栞の行方 1

生後一日目
朝方まで痛みに苦しんで、ようやく息子誕生。産後の痛みはまだ癒えず、トイレに座るたびにちゃんと排尿出来てるのか不安になる。赤ちゃんとは今日は別室でいいみたい。産まれましたよってお医者さんが抱えて見せてくれたその子の姿を見たとき、真っ先に思ったのはおちんちんが付いてる! ってこと。エコーで見て分かってたけど、本当に男の子なんだなって。立ち会ってくれた夫は泣いていた。さっき一瞬部屋に来た赤ちゃんは、いきなり泣き出したかと思ったらミルクを吐いた。焦ってナースコールを押したけど、ミルクの吐き戻しはよくあることみたい。
生後二日目
今日から赤ちゃんと同じ部屋。個室の病院に入院出来たのは良かったけど、赤ちゃんが全く寝てくれないのが辛い。おっぱいをあまり上手に吸えてないのかもしれない。目の白い部分が青みがかって見えることに驚いた。夫と名前について話し合ってるけど平行線。全く意見が一致しない。
生後三日目
体重をはかってもらったら産まれた時よりもかなり減ってた。不安がる私に看護師さんは産まれた後はみんな減るのよって言ってくれたけど、心配。お乳がちゃんと出ない体質なのかもしれないって相談したら、マッサージをしてくれた。
生後四日目
おっぱいを口に含ませる前と後で体重をはかり比べてみて分かったことだけど、やっぱりこの子はあまり母乳を飲めてないみたいお腹が空いてるから夜も泣いてるのかな、と思うと可哀想になる。胸が張って痛い。名前そろそろ本当に決めないと。
生後五日目
明日で退院。うちで上手く育てていけるか不安だけど頑張らないと。胸が張って痛いのがストレスで、落ち込んでいると、夫がお見舞いにきてくれた。二人で名前について話をしていると、赤ちゃんがオナラをしてしまった。おまけに自分のオナラに驚いて大泣き……本人にとっては一大事かもしれないけど、すごく可愛くて、面白くて、元気が出た。


「ぷっ」
 ベッドの上に広げたミッフィーの表紙の日記帳、その中の一文を読んで、俺は思わず吹き出した。
 あの御幸一也が自分のオナラに驚いて泣いてたって……全く想像つかねえ。というか御幸に赤ちゃんの頃があったっていうのが変な感じがする。
 さっきまで西日に晒されて明るかった室内は、気がつけば薄暗くなってきている。こう暗いと細かな字を目で追う気にもなれなくて、古びた日記帳を閉じた。寝室の自分用のクローゼットの中に配置してる引き出しの中に、それをしまう。その頃にはすっかり腹が減っていた。
 リビング、というかキッチンでは御幸が今日の夕飯の支度をしてくれてて、きっちりは閉じ切ってないドアの隙間から魚の焼ける匂いが漂ってくる。御幸は、俺があの日記を持ってることを知らない。あんなものが実家に残ってたことも知らないかもしれない。
 引き出しにしまい込んだ日記帳は、御幸の亡くなったお母さんが書いてた育児日記だ。産婦人科で配布されたものらしく、表紙には御幸が出産された医院の名前が刻印されてた。
「腹減ったー」
「もう出来るよ、簡単なものばっかだけどな」
 冷蔵庫から水差しを取り出しながら、テーブルを確認する。御幸が簡単なものと表現したおかず達は、彩りよく綺麗にプレートの中に収まってた。前に彼女と一緒に行ったカフェで食べたランチみたいだ。
「これはなんですか」
 グラスに水を注ぎながら、メインと思わしき細長いおかずを指差す。
「塩鯖と大葉の春巻き、スティック状に切った鯖に皮を巻いて揚げ焼きにしてる」
「へえ」
 傍にカットトマトとレタスの添えられたそれは、言われてみれば確かに大葉のシルエットが浮き出てた。いつもながらこんな料理どこで知るんだか。
 隣の豆皿にのった高野豆腐にしても、二十代の男が頻繁に食卓に挙げるメニューにしては渋すぎる気がする。
「先輩って高野豆腐好きなんすか」
「普通だけど、なんで」
 客が来ることもないから、四人がけのテーブルに椅子は二脚だけ。箸を二膳持って俺の向かいに腰掛けた御幸は、首を傾げた。
「よく作ってくれるから、好きなのかなって思いまして」
「冬場は野菜も高いし、ひじきとか切り干し大根とか高野豆腐とか、乾物類は買い物に行かなくてもいつでも家に置いてるからな。副菜としては優秀だろ」
「優秀だろって言われても……」
 乗りもしない車の維持に馬鹿みたいな金を払う人間が、野菜の値段は気にするのはちょっと変な感じがしたけど御幸は大真面目だ。柔らかく煮含めた高野豆腐を箸でつまんで、口に含むと、かなり甘めの煮汁が口中に広がった。
「甘くて美味しいですけど」
 塩鯖春巻きがしょっ辛いから、いい箸休めになる。
「だろ」
「だけど、先輩って甘いものそんなに好きじゃないだろ。なんで高野豆腐はこんなに甘くするんすか」
 なんとなく聞きあぐねていた疑問を初めて投げかけると、口の中の豆腐をもぎゅもぎゅと噛み締めながら、御幸は首をひねった。煮物とか、きんぴらごぼうとか、おかずが甘いことは許容してるんだろうなーとは思うけど、それにしてもこの高野豆腐の甘ったるさは中々のものだ。
「思い出した。俺が料理し始めたころに、親父が好きだって言ったんだよ」
 記憶を手繰り寄せるような表情をして、御幸は言う。
「甘い高野豆腐ですか」
「高野豆腐が食べたいって言うから、本見て作ってみたら、もっと甘い方がいいって。親父もそんなに甘いもの好きな人じゃねーから、変だなとは思ったけど」
 御幸の親父さんには、年明けに長野から戻った足で挨拶に行った。何度も顔を合わせてても、相変わらず無口で仏頂面だから少し緊張したけど、御幸は「親父はいつもああだよ」って笑ってた。
 そんな親父さんに帰り際御幸がトイレに行ってる隙をついて渡されたのがあの日記帳だ。ビニールと紙袋で二重に包まれた状態で渡されて、家に帰ってから開けてくれって言われたまま一週間くらい忘れてたのを今日ようやく開いて見た。ページをちょっと開いてみてすぐに、御幸の亡くなったお袋さんの書いた育児日記だって分かったから、俺が読んでもいいものか悩んだけど、結局好奇心には勝てなくて御幸には内緒でこっそりページをめくってしまった。
「お袋さんの味なんじゃないすか」
 日記のことを考えてたから思わずそんな言葉が口をついて出た。こくり、と春巻きを嚥下した御幸は、「母さんの?」と、訝しげに目を細める。普段は話題に出されることのないお袋さんの名前が出たことを少し不審に思ってる風だ。
「それか親父さんのお袋さんとか。思い出の味だったら甘い味付けが好きじゃない人でも食べたがるんじゃないですかね」
 もっともらしい言い逃れ。平静を装って言ったつもりが、箸を握る手に力が入りすぎて、一度は持ち上げたトマトがプレートに転がり落ちていった。
「まあ普通に考えたらそうだよな」
 それでも御幸は、今度は怪しんだ風もなく頷いた。俺はホッと胸を撫で下ろす。
 親父さんはあの日記を、御幸じゃなく俺に託してくれたんだ。日記を持ってることはまだ知られないようにしたい。
 御幸はまた一切れ高野豆腐を口に含んで、「ほんとに甘いな……」と、静かに言った。想い出をたどろうとしてるのか、少し遠い目をして視線を上げる。
「うちの母さん、俺が物心つく前に」
 そこまで言って御幸は口をつぐんだ。連ねられた言葉は平淡だったけど、お袋さんのことを殆ど覚えていないことが少し寂しいのかもしれない。
「お前のお母さんの料理、美味かったな」
「えっ……そう、ですかね」
 今年の正月、長野の家族に御幸との関係を打ち明けた。親父と祖父ちゃんは勘当だ、とは言わなかったけど、滞在中殆ど口を利いてくれなかった。予想はしてたことだけど、少し堪える。お袋は、子供が好きだし、孫とかも期待してただろうから、内心では二人以上にショックを受けてたんだとは思うけど、表面上は御幸を歓迎してくれた。
「全然正月感なかったですけどね」
 あの日お袋が用意してたのは、コロッケとか、トンカツとか、俺が中学生くらいの頃に好きだったがっつりおかずばかりで、今でももちろん好きだから嬉しかったけど、高校入学を機に家を出たから、家族の中では俺はその頃のイメージのまま止まってるのかな……なんて思ったりもした。
「ああいうのがいいんだよ。お袋の味って感じで。俺は知らねえから」
 少し横を向いて、御幸は平然と言う。さっきまで読んでた日記の文面が頭によぎって、鼻の奥がつんとした。御幸がなんてことない顔をしてることが、かえって俺の胸をさざめかせる。うちの家族の中では俺は中学生のままかもしれないけど、御幸のお袋さんは本当に小さい頃のこの人の姿しか知らない。
 俺が目尻を熱くしてることに横目で気がついた御幸が、呆れたように溜息をつく。
「お前泣くなよ、俺だって母さんのことで泣いたことなんかねえんだから」
 がっちりとした手が食卓を越えて伸びてきた。泣くなって言われても緩み始めた俺の鼻の頭をきゅってつまんで、御幸は笑う。
「ふぁって……」
「だってじゃなくて、本当にいいから。今日からこれがお袋の味なんだって、勝手に思っとくし」
 ぎゅーって力を込めてから俺の鼻を解放する。赤くなった俺の鼻先に、今度は御幸が箸でつまんだ高野豆腐が押し付けられる。煮えたみりんの、甘い匂い。吸い寄せられるようにして、俺は「あーん」と口に含む。
「美味い?」
 こくりと頷くと、御幸は満足げに眉を下げた。
「親御さんの話題ついでに聞きたいんですけど」
「ん」
「一也って、」
「は?」
 一也って名前誰がつけたんですかって、言い終える前に割り込んだ御幸は、目を白黒させてこちらを見つめてた。俺が眉間に皺を寄せると、戸惑った様子でまた口を開く。
「……なんだよいきなり」
「そっちこそなんで話の途中で割って入るんすか! 自分で言いたかねーけど俺ってバカだから、そういうことされると言いたかったこと忘れちゃうんですからね!」
「それはごめん……」
 不本意そうに、それでも一応謝罪の意を示して御幸は口を閉ざした。
「一也って名前誰がつけたんすか」
「そんなことかよ。早合点して損した」
「早合点? あーなるほど」
 そこでようやく質問に割って入られた理由が分かった。付き合い始めて十年も経つのに、俺達はお互いのことを苗字で呼び合ってる。俺にとってはいくつになろうが御幸は先輩だと思ってるから、心の中では呼び捨てにしたり、たまに御幸って呼びつけたりすることはあっても、一也って下の名前で呼ぶのには少し抵抗があった。
 だけどさっきの反応を見るに、御幸はもしかすると俺に名前で呼ばれたいのかもしれない。親御さんがつけてくれた大切な名前だから当然か。
「ま、それは置いといて。どうなんですか、先輩」
「どうって」
「親父さんかお袋さんか、はたまた近所の住職か」
「イマドキ住職はねえだろうから、親父か母さんどっちかなんじゃね」
「知らないんですか!」
「うちの親父がそんなこと話すと思うか」
 作業着姿の御幸の親父さんの姿を思い浮かべる。御幸に比べると大作りな口元はいつ来訪しても基本的には一文字に結ばれていた。
「うーん……」
「まああの親父が子供の名付けにそこまで興味示すとも思えねえし、母さんがつけたんじゃね」
 最後に残った味噌汁を啜り終えて、汁椀をカタンと食卓に置きながら御幸はおざなりに言った。日記には名付けの話し合いをしてるけど意見が一致しないって書いてたくらいなのに、今のところそれを伝えられないのが歯がゆい。
「これが親の心子知らずってやつですか……」
「お前が感情移入してどうすんだよ」
「俺は一也って名前好きですから」
 前のめりになりながら言うと、御幸は鼻白んだ様子で軽く仰け反った。
「それなら……いや、お前の名前は誰がつけたの?」
 途中まで言いかけた言葉を、あからさまに中断して御幸は問いかける。
 それなら一也って呼べばいいじゃんとか、そういうことが言いたかったんだろうな。御幸はあんまりそういうおねだりが得意じゃない。先輩としての矜持みたいなのを守ろうとしてんのかな、と思う。
「俺の名前は祖父ちゃんが、野球選手の沢村栄治から取ったらしい」
「祖父さん巨人ファン?」
「そんなでもないと思いますけど、フツーに沢村との合わせで丁度いいと思ってつけただけじゃないすか」
「テキトーだな」
「うちってそんなんなんで」
「なんかいいよな、お前んち」
「そうすか」
「うん、なんかいいよ」
 繰り返し言ったあと、「ごちそうさま」と言って手を合わせる。皿をさげて洗い物をしようとするのを、「それくらいは俺が」と制した。
「じゃあ甘えるわ」
 そう言ってリビングから出て行く御幸の背中を見送ってから、自分の食器もさげて、洗い物を始める。調理に使ったと思わしき、まな板や包丁は既に水切りカゴに伏せられていた。
 さすがだな。しみじみ感心しながら、皿についた汚れを落とし始める。



生後六日
 退院の日、家に帰ってあらかじめお下がりでもらってた電動搾乳器を試してみると、胸の張りがおさまって楽になった。
 息子の名前は一也に決定。主人が出生届を出しに行ってくれた。妊娠中私はやることがなくてたくさん漫画を読んでいて、タッチを読んだときに「達也」って名前をつけることをひらめいたんだけど、夫は長男には一って字のついた名前をつけたいって言うから一也にしたの。だけど夫は今度は死ぬ方のキャラの名前なんて演技が悪い! って。漢字も違うしいいじゃないって言って、結局一也に決めました。
