五十音順の詠
つねに考えています(菊地原/ワートリ)





キミが思ってるよりキミのことを考えてるんだよ





「弱いんだから無理に前に出ないでよ」


はっきり言って迷惑。そう言ったのは同じボーダー隊員の菊地原士郎だ。言っていることに間違いはないのになんでこんなにイラっとするんだろう。側にいた歌川くんが、お前はもう少しオーブラートに包んで言えないのか?と呆れたように言えば、本当のこと言って何が悪いの?と返された。正論なんだけど…うん、正論なんだよ。



「今後は菊地原くんの側には寄らないようにするよ」



そう言って私は彼らに軽く会釈して離れた。歌川くんが私を呼んだけど私がいると菊地原くんがまた何か言って彼がフォローする羽目になる。それは申し訳ないから背を向けたまま、右手を振る。



「……弱いかぁ」



そこは否定が出来ない。B級のどこの隊にも所属しないソロの射手。片やA級3位の隊の攻撃手。実力も明らかに違いがあり過ぎる。



「とりあえず、誰か適当に模擬戦申し込むか」



ポイント稼ぎはどうでもいいけど弱いって言われたままなのは癪だ。トリオン量も並よりは上なんだしもっと上手く使えるようにしなきゃな。こういう時、師匠が欲しくなる。けど前に無謀だとわかってて出水先輩に指導をお願いしたら、いいぞって教えてくれたけど…あの人は人に教えるのは向いてない。天才だからなのな、ものすごく抽象的でわかりづらい教え方しかできない。普段から感覚でやってるんだろうな、あれは。それ以来教えを請うてない。だってわからないんだもん。



「……もっといい人いないかな」



射手で教えるのが上手い人、か。攻撃手や狙撃手ならいそうなんだけど。というか私もよく出水先輩に頼んだな。あの人、仮にもA級1位の隊だぞ。今考えると私度胸あるな。なんにしても何とか彼をギャフンと言わせることできないかな。言われっぱなしも悔しいし。



「う〜ん…」



何人かと対戦したけど収穫ってほど収穫はないんだよな。負けはしなかったけど、なんの経験値になってないような。



「よう、なまえ」
「あ、米屋先輩」



何一人でブツクサ言ってんだ?と声を掛けてきたのは私の1日師匠の出水先輩の親友でもありA級7位三輪隊所属の米屋先輩。



「何唸ってんだよ」


私なんかじゃ本来知り合いになり得ない人なんだけど出水先輩の一件で姿を見かければ話すようにはなった。余談だけど私の弟子入り懇願の時にも側にいて、その時必死な私を見て大爆笑されました。そんな事もあったけど、米屋先輩もA級で強いのは知ってるから今の悩みを相談してみる。



「お前って菊地原と仲よかったっけ?」
「いいつもりはないですけど向こうが突っかかってくるんです」



弱いんだからとか弱いくせにを必ず言われる。歌川くんがいつもフォローしてくれるけどそれでも言われる。風間さんがいたって言うんだからどうしようもない。



「なら俺と模擬戦やるか?他の奴とは違うかもしんないぜ」



戦闘狂の米屋先輩とか…勝てないのは間違いないけど何かつかめるかもしれない。A級の人と模擬戦が出来るなんてそうはない。風間隊の四人以外のA級の知り合いはいないからこれはいい経験になる。



「はい!お願い…」
「なにしてんの?」



します、の言葉が続かなかった。割り込んで入ってきた声に固まってしまったのが自分でもわかった。ほぼ真後ろから聞こえた声に振り返れない。なんでこんなにもタイミングがいいのだろうか。



「珍しいな。一人か?」
「いつも一緒だと思われるのは心外なんですけど」



冷や汗ダラダラの私なんか無視して会話をする米屋先輩と私の天敵、菊地原くん。どうして会いたくない時に会っちゃうのかな。私は未だに彼の顔が見れない。て言うか、私言ったよね?もうあなたの側には近寄らないって。あ、私からじゃないか。でもそれに関しては何も言ってこなかったんだから肯定と取っていいんだよね?二人はまだ会話してる。今なら逃げ出せるんじゃない。



「どこ行く気?というか逃げられると思ってんの?」



そーっと側を離れようとしたら首根っこを掴まれた。ぼくのサイドエフェクトを誤魔化せると思ってるの?と。物音を立てたつもりはないけど強化聴力を持つ彼から逃れるのはやっぱり簡単じゃなかった。



「よ、弱い私に構う暇なんて…ないでしょ…」



卑屈な物言いだとわかってる。でも顔を合わすたびに言われたら少しは図太い私だって心が折れる。関わらないようしてたのになんでそっちから関わってくるのかなあ。



「……なまえ。模擬戦はまた今度な」
「よ、米屋先輩!?」



じゃっ!と片手を上げてどっかへ行ってしまう米屋先輩。何故か笑顔で。首根っこ掴まれたままの私は血の気が引くのを感じながら先輩の消えて方を見ていた。さっき相談したばかりですよね?事情をバッチリ報告して。なのにどうして逃げるんですか?思考の渦にハマっているとスマホのバイブが震える。着信したメールを見ると米屋先輩から『頑張れよ』とただ一言入っていた。何を頑張れって言うのでしょうか?



「みょうじ」
「は、はいっ!」


呼ばれたことに驚いて大きな声で返事をしたら、うるさいと怒られた。今のは私が悪かったな。



「あの人と何してたの?まさか前の出水先輩の時みたいに弟子入りでもしてたの?」
「してないよ。ただ模擬戦を…ってなんで出水先輩に弟子入りした事知ってるの?」



弟子入りしたって言ってもすぐに無謀だったと気付いて辞めた。これを知っているのは出水先輩と米屋先輩だけなはずなのに。あの場に居なかったはずの菊地原くんが知ってるの筈がないのに。私が問えば菊地原くんはしまった!と言うような表情をし、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。あの時、周りを確認したけど二人しかいなかった筈だし。あれ?これはどういう事だろう?



「う、歌川に聞いたんだよ」
「これ知ってるの出水先輩とその場にいた米屋先輩だけの筈なんだけど?」



おや、これ形成逆転かな?顔が緩むのが自分でもわかる。普段は追い詰められてばかりだからたまにはこういう立場も悪くない。いや、悪くないどころじゃない。



「うるさいな。ぼくはあんたが今何してたか聞いてんの」



首根っこ掴んでいた手で力任せに体を向きを変えされられる。その手は私の肩に回っていて今までにない距離で向かい合っている。キスする距離、とまではいかないけどかなりの近距離に互いにフリーズ。この後すぐに風間さんと歌川くんと三上先輩が来て二人して顔を真っ赤にして離れた。後日、米屋先輩に言われた事……



「互いに意識しすぎてんじゃね?」





つね考えています
((それは気になって仕方ないから))










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