五十音順の詠
しらない事が増えて(黒子のバスケ/緑間)




だから知らないフリをしてた……










「……あっ」



遠くからでもわかるその姿。小学校卒業以来、久しぶりに彼を見た。私はあまり詳しくないけど、中学は帝光中へと進学した彼はバスケ部に所属し『キセキの世代』と呼ばれるプレーヤーの一人になっていた。小学生の時からちょっと大きいなと思っていた身長は更に大きくなっていて、同級生の男の子よりも頭一つ分大きかった。何となく面影の残る顔。なぜだか目が離せなくて、一瞬こっちを向いたなっと思ったら私は思いきり顔を背けていた。



「……偶然って、怖い」



何がどうやったら重なるのだろうか。入学式が終わって教室へと移動すれば当の彼がいた。緑の頭が飛び抜けて見えてるのだから目立って仕方ない。しかも彼が話しているのは私の中学時代の同級生の高尾和成くん。三年間クラスが一緒だったせいかそれなりに仲がいい。二人とも知り合いなんだから声を掛ければいいのに、何故か声を掛けれなかった。高尾くんならともかく、彼。緑間真太郎の放つ雰囲気に近寄れなかった。どうしたものか。高尾くんが私に話しかけたら彼にもバレるのだろうか。



「……あれ?」



何でもバレたら困るんだろう。何も疚しいことはないのに、どうして私の存在を知られたくないんだろうか。ああ、あれだ。周りに幼なじみとかバレたくないんだ、うん。さすがにこの歳になると幼なじみとかって何か恥ずかしい。女の子同士ならともかく男の子のってのが。よし、なるべく関わらないようにひっそりと過ごそう……という意気込みは二週間程度で打ち消された。



「高尾。行くぞ」
「真ちゃん、待って待って。日誌まだだから」



何たる不覚。出席番号が同じって恐ろしい。よりよって今日の日直は私と高尾くん。まだ日誌が書き終わってないというのに、緑間くんが高尾くんを迎えに来てしまった。怖くて顔を上げられない。私の視線はずっと日誌に向けられていた。だけどちょっと自分が居たたまれなくなってくる。



「た、高尾くん。あとは私がやっとくから部活行って?」
「いや、いいって」



俺も日直だしお前にだけ押しつけないよ。と、まあなんて優しい言葉。これが今でなければ喜んじゃうよ、女子としては。でも今は一秒でも早く彼をこの場から連れ去ってくれと願いたい。



「お、終わったから、出してくるね!」
「おい!?なまえ?」



なんでそこで名前呼んじゃうの?って突然走り出したら呼ぶかな?ああもう、彼の前で誰からも名前を呼ばれないで済んでたのに。運良くまだ授業中差されたこともないのに。ともかく廊下を全力疾走して職員室へと行ったら怒られました。罰としてレポートの提出を言い渡されました。自分の鞄を取りに教室へと恐る恐る帰ったけどすでに二人はいなく、私は仕方なく図書室へと向かった。



「……入学して二週間で出す内容じゃないよね」



どっちかというと苦手な部類である英語でのレポート。好きな本を選んでそれを全て英語で感想やら考察やら作者の紹介やら書けってさ。しかも今日中に。学校が閉まるまで後三時間。こりゃ急がないと終わらない。とりあえずお母さんには遅くなるってメールしなきゃ。



「……お、終わった」



ぎりぎり五分前に提出。先生もよく終わったな、って誉めてくれた。それより終わらない前提でやらせたんかい、と怒鳴りたくなったのは胸の内に秘めておこう。



「バス……ないか……」



どうやら送迎の最終バスはさっき行ってしまったみたいだ。仕方ない。駅まで歩こう。溜息一つ吐いて歩き出した。



「なまえ」



後ろからふいに呼ばれた。その声に聞き覚えがありすぎて振り返れない。とは言え無視するわけにもいかない。



「……な、なに?」



きっとぎごちない表情を浮かべてるんだろうな。三年振りに彼の顔をちゃんと見た。身長が高すぎて見上げる首が痛い。てか人を呼んでおいてなんでそんなに難しそうな顔をするんだろうか。



「緑間くん?」
「……いや」



黙ったままの彼に首を傾げれば、緑間くんは小さく首を横に振った。何だろう、この変な空気は。彼は無言で私の横に並ぶ。あれ、なにこれ?



「帰るのだろう」
「あ、うん……」



二人並んで歩き出す。すごく居心地が悪い。会話がないからかなぁ。せめて高尾くんがいてくれてたら助かるのにな。



「………だな」



彼が何か言ったのを聞いていなかった。少し間を空けてから、はい?と聞き返してしまった。すこぶる後悔。頭一個分以上高い位置から見下ろさせれたら誰だって凍り付くよ。



「ご、ごめん……なさい」
「全く、昔から変わらないのだよ」



しゅんとなって肩を落とす。したら緑間くんは、はぁと溜息を吐きながらそう言った。そう、昔から変わらない。ビックリして彼を見上げる。離れていたのは三年。でも中学校の三年というのは短くて長い。結構内容も濃いよね。だから、私の事なんて忘れてるって思ってた。



「高尾と知り合いだったのだな」
「うん、同じ中学校だもん」



こうして話すのも三年振り。なんだかくすぐったくて恥ずかしい。よくよく見れば緑間くんって格好良いんだよね。元々良いんだけど、三年間でそれが増してて、ちょっと……直視できない。知らない男の子みたいで、急にドキドキしてきた。顔も声も背も体も、全てが始めて見る感覚で。



「なまえ」



また名前を呼ばれて、一度外した視線を彼へと向ける。見つめ合うだけで体中の血液が沸騰しそうだ。



「今、何か部活はやってるのか?」
「帰宅部だよ」



突然の質問。まあ普通の会話だね。



「今後入る予定は?」
「ないよ。特にやりたいことはないし」



ん?何だろう。そんなこと知ってどうするんだろう。



「バスケ部のマネージャーをやらないか?」
「うんうん、マネージャーねぇ……って!?何、急に!?」



確かに部活についての質問だったけど、何故マネージャーにならないか?って話になるの!?落ち着け、落ち着くんだなまえ!



「それは俺がずっとお前のことが好きだったからなのだよ」
「へぇ……って!ええっ!?」



さっきから予想もしない事を言われて思わず大声になる。したらうるさいと怒られた。今日怒られてばっか。



「だだだって、好きって……」



そりゃビックリするよ。三年振りに再会していきなりマネージャーにならないかとか好きとか言われて。頭がパニックにならないわけがない。



「バスケ部のマネージャーになれ」
「………はい」



拒否権のはないみたいで素直に返事をした。これが彼からのアタックの始まりで、以外とあっさり陥落しするのは少し先の話。







しらない事が増えて
((知りたいと思ったら好きになってた))









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