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「おや、苗木くん。おはよう」
「聡莉さん。おはよう」



自室を出て食堂へと向かっていると、ちょうど苗木くんが部屋から出てきた。こんな偶然もあるもんだな。



「一緒にしょく…」
「うわぁぁぁああああああああッ!!」



一緒に食堂に行こうかと誘いの言葉を放とうしたら、その食堂の方から叫び声が聞こえた。苗木くんと顔を合わせて2人で食堂へと急ぐ。まさかとは思うけど、何かあったのは間違えないだろう。



「な、苗木っち!!城戸っち!!大変、大変だべ!!」



食堂に入ってきた私達に気付いた葉隠くんが慌てふためいた様子で呼ぶ。どうしたのかと問えば、葉隠くんはあれだべ…!とある方を指さす。



「あ、朝日奈さんッ!?」



彼の指さす先にいたのはハサミを両手で構えたジェノサイダーと片腕から血を流し蹲る朝日奈さんの姿。苗木くんがすぐさま大丈夫かと彼女に駆け寄る。



「ジェ、ジェノサイダーだべ…そこのジェノサイダーが、朝日奈っちを殺したんだべ」



葉隠くん…どれだけパニックてるんだろうか。言ってることがおかしい。傷つけたであろうジェノサイダーに死んでねーしとツッコまれてるし。



「な、なんで…こんな事に…?」
「腐川っちと朝日奈っちが…いきなり取っ組み合いになって…そん時、テーブルのコショーが倒れて…」
「くしゃみをしてジェノサイダーになったと」



しばらく姿を見せなかったジェノサイダーが現れたのはそういう経緯があったから。それはともかくとして刺傷事件が起きてしまうのは今の状況にはあまりよろしくない。特に怪我を負ったのが朝日奈さんだというのが一番マズイ。彼女の精神に余計なストレスを与えてしまう。



「と、とりあえず、朝日奈さんを保健室に運ぼう!葉隠クン、聡莉さん、手伝って!」



1人ゲラゲラ笑うジェノサイダーは放置して私達は朝日奈さんを連れて保健室へと向かった。



「これでいいよ」
「…ありがとう、聡莉ちゃん」



傷自体は大したことはなかった。縫合の必要なく、消毒をして包帯を巻いて治療を終えた。



「本当に大丈夫…?」
「うん…かすり傷だったし…」



出血も大したことはないから数日で傷も癒えるだろう。ジェノサイダーのハサミの切れ味が良すぎたのが幸いしたのかもしれない。



「でも、危なかったべ!俺が叫び声を上げなかったら殺されてたぞ。俺に感謝だべ!」
「どうもありがとうございました。それではお元気で」



葉隠くんが叫び声を上げたから助かった訳じゃないだろうけど、言わなくてもいいか。言って彼が学習する訳でもないし。



「ねぇ、朝日奈さん…一体何があったの…?」
「えっと…ちょっと口論になちゃって…それで、ついカッとなって…」



口ももごもごさせる朝日奈さん。私と苗木くんは再び顔を見合わせて口論の意味を納得して同時に頷く。



「口論の原因って…やっぱり、大神さんの事?」
「最初は無視しようとしたんだ…いちいち不快な連中の相手をしてたら、人生なんて乗り切れないしさ…だけど、あんまり酷い事ばかり言うんだもん。それでつい…10発くらいぶん殴ってやろうと…!」



肉体派を怒らせると怖いね。葉隠くんが言うように10発は、ついのレベルじゃない。でもそれだけ朝日奈さんにとって大神さんは大事な友達だという事か。



「それで、もみ合いになってるところで、ジェノサイダーが出てきた…って事?」



事のあらましを話し、苗木くんが問うと朝日奈さんはコクンと頷いた。



「自業自得だよね。でもどうしてもガマン出来なかったんだ…だって…だって…だって、大事な友達が悪口言われてるんだよ…?」



ボロボロと大粒の涙を流す朝日奈さん。大事な友達…そこで彼女を思い出す。この学園に来てそうそうに死んでしまった親友を。彼女が死んだというのに私は涙ひとつ零さなかった。こんな私を盾子は薄情者と罵るだろうか。それともまだ死んだと事を受け入れられていないだけだろうか。



「…朝日奈?」



泣く朝日奈さんを見つめていると、壊れんばかりの勢いで保健室のドアが開いた。そこに現れたのは驚愕の表情を浮かべた大神さんだった。彼女の登場に私達は驚いたが、葉隠くんだけは顔色を真っ青に変えていた。



「その傷は…どうした…?」
「あ…!う、ううん…!別に大した事ないから…!」


包帯の巻かれた朝日奈さんの腕を見る大神さん。怪我の原因を知られたくないからか、朝日奈さんは何でもないと首を横に振る。



「城戸、苗木、葉隠よ…これはどういう事だッ!?」
「お、俺じゃねーぞ!ジェノサイダーだべ!あの変態殺人鬼の仕業だべ!!」



間違ってはいないけど自分ではないと否定するのが早くないかな。最年長がする行為でとは思えないね、まったく。



「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅ…ッ!!お…のれ……朝日奈が傷付けられようとは…我ではなく…朝日奈が傷付けられようとは…なんて…事だ……なんて事だぁぁああああああッ!!!!」



怒りのあまりか全身を震わせて叫ぶ大神さん。あまりの激高ぶりに葉隠くんは大きな体を縮こませながらカタカタと震える。大神さんの様子に朝日奈さんは慌てて平気と言うけど彼女の耳には届いていない。ただ許せない、と。



「葉隠よ…貴様らが憎いのは我のはずだ…狙うなら…なぜ我を狙わん!」



キッと睨みつかれて体を固まらせる葉隠くん。一生懸命に首を横に振る。




「お、お、俺は別に…オーガを憎んでる訳じゃ…」
「なぜだぁぁぁああああツ!!」



雄叫びにも似た大声に葉隠くんは足をもつれさせながら保健室から出て行った。それはもう全速力で。



「…どうしたの?…なんの騒ぎ?」
「おや、霧切さん」



葉隠くんと入れ違いで保健室へと入ってきたのは霧切さんだった。中の様子を見て何かあったと悟った。



「き、霧切さんッ!霧切さんも大神さんを止めてッ!」



彼女の存在に気付いた苗木くんが霧切さんに協力を仰ぐ。



「止める必要など…ない…我なら平気だ…我は何もしない…ただ…けじめを付けるだけだ……さらばだ」



そう言って大神さんは保健室から出て行った。朝日奈さんも慌ててジャージを羽織って大神さんの後を追う。これは非常にマズイ事になったな。



「城戸さん…何があったの?」
「悪いけど、事の詳細は苗木くんに聞いて。私はやらなければならない事ができたから」



状況の説明を問う霧切さんの脇をすり抜け保健室を出る。大神さんの言う『けじめ』が私の考えている事なら急がなくてはならない。最悪な事態が迫っている。奥歯を噛み締めて私は行動を起こすが為に足を進めた。







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