五十音順の詠
ゆくえ知らずのこころ(ワールドトリガー/風間)







知ってたら苦労はしない





「…さてと」



どうしようか。この目の前の状況に対してどうするべきか…いや、答えは決まってるんだけどね。



「選りに選って人が非番の日、しかも学校も休みの日に出なくたっていいじゃん」



更に言うならば、ここはボーダー本部からも離れていると言うのにだ。そんな日にこんな目に遭うのは日頃の行いのせいなのか。いやいや、真面目に日々を過ごして(はず)のになんでだ。



「と、言ってても仕方がない。トリガー起動!」



非番でも私はボーダー隊員。近界民から市民を守るのが仕事。市街地から少し離れているとはいえ、放っておいたら人がいる所に行ってしまう。多分、他の隊に出動命令は出てるだろうけど間に合わない可能性もある。



「…チッ」



思わず舌打ちをしてしまう。この近界民、思ったより強いというか、装甲が硬い。一撃では大したダメージは与えられずにいた。ここまで装甲が硬い奴は初めてかもしれない。もし出動命令が出たのがB級だとしたら敵わない可能性が高い。来てくれるのがA級である事を祈りつつ防戦に入った方が得策かも。



「くっ!」



ついでに馬鹿力と来たか。これはマズイ。早く誰か来てくれないかな。一人で勝てる自信はない。何故ならば、本来私が使っているトリガーは今本部で調整中…前の戦闘で少し壊しちゃった…だから代わりの何の変哲も無いスコーピオンだ。シールドしか付いてないスコーピオン。自分のだったらアステロイドとかバイパーとかガンナー用のトリガーが付いてるのにぃ!



「……っ!」



思った以上の馬鹿力で吹き飛ばされる。これはかなりの衝撃を覚悟していた方がいい。それよりすぐに体勢を整えなきゃ、と吹き飛ばされながら考えられるんだから余裕があるのかな。しかし激しい衝撃が来るとわかっているからか、思わず目を瞑ってその衝撃に備える。



「大丈夫か?」



待っていた衝撃は来ず、何か温かいものに包まれた感覚がする。それと同時に頭上から聞こえた声にドキリとした。選りに選って彼の隊が来るなんて。確かにA級隊員が来てくれたらと思ってはいたけど。



「歌川、菊地原。一度下がるぞ」



彼のその言葉に歌川君と菊地原君の二人はバックで交代する。それを目で追った瞬間、急な浮遊感に襲われ驚いて後ろを見ると予想以上近くに彼…風間さんの顔があった。何があったのか理解するのに二秒ほどかかった。風間さんが私を抱き上げて歌川君たち同様に後退していたのだ。今の自分はもの凄く間抜けな顔をしているだろう。自分でもわかるくらい開いた口が塞がらないでいる。



「まったく、手を煩わせないでよね」
「みょうじさんらしくないな」



先に下がって暴走する近界民を見下ろしている二人からの言葉にぐうの音も出ない。確かに、普段の私ならこんなのに苦戦はしない。それを知っているから言うのだ。



「……お前のトリガーはどうした?」



耳の近くからの声に思わずひゃぁっと声を上げそうになってしまった。そんな事したら風間さんに睨まれるし、菊地原君にはぐちぐち何か言われる。けど、そんな事より風間さんの問いに言葉が詰まる。これを言ったら怒られるんじゃないかと。だらだらと流れる冷や汗に背中が冷たく感じる。



「……お、一昨日の戦闘で……破損させちゃって……調整中です……」



顔を見て言うことなんて出来ないから自分の腹の辺りを見て言う。未だ抱き上げられていることに今気づいたけど、降ろして下さいとは言えないでいる。私の…たぶん…衝撃的な告白に誰も何も言わない。



「……そ、それはなんて言うか…」
「普通あり得ないでしょ。自分のトリガー壊すなんて」



まったくを持ってその通りなんですけどね!自分でもびっくりしたもん。トリガーって壊れるんだって。最後の強引な攻撃のせいなんだろうなぁ、とは思うけど。鬼怒田さんにも散々怒られたし。



「お前はここで待ったろ」



私を降ろして座らせる。彼を見上げると私のことなどもう気にしていなく、私達を探している近界民を見ていた。



「歌川、菊地原行くぞ。三上は奴の分析を」



私のことなど見据えることなく風間さんは近界民に向かっていった。すぐに終わらせます、と歌川君が言って菊地原君と風間さんの後を追う。それからは早かった。さすがはA級3位のチーム。見事な連携で瞬く間に近界民を倒した。



「なまえ」



鬼怒田さんにまた怒られて本部内を歩いていると名前を呼ばれた。誰…なんて声を聴けば分かるのは知っている人物からだからなのか、彼だからなのか。後者の方だと思ってしまう私は重症なのだ。だって……私は以前、彼にフラれているのだから。



「何か用ですか、風間さん。お説教なら鬼怒田さんから今受けてきたので勘弁してください」



この人が私の事なんて何とも思っていないのは知っている。なのに待ち伏せるかのようにここにいたのはそういう事なんだ。彼は仕事に関しては真面目だ。面倒見もいい。だから余計に辛い。フった相手まで気に掛ける必要なんてないのに。こういうことに関しては鈍感なんだな。



「なんであんな無茶をした」
「私の話を聞いてましたか?」



説教なら勘弁してほしいと面と向かって言ったはずなんだけど。私と風間さんは3センチしか身長が変わらないから真正面で見つめ合う。自分自身が居たたまれなくて視線を逸らしたく彼の赤い目はそうはさせてくれない。



「これから反省文と言う名の報告書書かなきゃいけないんです」



折角、非番だったのにこれ書いたら丸潰れだ。完全に日が暮れるんだろうな。だから1分でも早く書いて帰りたい……この人と一緒に居たくない。胸ん中がモヤモヤするし、苦しい。どうしたらいいのかわからなくなる。絶賛失恋中の私に何事もなかったかのように接してくるのが一番わからない。



「あんなトリガーで戦った。いくらトリオン体なら死なないとはいえだ」



死なないんだからいんじゃない、と言ってやりたかったが彼の顔を見ていたら言えなくなった。怒ってる。確実に怒ってる。でもなんで?私は風間隊じゃないのに。ただの後輩でしかないのに。やめて、私の心を乱さないで。忘れたいの。勘違いさせるような事は言わないで。



「……心配させるな」



そう言って腕を引かれて彼の胸の中に飛び込み抱きしめられるのは1秒後。




ゆくえ知れずのこころ
((今でも…好き…))









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