私を見て?








私を見て?なんて言えたらどんなにいいだろう……

内気で人見知りのする私がそんな大それた言葉を口に出来ない。
だから、彼にもそれが言えない。



『俺と付き合わない?』



エイリア学園との戦いのために仲間を捜すために日本各地を回ってる最中、彼はそう言った。断ることが出来なくてそのまま付き合うことに。最初は好きとかそんなのはなかった。私は只のマネージャーで、みんながサッカーしてるのを見てるのが好き。



「……いいな」



視線の先に入るその光景。あんな風に私も出来たらいいのに。私も、リカさんみたいに積極的になれたらよかったのにな。チラリと彼の方を見ればリカさんが腕にしがみついていて困った風な表情を浮かべている。本当に嫌がってるのかわからなくて、怖くて、私はその間には入れなかった。



「なまえちゃん?」
「…あ、うん。なんでもない」



いけないいけない。今は買い出しの途中だった。みんなはしばしの休憩中だけどマネージャーには休息なんてない。みんなが一生懸命サッカーを打ち込めるようにサポートしなきゃ。



「私も、サッカーが出来たらな」



ぽつりと呟いた言葉は風にかき消されてしまう。どう頑張っても私の運動神経ではそれはムリ。わかってるの。でも、羨ましいと思ってしまう。



「こっち見て、くれないかな」



願を掛けて見てくれるならいくらでもするのにな。嫉妬なんて嫌な女の子だ、私は。自分から声を掛けて輪の中に入る勇気もないくせに。ただ恨めしそうに見ていることしか出来ない。



「ダーリン!ええやん!」
「離せって!」



周りもほとんどあの二人を公認として見てるし。一之瀬君も満更じゃないのかもいれない。それにたぶん私たちが付き合ってるのは誰も知らない。あの光景を見ていたくない。醜い感情だけしか湧いてこない。ここに、いたくない。



「みょうじ先輩。どうかしましたか?」
「……私、忘れ物!」
「え?なまえちゃん!?」



このままキャラバンに戻った後もあの二人を見なくちゃいけない。自分が悪いって分かってるのに、それなのに逃げだす私は弱虫だ。秋ちゃんと春奈ちゃんが何度も私の名前を呼ぶけど聞こえない振りして全力で走った。



「はぁ、はぁ…」



走りついた先は公園。誰もいない公園のベンチに腰掛ける。走って息も切れていたからちょうどいい。段々と息が整うと気持ちも落ちついてくる。秋ちゃんたちには悪いことをしたかな。でもあそこにはいたくなかったし。こんな気持ちになるくらい一之瀬君の好きになってなんて、最初はそんなんじゃなかったのに。第一印象はサッカー大好きな爽やかな男の子だったのに。あの告白、断ってたらこんな思いしなかった?だって、よく考えたら『付き合わない』とは言われたけど『好き』なんて言われた事ない。あ、れ?



「なまえ!」



名前を呼ばれて俯いていた顔を上げればそこには一之瀬君の姿。何も言わずに来たのにどうしてここに?



「いち、のせ君?」



私の顔を見た彼は肩で大きく息を吐く。走って来てくれたみたいで彼もはぁはぁ言っていた。私を、探しに来てくれたの?



「秋が、なまえの様子がおかしくていきなり走っていなくなったって言うから」
「……ごめんなさい」

そうだよね。いきなりいなくなったら心配も迷惑も掛けちゃうよね。私自分しか考えてなかった。



「何かあったのか?」
「えっと、その……」



どうしよう。こんな理由であの場所にいたくなかったからって言えない。言ったら嫌われちゃう。でも、言わなきゃ。



「リカさんに…その、嫉妬……しちゃって…ご、ごめんなさい!」



こんな子、嫌だよね。面倒だよね。言わないで嫌われるのは嫌。言って嫌われるのも嫌だけど、ちゃんと理由を言ってフられるなら、変に気を使われなくていい。



「なまえ」
「いいい一之瀬君?」



ギュッと目を瞑って覚悟を決めていれば体に感じる温もり。何かと目を開ければ私を抱きしめてる一之瀬君が見えた。見えたって言っても、彼の頭の一部と背中だけ。背中に手を回されて、それにビックリしてると、ありがと。と言われた。



「へへへ。俺、嫌われてるって思ったからさ」



すぐに体は離されたけどまだ彼の温もりはある。そんな一之瀬君はなんとも締まりのない笑顔を浮かべている。



「なまえは俺にどうして欲しい?」



今度は少し意地悪い笑顔。私がなんて言うかわかってるみたい。



「……私を、見て?」



きっと私の顔をこれ以上にないくらい真っ赤だ。私にとっての最大の勇気を使い果たしたんだもん。彼は私を真っ直ぐ見てこう言った。







(好きだよ)(わ、私も!)


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