五十音順の詠
ちいさい出来事でも(TOX/ジュード)






ホントにホントに小さな事だけど……








「ジュードっ!」



街をフラツいていればちょっと遠くに見える姿に手を振る。私の声に気付いたジュードがこっちを向く。けど大きな声で呼んだからか、何だか恥ずかしそうに控えめに手を振り返してくれる。顔もうっすら赤い。



「何してんの?」
「なまえこそどうしたの?」



側へ寄ってきてくれたことが嬉しくて心の中でガッツポーズ!私がこの辺りをウロチョロしてることに疑問があるみたい。確かに今いるのはイル・ファンで、ジュードが通う学校の前。用があってイル・ファンにいるけど、この地区は私が用あるような場所じゃない。海停に行くならともかく……といっても船に乗るわけでもないから行くことはないけど。



「私は買い物をして休憩中」



ジュードは?と問えば、無言で後ろを振り返る。そこにあるのはジュードの通うタリム医学校。聞いた話だけど、ジュードはミラを助けたことによってイル・ファンにいられなくなったとか。ミラと旅するようになってから学校には行っていない。とうより行けない。指名手配されてるんだもん、行けるわけがない。今は、その誤解も解けてもう気にする必要もない。



「学校……復学するの?」



医者になりたいジュード。戻れるなら今すぐにでも戻りたいと言うかもしれない。ただ今は、最後の決戦前にやり残したことをやりに一度リーゼ・マクシアに戻ってはいる。



「全てが終わったらね」



その為に一度顔を出しておいたと。あとは久しぶりに様子を見たかったと。ちょっと前までは戦争なんかもあったから心配だったみたい。心配性なのは相変わらず。でもそこがジュードの良いところ。



「明日、だね」



明日こそ、ガイアスと決着をつける。どちらも世界を思っての戦い。ガイアスが間違っているとは思わないけど、私もみんなと一緒でエレンピオスの人も救いたい。世界を旅するのが好きな私は、この戦いのあとに両方の世界を旅したい。そしてそれぞれの世界に人にそれぞれの世界の話をしたい。だからジュードやミラと一緒に戦うと決めた。自分で決めた。ジュードといたいからってのはある……レイヤと一緒で。



「怪我したらジュードに治してもらおっ」
「そもそも何で怪我する前提なの」



それもそっか、と後頭部に頭に手を置いて笑う。でも私が医学生のジュードに会いに行く口実って言ったらそれしか思いつかなくて。レイヤとかエリーゼなら、会いに来ちゃったとか出来るんだろうけど。



「旅してれば怪我くらいするよ。私、補助系の精霊術は使えないし」



攻撃系なら幾つか使えるけど、でも普段使ってる武器から繰り出す打撃系のなら結構使えるんだけど。こればかりは才能って事で。



「怪我しないように戦えないの?」
「探検家に言う台詞じゃないねぇ」



未開の地に踏み込むのが探検家の醍醐味なんだよ!と意気揚々と語れば、あはははっと乾いた笑いが帰ってきた。普段、人が入らない洞窟とかを散策するのが楽しい。というか世界全部を見て回りたい。ありのままを全部みたい。



「危険なんて承知!ただ世界を見たいんだ!」



偶然で会ったことを感謝したい。普通に旅をしてただけじゃ見れなかったことが見れるんだもん。それに、出会えたことが一番の幸せ。まあ、片思いだけど。あれだけ真っ直ぐに彼女を見てるんだもん、入り込む余地なんてない。彼にとって彼女は憧れで一番の存在だから。それが恋かどうかは知らない。でも、一番だから。



「なまえらしいね」
「でしょ?」



この笑顔が好き。考えてるときの真剣な顔も好きだけど。ミラが死んじゃったときの絶望したような顔はもう見たくない。たぶん見ることはないけど。あの一件があってジュードは成長した。だからそんな簡単に諦めない、絶望しない。



「早く、終わるといいね」



空を見上げれば、空に光る星々。夜域のイル・ファンだから見れる光景。リーゼ・マクシアは霊勢で自然や気候が変化する。精霊がいなくなったらこの光景も変わってしまうだろう。



「そのために僕らは明日、ガイアスを止めに行くんだ」



ジュードは最初に出会った頃に比べてすごく成長したと思う。逞しく、頼りがいがある少年になった。ただ真面目で博識でお人好しの少年から。みんなもそうだ。それぞれの進むべく道を考えてる。何も変わらないのは私だけだ。



「なまえがたくさん色んな所を旅できるようにしなきゃね」
「へっ?」



何を唐突に言い出すんだろう。にこにこしてる。ジュードに一体何があったの!?何で私のことを言い出すんだろう。



「リーゼ・マクシアだけじゃなくエレンピオスも旅できるようにするよ」



するよって……うわぁ、その……照れる。笑顔で断言されちゃうと、照れるよね。そう言う意味じゃないってわかるけど。うぅ〜これだから天然は。



「うん……そうだね」



ジュードは優しい。私でなくてもこういうことを言ってくれる。でも嬉しいものは嬉しくて。



「さ、さてと。そろそろ宿に帰ろうかな」



よいしょっとベンチに置いておいた荷物を持ち上げる。こんなに必要ないとは思ったけど、一応買い足しておいたアイテムの数々。大きな紙袋いっぱいで、実は結構重い。そんな重い荷物を持ってわざわざ学校前まで来ちゃった私が悪いんだけど。まあ、理由は聞くなってやつで。



「きゃっ!」
「なまえっ!」



重いのはわかっていた。が、躓かないという概念はひと摘みもなかった。ああ、顔面から思いっきりダイブする。ああ、すでに涙が出そう。このまま重力に任せちゃえ、と諦めると、急に体が後ろへと戻っていく。腕が引っ張られ、今度は後ろへと倒れそうになる。それでも次に予想した痛みは来なかった。その代わり、ぽすっと何かに当たる。



「大丈夫?」
「は、はははははい!?」



そのまま見上げればかなり近くにジュードの顔。傾いた体が倒れないように腕に手を添えられていて支えられていた。荷物!と思ったら、どうやって受け止めたのか、ジュードの空いてる方の手に収められていた。



「なまえ?」
「あ、うん!大丈夫!」



近すぎる顔にビックリしていて、呆けてしまう。何度も首を縦に振ると、ジュードはクスッと笑い支えていた手で私の手を握った。



「ジュード?」
「転ばないように僕が握っててあげるよ」



荷物も落とさないように持っててあげるね。ってにっこり笑って、私を引っ張って歩き出す。どうしよう。どうしよう。抱き留めてもらって、手を繋いでもらって。そんな――





ちいさい出来事でも
((嬉しくて仕方ない!))









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