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『えー、校内放送、校内放送…至急体育館へとお集まりください』



優雅でも爽やかでもない朝を迎えて食堂へ行けばそんな放送。せっかく霧切さんが入れてくれたコーヒーを半分も飲まないうちに何てヤツだ。頭はともかく、肩の痛みは相変わらずでそれだけでも不快だというのに、何故朝からモノクマに呼び出されなくちゃいけないのだか。



「城戸さん…大丈夫ぅ?」



コーヒーを一気飲みして立ち上がると不二咲くんが側に寄ってきた。まだ昨日のことを気にしているのかな。



「大丈夫とは言い難いけど、まぁとりあえずは」



けしていいとは言えない状態だし、ウソを吐いても仕方ない。頭も肩も本当なら医者に見せるべき何だろうけど、今はそれが出来ない。



「重傷って訳じゃないから、数日もすればそれなりに良くなるよ」



頭の傷口も塞がり始めるだろうし、肩の打撲の腫れも徐々に引き始めるだろう。骨にまで異常がなかったのが幸いかな。ゆっくり朝食が取れなかったせいで鎮痛剤が飲めない。いつもより少し遅く起きたのが悪かったのか。そんな事を小さく呪いながら立ち上がる。



「朝から何だと言うのでしょう」
「ま、まさか…また変な動機とかじゃねぇべか?」



昨日の今日でと思いたくなるのもわからなくない。しかも死んだと思ってた人間が生きてたのだから。周りは私を壊れ物のような目で見て扱う。仲間を疑う二度目の裁判をしていたのだからか、まだ緊張が解ききれないんだ。



「何の用かしらね」
「まぁ…想像できなくもないかな」



隣にスッと立つ霧切さん。彼女も何となくわかっているようだ。霧切さんは先日、脱衣所で話して以来、私の側へと来るようになった。彼女は十神くんとは別の意味で何か考えているみたいで、一見怪しくも見えるけど、たぶん信用していいと私の勘が告げる。戦地で色んな人間を見てきた分、それなりにそう言う風な認識を持てるようにはなっている。



「私の信用度が落ちるのに1万点かな」
「あら、随分高いのね」



クスッと笑う霧切さん。彼女はこの後何を聞いても気にしないかもしれない。私としてはありがたいけど、だとすると本当に何を考えているのだろう。



「うぷぷぷ。集まりましたね」



奇妙な笑い声を上げながら登場するモノクマ。モノクマの登場で体育館内に緊張が走る。今度は何を言い出すのかと不安が滲み出ている。



「朝からお集まりいただいたのは他でもありません。みなさんにお知らせしたいことがあるからです」
「くだらん前振りはいい。さっさと言え」



勿体ぶらすような言い方をするモノクマに十神くんが睨み付ける。そんな彼に、モノクマはニヤリと笑う。



「昨日はやっと殺人が起こって、学級裁判が開かれたというのに、被害者が生きていたなんて想定外な事が起きて、裁判が台無しになりました」



やっぱり前振りが長い。その後に続くであろう言葉がわかっているから尚更だ。



「タイムリミットの間に殺人は起きなかったので、秘密を暴露したいと思います」



モノクマの言葉にほぼ全員が固まった。顔を真っ青にして。すでに秘密を暴露されているであろう、腐川さんは頭を抱えている。たぶんそれが暴露されたくない秘密だったのだろうから、もう頭を抱える必要はないと思うけど。そして、自ら秘密を告白した不二咲くんと大和田くんも不安そうな目でモノクマを見ている。



「えーっと。今回の学級裁判をぶち壊しにしてくれた城戸聡莉さんの秘密を暴露したいと思います」



そうだろうと思った。それだけを言えばいいのにと息を吐く。たぶん不安を一層掻き立てるのが目的なのだろうけど。



「城戸聡莉さんは…この中で誰よりも人を殺している殺人犯なのです」



秘密の暴露。私からすると暴露と言うほどではないけど、みんなからすればそれに近いものだろう。真っ青な顔が一斉にこちらへと向く。ある程度のことを知っている不二咲くんは両手を添えるように胸の前で重ねて俯いている。



