五十音順愛の詠
くるしい、よ(TOG/アスベル)
わかってるから、すごくくるしいの
「はぁ」
零れるのはただ溜息のみ。見込みはあるかな?とか高を括ってたのが間違いだった。一見、今まで何の様子も違わないと思ってたのも、間違いだった。
「シェリア。荷物持つよ」
「ありがとう」
目に入ったのは買い出し途中のアスベルとシェリアの姿。アスベルがラムダを自身の体に取り込んで共に生きることを決めてから半年。その半年振りに再会して一目見てわかってしまった。二人の間の空気が違うことに。シェリアはずっとずっと片思いしてたのは知ってる。みんな知っている。てか、わかりやすい。
「変わらない、訳がないよね」
その半年振りの再会で知りたくないことを知ってしまった。二人の姿を見ればわかる。シェリアはいつもと何も変わらない。けど、アスベルは違う。すごく、愛おしそうにシェリアを見てる。気付いたんだ、と逆に私が気づかされた。
「なまえ、何してるんだ?」
「…アスベル」
少し離れたところでぼーっと、いいなぁとか思っていたら、その人に声を掛けられた。人の想いも知らないで、とか言いたくなる。出会った頃から好きだったその人は一番近くにいてくれる幼なじみに恋をした。彼は、私の想いなんて知らない。
「別に……ただ散歩してるだけ」
「そうか」
ふっと微笑む。それだけで胸が苦しくて仕方ない。大好きだけど苦しい。報われないってのはこんなに辛いんだ。恋する乙女というものにはそれが付き物なんだけどね。それでも、辛いな。
「アスベルこそ、シェリアと買い出しじゃなかったの?」
さっきまで隣に立っていたはずのシェリアの姿はない。二人一緒に声を掛けてきたと思ったのに、よく見ればアスベル一人だった。キョロキョロと辺りを見てもシェリアの姿はない。
「ああ、シェリアならそこの雑貨屋にいるよ」
買い出しは終わったから、ちょっと自分の買い物をしたいと言って荷物はアスベルに預けたとのこと。
「そう、なんだ」
まあ二人一緒にいるところを見るよりはいいけど、かと言って何話したらいいのかわからないよ。どうしよう。シェリアの買い物なら少し時間は掛かる。その間はアスベル一人。嬉しいようで嬉しくない。だって、二人きりでいられて話も出来るけど、その間もアスベルはシェリアを想っていて。私は、それに嫉妬するだけ。嫌な子、ってわかってる。
「なまえ?どうかしたのか?」
「へ?……なななななんでもない!」
自己嫌悪に陥っていれば目の前にアスベルの顔。不意を突かれたから凄く間抜けな声を上げちゃったよ。しかも思い切りどもっちゃったし。そりゃあそうでしょ!?好きな人の顔がいきなり目の前に現れたら驚くよ。
「具合でも悪いんじゃないか?」
なんでもないって言ってるのに今度は額に手を当ててくるし。わかってるよ。アスベルは誰にでも優しい。だから私のことも『仲間』として大切にしてくれてるって。少し様子のおかしい私を心配してくれてるって。私だからじゃないって。
「疲れてるだけだよ」
平和となったはずの世界に訪れた異変。その原因を探るために各地を回ってるから実際疲れている。額に感じる温もりから逃げるように、一歩下がる。出来るだけ自然に。
「先に宿に帰ってるね……迎えに行かないと、シェリアいつまでも買い物してるよ」
「なまえ!?」
私を見てくれないアスベルの側にいるのは辛いよ。心から心配してくれるのはわかってる。でもね、シェリアが戻ってきたら私には見せてくれない笑顔で彼女を迎えるでしょ?そんなの、見たくないの。
「あら、なまえ……えっ?」
視界の端に濃いピンク色が見えたけど、少し歪んだその視界にははっきりと姿を捕らえることはなかった。でも誰だなんてすぐわかる。だから、気付かない振りをして一気に走り去った。
「……ばか、だなぁ」
宿の部屋の扉をバタンっと閉め、ベッドへと飛び込むように倒れ込む。流れ出る涙は止まらない。今頃は、と思うと胸が痛くて痛くて仕方ない。二人とも優しいから私の心配してるかもしれない。
くるしい、よ((その優しさが…))