君と僕の距離







君はいつも一線を引いている。遠くを見ているというか、違う物を見てるというか。それが気になっていつも君を目で追っていた。





「みょうじさん」
「なに?」



古株さんの休憩を兼ねて僕らも休憩に入る。けどずっと座ったままだったからかキャプテンがいつものように「サッカーやろうぜ!」と声を掛けてそれにみんなも頷き外へと出る。このまま特訓だ!と意気揚々と声を上げる。みんなでボールを蹴る中、一人端っこでリフティングをしている彼女に声を掛ける。



「一人じゃつまんないでしょ?一緒にやろうよ」



ボールを蹴る足を止めて僕を見るみょうじさん。眉根を寄せ怪訝そうな表情を浮かべている。声を掛けたことに驚いていると言うよりは、なんで自分に声を掛けたのか不思議に思っているのかもしれない。それでも僕は彼女に声を掛けた。



「向こうで円堂たちとやればいいじゃん。あたしは一人でいいよ」
「君とやりたいんだ」



視線を円堂君たちの方へと向け、再びリフティングを開始しようとする彼女にもう一度、一緒にやろう。と言う。僕は君とサッカーをしてみたいんだ。そう笑いかける。僕が雷門イレブンに入る前に雷門中に転校してきたというみょうじさん。北海道に僕に会いに来てくれたとき、僕たちの中学もエイリア学園に狙われた。その試合の時、彼女は出場しなかった。だから、君がどんなサッカーをするのか僕は知らない。



「君はどんなサッカーをするの?」



ジッと僕を見つめるみょうじさん。僕も彼女を見つめ返す。ここまでじっくりと顔を見たことがないからわからなかったけど、目が大きくて睫毛が長くて……可愛い。僕より少し背が低いんだ。



「……少しだけだよ」



諦めたように目を伏せて溜息を吐く。それでも断られなかったのが嬉しくて自然と笑みが零れてしまう。女の子は可愛い。笑うともっと可愛いと思うけど、みょうじさんは笑顔を見せてはくれない。笑ったら可愛いと思うのに。



「そこっ!」
「おっと」



一つのボールを取り合うだけだけど、それだけでも楽しい。彼女は上手い。こうして一緒にプレーしてみて初めてわかったけど凄く繊細で綺麗なボール捌きをする。これだけ凄いプレーをするのにどうして試合に出なかったんだろう。



「チェックメイト」



目で追えない程の足捌きで、でもまるでスローモーションのようにゆっくり蹴り上げられたボールは同じようにゆっくりと彼女の手の上へと落ちる。まるで魔法だ。一之瀬君もフィールドの魔術師って呼ばれてるって聞いたけどみょうじさんも違う意味で魔法使いみたいだ。その光景に目を奪われて、僕は瞬きも忘れていた。



「これで満足?」
「えっ…あ…」



声を掛けられてようやく金縛りが解けたように体が動く。



「凄いね!君は」
「……私より、吹雪の方が凄いでしょ?」



素直な感想を口にする。同じプレイヤーとして、心躍らされた。けど、彼女は僕の方が凄いと言う。余談だけど、ただその時は初めて名前を呼んでもらえた事の方が嬉しかった。僕の方が凄いと言う意味はわからなくて首を傾げてしまう。



「そんな事ないよ」
「……私には吹雪のような凄いシュートを打つことも出来なければ、敵を止めるディフェンス技もないし」



少し目を伏せるみょうじさん。試合だけじゃなく、みんなと一緒に練習することもない。だから彼女の本気を誰も知らない。その彼女が自分には技がないと言った。僕の技……ディフェンス技であるアイスグランドは確かに僕、士郎の技だけど。シュート技であるエターナルブリザードは……みんなは知らない。話す必要はない……『僕たちは二人で一つ』だから。けど彼女に言われたのは何故か悲しかった。



「吹雪?あたし、何か変なこと言った?」
「ううん。僕はみょうじさんは凄いと思うよ」



ぼーっとしてしまった。これじゃあ変だと思われても仕方ない。僕は慌てて首を振る。



「君は技がなくてもあれだけのプレーができるじゃないか」



僕には出来ないプレーだ。僕では出来ないプレーだ。心から尊敬できるプレイヤーなんだ、君は。今思う正直な感想を述べる。自然と笑顔も浮かぶ。



「……ありがとう」



視線をあちこちと変えてちらりと僕を見て礼を述べるみょうじさんの頬は少しだけ赤くて、照れたような笑みを浮かべた。いつも無表情に近い彼女の初めて見せてくれた笑顔に目を心を奪われる。



「もう少し、サッカーしよ?」









(可愛いね)(うん?…はひぃ!?)(反応も可愛いすぎ)

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