▼ ありきたりの出会い
「貴様が超高校級の参謀のみょうじなまえか?」
夕日が射す誰もいない教室で突然そう声を掛けられた。それが私と彼の出会いと言うか初めての会話であった。そうだよ、と返せば彼は爪先から頭のてっぺんまで見定めるかのように見てふんっと鼻を鳴らした。
「超高校級の御曹司の十神白夜くんが何の用だい?」
彼が誰かに声をかける時は大体何かを命じる時。それをされるのは大概、超高校級の幸運の持ち主である苗木誠くんなのだが。ともかく先生ですらあまり相手をしたがらない。この超高校級が集められたクラスの担任もまたこの学校出身が多いにも関わらずだ。まぁ彼の場合家柄もあるが性格にも少々問題があるからだろうか。
「十神くん?」
腕を胸の前で組んだまま、椅子に座ったままの私をただ見下ろして何も言わない。自分から声を掛けておいて黙っている。私が誰なのかな確認だけにしては未だそばを離れないという事は何か用があるということなんだろうが、彼は一向に口を開かない。この沈黙は困るが彼が口を開くか立ち去るかわたしには待つしかない。この場を離れるという選択肢もあるが生憎今日は人をここで待っているので勝手に離れるわけにもいかない。
「……幾多もの戦場を渡り歩いたようには見えんな」
「ははっ。人を見かけで判断しちゃダメだよ」
物心ついた時から戦場にいた。こんな平和な場所に長々いたことなんでない。正直この高校生活というものをたった数日で飽きを感じている。
「女でからそう見てるんじゃない。そんなヘラヘラした奴が参謀には見えないって言っているんだ」
性別で判断はしない…そこには好感が持てるかな。けど、そんなにヘラヘラ笑ってるかな。葉隠くんに比べたらヘラヘラはしてないと思うけど。
「そんな事ないと思うけどな」
クスクスっと軽く笑って彼を見上げれば十神くんは僅かばかり目元を動かし眉根を寄せた。それだけでわこるのどから彼はただの御曹司ではない。さすがは超高校級と言うべきか。空気が変わったのも瞬時に判断できる。平和なこの日本で生まれ育ったとは思えない。
「それで、十神くんは『私』に何の用なのかな」
再度問う。彼は私を確認しただけで用件は何一つ言っていない。ただ確認するだけなら名前と顔を確認した時にそれで終わっていたはず。他ならぬ私に用件があるから今もまだ立ち去らないのだろう。
「今日から俺に仕えろ」
その一言を理解するのに何秒要しただろうか。数度瞬きをしてからようやく出た言葉は、はっ?だった。我ながら何とも間が抜けた声だったか。たぶん表情も今までしてことがないようなものだっただろう。この後待ち合わせしている彼女が見たら大爆笑するのは間違いない。
「それは、十神家に仕えろ…」
「俺個人に仕えろと言っている。十神ではない」
十神家専属の参謀になれではなく『十神白夜』の参謀になれたいうことらしい。少なくともこの学園に卒業するまでは日本にいるけどまさか個人で契約を結ぼうとする者がいるとは恐れ入った。
「……そうきたか」
この学園には変わり者が多いけどある程度の常識はあると思っていたけど彼はかなり逸脱しているだろう。戦場という戦場を渡り歩いた私を参謀としてそばに置きたいとは何とも物好きというか野心家というか。
「俺は全てを手に入れる。その為に俺にその力を使え」
「貸せではなくて使えなんだね…君のような人物は初めてだよ」
私の能力を必要とする者は誰もが私に多額の報酬を用意して力を『貸して欲しい』だったのに十神くんは『使え』と命令する。これはもう図々しいを通り越していっそ清々しい。
「面白いね。いいよ、少なくともこの学園にいる間は君の為に力を使うよ」
しかも無償でね、と手を差し出せば彼は少し間を空けてから私の手を握り返した。交渉は成立。この関係が微妙に変わるのは少し先に。更にもう少し先には私たちの未来のいく先も変わる。それはまた、別の話で。
→あとがき
prev /
next