「城戸さんは正当防衛と言う名の殺人で25人。自分の作戦や護衛に殺らして犯した殺人は実に1万人以上!アーハッハッハッハッ!城戸さんったらあのジェノサイダー翔より人を殺してるじゃないですか!立派な殺人鬼じゃないですかッ!!」



私が生きていることで学級裁判が無効となった事を相当根に持っているな。でなければそんなに楽しそうに話す訳がない。



「それだけ殺人を犯している城戸さんだもんね。怪我人を装って誰かに近づいて殺人を犯そうとしてるかもしれないよね。だって城戸さんは"超高校級の参謀"だもんねッ!」



怪我してそれを利用して近付く、ね。あのやり方だと一歩間違えば自分が死ぬかもしれないリスクがある。そんな大きなリスクを背負ったままやるほど私は自殺願望が高い訳じゃないんだけど…みんなの不安を煽るには十分だったようだ。苗木くんですら私を畏怖の目で見ている。



「ふん。馬鹿か貴様らは」



恐怖が支配する体育館に一つの声が響く。私を含めた全員で目を向ければ、腕を胸の前で組み、まるで見下すような目で前方…モノクマを含む私たちを見ている。



「正当防衛でと言うなら、相手を殺さなければ自分が死んでいたということだ。なぜ何の抵抗をせずに殺されなければならない。それに、城戸は参謀として戦地を渡り歩いていたのだろう。ならば自分の才能を駆使して何が悪い。城戸の作戦を使って殺人を犯しているのは城戸を雇った国の連中だ」



長々と語る十神くんに私はだらしなく口を開いたまま彼を見つめる。まさかこんな言葉を言われるとは思いもしなかったから。私の過去が暴露されることは想定していた。それを聞いて彼らが私に畏怖するのも。けど、一番私を疑っていた十神くんがフォローしてくれるとは実は微塵も思っていなかった。



「あら、何も不思議な事はないじゃない。あなたは世界中を渡り歩く"超高校級の参謀"なのだから」



それくらいじゃ驚かないわ。と口元に手を当てて微笑む霧切さん。



「ぼ、僕も!だって…城戸さんが教えてくれたから…それに、城戸さんは悪い人じゃないよ、絶対!」



不二咲くんまで。私一人孤立するであろうと予測して、今後動こうとしていたけど、それは出来ないようだ。



「…一番難しいのは人の心だね」



そう簡単に思い通りにはならなくて、予想外な事ばかりで。



「…俺も…てめぇを怖いなんて思わねーぞ」



視線はこちらには向けず、少しぶっきらぼうに言ったのは大和田くん。



「無意識に人を庇っちまうヤツが殺人鬼ったってピンとこねーよ」
「…あ、あれはさすがに反省するよ」



余計な罪悪感を植え付けてしまったし。私が申し訳なさそうにすると、大和田くんは、ふっと笑った。



「キミ達は結構物好きだね。特に十神くん」
「何故俺だ?」



だって今日まで私にしたこと言ったことを考えれば当然だよ、と言えば言葉を詰まらせそっぽを向く。



「それで、秘密を暴露するのは"城戸さんだけ"なのよね?」
「ふーんだ!どうせそんな友情ごっこなんてすぐに壊れちゃうんだからねッ!」



向こうも予想外だったのか、プンプンと怒ってモノクマは去っていった。



「あの様子からだと、私を孤立させたかったみたいだね」
「でしょうね。あなたをこの生活の邪魔者だと判断したのね」
「ふん。俺からすれば全員同じだかな」



もう何事もなかったような態度で体育館を去る十神くん。その後ろを腐川さんがそっとついて行く。苗木くんたちを見れば、どうしていいのかわからないと言った風な表情をしていた。何か言い出そうとした大和田くんの肩に手を置いて私は首を横に振る。



「私は食べ損なった朝食でも食べるよ。鎮痛剤も飲みたいしね」
「だったらまたコーヒーを入れるわ」



今の彼らには時間が必要だ。学級裁判が中止になって安堵したところにこんな事を聞かされて混乱しない訳がない。私と霧切さんが彼らに背を向けて歩き出せば、不二咲くんと大和田くんも後からついてきた。これが、私の才能の代償なのかもしれない。初めてそう感じた。



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