五十音順の詠
むかしからこうだったの?(弾丸論破/苗木)








どうやら君を侮っていたようです





この希望ヶ峰学園に来て半月以上経った。その間に罪を苗木君に擦り付けて桑田君を殺そうとした舞園さんは返り討ちにあって殺された。私たちは桑田君をクロだと判定して、結果彼はオシオキされて死んだ。次に彼女……いや、前向きになった彼、不二咲さんに嫉妬して彼を大和田君が殺した。そして彼もまたクロだとバレてオシオキされた。
私もいつ誰に殺されるのだろうと怯えるようになった。大和田君と仲良くなった石丸君の悲しみようはなかった。アルターエゴのおかげで変貌はしたけど元気になった石丸君。そんな彼も殺され、山田君までも殺された。



「……いつまで続くんだろう」



学級裁判のための捜査。二人も一気に仲間が死んで悲しいのに怖いのに、犯人を特定するための捜査を今している。こんな事やりたくない。仲間を疑うなんてしたくない。でも学級裁判でクロを見つけられなければクロ以外の全員がオシオキされてしまう。死ぬのは怖い。でも誰かの死なんてもう見たくない。



「みょうじさん?」
「えっ?……いたっ!」



それでも何か手がかりはないかと机の下とかも捜していると名を呼ばれた。不意に掛けられた声に驚いてここが机の下だと忘れて立ち上がろうとしてしまった。ら、頭をぶつけた。とてつもなく痛い。目の前に星が見えたよ。



「だ、大丈夫!?」



ゴンっ!なんて大きな音を立てたものだから彼も驚いたようで慌てて駆け寄ってくる。



「痛いけど、大丈夫。で、何か用。苗木君?」



声を掛けてきた主を見る。苗木君は心配そうに私を見下ろした後、手を差し出してくれた。それに素直に甘えて手を借りて立ち上がる。床を這いずくばっていたからか、汚れたスカートを手で払う。



「えっと……この辺りを見て回っていたらみょうじさんがいたから」



だから声を掛けたと。まぁ苗木君なら誰にでも声を掛けるよね。まあ朝日奈さんや大神さも声を掛けてくれるけど。ここに集まった超高校級のみんなは個性も超高校級に強い。平凡なのは私と苗木君くらいかな。



「そっか。何か見つかった?」
「まだ……何も」



首を横に振る苗木君。たぶん彼と私は同じようなことを考えていると思う。何となく似てる気がするからだけど。こんな馬鹿げた殺し合いや学級裁判……ううん、この学園内での生活全てを否定している。それはみんなもなんだろうけど。



「……犯人、いるのかな」



セレスさんの証言の通りならジャスティスロボというのが犯人だ。でも私たちを互いに殺し合わせようとしているモノクマが私たち以外が殺人を犯すような事をするのだろうか。正直考えたくないけど、二人を殺した犯人は私たちの中に絶対いるのだ。



「みょうじさん、本当に大丈夫?保健室か自室に行く?――っ!?」



肩にポンと何かが乗った衝撃に驚き大げさに肩を震わせてしまった。側にいるのは苗木君だけなんだから彼以外はあり得ないはずなのに。私がオーバーアクションをしてしまったせいか、苗木君も目を見開いて驚いていた。



「ご、ごめん……考え事してて」



一瞬、疑ってしまった。こんなにも人の良い苗木君が犯人なんじゃないかと。誰が犯人でもあり得てしまうから、つい。モノクマはこうやって私たちを殺し合わせるつもりなんだ。それの何が正しいのだろう。しかしなんて申し訳ないことをしちゃったんだろう。



「ごめんね」
「ううん、いいんだよ。気にしないで」



疑わせるのが向こうの目論見だというのに。頭を下げる私に苗木君は首と両手を振って、気にしないでという。



「仕方ないよ。こんな状況だもん。僕も……怖いから」



そう言えば苗木君は一番最初に殺された舞園さんと仲が良かったっけ。そんな子に罪を擦り付けられそうになったり、死んでしまったりで実は一番ツラい筈なのに。なのに優しい。なんでこんなに赤の他人に優しく接して気まで遣えるんだろう。



「苗木君ってすごいね」



私には到底真似できない。今じゃ寝る寸前までビクビクと怯えてる。みんな一緒にここから脱出すると願っても、上手く行かなくて全てを疑いたくなるのに。



「もしかしたら私が犯人かもしれないのに、どうしてそんなに優しいの?」



もちろん犯人じゃない。私は殺すどころか、何もしないでいても殺される方だろうに。それでも絶対じゃない。みんな人を殺すような人たちじゃなかったもん。何が人を変えてしまうのかわからない。



「みょうじさんは犯人じゃないよ、絶対に」



俯き掛けた顔を一気に上げた。目の前に立つ彼の表情は自信に満ちたものだった。何の根拠があったらそんな顔が出来るんだろう。私だっていつ気が狂うか本当にわからないのに。



「なん、で?」
「僕にはわかるよ。君は何があっても絶対に人を殺さないって」



ふっと表情が変わる。今度は優しい笑みを浮かべる。その笑みに吸い込まれるかのように目が離せない。



「それに、君は絶対に死なない」



それこそ何の根拠があるんだろう。いつ誰が殺して殺されてもおかしくないのに。苗木君って不思議。



「……どうして、そう思うの?そんなのわかんないじゃん」



過去二人の犯人を捜し当てたのは他ならぬ苗木君だ。彼がいくら良い人だからって、殺しが起きた時点で誰も彼も疑ってるはずだ。私だけ殺さないし殺されないというのを断言できる意味がわからない。



「わかるよ」



苗木君は超高校級の幸運の持ち主。未来がわかる何かの持ち主じゃない。ますますわからない。どうしてそこまで自信たっぷりに言えるのか。


「みょうじさんは何があっても人を殺せないよ」



それにね、



「君は……なまえさんは僕が守るから」



そうハッキリと言った。私の両手を取って。顔はまだ笑みを浮かべたままなのに、握られた手はすごく力強かった。その温もりを意識したらなんだか一気に体中が熱くなってきた。だって男の子に手を握られて、しかも……君は僕が守るってそんな告白みたいな事言われたらビックリするよ。



「ななな苗木君?」



第一印象から大人しくて真面目なタイプだと思ってたんだけど……もしかして違った?学級裁判の時の彼は物事を冷静に見て犯人を言い当てたりしてて印象が変わるときもあるけど、それとも違う感じがする。



「僕に君を守らせて?」



ジッと見つめられて目が離せない。こんな事をしたり言うようなタイプじゃないと思ってたんだけど。あれ?どうしよう?何がどうしようなんだろう。彼は小悪魔だ。そう見せないようにしていただけで、実はとんでもない小悪魔だったんだ。



「………はい」



嫌だなんて言うことは出来なくて、私はそう返事をしていた。まるで彼の思惑通りのように。





むかしからこうだったの?
((すっかり騙されました))









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