「みょうじちゃん!なにしてんの!」
放課後の教室。1人で机に向かっていると聞こえてはならない声がした。うん、きっと気のせいだ。気のせいだと思いたい。なのに声の主は私の願いを踏みにじるかのように私の前の席に座る。
「無視しないでよ!」
みょうじちゃんはイジワルだなー、とわざとらしい声を上げる。幸いにも放課後であるこの教室には私しか残っていない。
「王馬くん。私は今忙しいからどっか行ってもらえない」
彼に曖昧な言葉はダメだ。相手にするとロクな事がない。先日だって嘘だと簡単に見抜けるはずなのにまんまとその罠にハマってしまったのだから。
「オレはただみょうじちゃんが何をしてるかを聞いてるだけだよー」
「王馬くんには関係ない事…あっ!」
彼の顔を見ないように下を向いていたら彼は私の机の上から1枚の紙を奪うかのように取る。声を上げて手を伸ばした時にはもう遅く、ソレは彼の手中にあった。反射的に顔を上げれば、王馬くんは胡散臭さ満面の笑みを浮かべていた。よ、選りに選って彼に見られるとは一生の不覚。
「なにこれ?短冊?なになに…」
終わった。全てが終わった。そう思って机にうつ伏せる。ある意味1番知られちゃいけない人に知られてしまった。頭上から、にししっと彼の笑い声がする。
「みょうじちゃん可愛いー!短冊の願い事が『可愛いお嫁さん』だなんて!」
「か、返して!」
短冊をひらひらと遊ぶ王馬くんの手から奪い返そうとするけど逃げる彼から奪えない。これを見られるなんてもういっそ穴に入るどころか埋めてもらいたいくらい恥ずかしい。しかも知られたのが王馬くんだから誰にバラされるかわからない。
「いいでしょ!人が何を願ったって!」
そうだ、何が悪い。お嫁さんになりたいと思って何が悪いのか。綺麗なウェディングドレスを着て好きな人の隣に立ちたいと思うのは普通だもん。
「こんなのに願わなくてもオレがお嫁さんにしてあげるよ!」
短冊をつかもうとした手を掴まれて引かれる。わわわっ!と前のめりになると目の前に王馬くんの顔。唇に何か触れたと思って目を見開けば、王馬くんのしてやったりの笑みがあった。