理する必要も怪我する必要もないんだ」



ルドガーは私の心配をしてくれてる。それはすごく嬉しい。でもすごく悲しい。



「……私、ルドガーの邪魔してるのかな。ジュードやエルみたいに一緒にいちゃ、ダメなのかな」



ああ、また涙出そう。自分では無理してるつもりはないのに、ルドガーたちにはそう見えるんだ。



「……ごめんね」



完全に拒絶される前にいなくなろう。前にみたいに一人でクエスト攻略して、一人に戻ればいい。したらこれ以上泣かなくていいもん。



「待て!」



この場から去ろうと立ち上がる私の手をルドガーが掴む。力任せに座らされてそのまま抱きしめられる。その一連の動作の意味がわからなくて、抵抗する事なんてすっかり忘れてしまった。



「……俺が見たくないんだ。無理したり怪我するところを」



俺の事情に巻き込みたくないんだ。とより強く抱きしめられる。



「だ、だから邪魔とか……そうじゃなくて……」



ルドガーも自分で何をしたのか理解したみたいで口ごもり始める。それを聞いて私もなんだか恥ずかしくなってきて、ボッと体中が熱くなる。



「私……側にいていい?」



あなたの側にいたい。ただそれだけ。体が離れ、今までで一番近い距離で見つめ合う。ルドガーの顔も私と一緒で赤かった。



「なまえは俺が守るよ」



思わず目を見開いた。さっきまでルドガーの翡翠色の瞳には私は移ってなかったのに。その理由を知ることになるのはもう少し先。






君のに移り込む
((ずっと、ずっとね))









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