五十音順の詠
やっとこっち見た(TOL/ジェイ夢)








側に行けば行くほど遠くなる気がした。けど、そんな事で諦めたくないから押して押して押しまくる。いつか、ちょっとでもこっちを見て欲しいから……






「ジェーイ!」



遠くを歩くその姿を見つけて手を振りながら大声で呼ぶ。私の声が聞こえたのだろう、ジェイはピタッと足を止めてこちらを向く。その表情があからさまに不機嫌なのに気付いたけど気にしない。



「ちょっ!」



満面の笑みを浮かべて近付こうとするとジェイは無言で前を向いて歩き出してしまった。まあこれもいつものことで。何かと付け回っている私をウザイと思ってるのも知ってる。そんな事で怯む私じゃない。



「あー撒かれちゃっかぁ」



走って追いかけたけどジェイの姿はない。あの身軽さを分けて欲しいな。街にいるってことはたぶん情報収集かウィルんとこだろうけど。



「仕方ない。戻るかな」



ノーマは朝からどっか行くのを見た。クロエはエルザと一緒なのを見た。シャーリィはハリエットと花畑に行った。セネルはマリントルーパーの仕事中。モーゼスは……放って置こう。ウィルは仕事か調べ物でもしてるだろうし。要は誰も相手をしてくれる人はいないわけで。ちくしょうなくらい寂しい。



「平和だなぁ」



今は本当に平和だなぁ。シャーリィの奪還やら水の民との仲違いやらで忙しない日々を過ごしてたけど、今は平和そのもの。強いて言うなら大陸から来た人たちが治安を悪くしてるくらい。ウィルとセネルがいつも忙しくしてる。
私はと言うと帰るところはもうないから一人適当な日々を過ごしている。仕事もないからたまに外に出て魔物倒してお金稼いでそんな日々。



「トリッパーは辛いぜ」



そうそう。実は私はここでいう異世界から来た。マンホールに落ちたら遺跡船ってのが笑えるわ。遺跡船中を歩き回ったけど帰る方法は見つからず何するもなくただウェルテスにいる。正確に言うと街の中じゃないけど。



「ヒマ」



戻ったのは輝きの泉。ここいらで適当に野宿生活。家もないしお金もないから宿にも泊まれない。なら自給自足っしょ?とここで生活してたりする……ことをみんなには言ってないし。意外となんとかなっちゃってるしね。



「だーっ!ヒマだぁ!」
「いきなり大声を出さないでくれますか?」



寝転がったまま両手を天へと突き上げて叫ぶとあるはずのない返事。いや別に誰かに言った訳じゃないんだけど。体を起こして振り返れば、さっき私を撒いたはずのジェイが立っていた。



「なんでいるのぅ?」
「先にぼくを呼んだのはあなたでしょう?」



そりゃそうだ。ってもいつもは無視決め込んで返事しない近寄りもしないのに。初めてかもしれない。けどそっぽを向いたままこっちを見ようともしないけど。



「……だって私から逃げるようにどっかいったじゃん」



いじけたように唇を尖らせる。これが続くとさすがの私でもヘコむっての。こんな事言うのは甚だ勘違いとはわかってるけどさ、何て言うかもう少し優しくしてくれてもいいと思うのよ。



「別に逃げた訳じゃありません。仕事です」



それもわかってる。けどちょっとだけ困らせたいから言わない。溜息吐く横顔に若干イラっとした。私の勝手な感情なんだけど思い通りに行かないのが感情わけで……何言ってんだ私は。



「あなたこそこんな所で何をしてるんですか」



魔物がいつ出るかもわからないのに一人で出歩くなんて。と軽い説教まで始まった。ジェイから見ると暇だからここに来たと思ってるみたいだ。うーん、本当のことを言うべきか。本当のことと言ってもただその話をしなかっただけで。



「なまえさん?」
「うっ……その。こ、ここで寝泊まりを……えっと、ね」



目を細めてジッと見られて一瞬息を飲む。ジェイってば可愛……綺麗な顔してるけど怖いんだよね。口の中で言葉を濁すようにもごもごさせる。は、反応が怖い。ジェイの顔が見れなくて俯いてしまった顔を少しだけ上げる。



「はい?」



うわっ、思い切り顔歪められた。こんな所で寝泊まりしてるって言われても信じられないかぁ。



「本気で言ってるんですか?」
「残念ながら」



ここまで来たら隠しても仕方ないよね。なんとかなるっしょ。いやいや、何とかなってくんないと私が困るわけで。



「しょーがないじゃん。住む場所はないし、お金もないんだもん」



未だに苦い顔をするジェイに言い訳する私。でも事実だし。うぅ、何だか虚しくなってきた。自分一人が悲劇のヒロインみたいで。たかが住むところがないくらいで。ヤバッ、ネガティブになってきた。



「こ、ここら辺の魔物は弱いから私なんかの側に寄ってこないよ」



寝るときは木の上で寝たりもしてるし。言い訳に言い訳を重ねてる気もしてきたな。ああ、怖いんだ。何かを言われるのが。何を言われても嫌だから聞きたくないから、相手が口を開く前に言い訳を並べちゃうんだ。



「あ、っと……そうだ。ジェイは仕事があるんでしょ?私なんかに構ってないで、ほら行った行った」



うんうん、そうだよ。さっき言ってたもんね。仕事だって。これは、言い訳じゃないよね?



「ずっと一人でここに?」
「………う、うん」



そんな簡単に引き下がってくれたら情報屋なんてやってないよね。私なんかの情報なんてあっても仕方ないと思うけど。



「なまえさん、馬鹿ですね」
「馬鹿って言うなぁ!」



馬鹿なんて称号はモーゼスだけで十分。ビシッと指させばジェイは目を丸くして数回瞬きをする。



「……ぷっ……あははははっ」
「なによぅ!?」



お腹に手を置いて笑い出すジェイ。いきなり笑われたことが何だか恥ずかしくなって、自分の顔に熱を帯びるのがわかる。



「いえ、なまえさんも十分馬鹿ですよ。はい……」



そんなに可笑しかったのかうっすらと浮かんだ涙を指で拭って、今度はその逆の手を私へと差し出す。はい?と私が目を丸くする番。



「あなた一人住める部屋くらいありますよ」



ジェイの言葉の意味がわからず、ただひたすら彼の顔を見上げていると業を煮やしたのか私の腕を引っ張る。その細い体のどこに力があるんだろうと思うくらい力強く引かれ勢いで立ち上がる。



「ジェ、イ?」
「も、モフモフ族のみんなも……喜ぶと思いますし」



珍しく照れるジェイ。ジェイが言いたいことは、モフモフ族の村に住めばいいってことだよね?私の勘違いじゃなければ。



「いいのぅ!?」
「駄目でしたら言いません」



だって何より大切なモフモフ族のみんなが暮らすところに私なんかが入っていいのかって思うじゃん。



「嬉しい!ありがとう!」
「……い、いえ。本当に仕方ない人ですね」



あまりの嬉しさに抱きつこうとしたけどそれは止めてとりあえず笑顔。そうしたらジェイも私に笑い返してくれて。



「……やっとこっち見た」
「はい?」



いつもそっぽ向いたままで相手にしてくれなかったのに。私に向かって笑顔を見せてくれて。どうしよう、凄く嬉しい。



「ば、馬鹿なことを言ってないで行きますよ」



顔を赤くしたジェイは私の手を引いたまま歩き出す。今まで見れなかった一面が見れて、また好きになった。






やっとこっち見た
((すごくすごく大好き!))









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