 達也と和也はすごく仲の良い双子だったから、いつか一也にも兄弟を作ってあげたいな。今は一也が可愛すぎて、二人目なんて考えられないけど。
 搾乳した母乳を、一也はごくごくと飲んでくれた。まだげっぷをさせるのも一苦労だけど、沢山飲んで大きくなってね。

 一也は、お袋さんのつけた名前だったのか。しかも漫画のキャラが由来って……俺の名前と同じくらいテキトー……寝室のクローゼットの前で、俺は背中を丸めてさっきしまい込んだ日記の字をさらっていた。御幸自身も知らない御幸のことを、こういう形で暴いてしまうのにはやっぱり抵抗があったけど、赤ちゃんの頃のこととはいえ、好きな人間の自分の知らない一面が気にならないはずがない。
 御幸に一也って名前がつけられた六日目の文章を、何度も指で辿る。御幸の親御さんは、御幸に兄弟を作ってやりたかったのに、叶わなかった。産まれてたった六日目までの記録を見るだけでも、お袋さんがどれだけ御幸のことを愛してたのかが分かって、胸が詰まる。御幸にとっては、一瞬で過ぎ去った記憶にもない日々の出来事が、お袋さんにとっては何よりも大切なことだったんだ。
 うちの親にとってもそれは同じなのかなって思うとむず痒い。俺はお袋に子供の頃の話を聞かされるたび、そんなこと覚えてねーよって少し鬱陶しく思ってきたけど、お袋にとっては何度も反復したくなるくらい大切な思い出なのかもしれない。
 ぼんやりと考えを巡らせてると、寝室に足音が近づいてきた。俺は慌てて日記をクローゼットにしまいこんで、何食わぬ顔をしてベッドに横たわる。同時に、シャワーを浴びてきたのか毛先を濡らした御幸がドアから顔を覗かせた。
「あー……疲れた」
 ダラけた声で言うなり、抱きついてくる。冷たい濡れ髪が頬を掠めて、思わず息を詰めると、御幸は「ごめん」って呟いた。だけど俺の体を解放しようとはしない。
「髪の毛、乾かしてつかぁさい。今何月か分かりますか、一月! 真冬ですよ!」
 咎めるみたいに言ってみるけど、引き締まった体に抱きすくめられると、気持ちがいい。寝癖出来るし、と付け加えてみても、御幸は「もう少し」と言って、腕に力を込めてくる。さすがに居たたまれなくなって、抵抗するように体を捩ると、御幸も負けじと応戦してきて、揉み合うような形になる。
 御幸が、俺に一緒に暮らそうって言った時、クイーンサイズのベッドを買ってやるって約束してくれた。約束通り入居直前に購入された広々としたマットレスは、男女のカップルならかなり余裕を持って眠れるサイズ感なんだろうけど、筋肉質で背の高い御幸と、中肉中背とは言えないくらいに体格のいい俺がじゃれ合うと端から落ちそうになることもある。
 乱れたシーツの筋が幾重にも重なる上で、俺たちは見つめ合った。せっかくのクイーンサイズのベッドなのに、俺が上になる形で重なり合った体はマットレスから落ちるすれすれの場所にある。
 少し高いところから見下ろしてみても、御幸の顔は本当にかっこいい。鼻筋と、唇の形が好きだな。あと輪郭と、二重線と、眉毛と……好きなところを聞かれたら真っ先に顔って答えるくらい俺は御幸の顔が好きだ。
「あの、」
 一瞬、一也って呼んでみようかなぁと思った。本当に、一瞬だけ。
 お袋さんのつけた大切な名前なのに、この人には名前で呼び合うような友達もいねぇし、俺が呼んであげないと、それこそ親父さん以外誰にも呼ばれないんじゃねぇかとか……考えたりして。
 だけどまあ考えてみたらこの人にはファンが多いから、黄色い声で名前を呼ばれることもあるんだろうし、大切な名前って言っても漫画のキャラからとっただけだし、なんか恥ずかしいし、やっぱり思いとどまって、いつものように「せんぱい」って呼ぶ。
「ん?」
「呼んでみただけ」
 本当にそれだけだからってベッドの真ん中にごろんと転がり直すと、御幸はまた俺の体に重なるみたいに距離を詰めてくる。堂々巡りだ。
「なんで疲れてるんですか」
「球団の先輩がまた二股相手の女の子とのデートに俺を同行させようとしてる」
「ああ、あのモデルの」
 御幸は苦々しく頷いた。
 先輩ピッチャーの浮気相手だっていうモデルの女の子と御幸の熱愛報道が出たのは先月の上旬のことだ。そのときも外でデートしたい女の子のために無理矢理呼び出されて食事を共にした結果、まんまと御幸が写真を撮られてしまったらしい。
 先輩ピッチャーには世間的に公にしてるキー局の女子アナの彼女がいて、その人がモデルの子を本命に昇格させるか、別れるかしたら破局報道を出すつもりらしいけど、なかなか難しいという。
「どのみち借りてやってるマンションにはちょくちょく通ってるんだから、外で飯食うときだけ取り繕っても仕方ねぇのにな。断るの難儀したわ」
「えー断ったんですか。タダで美味い飯食えるのに」
「そんな微妙なメンツで食っても美味くねーよ」
「俺は接待だとしても高いタダ飯は好きですけどね。マンションのオーナーっていい店知ってるし」
「前から思ってたんだけど、なんでお前んとこの接待ってオーナーの方が金出すんだよ。普通逆じゃね?」
「えー……なんでと言われても、不動産業界はそうなんですよ。頑張ってお部屋埋めてくださいねみたいな尻叩きとか、税金対策とかそんなんじゃないすか」
「へぇ」
 ピンときたのかきてないのか、曖昧な顔つきで頷いて、御幸は俺の胸元に手を這わせる。少し色の濃くなったそこを、当たり前のように指先で弄って、立ち上がらせた。
「ん、いきなり……」
「部屋入った時からするって決めてたし」
 耳朶を食まれると、背筋に電流が走る。シャンプーの匂いを胸いっぱいに吸い込むと、自分だけ身を清めてないことが気になり始めて、俺は身をよじった。
「俺も、シャワー……ぁ、くさいしっ」
「なんで? 俺はお前の匂い好き」
 真顔で言われると頭にカッと血が上る。いつの間にか敏感になった先端を指が掠めるたび、下腹部の奥の方に変な痺れが走った。
「ちくび、男なのに……気持ちいーんですけど……やばいすか」
 ふーふーと息を吐きながら、途切れ途切れに問いかけると、「今更」って御幸はにんまりする。もっともっとって求めたいけど、気恥ずかしいし、乳首への刺激は焦らすみたいにされる方が気持ちいいから、俺はイヤイヤと逃れようとするポーズを続けた。
「弄ってきた甲斐があるな」
 乱れる俺の姿を認めると、達成感からか御幸は満足げに眉を下げる。柔らかい肉がついてるわけでもない男の胸を、乳首を開発するためだけに揉みしだく御幸の気持ちは俺にはちょっと分からない。
「女の子のおっぱいならもっと気持ちいいのに……いっ、ッ!」
