五十音順愛の詠
りくつなんて、知らない(弾丸論破/十神)
そんなものわかってたら悩まない!
「おい、起きろ!」
パシッとというかバシッとといい音が鳴る。それとどうじにあたしの頭は激痛が。ぬぉぉおっ!?と頭を押さえながら目を開けると誰かの足が見えた。顔を上げれば腕に組んであたしを見下ろす十神の姿。見下ろすというか睨みつけるが正しいんだろうな、うん。
「あれ?朝?」
「お前、校則を忘れたのか?」
校則?えっと…何のことだ?
「寝るときは個室とあっただろう。モノクマがさっきいたぞ」
「えっ!嘘っ!?」
おしおきなんてされたらたまったもんじゃない。てか、居眠りで殺されたらシャレにならない。
「でも……あたし、生きてる?」
「すぐに叩き起こすと言ったら今回だけは見逃してやるそうだ」
うおぉぉ!今回だけはモノクマが神に見える!こんな情けない死に方はないもんね。
「ってことは、十神が助けてくれたの?」
「助けたつもりはない」
ここで殺されて本が血みどろになるのが嫌なだけだ。と吐き捨てるように言われた。うーん、相変わらず厳しいお言葉。冬子ちゃんなら喜ぶんだろうけど。
「なぜここで寝ていた。寝るなら自室に戻れ」
顰めっ面で言う十神の言葉に心配という意味はない。邪魔とかそういう類のものだけだろう。冬子ちゃんは物好きだなぁと思っていた頃が懐かしい……まだ一週間しか経ってないけど。
「昨日から読んでたんだけど、面白くてつい読み込んでたら……寝ちゃったみたい」
側に落ちていた本を手に取る。夕飯を食べてから読んでいたら止まらなくなってそのまま。十神がここにいるという事は、朝なのかな。
「他の連中が捜していたぞ」
「悪いことしちゃったなぁ」
やっぱり朝なんだよね。朝食の時間に姿を見せなかったから心配して捜してくれてるんだ。まぁ、二人も仲間が死んだばかりだから心配してくれるのは当然なのかな。あたしでもするし。十神はしないな。
「で、十神は捜しに来てくれたわけじゃないっしょ?」
「当たり前だ。俺はここに用があるだけだ」
だよねー。舞園ちゃんと桑田君の事件の後、二階が解放された。んでこの図書室は十神の興味を引いたらしく入り浸っている。下手に声を掛けると、邪魔だ。出ていけって言われるし。別に誰が何処にいたっていいじゃん。でも、少しくらい心配してくれてもいいのにな。この男が誰かを心配する姿なんて想像は出来ないけど。
「……ちょっとくらいはさ」
「何か言ったか?」
唇を尖らせて聞こえない程度の小声で言えば頭上から低い声音。悪口でも言われたと思ってるのかな。
「起きたならさっさと出て行け。目障りだ」
「いやでーす。まだ読み終わってないもん」
あとちょっとだったんだよ。でも気付いたら意識飛んでたんだよ。あと少しあと少し、って読み続けた結果なんだけど。
「十神は椅子に座って読んでるんでしょ。あたしはここで読んでるんだから邪魔にはならないじゃん」
あたしがいるのは一番端の本棚。そこに寄りかかって読んでたのだが、バタリと真横に倒れたようだ。この場所なら十神の視界にも入らないはず。なら問題ないじゃん?と思うんだけど、十神の顔が怖い。威圧感たっぷり漂わせて睨んでる。
「気が散る」
「あたしを空気だと思えばいいよ」
他のみんななら出て行くんだろうなぁ。冬子ちゃんは……言われたら素直に出てくか。けどあたしはめげない。あと少しで読み終わるのは間違いないし、あとは……
「みょうじ。何故、お前は俺に付きまとう?」
「付きまとってるつもりはないけど……」
たぶん。遭遇率は高いのは認める。図書室は別として、結構鉢合わせになることはある。ぶつかったこともある。今はともかく、あの時は本当に偶然なのだ。あたしだってなんじゃこりゃ?とか思ったんだし。
「そうなる運命だったのかも………ゴメンナサイ」
威圧感から殺気に変わりました。今すぐにでも、その眼力で殺されそう。ってくらい、鬼の形相で睨まれてます。冗談が通じないんだから。あたしは、そのつもりはないんだけど。
「じゃ、邪魔にならないようにするから、ダメ?」
手を合わせてお願いしてみる。許可が下りるとは思ってないけど、下りたら嬉しいなぁって。
「気配が邪魔だ」
「ぬぉっ!?気配すら邪魔扱いされた!」
下手すると存在すら否定されそうだ。いや、十神なら言いかねない。
「せ、せめて……この本が読み終わるまで……」
本当はもっと、ってのはあるけど。でもそれを言ったら今すぐ追い出されるだろうな。側にいられるだけでって言うのと冬子ちゃんと一緒だ。人によっては不毛だって言うだろう。この学園に来る前のあたしなら言ってた。うぅ、無言の圧力が……ダメかぁ。
「……日を改めます」
友達から空気を読まない鉄砲玉とかヒドいこと散々言われたあたしでもここでブレない十神には勝てないようです。読むことは諦めてみんなの所に行こう。持っていた本を本棚に戻……そうとした。戻そうとしたんだけど、その手を止められた。
「お前は俺に何を求める」
普通の人なら意味が分からないだろうけど、あたしはなんてストレートに聞いてくるんだと絶句してしまった。それをあたしに答えろと?意味が分かんないよって言って逃げ出したいんだけど、腕を捕まれていてそれが出来ない。言うまで離してくれないんだろうな、うん。
「求めてはないけど……あたしが勝手に……」
い、言えない。こんな恥ずかしいこと言えるわけがない。生まれてこの方、誰かを好きになったことがない。言わばこれが初恋なのだ。でもここまで言えば十神ならわかるはず。恥ずかしくてもう顔が見れない。
「くだらないな。こんな状況でそんな事を考えれるな」
「しょうがないじゃん!自分に嘘吐けないもん!」
好きになっちゃったものはしょうがない。どうしようもない。恋する乙女の気持ちを今なら理解できる。バカにしてたあたしのほうがバカだ。
「仕方ないなんて言葉では理屈が通らないな」
はぁ、とわざとらしい溜息。わかってたけど、結構ヘコむけど。今は生き残ることだけを考えて、ここから出たらアピールしようと思ってたのに、その前に言わされるなんて。もう言っちゃったものはしょうがない。ならば猛進するのみ!
「しょうがないものはしょうがないの!」
十神との距離を一気に詰める。虚を突かれた十神。あたしは満面の笑みを浮かべてつま先立ちする。そして、彼の頬に自分の唇を当てる。
りくつなんて、知らない((恋愛は頭でするもんじゃない!))