五十音順の詠
にくったらしいんだけど(BASARA/半兵衛)






今に始まった事じゃないから気にしない!








「……何をやってるんだい、君は?」



机に向かい急いでペンを走らせていると頭上からの声。声で誰だかなんてすぐにわかる。だから顔は上げずに見ればわかるっしょ、とペンを動かす手を止めない。今は一分一秒も惜しい。誰かと話をしている時間はない。



「聞いているのかい、なまえ?」
「後にしてよ」



あたしゃ忙しいんだ。あんたに構ってる暇はないんだよ、半兵衛。ペンを手の上で一回転させる。マジでこの目の前の強敵を倒さなければ、更なる強敵にこっちがのされる!



「プリント……数学?」
「……しゅ、宿題忘れたら……今日中にこれを提出しろって」



すっかり忘れてた。昨日家に帰ったまでは覚えてたのに、最近の忙しさに疲れていてお風呂を上がってすぐに髪の毛を乾かすのも忘れてた寝てしまった。朝起きたときも思い出せなくて……むしろ寝癖の酷さにあたふたしてた……先生に言われて初めて思い出した。気付いたときにはもう遅い。



「先生、鬼畜過ぎ…」
「忘れる方が悪いよ」



ちくしょう、そんな事わかってんだよー!と叫んでやりたい。あと一枚半……あと一枚半もあるのか。私が数学苦手なの知っててあの先生は宿題の倍の量出しやがって。



「…ちょっ!」



無言で私の前の席に座った半兵衛。そして無言でまだ手を付けてないプリントを取って、勝手に人のペンケースからシャーペンを取り出す。



「何すん……」
「その問題、Xを代入しないと解けないよ」



えっ、どこどこ……じゃなくて。解き方の間違いはさておこう。半兵衛は手を止めることなくスラスラとプリントの問題を解いていく。さ、さすがは学年主席。私とは頭の出来が違うってか。どうせ私は下から数えた方が早いよ。



「いつまで経っても終わらなそうだしね。なまえが来ないと会議が始まらなくてね」



もう30分も待たせてるんだよ?と言われてしまった。それを言われると頭が痛い。今日が生徒会の日だってわかってはいたからこそ急いでプリントを終わらせようとしてたんだけど……終わんなかった。休み時間からやってるのに終わらなかった。


「申し訳ない…です」
「さっさと終わらせるよ。にしてもこの程度の問題に何時間かけるんだい?」



ちくちょー!何度でも言ってやる、ちくちょー!あんからすれば簡単な問題だろうが私には超難関なんだ!なんでこんな日に生徒会があるんだ。いや、なんで私が生徒会にいるんだ。



「原因はあんただぁ!」
「……突然叫ばないでくれるかい?」



うるさいよ。とまあ、涼しい顔で言われましたよ。手の中のシャーペンで指してたもんだから、危ないよと手を掴まれ机へと下ろされる。臆面も躊躇もなく女の子の手に触れるんだから。一瞬でも意識した私がバカみたい。



「あ、顔色悪い。大丈夫?」



半兵衛は体が弱い。それはこの学校の誰もが知っている。ただ私は保険医と話しているのを聞いてしまった。半兵衛は結構重い病気を患っていると。だからなるべく気に掛けてるし、発作とか起こしたら大変だからあまり言い争いとかして体に負担を掛けないようにはしてるんだけど、なにぶんこの性格のせいかこんなやり取りしかできない。



「平気だよ。誰かさんが待たせなければね」
「へいへい、私が悪うございました」



心配してやってるのにな。ま、向こうからすればいらぬ世話なんだろうけど。ほんとに可愛くないんだから。



「出来たー!」
「こっちも終わったよ」



………私が半分終わらせる間に一枚かよ。しかも一番難しかったやつ。



「……字でバレないかな?」
「ちゃんと似せておいたよ」



うわー、そっくり。私の字にそっくり。どんだけ才能があるって言うのよ。



「なまえ」
「なに?」



早く提出しなきゃと思ってれば、シャーペンをペン消すに戻して私を呼ぶ。にっこりと儚げだけど綺麗な笑みを浮かべて。元が綺麗だから笑えばもっとそれは増して……見惚れてしまう。女の私から見ても半兵衛は美人なんだ。本人に言うと怒るから言わないけど。



「褒美をもらわないとね」
「へっ?」



そう言って半兵衛は私の髪を一房手に取る。軽く撫でたあと、そっと彼は唇を落とした。それが私の髪の毛にキスをしたと気付くのに何秒掛かっただろうか。刹那かもしれないし十秒後かもしれない。それを理解してしまえばつま先から段々と熱が帯びてきて体中が熱い。



「なななな何してんのよ!?」
「褒美だよ、これのね」



プリントを指さし、半兵衛は先に行くよと教室を出ていった。アイツとの付き合いは昨日今日じゃない。全部を見透かして、何でも簡単にこなすアイツは正直嫌いだった。私はこんなんだから相容れないと思ってた。思ってるつもりだった、だけなのかな。






にくったらしいんだけど
((嫌いになれないんだ))









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