ぬるま湯に惑う※

 情事を終えた後、鉄丸は必ずシャワーを浴びるためにベッドを離れる。射精後の倦怠感に溺れながらベッドに体を沈めるの好きな勘右衛門は、事後の余韻を楽しむこともせず、自らに甘い言葉をかけるでもなく、足早に翌日に向かってしまう鉄丸に不満を覚えないでもなかったが、ベッドを離れる間際に彼が勘右衛門の体にかけてくれた毛布の温もりの下ではどんな不満も効力をなくす。

(――ぬるま湯に使ってるみたいだ)

 毛布の温もりと、体を包む倦怠感は、彼の精神をふやけさせるには充分なものだったが、しかし優しすぎてどこか物足りなくもある。

(刺激が欲しいなあ……)

 鉄丸と勘右衛門の関係が始まって早数百年、室町で息絶えてから現代の世に生まれ変わるまでのブランクはあるものの、そこいらの夫婦達では太刀打ち出来ない程に長い時を共に過ごしているのだ、付き合いがマンネリ化するのも無理はないだろう。無論、勘右衛門は鉄丸を好いているし、鉄丸も勘右衛門を好いてくれているのだろうが、結婚というゴールを持たない同性間の恋愛では関係を維持し続けるのが難しいのもまた事実だ。

(いつまでも一緒に……ってわけにはいかないよな)

 室町の世、いつ命が尽きてもおかしくなかったあの時代に、自分達の関係はピークを迎えたのかもしれない。それ以降、それこそ新しい体に魂を移した現代での生は蛇足に過ぎないのではないかと勘右衛門は考える。一糸纏わぬ体を包んでいた毛布をその場に放った勘右衛門は床に脱ぎ散らかした下着と衣服を拾い上げると、それらを手早く身に纏った。そうしてベッドの脇に腰掛けて、更に思案する。

(シャワーを浴びて出てきて、俺の姿がなくなっていたら先生はどんな顔をするだろう?)

 それぐらいのことで動じるような男ではないだろうと思う。しかし、自分のことで彼が動揺するようなことがあれば気分が良いとも思った。

(なんて……先生を待たずに帰る気なんて少しもないけど)

 そうして自身の放った毛布に手を伸ばした勘右衛門は、指先でその温もりを撫でると小さく笑った。

(やっぱり温かいなあ)

 心地のよい温もり、しかしこの温もりが事後の倦怠感を誇大させる要因であることを勘右衛門は理解していた。毛布がもたらす心地よさが、彼の頭から正常な判断能力を奪うのだ。

(本当は幸せなのにな、馬鹿みたいだ)



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賢者モードに翻弄される。

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