五十音順の詠
るいするものに惹かれた?(文スト/太宰)







だから、なのかな?





「なまえちゃん…悪いんだけど、太宰さんを捜してきてくれない?」



山のような領収書を片付けていると、谷崎さんが両手を合わせて私に頭を下げた。太宰、という名に自分の目元がピクリと動いたのがわかった。



「……国木田さんは今留守ですし、仕方ないですね」
「ご、ごめんね。ボクもこれから出なきゃいけなくて…」



申し訳なさそうにする谷崎さんに、いいですよと返す。



「悪いのはあの自殺愛好家で、谷崎さんじゃないから」



小さく笑みを浮かべれば、谷崎さんも小さく笑みを浮かべ返し、もう一度、ごめんねと言った。事務所に篭ってるのも体に良くないし、散歩でもすると思って捜せばいい。でなきゃ捜す気も起きない。



「いってきます」



私は太宰が嫌いだ。苦手、というのが正しいのかもしれないけど。なんていうか、全部見透かされてそうで、嫌。私にも勇気があったら、彼のように自殺を実行出来るようになるのかな。



「自分より先に私を殺してくれないかな……」



生きている意味が見出せない。社長が助けてくれたから生きてるだけ。もし、助けてもらわなかったら、今頃私は死んでたと思うし。マフィアに両親を殺され、私はたまたま生き永らえた。なんの能力も持たない私。雑務しか出来ない私。



「……何処にいんのよ」



捜す方の身にもなって欲しい。国木田さんはよく捜せるなぁ。今日はどんな自殺方法をするつもりなんだが。



「……なんだかなぁ」



横浜といっても広い。昨日一昨日は何処で自殺未遂をしてたのか聞いておけばよかった。かと言って、今誰かに電話する訳にもいかないし。



「よし」



個人的に赤レンガ倉庫に行きたいから、赤レンガ倉庫に行こう。そこでアイスを食べてから考えよう。思考するには糖分は大切だし。捜すついでだからサボりじゃない、筈。



「……何やってるんですか?」



まさかあっさり見つかるとは。まさか降りた駅にいるとは。今日は電車への投身自殺だったのか。



「おや、なまえじゃないか」



その笑顔を殴り飛ばしたいと思った私は正しいと思う。本来の仕事を後回しにしてわざわざ捜しにくれば意外とあっさりと見つかるし。しかも目的地手前で見つけてしまうなんて…別の駅から歩いてければ良かった。このルートを選んだだけでこうなってしまうなんて。



「……捜しましたよ。帰りましょう」
「うーん、無理?」



はぁ、息を吐いて彼に事務所に帰るように促すと、首を傾げて言いやがりました。嫌じゃなくて、無理?って疑問系で。何が無理なんだが。



「自殺なら後日改めてください。仕事です」



能力者なら能力者らしく、其れ相応の仕事をして欲しいものだ。私には無い其れを持っているのだから。



「まぁまぁ。なまえもおいで」
「ちょっ!?」



手を取られて引かれる。そのまま歩き出し駅を出る。其れでも足が止まることはなく、歩き続ける。遊園地を通り過ぎて見えてくる其れ。彼が向かう先が何処なのか、何となく察してしまう。




「だ、太宰さん!何処に…」
「わかってるくせに」



この細い男の何処にこんな力があるのか。私がいくら手を引っ張っても、掴まれた手が離れることはない。クスリと笑う顔に嫌悪を覚える。私の心を見透かしたような、この目が、私は嫌いで苦手である。其れを知っていて、太宰さんは私に嫌がらせをするのだ。



「今日はアイスが食べたい気分なんだよ」



ほら、やっぱり。何も言ってないのに、どうして私がアイスを食べたかったとわかるんだろう。顔に出した覚えもない。みんなは私が考えてる事なんて分らないのに。江戸川さんだってたまに、僕にもお手上げとか言うのに。私の事を一番分かってくれるのは、社長だけって、思ってた。でも、武装探偵社に入ってからは、この人が…一番私の事を知っている。何も言っていないのに。



「なまえはストロベリーでいいね」



ほらまた。ストロベリーが食べたいなんて一言も言ってないのに。でも、ストロベリーが食べたかったのは本当で。違うなんて言えなかった。



「はい」
「……ありがとうございます。お金は…」



アイスを受け取って、財布を出そうとしたら、その手を止められた。いらないよ、捜しに来てくれたお礼、とか言って。そんな風に思ってないくせに。



「……美味しい」



店を出て、目の前にあるベンチへと座って一口。甘酸っぱいストロベリーが口の中に広がる。にしても、なんで私はこの人と仲良く並んで座ってアイスを食べてるのだろう。



「で、少しは死ぬ気は失せたかい?」



嫌い。この人は嫌い。知ってるくせに、そう言う事を言うこの人が嫌い。



「なまえの考えてる事なんてお見通しだよ」
「なら、放って置いて下さい」



アイスを食べに来なくたっていいのに。元々は太宰さんを捜しに来たのであって、アイスを食べに来たわけじゃない。アイスはついでだったんだから。



「君が死にたがってるのは知ってるけど、君は何したって死ねないよ」
「っ!!わ、わかった風なことを言わないで下さい!!」



私にはそんな勇気が無いことくらい分かってる。両親を殺されて、まだ未成年な私に何が出来るのか。社長や皆さんは何も言わない。でも何の能力のないお前に何が出来るって言われてる気がして、自分が居た堪れなくなる時がある。江戸川さんみたいに頭が良ければよかったのに。



「なまえが死ねないのは、勇気が無いとかそんなんじゃない」



じゃあ何だと言うの?ああ、折角のアイスが溶けちゃう。



「私が、私達が君の生を望むからだよ」
「……え?」



溶け始めた私のストロベリーアイスを太宰さんが一口掬って食べる。人のアイスを食べるなんてはしたないなぁ。そんな事より、今この人はなんて言った?



「なまえにいなくなられると困るんだよ」
「誰が困るって言うんですか」



そんなの武装探偵社のみんなに決まってるじゃないか!と笑いながら言われた。



「君はね、私と同じで、死にたくても死ねない星の下に生まれたんだよ」



すっと頬を撫でられる。驚いて、肩を思い切り振るわせてしまった。なんか恥ずかしくて顔が熱い。心臓も五月蝿い。



「どうしても死にたいなら、私と死んでみるかい?」



頬に手を置かれたまま、顔を覗き込まれる。あまりの顔の近さに、ギョッとして仰け反る。こ、この人のお巫山戯に引っ掛かってしまうなんて。



「……からかわないで下さい」



半分近くも溶けてしまったアイスを再び食べ始める。太宰さんの顔をまともに見れなくてそっぽを向きながら。



「さあ、どうだろうね?」



この巫山戯た存在である太宰治が私は嫌いだ。でも、死ねないのに死にたがる私達は同類だ。全てが本気では無い所まで。だから嫌いになり切れない。そして、私は結局な処、こうなのかも知れない。




るいするものにかれた?
((似たもの同士と言われるから))









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