五十音順の詠
おくれてきた初恋(TOG/ヒューバート)







身近すぎて、気付かなかったね








「だから、なんで私ばっかりなのよ!?」



何だか最近、凄くイライラする。その理由の大半が目の前にいる同じ年だけど上司のコイツ!一言多いんだよ、もう!私もいちいち相手をしなければいいのに。





どうして、こんなに気になるの?





「そんなにイライラしてばかりいると体に悪いわよ」
「そんな事言ったって…」



シェリアの言いたいこともわかる。私が突っかかるからいけないのも。でも言い方ってものがある。全く……出会った当初の可愛らしさは一体何処に行ったのか聞きたいものだ。



「なまえ、何処に行くの?」
「……頭冷やしてくる」



少し気晴らしに散歩してこよう。すれば少しは落ち着くはず。



「ヒューバートのバカ野郎!」



両腕を上げて叫ぶ。宿屋のロビーにいた人らが何事だとこちらを見るけどお構いなし。シェリアがなんか言ってるけどそれも気にしない。てか気にしていられない。



「…もう」
「いってらっしゃーい」



ドカドカ足音を立てて歩き出すと、後ろからシェリアの溜息とパスカルの声が聞こえた。



「あー!腹立つ!」



外はこんだけ雪が降ってるというのに寒さなんて感じない。街の人は思うだろう。この子何でこんな格好なの?って。コートも羽織らないでザヴェートの街を彷徨いていればまるで不審者のような目で見られる。さすがの私も人目をそろそろ気になったから港の方へと歩き出す。



「なまえ」



ここを曲がれば港まで一直線と言うところで名を呼ばれる。なぜにこのタイミングなんだろう…と溜息が出た。



「……なに?」



相手にしなければいい。それで済めばばいい。でもそうもいかない。返事をしなければしないで何を言われるかもわからない。と言ってもあからさまに機嫌が悪いという声でだけど。



「何よ。呼んどいて何も言わないって」



何か言いたげなんな表情をしてるんだけど何も言わず口を閉ざしている。ただでさえ彼に対してイライラしているというのに、余計に苛立たさせるような態度を取るのはどうかと思う。



「いえ……宿屋のロビーで人の名前を大声で呼ばないでもらいませんか?」



迷惑です。とはっきり言われましたよ。確かに、幼なじみとはいえ上司をバカ野郎と言ったのだから、あとで何か言われるとは思ってたけどね。



「それは大変失礼しました」



わざとらしい口調で、敬礼して。最初の頃は嫌だったこの動作ももう慣れた。話はそれだけだろうと体をヒューバートから港の方へと向き直し歩きだそうとすると、手首を捕まれた。



「まだ何か用がありますか?」



私はどうしてこうなのだろう。同じ年でも彼は上司。本当は使いたくないけど立場上では敬語を使わなければならない。



「……それも止めて下さい」
「それ?」



表情を、なんだか辛そうに歪める。どうして、そんな顔をするんだろう。私がさせたの?そう思うとなんだか胸が痛い。どうして胸が痛いと思うの?



「敬語、使わないで下さい。調子が狂うというか……」
「でも、あなたは上官ですから」



事実だ。今は任務でヒューバートの兄であるアスベルたちに着いてきている。任務中は当然、敬意を持って接しなくてはいけない。幼なじみだろうとなんだろうと。



「……そうですが」



彼にしては煮え切らない言い回し。いつもならはっきりきっぱりと言うのに。



「なまえは、いつものなまえのほうがいいです」



と、少し頬を赤くする。照れた表情なんて、ユ・リベルテで出会ってから初めて見た。おどおどとか笑うとかはあるけど、照れた顔なんて初めて見た。



「え、あ……うん」



な、なによ。私までなんか。どうしよう。まともに顔が見れない。なんか、嬉しい?どうして?ただいつもの私がいいって言ってくれただけなのに。



「冷たくなってますよ」
「ひゃい?」



空いている方の手が私の頬に触れる。いきなり触れられておどろいたけど、クスッと笑ったヒューバートに目を奪われた。そしてなんかわかった。毎日のように言い争いしてるしイライラしてるけど、離れたいと思わないのがなぜか。








おくれてきた初恋
((ずっと前から好きだったんだ))









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