 爪を立てるみたいにギュって力を込めて乳首をつままれて、痛みのあまり仰け反った。なにするんすか! と、御幸を睨むと、冷えた目とかち合う。今まで揉みしだいてきた女の子のおっぱいのことを考えていたのがバレたのかもしれない。御幸は俺としかエッチをしたことがないという。
「……いたい」
「お前が性懲りも無くつまんねえこと言うからだろうが」
 荒っぽい言葉に反して、ジクジクとした痛みの走る俺の先端を撫でる手つきは優しい。典型的なDV男だ。
「でーぶいでしょ」
 心地のいい感触のせいで、思わず舌足らずになる。御幸はムッとした顔をしたけど、それでも優しく俺の皮膚をなぞり続ける。
「俺はお前から精神的DVを存分に受けたぞ」
 乳首から胸筋を辿るみたいに移動した指先が、鎖骨を撫でる。はっきりと浮き出たそこを、囲うみたいに撫でられると、皮膚一枚隔てた下にあるなにかがムズムズして、たまらなくなる。
 気がつくと半開きになった濡れた唇に、御幸が口付けてきた。皮膚に触れる優しい手つきとは対照的な、噛み付くみたいなキス。口の中が存分に蹂躙される。
 目を閉じていても、御幸の瞼にははっきりと二重線がついてる。男のわりにはしっかりと生え揃った睫毛は、長さはないけど一本一本が太い。目と眉の距離が近いのが男前の条件の一つだってことに、俺は御幸とこういう関係になって初めて気がついた。
 キスをする時が一番御幸の顔を間近で見られるチャンスだから、出来るだけ目を閉じないことにしてる。毛流れの揃った眉の形を見つめるだけで、俺は悦に入れた。
 鎖骨を撫でてた指が、また胸の方に降りていく。硬く存在感を増した先端の飾りを二本の指で捏ねるように弄られると、俺はますます熱い息を漏らした。まだ一度も触れられてない体の中心が、芯を持ち始めてるのが分かる。
 濡れた音と共に、唇が離れていく。
「ん――みう……っ、もう」
 乳首から走るピリピリとした快感だけじゃ収まりがつかなくなって、俺は内腿を擦り合わせながら懇願した。
「どうしてほしいの」
 乾いたフリの、低い声。あくまでお前がしてほしいだけだろって態度で、御幸は今度は触れるだけのキスを落とした。
「足りない……から、もっと……シて」
 腰を突き出すみたいに膝を立てたのに、御幸の顔は俺の胸元に引き寄せられていく。そこじゃないって言いたいのに、喉が渇いて上手くいかない。
 濡れた舌が先端の飾りを掠めて、思わず高い声が漏れた。未だ濡れたままの御幸の前髪が胸線をくすぐる。ちゅぷって音を立てて、乳首に吸い付かれた瞬間、何故だか写真でしか見たことのない御幸のお袋さんの顔が脳裏によぎった。
 あの綺麗な人が、御幸のことを考えながら大切に連ねた文章。その一つ一つが頭に浮かんで、この人にも赤ちゃんだった頃があるんだなとか、お袋さんは立派な男に成長することを望んでたんだろうなとか、今考えても仕方ないことばかり考えて……平たく言うと気が散ってしまった。
 腰の奥にくすぶってた熱がすーって冷めて、勃ち上がりつつあったちんこも平常モードに戻っていく。あー……やばい、今日は無理だ。
「……みゆきせんぱい」
 恐る恐る声を上げて、御幸の頭をグッと押す。またちゅぽんて音を立てて、俺の乳首に吸い付いてた御幸が、あからさまに不機嫌に顔を上げた。その姿はまるでミルクのお預けをくらった赤ちゃんみたいで、というか今となってはそういう風にしか見えなくて、俺は叫んだ。
「しばらくおっぱい禁止です!」



「それでお前、この前言ってた彼女とはどうなったんだ」
 仕事帰りのサラリーマンや、学生らしき若者たちで埋め尽くされたスペインバルの片隅で、金丸が口を開く。卓には牡蠣とマッシュルームのアヒージョ、バケット、オリーブとハムのピンチョス。俺は量り売りのワインを一口含んで、本当のことを言うべきかどうか考え込んだ。
 金丸の言う彼女とは、すごく気が合った。
 学生時代、大きな挫折を経験したせいか、俺は嫌味なくらい完璧な御幸と一緒にいると息が詰まるようになってた。俺のことが好きでたまらないって態度で尽くしてくれる御幸の存在を重荷に感じて、一緒にいても昔ほど楽しくなくて……倦怠期、みたいになってたときに好きだって言ってくれたのが彼女だ。
 等身大の女の子って感じの彼女と一緒にいると息がしやすかったのは事実で、彼女との付き合いのことで御幸にフラれたときには、もしかしたらこの子と結婚するのもありなのかなーなんて考えたりもした。それで、彼女を親に会わせるんだって金丸達に話したのが、ひと月前の忘年会の日のことだ。
 だけど、その翌日に俺は彼女と別れた。忘年会の日、久しぶりに御幸の顔を見たらもう駄目だった。どれだけの息苦しさを感じたって俺には御幸一也が必要だってことに気付かされた。
 誰がどう聞いたって自分勝手な話だ。こんな話を馬鹿正直に金丸に話したらたぶん、調子乗んなバカ! ってキレられる。
「別れた」
 いろんな経緯を省いて、俺はシンプルに答えた。アヒージョのオイルのついた指先を紙ナフキンで拭っていた金丸の口がぽかんと開く。
「お前長野の家族に会わせるって言ってなかったか」
 御幸達と合流した後、やっぱり会わせるのやめたって言ったときには金丸は同席してなかったから、素直に頷く。
「忘年会の次の日に」
 金丸の肩が震える。バカ、のバの字の形に口が開いたかと思えば、何も言葉を発さずに、丸ごとのマッシュルームを口に含んだ。
「別れたくなかったけど」
 金丸はワインをコクリと嚥下して、ようやく口を開いた。
「フラれたのか」
「……別れ話しにいったら、察したみたいで追い出された」
 彼女とは職場が同じだから気まずくなるかとも思ったけど、別れた後もオフィスでは以前と変わらない関わり方をしていた。表面上だけでもそうすることが出来るのは、彼女がすごく気を使ってくれてるからだって分かるから、彼女の顔を見ると胸が痛くなる。
「はぁ、なんで実家の両親に会わせるだの云々言ってた相手といきなり別れることになんだ? 意味分かんねえ」
「それはまあ色々あって――そんなことより今度春っちが合コン開いてくれるって言ってたぞ」
 別に金丸とコイバナがしたくて飲みに来たわけでもない。俺は適当に話を逸らそうと、不自然な話題転換をしてみた。
「いや誤魔化すなよ。お前今まで全く恋愛の話なんかしなかったくせにいつからそんなクズヤローになったんだ」
「クズヤロー……」
 言葉のインパクトに流石の俺もたじろぐ。御幸も彼女もあえてそんな言葉を俺にかけることはなかったけど、冷静に考えれば俺にはお似合いの呼び名なのかもしれない。
「……前に付き合ってた人とヨリ戻すことになって」
「はぁ!? 二股ってお前キャラちげーぞ」
「二股とは言ってねーだろ」
 がっつり一年くらいは二股だったけど。これ以上話をややこしくしたくなかった。
