五十音順の詠
ん、とつく擬音(TOV/フレン)








それが欲しかったなんて絶対に言えない






「はぁ」



思わず出てしまった溜息に溜息を吐きたくなる。疲れてるんだ、きっと。ここ最近の忙しさに疲れてるんだ。さっさと帰ってベッドに倒れ込みたいけどそれはけして許されない。今はそんな暇などないのだから。だって今は作戦中。ヘラクレスなんて大層な名前が付いたまるで要塞のような平気の中にいるのだから。エステリーゼ様を助けるために、団長……いやアレクセイを止めるためにやってきたのだ。



「困ったね」



のはいいんだけど……部下とはぐれてしまった。アレクセイを追うフレンやユーリたちを支援するために親衛隊たちを相手していたら混戦になってしまい私一人になってしまう有様。ユーリが見たら笑うんだろうな。フレンは、怒るかな。



「……どうなってるんだろう」



さっき大きな爆発音のようなのが聞こえたけどそれっきり砲撃の音しかしない。制御室はアレクセイを追っているユーリたち任せだから早く止めて欲しい。



「もう!しつこい!」



襲ってくる敵となった親衛隊。騎士団長の親衛隊だから並の兵士なんか目じゃない強さ。かなりの人数を相手にしたから体中は傷だらけで痛いし、剣を持つ腕も重い。あとどれだけ持つだろうか。案外もう持たないかもなんてことを考えたのがいけなかった。斬り捨てた兵士の後ろからもう一人。避けるどころか受け止めるのも出来ない体勢。マズい!と反射的に目を瞑り、激痛が襲ってくるだろうと体を強ばらせた。



「……あれ?」



けどそれはいつまで経ってもやってこず、そーっと目を開ける。目の前には私が斬った兵士と他にもう一体。それは私に剣を振り上げたはずの兵士。



「なまえ、大丈夫かい?」



本来ここで聞こえるはずのない声にバッと顔を上げる。倒れた兵士の先にその人物はいて、夢かと思いながら軽く頬を殴ってみる。うん、痛い。



「フレン!?どうしてここに?」
「指揮を執るために戻ってたんだ。ソディア!先に行っていてくれ!」



状況が把握できない。フレンの視線の先にはソディアと名の知れぬ騎士の姿。二人は頭を下げて掛けだして行った。向こうの指揮はフレンの代わりにソディアがとってたような。



「動かないで」



手をかざすフレンの手からは暖かな光。疲れ切った体には暖かすぎて眠くなる。それに耐えれば、傷だらけの体から痛みが薄れていく。



「アレクセイは?」
「……ここにはいなかった。ユーリたちに動力室を任せてきた」



悔しそうに顔を歪める。尊敬していた騎士団長の愚行に誰よりもショックを受けていた。せめてこれ以上罪を犯す前に止めたかっただろうに。ヘラクレスの砲撃に押され始めたということでフレンは体制を整える指揮を執るために戻る途中だったとか。



「部下たちは?」
「………は、はぐれた」



これまでの経緯を説明すると困った風に眉根を寄せられた。だってねぇ……あんなに一度に襲われたら周囲なんて気にしてられないよ。それに無理に深追いせず、不利になったら一旦下がるようには指示してるし。



「ちゃ、ちゃんともしもの場合用の指示も出してあるんだから!」



無言でいられると逆に怖い。いつもみたいにくどくどと言われた方がなんか楽なのは何故なんだろう。かなり酷かったのよやっと治癒の光がフレンの手から消える。途中から体中痛くてどこに傷があったのかもわかんなくなってたしな。



「だからって一人でこんな所まで来るなんて無謀だ」
「えっ?こんな所?」



ってどんな所だ?逃げながら応戦していたせいで元いたところからどれくらい離れたのかもわからない。というかヘラクレスの構造なんて知らないから何処に何があるのかすらわからない。それを言えば、フレンを一層眉を寄せて深い溜息を吐いた。なんか私、馬鹿にされたような気がした。信用されてないってこと?



「私たちの任務は一刻も早くヘラクレスを止めること。フレンたちが乗り込んでたなんて知らないもん」



ザーフィアスを守らなくちゃいけない。だから多少の無理はする。それが私の仕事なのにフレンはそれを否定するような態度を取る。



「手当て、ありがとう。私も部下を捜さなきゃいけないから行くね」
「待って!」



握ったままだった剣に付いた血を軽く拭って鞘へと収める。たぶん来た道であろう方へと向き直ってここを去ろうとすると後ろから腕を掴まれる。いくら治癒術を掛けてもらったからといっても正直まだ痛い。その痛みに耐えながら振り返る。フレンの顔はまだ険しいまま。これ以上話をしてると喧嘩になりそうで嫌なんだけどな。



「一緒に行くよ」
「フレンは本隊に戻らなきゃいけないでしょ」



その為にソディアたちと一緒だったんでしょと言えばバツの悪そうな表情に変わる。



「そんなに私って頼りない?」



これでもフレンと同じ小隊長なんだけどな。平民出身だけど努力してここまできた。下級騎士より全然腕に覚えもある。アレクセイの親衛隊たちとだってやり合えたんだもん。



「そうじゃない」
「じゃあ何よ?」



イライラする。今は一分一秒でも急がなきゃいけないのに、なんで私に構うんだろう。



「心配なんだ」
「それって私が弱いってこと?」



腕を離して欲しい。離して欲しくて腕を引くけどびくともしない。しっかりと掴まれた手は大きくて力強くてその差を痛感させられる。



「違う!……なまえが傷つくところは、あまり見たくない」



さっきの姿を見て血が凍るような気分だった、と消えそうな声で言った。表情も苦しそうで、どうしてそんな顔をするのかわからなかった。



「気付かなかったのかい?さっきの君は頭から腕から腹から足からと血を流していたんだよ?」



そう言われて自分の体を見ると、至る所が血だらけだった。放っておけば失血ししてたかも知れない、思うと血の気が引きそうだった。痛みで感覚がおかしくなってたんだ。



「あのまま剣が振り下ろされてたらと思ったら怖かったよ」
「フレン?」



あ、泣くかも。と思った瞬間、腕を引かれて抱き締められた。突然のことに頭がついていかない。すっぽりとフレンの腕の中に収まってしまった自分。でもなんか心地いい。



「なまえが好きなんだ。だから君が傷つくところなんて見たくない」



フレンからの告白。やっと抱き締められてる感覚に慣れてきたと思ったら今度は告白。だいぶ血を失ったはずなのにつま先から頭のてっぺんまで沸騰したかのように熱くなった。



「嫌だったら、突き放してね」



そう言って私の頬に手を添えて自身の唇を私の唇に重ねた。





、とつく擬音
((思わず声を出して応えてしまった))









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