「みょうじ、いるか?」



控え目なノックとともにした声に一瞬、振り返ろうとしたけど目の前の事にそれはやめた。中に入ればいるのはわかるだろうし、私が返事できない状態になる事があるのも知っている筈だから向こうが勝手に入ってくる事を願って返事はしない。パチ、パチ…と鳴る音を聞き分け、もはや感覚的にわかるようになったその動作。瞬間とも刹那とも言える時間の判断で窯からそれを取り出せば真っ赤に燃えた鉱物が現れる。



「十六夜くん、待たせたね」



軽く形を整えて傍らに置く。そこで漸く、この部屋への来訪者へと向き直る。いつもながら特に表情はない顔。彼が笑顔を見せるのは幼馴染である安藤流流歌くらいだろう。彼の唯一の特別だ。入り込む隙間なんて微塵もないだろう。まぁ、言うならば実る事のない片思いというやつだ。



「何か用?この間、新しい鉱石を幾つか渡したと思うけど?」
「これは?」



数日前に鍛治に必要だと言われ鉱石を渡した筈なのに、と言いかければ彼は私の言葉など無視して傍らに置いた鉱石を見る。



「新しく発掘された鉱石を一度溶かして余分な物を取り出そうとしてたんだよ」



そこまでやろうと思ったけどそこまでやると彼をかなり待たせてしまうから中止した。それを言うと少し申し訳なさそうな顔をされた。



「気にしなくていいよ」



始めて時間が悪い。元々、私の所に来る人なんて限られているけど、人が出入りする時間に始めた私がいけないのだから。



「それで用件は?」
「急に注文が入って鋼が欲しい。あと、流流歌から預かった」



私の所に行くならと、彼女特製のお菓子を預かったとか。中身はマカロン。7つ入っていて色も7色。レインボーマカロンといったところか。まぁ流流歌のお菓子は美味しいからあとで頂こう。



「何に使うの?これくらいで足りる?」



何に、というか何を作るの?が正しいんだけどまぁいいか。包丁くらいなら十二分足りる。刀とか剣とかみたいに長さだと微妙かなぁ。鋼を手渡しながら問えば、十分だと返ってきた。



「入り用があったら早めに言ってね。たぶんしばらくはこれに掛かりきりになるから」



とさっき扱っていた鉱石を指差す。それにもわかったと彼は返事する。



「んじゃ、またね」



あまり長くいるともっと一緒にいたくなる。だから早めに別れを促す。ついでに食べかけだったビターチョコを口にする。



「……チョコ食べてたのか?」
「うん?十六夜くんも食べる?」



甘いものが好きな彼。食べるのかと思ってチョコを差し出した…けど。



「食べる」



と言って彼は顔を一気に近づけて私の唇を塞いだ。口内で絡めあったそれは苦くて甘かった。
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