「それで元サヤに戻って、彼女はお払い箱か……いいご身分だな」
「お払い箱って……ヤナ言い方するなよ」
「いや普通するだろ。お前自分がクズの自覚ねーの?」
 人差し指をビシッと立てながら金丸は言った。恋愛の面に限って言えば相手に甘やかされてばかりで生きてきた俺は、珍しく忌憚なく責め立てられて唇の端をひくつかせた。どう考えても金丸の言葉に理があるから、居たたまれなくなってくる。
「つーかその元カノと今も付き合ってんのかよ」
「まあ……年末にヨリ戻したとこだから」
 一緒に暮らしてるし、と付け足すと、金丸の喉からグググと、不自然な音が鳴った。金丸は去年の年末、彼女にフラれたばかりだ。
「なんでお前がそんなにモテるんだよ! そんなに投手がエラいか!」
「モテてねーし! もう野球もしてねーから」
 自分だってそこまでモテないはずはないのに、何がそんなに羨ましいのか、金丸は険しい顔をして俺を睨む。彼女って御幸先輩のことだぞって伝えてやったらきっと羨ましいなんて感情も消し飛ぶんだろうけど、勿論黙っておく。ゲイだと思われるのが嫌なわけじゃないけど、昔の仲間には御幸とのことは知られたくない。御幸だってそうだと思う。
「同棲か……いいよな。俺だって惚れた女と一緒に暮らしてみてーよ」
「したことねぇの?」
「俺は一緒に暮らすのは結婚が決まった時だって決めてんだよ」
「へえ」
 ケッコン、小さな声で一応呟いてみる。自分には関係ない言葉だって頭の外に追い出してたから、変なイントネーションになった。
 その言葉を聞いた時、頭に浮かぶのはまず長野にいる家族の顔、その次は御幸の親父さんの顔だ。日記に目を通し始めたおかげで、そこに御幸のお袋さんの顔も追加される。
 俺と御幸はお互い一人っ子だ。だからと言って、親のために異性の恋人を作って、結婚しようとはもう思わない。自分の人生だから、好きだって思える相手と一緒にいられることが何よりも大切だと思う。勿論、この先一生御幸と生活していけるとは限らないけど。
「金丸は、結婚したいのか」
「まあ……俺は人並みに子供とか好きだしな」
「子供……子供って、すごいよな。親もすごい。産まれた瞬間から自分の子供を当たり前に大切にして、愛せるのってなんかやばい。想像もつかねぇ」
「いきなりなんだよ、気持ち悪ぃ」
「色々あって……付き合ってる人のお母さんの育児日記を読ませてもらって、滅茶苦茶可愛がられたんだなーって思ったらなんか変な感じが。というか、赤ちゃんだった頃があるんだなって、母乳とか飲んでたんだなって」
 ついでに乳首責めされたら萎えるようになったんだけどどうしたらいい? って聞きたかったけど、流石にそこまでぶっちゃける勇気は出なかった。
「あーでも分かるわ。俺もこの前母親が昔のホームビデオ全部業者に頼んでDVDに焼き直してもらったんだよ。それで産まれたての映像見たら、赤子のときの俺が乳首に吸い付いてた。それを母親と一緒に見てたから、どんな拷問だよってな」
「確かにそれはキツいな」
「それで帰り道考えてたんだけどな、母親って自分の子供に乳首吸われてもなんともねーのかな」
「なんともって?」
 意図を読み取りかねて、俺は首を傾げた。金丸は少し照れくさそうにまた口を開く。
「だから……感じたりしねぇのかなって」
「柄にもなくモジモジして、なに言うのかと思ったら……」
「仕方ねーだろ! 気になっちまったもんは!」
「フツーに感じないだろ。だってそういうのって気持ちが入ってないと」
「気持ちって……お前女とあんな別れ方したくせに愛がないとセックスは気持ち良くない! とか言うのかよ」
 金丸はげんなりしている。
「そういうのじゃなくて、相手とか場の雰囲気の話。セックスの雰囲気にノった時じゃないとあんなとこ気持ち良くならないと思うし」
 好きとか、好きじゃないとか関係なく、人には各々そういう気分になるスイッチみたいなのがあって、そこがオンになってなかったら、どれだけ上手に愛撫されても反応出来ない……と、俺は思う。セックスの手技が同じでも、俺は御幸に優しい言葉をかけられたときよりも、酷いことを言われたときにより一層感じてしまう。指一本触れられなくても、冷たい目で睨みつけられると、それだけで勃起することもあった。
「カネマールに舐められても絶対感じねぇし、俺」
 付け足して言うと、金丸は露骨に嫌な顔をした。
「それは男同士だからだろ。変な例え方すんなよ、気持ち悪ぃ」
「確かに気持ち悪い」
 俺はゆっくりと頷く。特別傷ついたりもしてなかった。俺だって男なら誰でもいいってわけじゃないし、金丸に乳首を舐められるところを想像したら気味が悪い。
「そもそもあれって舐められてる方よりも舐める方がコーフンするもんなんじゃね」
 自分は乳首を舐められるとしっかり感じるくせに、これが真理とばかりに畳み掛ける。金丸は神妙な顔をして、顎に手を触れる。じっくりと考え込んでから、重々しく口を開いた。
「それはあるな」
 大きく頷いて、俺の意見に同意した金丸の顔はやけに晴れやかだ。
「だろ」
 あ、でも俺御幸の乳首は舐めたことない。セックスして女の子の乳首を舐めなかったことはほとんど無いのに。
 分厚い胸筋に覆われた御幸の胸、その先端についた突起は、俺のと違って誰にも触れられたことがないからこじんまりとしてる。そんなことを想像してたら無性に御幸とシたくなってきた。先週乳首を舐められたせいで萎えて以来、セックスは遠ざかっている。
「また一つこの世の謎が解き明かされたな」
 金丸は、満足げに笑ってバケットを手に取る。俺もそれにならった。どうでもいい話をしてる間に、アヒージョはすっかり冷めてしまったけど、塩気の効いたオイルに浸して食べるバケットは程々に美味い。



生後八日目
 搾乳した母乳を哺乳瓶で飲むことに味をしめた一也。私のおっぱいを押し付けると迷惑げに顔を背けるようになってしまった。直接は飲んでくれなくても、元気に大きくなってくれたらいいんだろうけど少し複雑。
生後十日目
 相変わらず哺乳瓶でしか母乳を飲めない。それでも私が一也を抱っこしたまま搾乳するためにおっぱいを出すと、母乳の匂いが分かるのか、はふはふと鼻息を荒くするのが可愛い。

 金丸との飲み会は、忘年会で顔を合わせたばかりだったのに、思いがけず場が盛り上がって、河岸を変えて二軒目にまで移動した。元々仕事終わりで集まった時点で九時前だったから、二軒目のバーにはさして長居してないのに、マンションの玄関に帰り着いた頃には日を跨いでいた。
