なぜこんな人と出会ったのだろうか。否、これは偶然の筈。うん、偶然だ。そうでなくてはならない、多分。



「そこの御嬢さん、私と一緒に心中してくれないかい?」



それが彼の第一声だった。ノーサンキュー!と御断りを入れて立ち去ったんだけど、その二時間後に別の場所で直様再会。これは運命だね!とか満面の笑みを浮かべて両手を広げられたけど、運命なんて信じてないので、の彼の脇を通り過ぎた。その後は流石にその日の内に会うことはなかった、けど…



「やぁ、なまえちゃん。今日は中々の自殺日和だね!」



出た。あの出会いと言うからも彼とはちょくちょく顔を合わせることが多かった。週に三日四日は多いだろう。名乗った覚えもないのに彼は私の名前を知っていた。彼の名は太宰治と言う。彼が勝手に名乗った。だから何なのだと言ってやりたいけど彼は大体私の話を聞いていない。否、聞いていて無視しているのかも知れない。



「死にたいなら勝手にどうぞ」



何時もの様に脇を通り過ぎようとしたら、すれ違い様に腕を掴まれた。驚いて彼を見ると、小さく微笑んでいた。何時もの様な巫山戯た表情はなかった。ドキリ、とする以前にこの人にもこんな表情が出来たのかと感心してしまった。



「なまえちゃん、何かあった?」



その言葉に少し肩を震わせてしまった。拙い、と思った時はもう遅い。彼、太宰さんは私の正面に立ち、視線を合わせるかの様に体を屈ませた。覗き込まれる瞳から視線を離す事は出来ない。まるで凡てを覗かれてるかの様。何も無い、そう答えられたらどんなに良かったか。そう、何かあったのだ。けどそんな事を悟られない様に平静を装っていた。会社の上司や同僚、友人にも悟られなかったのに、何故ただ声を掛けられるだけのこの人に解るのだろうか。



「……別に」
「ご両親なら見つかったよ」



呼吸が止まる。目の前のこの人は何て言った?私は何か言った?状況が理解出来ない私に彼は話した。自分は武装探偵社の者で今扱っている仕事に私の両親が関わっていた事。そして先週から行方が知れなくなっていて、先程…遺体で発見された事。事件に巻き込まれて行方不明なんて周りには言えずにいた。それを彼が知っていたのなら間違いは無いのだろう。



「なまえちゃん。私と一緒に来ないかい?」
「太宰さん、と?」



いつの間にか流していて涙を彼がそっと拭う。武装探偵社なら君を守れる。ご両親もそれを望んでいる筈だよ。なんて。



「なまえちゃんと出会ったのはきっと偶然ではなく必然なのだよ。私が君を守ると言う必然」



私の前に差し出された手。その手を取るのに躊躇いはなかった。何故なかったのか。それはきっとそれが必然だったから。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -