「ツマラナイ」
開口一番にそう言った。私ではない。目の前にいる真っ黒の彼である。否、訂正しよう。白のワイシャツを着ているから真っ黒ではない。それはともかく、先にここに居た私を気にする訳でもなく淡々と彼は呟いた。
「ツマラナイなら他所へ行けばいいんじゃない?」
わざわざツマラナイと思う場所へと来るのが間違いなのだから。けど、彼は私が声を掛けても返事はしなかった。所謂、無視というやつだ。
「何がツマラナイか知らないけど、自分が楽しい面白いかもって思わないと何でもツマラナイんじゃない?」
夕日が差すフェンスへと、彼の隣へと行く。そこでようやく彼は私の方を見る。赤い瞳が、私を射抜くように見る。ただそこには感情はない。
「まぁ、実際楽しくないと楽しいとは思えないけどね」
あはははーと笑う私に彼は視線を向けたまま。
「そう言えば君は何て名前?私はみょうじなまえっていうんだけど」
全校生徒の顔と名前なんて覚えていない。それだけこの学園には学生がいる…予備学科込みで。にしてもこれだけ目立つ容姿をしているのに一度も見たことがない。
「……カムクライズル」
無機質な声でそう答えた。カムクライズル…聞き覚えはある。学園の創設者の名前だったような。あと、今だとある才能の名前。誰も姿を見たことがないと言う超高校級の希望。確かその生徒の名前がカムクライズル。
「へぇ…伝説の超高校級の希望に会えるなんてね」
ある意味ラッキーかもねー。とケラケラ笑う。そんな私の何がおかしかったのか彼は少しだけ首を傾けた。
「何がラッキーなのかわかりません」
「君に分からなくても私にはラッキーだったんだよ」
何の感情のない彼の顔を見つめる。ああ、本当に彼は全てがツマラナイんだ。
「君と私は同じじゃない。同じじゃないから感情を共有出来ないよ」
みんな同じじゃツマラナイじゃん!とちょっとだけ胸を張って言えば、彼は少しだけ目を見開いた。そういう事を言う人はまぁ、いなかっただろう。
「みんな違う。十人十色。だから人生は面白いんだよ」
そう言って彼の手を取る。少し力を込めると彼は握り返してくれて。同じ世界で違う何かを求める時間が始まった。