 御幸はもう寝ているだろうと思ったから声をかけずにシャワーを浴びる。ニュースサイトをスマホで流し読みしながら、ドライヤーで大雑把に髪を乾かして、寝室に足を踏み入れると、予想に反して御幸はまだ起きてた。クイーンサイズのベッドの中、羽毛布団に包まって、スマホを見つめている。帰りが遅くなったことを咎められるかと思ったけど、寝室の入り口に立つ俺の姿を認めると、布団をはぐって手招きをする。
「おかえり」
「ただいま」
 御幸の声は優しい。穏やかすぎる生活、幸せのスープの上澄みだけを飲んでるみたいで、ちょっとつまんねーな、と感じてしまうのは俺の悪癖だ。だけどもう、女の子を抱いてみたりは多分しない。
 おっぱい禁止令を出してから早一週間、俺たちの間に性交渉は一度もない。だからといって寝床を別々にしてみることもない。
「遅かったな」
「金丸に変に絡まれて」
 背中を向けながら答えると、御幸は後ろから俺を抱きすくめた。この体勢が一番好き。大きな体に、後ろから抱かれると、暖かくて、気持ちよくて、眠たくなる。夏になると暑苦しいけど、ほとんど半裸みたいな格好で、生身の肌を触れ合わせるのも嫌いじゃない。だからセックスをしなくても、御幸と二人で寝るのが好きだ。
「金丸、御幸先輩の話してた」
「お前ら二人で悪口言うなよ」
「俺はともかく、金丸は言いませんよ。前も先輩にモデルの彼女出来たらしいとかって言い出したし、もしかして憧れてるのかも」
「お前は言うのかよ」
 呆れ声の御幸が、俺の首筋に鼻を押し付ける。風呂上がりだからボディソープの匂いしかしないはずだけど、こそばゆい。
「今日もあんないい女と付き合えるなんてプロは羨ましいなって」
「女の話ばっかじゃん」
「あれで意外にコイバナ好きだから」
「小湊がナース合コン開いてくれるって言ってただろ」
「あれはまだ予定が噛み合わないみたいで」
 倉持先輩と金丸は一月から三月が忙しい業種だから、なかなか全員の予定が合う日がないみたいだ。合コンともなると、今日みたいに九時からスタートってわけにもいかない。
「お前も行くの?」
「まさか。忘年会の日も俺は行かねーって話になったでしょ。医療職の女の子はちょっと……」
 気強そうだし、と言い切ったところで、デコを軽く叩かれる。痛っ、と首から上だけで振り返って、抗議の視線をやると御幸は更に冷たい目をして俺を睨んでた。
「ナースじゃなかったら行くのかよ」
「行かねえって、ちょっとした言葉の綾じゃないすか」
「お前そういう言い方マジでやめとけよ。全く信用ねーから」
 結構本気で怒ってる感じで言われて、口元が緩む。溶けるくらい優しくされて、つけ上がるのもいいけど、怒ってる時の御幸の顔が何よりも好きだ。セックスに繋がっていきそうな予感がして、ムズムズする。
「嬉しそうにすんな」
 だけど最近はそういう性癖をすっかり看破されてて、御幸は簡単には誘いにのってくれなくなった。昔はもっと素直だったのに。まあ、御幸も同じことを俺に思ってるかもしれないけど。
「今日は御幸先輩ってエゴサとかしねぇのかなって話をしてたんすよ」
「はあ?」
「金丸が」
 一旦話を戻して、スマホのロックを解除する。御幸一也って打ち込んで、検索すると、関連検索ワードに年俸とか成績とか、野球選手らしい言葉が出てくる。
「しねーよ」
「有名人はみんなしてるんだって言い張ってましたよ」
「悪口書かれてたら嫌だろ」
「あ、確かに関連検索ワードに整形って出てきますね」
「産まれた時からこの顔だぞ」
「知ってますよ」
 スポーツ選手のくせに、整形を疑われるくらい整った顔立ちをしてることは、むしろ誇らしいと俺は思うけど、御幸の表情は渋い。
「あと私服とか、イケメンとか、彼女の名前とか」
 俺が関連検索ワードに並んでる言葉を羅列して行くと、御幸の渋面は更に険しくなる。
「さっきから付き合ってるとか、彼女とか言ってるけど、あの子とは何もねーから」
「分かってますよ。だけど世間的にはそうなんだから仕方ないでしょ」
 俺が彼女とのことが書かれてるゴシップサイトを開いて突きつけると、御幸は深い溜息をついた。なんとかしねーとな、と呟く。
「まあそれはおいおいで。あとインスタとかもあるな。インスタのアカウント作ったらいいのに」
「男がそんなのするかよ」
「先輩って意外に男たるものみたいなのに拘りますよね、男しか抱いたことないくせに。金丸だってしてますよ」
「金丸が?」
 御幸は怪訝な表情を浮かべた。野球部の先輩から見た金丸の姿とインスタグラムが結びつかないらしい。同級生だった俺からすると、むしろ金丸はやってそうなタイプに思えるけど。
「皆の前では見る用だって言ってたけど、わりと投稿してたんすよ」
「お前もしてんの」
「若菜が登録しろって言うから最近始めてみました。若菜のフォロワー見たらうちのお袋もいたし、最近は誰でもやってますよ」
 中学の時に一緒に野球をやっていた同級生の何人かも見つけた。離れたところにいても、お互いがどういう風に生活しているのかうかがい知れるのは悪いことじゃないと思う。
「……どんなこと書いてんの」
「金丸は飲みに行った居酒屋のこととか、うちのお袋は庭で育ててる花のこととか、趣味で集めてる皿のこと、若菜はやっぱり子供のことっすね。めちゃくちゃ細かいことまで書いてるんすよ」
 それこそ御幸のお袋さんの残した育児日記みたいな内容を、写真付きで毎日のように更新してる。母親の愛情は、いつの時代も変わらないんだな、としみじみ思った。
「俺の母さんもこういう時代に産まれてたらやってたのかな」
 俺の心を覗き見たようや御幸の呟きに、肩を硬ばらせる。あの日記は少しずつ読み進めては、クローゼットの引き出しの中にしまい込んでいた。鍵がかかる場所でもないから、御幸に見つかっててもおかしくはない。
「あんまり筆まめな人でもなかったらしいから、たぶんしてないだろうな」
「……きっとしてますよ」
 普段はあまり拝めない少し寂しげな御幸の横顔を見つめていると、日記が見つかったかもって心配は杞憂だって分かった。静かに、だけどはっきりと言い切った俺に、御幸は「なんでそう言い切れるんだよ」と、眉を下げた。
「なんでって……御幸の子供の頃なら絶対可愛いから、お袋さんも親バカ爆発して写真撮りまくり、日記書きまくり、インスタ投稿しまくりになるに決まってる」
「なんだそれ。バカ親じゃん」
 今度ははっきりと笑顔を浮かべて、御幸は言った。俺の頭をクシャクシャと撫でて、頬に唇を落とす。
「お前の子供の頃はウザそーだけどな」
 ニヤニヤと軽口を叩く口に、挑むようにキスをして、御幸の体の上に跨る。
「なんだよ」
「柄にもなくしょげてるから、襲いたくなりやした」
「はあ、似合わねえこと言ってないで降りろよ」
 御幸が、腰を掴んで引きずり降ろそうとする。反射的にうつ伏せに胸板に張り付いて、俺はそれをいなした。御幸はムスッとしながらも、それ以上は抵抗せずに、俺の動向を見つめている。
「御幸の体、前からじっくり見てみたくて」
 御幸が寝間着にしてるグレーのスウェットをはぐってみる。中に着込んだ白い薄手のTシャツ越しに、薄茶色の乳首が透けていた。
「……変なことするなよ」
 少し拗ねたような声。この状況で変なことをしないわけがないことくらい分かってるはずなのに。普段通りに過ごしてるように見えたけど、先週セックスを途中で中断させられたことを根に持ってるのかもしれない。
「先輩のここ、前から見てました」
 布越しに乳輪に触れて、指でクルクルと円を描くようになぞる。触られ慣れてない御幸のそこは性感を得るには至らないみたいで、「そんなとこ触らなくていい」って雑に払われた。
「御幸ばっかり俺の触ってずりぃ」
 今度は乳首を指先で弾きながら言ってみる。
「ずるいって、お前なあ……男のくせにこんなとこ弄られて舐められて気持ちよくなってるのはそっちだろ」
 御幸は、自分の腹にぴたりとついた俺の体に首元から手を滑り込ませて、一週間ぶりに俺の乳首に触れた。触れられ慣れた場所を、捏ねくりまわすようになぶられて、俺は熱い息を漏らしながら頭を振る。
「ぁっ……」
「しっかり感じてるくせに、なんだよおっぱい禁止って……意味分かんねぇ」
 やっぱり拗ねてたんだ。御幸は苛立ちを隠そうともせずに舌打ちして、仕返しするみたいに俺の胸の先を弾いた。
「ひっ……」
 体から力が抜けて、頭を上げていられなくなる。それでも俺は、御幸の乳首を捉えた指を離さない。
「そこ……触るなって」
 自分の胸に添えられた俺の指を跳ねのけようと、御幸は俺の乳首をいたぶってるのとは逆の手を動かした。熱い吐息が漏れてるのは、俺の指でシゴかれてる乳首から性感を得ているせい……じゃなくて、俺のを触って興奮してるからだ。やっぱりずるいな、と思う。
「俺のは……アンタに開発されまくってるから当然気持ちいいけど、御幸だって俺の触って、舐めて……コーフンしてるくせに! 俺だって御幸のに触りたい」
 ずるいずるい、と繰り返す俺に、御幸はぬるい視線を向ける。なーに言ってんだ、こいつって目。俺は腹が立ってきて、乳首に触れる御幸の手を無理やり抜き去った。
 スウェットの下のTシャツもはぐって、御幸の胸のラインを直に見下ろす。厚みのある筋肉を指で辿っていくと、控えめに主張する胸の先の飾りに行き着いた。
「可愛い」
 反射的にこぼれ出た言葉に、御幸が目を白黒させる。少し引いてるみたいだ。
「お前この前からなんか変だぞ」
「金丸と話してて、乳首は舐められる側よりも舐める側の興奮が大きいんじゃないかって」
 言いながら、ベッドサイドのローションを指に塗りたくる。
「御幸先輩だっていつも俺の舐めながら、なにもしてなくても勃たせてるじゃないすか。金丸もそれはあるなって言ってたし」
 ローション濡れの指を乳輪と皮膚の境目に這わせると、御幸は深く息を吐いた。
「お前らそんな猥談を……」
「大の大人なんだからそれくらいしてもいいじゃないですか」
「悪いとは言ってねーけど、なんか……嫌なんだよ、お前が他の男とそういう話すんの」
 少し照れたみたいに、御幸は唇を噛んだ。乳首を弄られながらだから、どことなく乙女チックで、俺は吹き出した。
「先輩、今日は珍しく可愛いっすね」
「お前は滅茶苦茶うぜーもう黙れよ、ウザ村」
「女の子ならともかく、男にヤキモチ焼いても仕方ないでしょ。しかも金丸……絶対ない、ナイナイ」
「そんなの分からねーだろ。俺のことだって少しも意識してなかったくせに」
「御幸先輩は特別な存在でしたよ。キャップだし、俺が青道にくるキッカケになった人でしたし」
 クリス先輩もっていうのは話がますますややこしくなるから黙っておく。
 乳首に触れられるのことに不慣れな御幸も、全くなにも感じないわけじゃないみたいで、ローションで濡れた俺の指先が先端を掠めるたびに、呼気が漏れ出る。小刻みに震える睫毛がエロくて、股間に熱が集まっていくのが分かった。
 俺は乳首への愛撫を一旦中断して、自分の寝間着のズボンとトランクスを一息に脱ぎ捨てる。
「俺のココを気持ちよくしてくれるのは御幸先輩だけですから」
 御幸の手にもローションを垂らして、後孔に誘い込む。そんな俺の姿を御幸は呆然と見上げていた。セックスのときは、御幸が主導権を握るのが常で、俺がこんなに積極的になることは殆どないから戸惑ってるのかもしれない。
「先輩の乳首、女の子のと違ってちっちゃくて可愛い……」
「っ……」
 御幸の手に尻肉を擦り付けながら、ちっぽけなそれを口に含む。女の子のと違って乳首に長さがないから、捉えどころがなくて、舌でなぶるよりは、吸い付くような形になる。これは、赤ちゃんみたいになっても仕方ねーなって、しみじみ思った。おっぱい禁止令は取り下げよう。
「女のみたいに舐めて楽しいものでもないだろ」
「楽しくはないけど、興奮する」
 そう言ってフッと息を吹きかけると、御幸の腰が跳ねる。案外乳首で感じる素養があるのかもしれない。
「……あんまり調子に乗るなよ、さわむら」
「アッ……」
 逡巡するように俺の尻肉を撫でていた御幸の手が、ばちんと音を立てて肉を叩いた。痛みに腰を引いた俺の腰をローションを纏ってない左手で押さえ込んで、右の指を穴の中に差し込んでくる。痺れるような快感に襲われて、俺は情けない声を漏らした。
「尻の穴そんなに気持ちいいの?」
「っ……う……む、ん」
 感じ入る俺の姿を認めると、少し冷静になった御幸はいつものように言葉責めに興じる。だけど俺も負けじと御幸の乳首に吸い付いた。アナルに与えられる快感に耐えながら、先端を舌先でなぶったり、前歯を軽く立ててみたりする。
 御幸の呼吸が少し荒くなる。俺の腹に当たる御幸の分身は、スウェット越しにも分かるくらい硬くなってた。
「ん……さわむら、もうそれ止めろ」
 乳首を舐められる体勢だと、指を孔に入れるのも難しいみたいで、御幸は腰ごと俺の体を引き寄せようとしてくる。可愛いそこをもっと口に含んでたい俺は、嫌々と頭を振って抵抗した。
「また触らせてやるからっ……」
 苦し紛れみたいに言って、御幸は自分の胸から俺の頭を無理矢理引っぺがした。
「絶対約束ですからね」
 たった今まで自分が口に含んでたモノを睨みつけながら俺が言うと、「分かった分かった」と、いい加減に言って、自分も下のスウェットとトランクスを脱ぐ。剥き出しになった御幸のナニは完全な形になっている。
「先輩のぐろ……いっ、あっ」
 血管の浮き出た御幸のそれを見つめていると、もう一度後ろに指を突っ込まれた。元々は硬く締まっていたそこは、太い指で蹂躙されて、御幸のを誘うみたいに柔らかく蠢く。
「やっぱりお前の中すごいわ……早く入れてぇ」
 一週間もの間お預けをくらっていた御幸の声には熱が篭っていた。焦れたように俺の一番気持ちいいところを探り当てて、執拗に責め立てる。
「あっ、ふ……あっ、あっ」
「だらしない顔……よだれ垂れてるぞ」
 体勢的には、見下ろしてるのはこっちなのに、御幸は小馬鹿にしたように俺を見やる。
 ばちん、と空いた手でまた尻を叩かれて、ちんこがぶるっと震えた。腰が揺れて、御幸のそれと擦り合わせるような形になる。重たげな御幸のそれは、限界まで硬度を高めて、先走りで濡れていた。
 熱に浮かされた俺は、熱いその塊と、自分のを擦り合わせる。どちらのものとも知れない先走りが絡まり合って、裏筋同士が擦れ合うぬちゃぬちゃという音が部屋に響いた。
「きもち……いい、あっ、」
「くっ……」
 強すぎる快感に目の奥がチカチカした。御幸を見下ろすと、眉間に皺を寄せて歯を食いしばっている。射精感を堪えてるように見えた。
 俺の中で暴れまわっていた御幸の指の動きは鈍くなっていた。それが一度抜け出していって、今度は二本束ねて入り口をなぞる。
「もう……いいですから」
 俺はその手を制して、腰を浮かせた。御幸の自分のと擦り合わせてた御幸のちんこを二、三往復シゴいて、後ろの孔にあてがう。騎乗位は苦手なのに、今日はこのままシたかった。
 先走りを擦り付けるように、御幸の先端を孔に擦り付ける。早く欲しい、挿れたいけど、自分を焦らすように腰を揺らす。
「さわむら、ゴム……」
 早く挿れたくてたまらないはずなのに、御幸はコンドームの入った引き出しに視線をやる。余程のことがない限りは俺達はコンドームを着けてセックスをしていた。
「今日はいい……あっ」
 良くねーよって御幸の制止も聞かず、一気に腰を下ろした。指一本でしかならしてないそこは、いつもよりもキツいみたいで、御幸も喘ぎ声にも似た吐息を漏らす。
 カリの一番太いところが、ゴリゴリと内側の壁を擦りながら奥に進んでいく。腰が砕けそうな快感をやり過ごすために俺は目を閉じた。体の中を押し広げられていく圧迫感は、何度味わっても慣れることはない。
「ふ……あっ、はあ」
 太いモノをようやく全て体に収めて、俺はふーふーと息をついた。挿入を終えてしまうとゴムのことなんてどうでもよくなったみたいで、御幸は俺の腰骨をしっかりと掴む。やばいと思って足で突っ張ったときにはもう遅くて、下から容赦なく築き上げられた。入り口が引き攣れるような強い圧迫感、御幸は俺のイイ所をカリ首で執拗に責め立てる。さっき擦り合わせたときの先走りのせいか、中を抉られるたびに濡れた音が響いて、鼓膜を震わせた。
「いいっ……あ、いいっ……きもち、い、みうき……」
「っ、そんなにイイの?」
「あっ……ァ、いい」
 馬鹿になったみたいな喘ぎながら、大きく首を縦に振る。これ以上気持ちのいいことを俺は知らない。
「みうきの、ちんこ……っ、おちんぽ、すき……」
「ちんこだけかよ」
 性懲りも無くそんな言い方をする俺の、ガチガチになった前を、御幸の大きな手がシゴキあげた。前と後ろを一気に責められて、頭の中が真っ白になる。
「あっ……やめ、っ――やめてつかぁさいっ」
 叫ぶように言って、腰を引いた。だけど快感に犯された体は思うように動いてくれなくて、ますます御幸のを咥えこんでしまう。
 腰と尻をぶつけ合わせるみたいに俺のナカを犯してた御幸の動きが変わった。俺の太ももの付け根を押さえ込んで、ちんこの先を奥に擦り付けるみたいに前後にグラインドさせる。グリグリと抉られた最奥が熱を持った。目からは自然に涙が溢れる。
「腰すげー動いてる。男のちんこで串刺しにされて、ヨガるの気持ちいい?」
 ブンブンと頭を振って肯定した。零れ落ちた涙を拭ってくれた手でそのまま御幸は俺の尻を張る。優しいのに痛い、その矛盾に俺の性感はますます高まった。
 パンッパンッ、と尻肉が真っ赤になるくらいの力で打たれて、痛い痛いと文句を言いながらも俺のちんこはこれ以上ないくらいに先走りで濡れそぼった。
「叩かれる度に、ナカ締まってるぞ……沢村、お前本当にど変態だな」
「あっ、あっ……う、」
 余裕ぶってるはいるけど、御幸も射精が近いのか、さっきまでとは明らかに違う勢いで俺のナカを突き上げてくる。視線を落とすと少し苦しげな御幸の整った顔と、自分の中に収まる赤黒いモノの根元が視界に映り込む。ヌチュヌチュという音と共に、前立腺と内壁を擦り上げられて、足先から頭のてっぺんまで、痺れが走った。
「ぅっ……ァ、みうき……イく、い……アッ!」
 ぶるぶると肉が震えて、御幸の腹に精を放った。脱力して胸に倒れこんだ俺の腰を痛いくらいの力で掴んで、御幸は腰をふるう。
「も……イったから、ナカ……変になるっ……あっ、あっ」
「……くっ、もう変になってるだろ」
 ガツガツと俺の体に腰を叩きつけて、一番奥に入り込んだところで、御幸の腰がビクビクと震えた。荒い息を吐きながら、精液の一滴も残すまいと、最奥に先端を擦り付ける。
「ふ……はあ、疲れた」
 精を放ち切った御幸は、深い溜息をつきながらずるずるとちんこを引き抜く。俺の尻と御幸の腹は精液で汚れていて、とてもこのままでは眠れそうにない。
「……せんぱい、シャワー浴びたほうがいいですよ」
「お前も中どうにかしたほうがいいよ」
「俺はまだ動けそうにないんで、お先にどうぞ」
 手を振って促すと、御幸は俺の唇にそっと触れるだけのキスを落として、部屋から出て行った。
 ドアが完全に閉じるのを見送ってから、俺は床に放り捨てたトランクスを履いて、ベッドの傍に置いたウェットティッシュで手を拭く。それからそっとベッドから抜け出して、クローゼットに近づいた。中の引き出しからミッフィーの表紙の日記を取り出して、ページをめくる。

生後十一日目
 一也が私の乳首がそばにあると鼻息を荒くするのを見て、夫が俺のにも反応するかなって、もう寒いのに洋服をはぐって一也の口元に乳首を持って行った。当たり前だけど一也は完全に無視。それどころかまだ産まれたてで目はあまり見えないはずなのに、パパの乳首を避けるみたいにそっぽを向いたから笑っちゃった。そりゃあ男の人のおっぱいは嫌だよね。

 一日分だけ読んで日記を閉じた。男の乳首を舐め回して喜んでる今の御幸の姿とのギャップに、苦笑いが浮かぶ。解除するつもりでいたおっぱい禁止令は、もうしばらく延長されそうだ。
back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -