歳上の男

地の文うるさフィクション




 なあオサムちゃん、俺なオサムちゃんで童貞捨てたい──あとから思い返してみたらお前、アレは酷いわ。あの当時のお前は子供やったし、想像もつかんかったかもしれんけど、二十代後半、それも独身の男っちゅーもんは案外ロマンを求めとんねん。それも競馬好き、アナ党やったら尚更やで。それを、お前の体で童貞捨てたいって……そないな口説き文句がこの世にあるかいな。しかも相手男で、教え子やし、あの状況でハイハイどうぞー言うて頷くような奴が俺以外におるとは思えへんわ。
 男とのセックス? もちろん未経験やったで、あれから五年経った今もそんなもんないわ。こないなオッサンのケツに挿れたがるようなモノ好きのアホ、お前以外におらんやろ。
 そもそも、俺は普通に女の子好きやったし、今も好きやし、これで全くモテへんわけでもない。それでもあのとき、『五年経ってもお前の気持ちが変わらんかったらな』てなベタなこと言うてしもたんは、埃臭い部室で近づいてきたお前の顔があんまりにも真剣やったからやと思う。あれにはやられたわ、教師なんて人種は教え子にマジない目向けられてしもたらもう無碍には出来へん生き物やねん…そないな白けた顔せんといてぇな。俺にだってたまにはええ教師ヅラして浸りたいときがあんねん。
 まあ、今言うたようなことも二割くらいはほんまやで。せやけど実際大きかったんは、初めて息がかかる距離で見たお前の顔があんまりにも綺麗やったことやろか。俺、あの頃はボートレースにハマっとってな、普段以上に懐が寂しかった。何日も連続で夕飯茹でうどんに麺つゆとマヨネーズだけかけて食うたりしてな、そういう状況やったから、お前の綺麗な顔見てたら、腹は膨れんでも心だけでも満たされそうな気がしてそのまま退けんのが惜しくなってん。まあ、まさかこうしてきっちりハタチになったお前が、「オサムちゃーんセックスしよやー」言うて訪ねてきてくれるとは思わんかったけどな。

「……オサムちゃん、オッサンになったなあ」
 大して中身もない話をダラダラと語るのを聞かされる内に、俺がほろっと漏らした一言は、三十二歳教職員にぼちぼちでっかいダメージを与えたみたいやった。ぐぅ……言うてカエルの潰れたみたいな呻めき声を漏らして胸に手当てるんがおもろくて、「うちの父親も同じやで。俺が子供の頃は結構シブかったんやけどな、歳くってきたら話長なってかなわへんわ」追い討ちかけるみたいに続けたら、俺に出してくれたはずの麦茶を奪い取ってぐびぐび飲みよった。
「白石お前そんなにトゲのある奴やったか」
 水位が半分くらいに減ったグラスがこたつ机に置かれる。
「記憶の中にある中学生の白石蔵ノ介クンとのギャップの大きさにクラクラすんねんけど」
 そういうのもまあ悪くないなぁと思ってしまうのがまた救えんのやけどなとかなんとか、独り言みたいに続けるオサムちゃんの頭はわりとバグってそうやった。ここらで軌道修正したらな、永遠にベッドインは叶いそうにもないけど、昔惚れてた人と再会した喜びでテンションのバカになっとる俺は、らしくもなく塩っぽい言葉を連ねてしまう。
「別にそんな変わらへんやろ。オサムちゃんが記憶の中の俺を美化しすぎてたんとちゃう。俺元々オサムちゃんに対してそないに尊敬してますって態度とったこともないと思うで」
「それ以上はやめたって……オッサンほんまに繊細やねん。いや、そもそもな、たかだか三十二の男が、自分のことこないにオッサン呼ばわりすんのもほんまはどうなんやろって思うねん。教師って仕事が特殊なんかそれが最近の時流なんかは分からんけど、職場ではむしろ若手扱いされることの方が多くてな、体育祭で職員対抗リレーなんかあった日には走らされる走らされる……去年なんかアンカーで二百メーターも走らされたんやで、あれには参ったわ。それでもこっちを真っ直ぐに見つめてくるハタチのお前を前にすると、やっぱ自分は歳くったなぁって感じんねん。十四、五の教え子とも毎日顔合わせとんのにな」
 こっちが口を挟まんかったら、朝まででもしゃべくり続けてそうな雰囲気やった。この人なりに緊張しとんかなとかなんとか、考えとる内に麦茶のグラスが空になる。オサムちゃんがあんまりにも喋り倒すから、間接キスを意識する間もなかった。そないなもんで喜べるほど子供でもないけど。
 空のグラスをこたつ板に置く。コトンて音で我に返ったみたいに三十路トークを中断したオサムちゃんに、「今度は風呂つきの部屋にしたんや」て訊いたら、「妹がなぁ……」て、肩をさすった。
「三十路が風呂なしアパートに住むな言うから引越してん。余計なお世話やろ」
 言葉とは裏腹に眉が下がる。今どきにしては結婚と出産の早かった妹さんについて語るとき、オサムちゃんは昔もこういう顔をしとった。
 あいつが親を安心させてくれたから、こうやってフラフラ出来んねん。教師のくせにフーテンみたいなことを恥ずかしげもなく語る姿にあの頃の俺は妙に惹かれた。
「麦茶おかわりいらんか」
「ええよ。ごちそうさん。薄いけど美味しかったわ」
 薄いのは余計や言うて流しに立ったオサムちゃんは、背中を丸めてそれを洗い始めた。そんなん言うてくれたら俺がやるのに、思いながらもぼんやりとその姿を見つめる。
 狭い炬燵に向かい合ってから、向こうがグラスを洗いに立つまでの間、オサムちゃんはあからさまに俺から目線を外しとった。自分を抱きにきたって分かっとる若い男と目を合わせるんに怯えてたんは分かるんやけど、やっぱり男はイヤやって思われてるみたいでちょっと寂しい。
「部屋、綺麗にしとるんやな」
「引っ越してから姪っ子がたまに遊びに来るようになったからなぁ」
 スポンジが皿を擦る音。前の日の晩から洗い物をためとったらしいオサムちゃんは、案外長いことそこに立っとった。
 すっかりくつろいでしもて、こっからどないして“そういう”空気に持ってったらええんやろ。久々に再会した三十路男のべしゃりっぷりがどぎつくて、完全にタイミングを見失ってもうた。
 ジリつく俺の心をよそに、洗い物に向かうオサムちゃんは、このスポンジもうアカンなとか、裏面全然洗えてなかったわとか、独り言ともこちらへの投げ掛けともつかん言葉を漏らし続ける。
 こらあかんな、少しもエロいと思えへん。自分から勝手に盛り上がって押し掛けといて、やっぱシたくないわとはよう言わんけど、俺の性欲ゲージは限りなくゼロに近付いとった。
「待たせたな、終わったで」
 使い終えたスポンジを流し横のゴミ箱に放ったオサムちゃんが歩み寄ってくる。妙に早歩きやなとかなんとか考えとる内に、床に押し倒された。昔とそう変わらん顔がぐっと近づいてきて、唇が重なる。チューされた。他人事みたいに考えてたら、舌がはいってくる。上あご、頬の内側をねちこく蹂躙されて、息も絶え絶えになっとるところに下唇をじゅうじゅう吸われた。腰の奥が重だるくなる。
「ん、む」
 漏れ出た喘ぎを遮るみたいにもう一度深まるキス。俺の歯並びを確認するみたいに舌先を尖らせたオサムちゃんは、長い指で俺の耳をつまんだり引っ掻いたりする。
「っ、はあ」
 ようやく解放されたころには、俺のそこはガチガチになってた。やっぱ若いから元気やなぁ言うて腰を擦り付けてくるオサムちゃんのソコも同じようなもんで、「俺で勃つんや」って訊いたら、「当たり前やろ」って今度は触れるだけのキスをされた。
「この五年間、お前のこと何度もネタにしたわ」
「ダメ教師」
「お前が人の性癖歪ます顔しとるんにも問題あると思うで」
「顔だけ?」
「爽やかでやらしいこと考えなさそうな佇まいがかえってやらしい」
 あと元教え子って設定、と続けたオサムちゃんはほんまに教師としてはどうしようもないと思う。
「なあ、流石にもう童貞やないんやろ」
「卒業しとったらやめる?」
「今更帰されへんわ」
 頭を押さえ込まれて、もう一度キスされる。オサムちゃんめっちゃキスすきやん。俺も好きやけど、昔は日常の象徴みたいな存在やった部活の監督が“そう”なんやって思うと、妙にやらしい気がした。
 しかもさっきも思ったけどかなり上手い。舌が細かに動くのと、唇が吸い付くみたいに上下するんで、食べられとる感強いし。普段するような相手に比べても、ガツガツくるのがまた……。
「ふ、は」
 体中を弄られて、唇が離れてったときにはもう息が上がっとった。
「服脱がせてもええ」
 語尾をあげて訊いてきたのに返事をするまでもなく、俺のシャツのボタンは唇が重なっとる間にほとんど外されとった。
「手が早いなぁ」
 相手の手を煩わすんも嫌で、肌着ごと上衣を脱ぎ捨てる。ショーみたいやな。耳に届いた声からは、悪意は読み取れんかった。
「それ、たまに言われるわ」
「顔が綺麗過ぎるから見せ物感が出るんやろな。拝ませてもらえてありがたいわ」
 オサムちゃんは、上半身裸の俺に対して合掌して一礼した。
「今度からお金取るで」
 冗談めかして言うたら、「次があるんや」って。
「ヤリ捨てにするつもりやったん」
 今度は俺がオサムちゃんの上にのっかって、部屋着のTシャツに指をかける。
「三十過ぎてから、そういうの全然アカンなったわ」
「そういうのって」
「ワンナイトラブみたいなん」
 なんや虚しいねん、と続けたオサムちゃんの裸は想像より締まっとった。ほんのり浮いた腹筋のラインを指でなぞったら、ん、て吐息が漏れ出る。
「俺は何度でもシたいで。オサムちゃんはいらんかもしれんけど、そのために残してきたし」
「童貞を?」
 見つめ返しながら頷いたら、まんざらでもない顔。
「長かったなぁ」
 別に寂しい生活をしとったわけでもないけど、ようやくここに辿り着いたんが嬉しくて、声が弾んだ。腹筋の線をたどる指をするするおろして、たどり着いたスウェットのゴムに指をかける。
 腰上げてって囁いたら、オサムちゃんは、「もーなんやねん」て、色気のない声をあげて、それに従った。見上げたら、恥ずかしそうに顔を手で覆っとる。かわええ。十二も歳上の男相手にそう思うのは、俺が根っからの同性愛者やからなんやろか。
 下着ごとズボンを太腿のあたりまでずり下げたら、重たげなアレがぶるんて目の前に飛び出してきた。さっきから存在は感じ取ってたけど、俺とのアレコレでしっかり勃ってくれとるのを視認出来たんが嬉しい。
 じゅうって音を立てて、先っぽをしゃぶる。そのまま、ほんのりと塩っぽい味を噛みしめるみたいに顔を沈めて、存在感のあるモノを深く咥えこんだ。舌に触れる裏筋の血管の感触。許可も得ずにこういうことをシても、オサムちゃんは大人やから、文句も言わへん。
「ん」
 ん、てさっきからそればっかやし。俺昔からオサムちゃんの声聞いたらあかんねん。なんや頭の中ぼやぼやして、腰が重たなる。
「しらいし」
 硬い指が頭に触れた。そのまま髪の根本に指をさしこまれる。頭を押さえつけられて、強引に口の中を犯されるんを期待したけど、オサムちゃんの指はどこまでいっても優しい。
 一旦口を離して、鈴口にキスをしてから、もう一度咥えこむ。口ん中全体を使って扱くようにじゅぽじゅぽ音を立てて、オサムちゃんの硬いのを吸い上げたら、「なんでそんなに上手いねん」て揶揄された。ごめんな、こっちは初めてとちゃうねん。
 知らんぷりをして、唇の内側でカリを挟むように揺さぶりをかけたら、頭の上でごちゃごちゃ言い始める。また長話か、とか考えつつも俺はそれに耳を傾けてしまう。

 めちゃくちゃ気持ちええけど、なんや複雑やわ。さっきはあんな口説き文句ロマンがないとかなんのかんの文句言うたけど、ほんまは俺わりとお前に靡いてたんやで。童貞残してる言うてくれたときも、にやけそうになるの堪えるんで必死やったし。
 もちろんハタチになったお前が、俺みたいな普通のオッサンのとこに来てくれると本気で思ってはなかったけどな。だってそうやろ。俺も中学生教えだしてから何年も経つから、あの年頃の子供の心が移り気なんも分かってるし、もっと若かった時分にお前と似た感じで告白してくれた女子生徒なんか、卒業式の日には俺と目も合わさへんかったもんな。と、歯立てんとって……その子とはほんまになんもないねん。その場できっちり教え子はあかんって断ったし、ああいう返ししてもうたんはお前のときだけや。
 これ言うたら引くやろうけど、俺、去年の秋口過ぎたあたりから、妙にそわそわしてたんやで。卒業アルバムのお前の写真指でなぞってみたり、前にばったり会った時に無理矢理フォローさせられた謙也のインスタに時たま映り込むお前が変わらずええ男なん確認して溜息ついてみたり。痔にならんように気遣って辛いもんひかえたり、円座クッションこうて職員室に持ち込んだりな。
 せやけど、ほんまに来てどうすんねん。お前がハタチになったんがこの前の四月で、今が五月の二十日やろ。こっちももう完全に気抜いてたわ。白石やっぱこんかったなって、一人でちょっとええ酒買って残念会したりしてたんやで。それをお前今更やって来て、なんでもないみたいな顔してチンコしゃぶってそんなテク見せつけられたら、心臓ぐっちゃぐちゃになりよるわ。三十路のハートの弱さ舐めとったらロクな目にあわんで。

「舐めとるのはハートやなくてこのご立派なもんやけど」
 長話に耳を傾けとる間中ずっと俺の口の中に入ってたそれは、俺の唾液でてらてら光って、やらしいことになっとった。
「結局気持ちええんやろ。下手よりも上手い方がええやん」
 先っぽに音を立ててキスをする。アバズレみたいなこと言うて挑発する俺を見下ろすオサムちゃんの目はちょっと怖かった。その目を見とったら、前は新品やけど、口も後ろもお古やで、ってよっぽど言うたりたくなったけど、ほんまに萎えてしもたらつまらんし、
これから初めて男に抱かれるオサムちゃんを傷つけるのは本意やない。
「男やから気持ちええとこなんとなく分かんねん」
 この人はテキトーやけど、鈍くはないから、ほんまはしゃぶり慣れとんやな白石……くらいには思っとるんやろうけど、それ以上水をさすようなことを口に出すこともない。かなわんな、この停滞した感じ。せやけど、俺昔からずっとオサムちゃんのことだけ好きやで、大切にさせてとか……年下男の献身見せつけるには、この年頃の男にとっての五年て時間は長過ぎた。
 結局頼れるのは磨き抜かれた舌技だけで、そっから何分かしてオサムちゃんは俺の口の中に白いのを放出した。
 申し訳なさそうに、すぐ吐けよ、言うのを無視してねばつくそれを喉に通したら、ちょっと悲しそうにする。ちゃうねんオサムちゃん、流石にこれは誰が相手でもしとるわけやない。
「濃ゆくてうまかったわ」
 ぐるぐる悩んだ末の言葉を、「さよか」の一言で受け流したオサムちゃんは、下半身にのしかかる俺の体を押しのけた。
「途中でやめるとか、嫌やで」
 いろんなことを棚に上げて縋るようなことを言うた俺の頭をぽんって叩く。
「アホ、ここまで来て逃げたら男がすたるわ。準備してくるからちょい待ちや」
「準備て」
 どこまで自分でするつもりなんやろ。オサムちゃんの消えてった脱衣所らしき部屋の引き戸。あれをぱーんて開いて、「ほな手伝うわ」って押し入ってやりたい衝動をやり過ごしながら、俺は机に上半身を伏せた。
 ほんまに俺に抱かれるつもりなんやなぁ、としみじみ噛みしめる。昔から賭け事好き特有の気風の良さのある人やったけど、ストレートの男が教え子に請われたからいうて後ろの初めて捧げてしまうんはちょっと危うすぎると思う。
 今浴室の中でやっとることも、あの人なりに干支一周分も歳の離れた俺の手を煩わせまいとしとんが分かるから、もどかしい。最初くらい無茶苦茶に甘やかさせてくれたってええのに。
 オサムちゃんがきっちり締めそこねた蛇口から、水滴が落ちる音。それを数え始めてから十分くらいが過ぎた頃、脱衣所の引き戸が開いた。
 こたつの天板から持ち上げて、そこから覗かせた体に視線をやる。ピンクのボクサーだけを見にまとったオサムちゃんの、スって伸びた太ももに見惚れた。足、長かったんや。肩もしっかりしとる。昔は頭にのっかったケッタイな帽子と、声のやらしいイメージが先行して、そないに細かいとこまで気にして見たことがなかった。そんなんで人を好きになれるんやから、中学生はすごい。
 俺の視線に気づいたオサムちゃんは、半乾きの髪をかきあげながら、「あんまり見たら金とるで」言うて、こっちに歩みよってきた。
「俺のストリップとどっちが高い?」
「悲しい質問やめや」
 寄り添うようにして降りてきた体を押し倒して、剥き出しの太ももに唇を寄せる。
「俺やったら、こんなええ足のお兄さんがおるなら場末の箱でも通い詰めるけどなぁ」
「言うたな。途中で投げ出したら承知せんで」
「承知せんって、なにしてくれるんやろ。楽しみやわ」
 緊張感のない会話を続けながらボクサーを剥ぎ取って、萎えたアソコの先端にキスを落とした。オサムちゃんが“準備”しとる間にこたつ机の足元に潜ませとったちっさいパウチ入りのローションの封を切る。
「……準備ええなぁ」
「怪我させたくないやん。勝手に濡れへんし」
 長かったなぁ。独り言みたいに言いながら、ローションを指にまとわせる。窄まった入り口の皺を伸ばしながら、「今日、めっちゃ優しくしてもええ」って訊いたら、前髪に隠れた目が揺らいだ気がした。
 俺の好きな顔がこくんて縦に振られる。それを見届けてから、ぬめった指を押し込んだ。つぷ、て大した抵抗もなくオサムちゃんの内側は俺の指を飲み込んだ。ぐっと奥まで詰めて、ナカで指を一周させる。
「柔いんやけど」
 呆けたように漏らしたら、「準備する言うたやろ」こともなげに返してきよる。
「なんや拍子抜けしたわ」
 五年越しにありつけた体をゆっくりほぐす楽しみを奪われた俺の声は無機質になる。それでもイイところを探して、じわじわ指を動かしたら、俺の先生はあのやらしい声で小さく呻いた。
「俺が来るの本当に期待しとった?」
「さっき長々語ったん聞いとらんかったんかい」
 聞いとったよ。聞いとったけど、普通ここまでやるか。
「待っとる間ここいろってたんや」
「今日みたいにいきなり来て最後まで出来んかったらなんや悪いやろ」
 なんでそんなに下から目線なんやろ。こっちは今日のうちに最後まで出来んかったところで腹を立てるほど、溜まっとるわけでもないんやけど。
 どう言葉を返したらええのかも分からんで、俺はオサムちゃんのアソコをまた口に含んだ。ゆっくり時間をかけて根元から吸い上げて、一度は萎えたモノを勃起させると、指でいじくってたしこりがぷっくりと膨れる。
 二本目の指を挿入して、挟み込むようにしてそこを押し込んだら、「っう」って高い声。オサムちゃんは、ここをどうやってここまで仕上げたんやろ。指、道具、あるいはその手の店に通ったとか。どんな手段を使ったとしても俺のことを考えながら体を仕上げた献身的なやらしさがたまらんかった。
「オサムちゃんのココ、すごいわ。めっちゃ拡がっとる」
「っ、わざわざやらしい言い方せんでええねん」
 準備しただけあって柔らかなそこを拡げるみたいにして指を開いたら、剥き出しの腹が震えた。臍の下の腹筋のラインを舐め上げながら、三本目の指を押し込んだら、ぐちゅって濡れた音がする。
「くっ、アッ」
「痛ない?」
 極力優しい声を作ってきいたら、「むしろ気持ちええ」ってあの声で返してくるから腹の奥が重たくなった。どちらかというとマゾっ気が強い性分なのに、この十二も歳上の男を無茶苦茶にしてやりたい衝動に駆られる。
 すぐにでも押し入りたくなるのを、でも今日は優しくせなあかんて理性で押し込めて内側をほぐす。一番イイところを擦り上げたら、オサムちゃんは体をのけぞらせた。
「しらいし、」
 呼び掛けられて、顔を上げる。目を細めてこっちを見下ろすその目のフチは赤らんどった。
「もうええから挿れて」
 五年も待ってたんやで──オサムちゃんは、まるで俺が待たせたみたいな言い方をする。
「お預けくらってたのは、俺の方やろ」
 容易に抜き差しが出来るようになった指を引き抜いたら、「アッ」って艶っぽい声が漏れた。触れもしないのにガチガチに勃ちあがったモノに、俺は手早くゴムを被せて、ぐずぐずの入り口に先端で触れる。
「セーフティセックス、守れとんやな」
 流石や、ってこの後に及んでふざけようとする口を、「もうええから」言うて、キスで塞いで、ナカに押し入る。指でよーに解されたオサムちゃんのソコは、嵩の張った部分を容易に受け入れた。
「む、」
 鼻から抜けた吐息。ぬるい舌を吸い上げながら、腰をゆっくり押し込む。
「んんっ」
 アソコを包む肉が、性感を搾り取るように蠢く。思わず漏れそうになる喘ぎを堪えて、一旦顔を離したら、蕩けた目と視線がかち合う。
 教師にしては長い、オサムちゃんの前髪。それを梳くように指をさしこんで、エラから顎にかけて、形のええ輪郭をなぞる。細い耳殻をぎゅってつまみながら、一気に奥まで押し入ったら、
「やばいっ、多いって」
 ツヤのある声が耳に届いた。
 多いってなに。分からんけど、多い。ワケ分からんなってるやん。あっ、しゃあないやろ、エエんやから──よかった、エエみたいで。
 小刻みに震える体にしがみつきながら、腰を振るう。うっとか、アッとか、可愛いというよりは綺麗なオサムちゃんの声を聞いてると、気がおかしくなりそうになる。
「やばい、ほんまやらしい」
 俺のを串刺しにして悶えるオサムちゃんの姿が目に突き刺さる。あかんわ、ほんま。堪らんなって鎖骨を甘噛みしたら、「こら」って先生みたいに肩を叩いてきた。
「はあっ……悪いことしてる感、きっつ」
 すぐイキそうや。だってこの人俺の恩師やで。まだまだ半端やった部長になりたての俺を、押し付けがましくもなく支えてくれて、なんやよう分からんけどあの金ピカのガントレットを預けてくれた。そら、よそんとこの監督に比べたらテキトーやったかもしれんけど、得てして真面目になりすぎる俺は、あの力の抜けた雰囲気に何度も救われてん。
 そんな人を犯しとる。せやのに、悪いのは俺の方やろ、ってオサムちゃんは喘ぎまじりに言う。
 オサムちゃん俺な、この五年でソッチに関してはかなりろくでもなくなってん。昔は童貞捨てたいなんて可愛い言い方したけど、今の俺は前の新品残しとっただけのろくでもないアバズレで、オサムちゃんに触れていいような綺麗な部分は一個も残ってへん。
「白石、っ、お前なに考えとん」
 オサムちゃんの指が俺の頬に触れる。なんにも、って根本まで挿入して一番奥の肉をグリグリしたら、「アアッ……」て、一際高い喘ぎが漏れた。
「っ、泣きそうやったやろ」
「気持ちええから」
 半分本当で、半分嘘やった。痛々しいくらいに勃起したオサムちゃんのペニスを手の平で掴んで扱きあげる。先端から溢れ続ける先走りのおかげで滑りは馬鹿みたいに良かった。
 ナカと外を同時に責められて震えるその体に、体重をのっけて押しつぶすみたいにして抽挿する。ばちゅんばちゅん、肉と肉のぶつかる下品な音に、オサムちゃんの喘ぎが混じった。
「オサムちゃん、ええとこ教えて」
「ん。あっ……顔、顔がええ」
「はあ」
 奥とか、手前とか、そういう回答を求めてたのに、オサムちゃんは俺のええところを教えてくれた。
「せやから、顔っ、近いねん……寿命縮むわ」
「流石にそこまで言われたん初めてやわ」
 最中に言われたら悪い気はせんかった。むしろ結構嬉しくて、調子に乗った俺は、極限まで引き抜いたアレをぎゅーって押しこむ。
 しらいし、しらいしってうわ言みたいに名前を呼ばれて、その声すらも気持ちええ。ぬるぬるの内側が、蠕動するのに誘われて、がつがつと奥を穿つ。
「あかん、イキそ……」
 体の奥から引き絞るような声を俺があげたら、オサムちゃんの腕が肩に回った。優しく撫ですかされて、俺の目尻からは涙がこぼれた。
「あっ、」
 激しい水音に混じった喘ぎ。締まりのええ肉にぎゅーってされて、それを漏らしたのはオサムちゃんじゃなくて俺の方やった。最後に強いストロークでナカを抉って、どっちのもんとも知れん嬌声の中で俺はオサムちゃんの中に白いモノを放った。

 ピロートーク、腰がヤバイいうて俺の手をとったオサムちゃんに押し込まれたリビングから続いた六畳間には、ダブルのベッドがどーんと置かれとった。昔オサムちゃんの部屋に敷かれとった煎餅布団を知っとるから、一人寝のために買ったものではないと分かる。
 あれだけ体を仕上げてくれてたんや。俺のことを待ってたっちゅうオサムちゃんの言葉に、きっと嘘はない。それでも、二十代後半から三十代前半にかけてのええ男の五年間がまっさらやったなんて期待するのはアホらしすぎる。
「随分手慣れた童貞君やったなぁ」
 素っ裸のままのオサムちゃんは、「怒らへんからホンマのこと先生に教えてぇな」言うて、長い指で俺の腰のラインをなぞった。皮膚の表面を掠める感触、さっき出したばっかやのに、腰の奥がジンてしびれる。
「前は使ってなかったのはホンマやって」
「さよか」
 匂わせるような俺の挑発。若い男ならすぐにでも飛びついてくるそれを、大人で、教師のオサムちゃんは簡単にスルーする。
「確かに、めっちゃ瞳孔開いてるもんな」
「えっ」
 思いがけん指摘に驚いて、まぶたにやった指を掴まれる。
「目ん玉ぎらっぎらして、ヤりたて感でとるで」
 笑みを含んだ声。ほっぺたを撫でてくれる手つきの柔らかさには余裕が感じられて、一人で大興奮しとる自分が恥ずかしくなる。
「……オサムちゃんはめっちゃ普段通りやけどな」
「覇気のない顔で悪かったなぁ」
  まあそこが好きなんやけど、ほんまは興奮しすぎておかしくなっとるとこも見てみたい。
「さっき、俺のことネタにしてたって言うてたやろ」
「あのなぁ、事後に盛り上がっとるときの勢いで言うたこと掘り返されるん結構恥ずかしいんやけど」
「ええやん、嬉しかったんやから」
 肌の感触を確かめるみたいに動く手を口元に引き寄せる。小指の付け根にカプって噛み付いたったら、活力のない目が揺れた。
「それって、抱かれる想像?」
 コンマ一秒の沈黙、それを押し流すようにして、そらそうやろって笑ったオサムちゃんの手は微かに震えとった。
「中学生の俺犯す想像してたんやろ」
「アホッ、ちゃんと半年ごとにアップデートしてたわ……あ、」
「ほら、やっぱり抱きたかったんやん」
 オサムちゃんは、墓穴を掘って気まずそうに視線を流す。剥き出しのままのアソコに触れたら、もう半勃ちになっとった。
「する? さっき出せてないやろ」
 舌を前に突き出したら、絡めとられた。よその男に薄いって言われる俺の舌を、オサムちゃんは器用に吸い上げる。さっきから思ってたけど、オサムちゃんは案外キスが上手くて、舌を絡ませあっとるだけで妙にやらしい気持ちにさせられた。
 一度は萎えたそこが根元から血流に押し上げられて、俺が閉じとった目を開いたところで、オサムちゃんは俺から気まずげに顔を離した。
「それは流石にあかんやろ」
 キスが長すぎて、その言葉がどこにかかったもんなんか理解するのにしばらく時間がかかった。無言のまま見つめ返した俺に、「俺がお前に抱かれるのはともかく逆は……」とかなんとか、またごちゃごちゃ言い始める。
 ええ加減に鬱陶しくなってきて、キスしとる間は手持ち無沙汰になっとったオサムちゃんの手を取って、尻のあたりに誘う。
「ええやん別に、どうせこっちは初めてやないんやか……っ、」
 言葉を繋げ終える前に、裸の体がのしかかってた。軽く固まった体を強い力で抱いたオサムちゃんの、さっきまでは半勃ちやったそこはガチガチになっとった。
「お前なぁ、何遍も知らんぷりしてやったのになんでまた言うん」
「知らんぷりするからやろ」
「ほんまにそういうのもうやめてや。この歳になったらよその男に嫉妬させられるようなことも滅多になくなんねん」
「ないからなんなん」
「……あんまりダメージ与えられたらヤり潰したくなる」
 さっきまでとは全く違う低い声をあげたオサムちゃんは、教え子の俺には見せてくれへんかった痛い目でこちらを見下ろして、もう一度唇に貪りついてきた。

「ここ舐めてもええ?」
「っ……ええって言う前に舐めとるし」
 ぬるい舌が胸の周りをなぞる。薄く色付いた胸の中心を避けるように、オサムちゃんは俺の薄い肉に歯をがぶがぶ立ててきた。甘噛み、痛みはせんけどこそばゆくて、思わず体を引いたら、腰をぐって抱き寄せられて、今度は中心をじゅうって舐め上げられる。
「舐めるっちゅーか食うとるやん」
 呆れた風を装った声は上ずっとった。おう美味いでって、冗談めかして笑ってくれてええのに、俺の顔をちらっと見上げたオサムちゃんの目はまだあの痛い感じのまんまで、このまま体の全部を食い尽くされてしまいそうな気がした。
 飾りに走る疼くような痛み。俺の胸のちっさい飾りに、オサムちゃんの歯がくいこんだ。もっと酷くして、体中に跡が残るくらいにぐずぐずにしてほしい。そんなことを口に出したら、この人はもっと嫉妬して、俺をここにずっと留め置きたくなるんやろうか。
「アッ、そこ、あかん」
 突起の側面を舐られて、腰が浮きそうになる。俺がヨくなっとるんが嬉しいんか、それとも舐めることに夢中になっとるだけか、オサムちゃんは俺の体に回した腕にぐーって力を入れる。圧がすごい。息苦しい。力なら絶対負けへんのに、振り払う気にもなれん。
 女の人のみたいに柔らかいわけでも、ぷっくり浮き出とるわけでもない俺の胸。感度だけはいっちょまえのそれを、オサムちゃんは執拗に責め立てる。舐められとるのとは逆側の突起も、あのちょっとカサっとした指で挟まれて、押しつぶされたら、オサムちゃんの体に挟まれたアソコの先端から先走りがこぼれるのが分かった。
「もうええって、ッ、変になる」
 半泣きで頭を横に振ったら、ちゅぱんてそこが解放された。唾液で濡れた皮膚に部屋の空気が冷たく染みる。
 顔を上げて俺と目があったオサムちゃんの眉が下がった。そのままキスされそうな気がしたのに、今度は耳たぶに噛み付いてくる。
「いっ、つ……」
 脊髄から腰に抜けてくみたいな痛みは単発で、足りへんわって目を向けたらちょっと正気に戻った風なオサムちゃんは、「あー……」ってボサボサの頭を掻き毟った。どないしたん、て俺が訊いたら、「オッサン臭いからこんなこと訊きたないんやけど」って奥歯に物が挟まったみたいに口を開く。
「白石お前結構そういう趣味なん」
「そういうってなに」
 分かっとるのにあえて聞き返したったら、鬱陶しかったんか、さっき噛み付いてきた耳たぶに爪を立てて、
「痛いの好きかってきいてんねん」
「ほんまにちょっとオッサン臭いなぁ。昔はカッコええ兄ちゃんやったのに」
「お前こそ中坊のころは目背けたくなるくらいに爽やかやったのにな」
「どマゾのど中古どヘンタイになってて幻滅したんや」
 軽口を受け止めた上で、あえてやーな返しをしたら、オサムちゃんは頬の筋肉を固めた。
「……せやからそういう言い方、」
「酷くしてほしくて言うてんねん。分かっとるやろ」
 せっかくスイッチの入ったオサムちゃんがまた教師の顔に戻ろうとするのを、雑な言葉で押し留める。若さと美しさ以外になにも持たん男の俺が、この人の心を繋ぎ止めるために使えるものはこのカラダしかない。
「オサムちゃん、俺なほんまはどうしようもなく後ろに棒突っ込まれるのが好きで、さっきアレしゃぶっとる間も、後ろ弄りたいの堪えるんに必死やってん」
 体に巻きついたままの腕を剥ぎ取って、ベッドの上で足を開く。ストレートの男からしたら、気持ちのええ光景やないはずやのに、オサムちゃんの目は俺のソコに釘付けになった。
「来る前にほぐしてるから、オサムちゃんの立派なんここに挿れたっ……つ、ア゛ッ」
 背中がマットに沈んでく感触。呼吸を整える間もなく、柔らかく窄まった入り口に硬いのが押し入ってきて、俺は呻くような喘ぎを漏らした。
「あっ、う……」
 ほぐしてた言うても二時間は前のことやから、慣らしもせずに開かれたそこは案外キツい。
「っ、さきっぽ、ふとい……っ」
 カリの終わりの一番太い部分。ぷっくり膨らんだソコが、いりぐちでひっかかる。中途半端なとこでぎゅうぎゅう締めあげられるんが苦しいんか、「く」て掠れた声が耳に届いた。
「しらいし、もすこし力、」
 抜いてって言い切る前に唇を重ねてきたオサムちゃんは、相変わらずねちっこく俺の口の中を責めた。頬の内側と、歯列を順繰りになぞられて、「ん」て細かい喘ぎを漏らす内に、押し止まってたそれがズルって内側に押し込まれる。
「んっ……んーっ」
「はあ」
 唇が離れて、オサムちゃんは荒い息を漏らした。そこで初めてゴムをしてへんことに気がついたけど、もうあとのまつりやった。一気に根本まで押し込まれて、目の前が真っ白になる。目尻からじんわり浮かんだ生理的な涙を、オサムちゃんの舌がすくう。
 あかん。あかん。頭を振りながら繰り返したら、「めっちゃヨさそうやのに」って完勃ちの前を擦り上げられて、ますます高い声が上がる。
「ええけどっ、こわいっ」
 酷くしてって自分から言うたくせに、初めて本気で好きになった人に抱かれるセックスが与える痛みは、気持ちええのと混ぜこぜになって俺を追い詰めた。こわいこわい、うわ言みたいに繰り返したら、オサムちゃんは気を利かせたみたいに俺の鎖骨上の肉に噛み付いた。前歯、犬歯、奥歯。順繰りに力を込めながら、カウパーでどろどろになったカリをくりくり刺激する。
「アッ、ア゛ッ……んっ」
 自分のものやないみたいな喘ぎ声。肉に食い込むオサムちゃんの歯並びがええのにすら興奮する。もっと痛くしてってせがんだら、痛みから解放されて、体を軽く持ち上げたオサムちゃんは俺を見下ろした。ぐぷん、て根本まで収まった先端が、一番奥を叩く。
「アッ」
「俺な、普通の男やから好きな子には優しゅうしたいねん」
 エラに近い部分を強い力で掴まれて、口がぱかんて開く。条件反射で舌を出したら、オサムちゃんは雑な所作でそこに指を突っ込んだ。薄い舌をつままれて、唇の端からよだれがこぼれ落ちる。
「白石は、なにされても男前やな」
 嵩の張った亀頭に肉を抉られる。舌を掴まれとるから上手に喘ぐことも出来んで、主人に服従する犬みたいにハァハァ呻く俺に、オサムちゃんは何度か腰を打ち付けた。体の奥にインパクトが与えられるたびに、鈍い痛みとろくでもない快感に襲われるのが苦しい。
「んっ、あっ……ふ」
 舌を解放されて、だらんと弛緩しとったら、口の周りについた唾液を舐めとられた。恥ずかしいって、体を揺すっても、オサムちゃんは怖い顔をしたまま、俺の敏感な部分にアレを打ち付ける。
「いっ、アッ……」
 腰骨を掴まれて、ガツンガツン奥を穿たれる。オサムちゃんのアレが限界まで引き抜かれて、根本まで押し込まれるたびにばちゅんばちゅんてやらしい音が部屋に響いた。こんなに気持ちええの知らんて俺が喚いたら、
「よその男にいっぱいシてもらってきたんやろ」
 拗ねとる風でもない、冷えた声が降ってきた。その声にすら感じて、俺の内側はまた狭くなる。ぎゅうって締め上げたら、オサムちゃんのアレの形がはっきり分かった。咥えとるときから思ってたけど、案外大きい。特にカリの段差が深くて、ピストンされるたびにヨすぎて泣きそうになる。
「いっぱいシたけど、アッ、オサムちゃんのがええっ」
「っ、お前信用出来へんわ」
「ぅっ、あん、信用とかっ、そんなんええから、もっとシて」
 ろくでもないおねだりをした俺の体をオサムちゃんがかき抱いた。裸の体を密着させた状態で肉をパンパン打ち込まれたら、俺とこの人の境目もよう分からんなる。
「おくっ、おくがええ」
 求められるがままにサディスティックな男を演じつつも、芯の部分では献身的なオサムちゃんは、俺の一番奥の行き止まりにチンコを押し込む。丸くて硬い先っぽでゴリゴリとそこを刺激されたら、ヨすぎて息が止まりかけた。同時にのしかかられた体に体重をかけられる圧迫感もめちゃくちゃエエ。このまま潰されてどうにかなりたい。
「なあ、オサムちゃんっ……ぅ」
 返事もせずに俺を見下ろす目がまた痛い。アレを突き立てられるたびに、俺があんまりヨガるから、この体がこういう風に仕込まれる過程を想像して落ちとんやと思う。
「唾液、のませて」
 極め付けみたいに言うたら、ガンガン抽挿されたあと、耳殻に歯を立てられた。前歯だけ、せやけど強い力を込められて、痺れるような痛みが、強すぎる快感と混ざり合う。
「口あけ」
「ん」
 言われるがままに、口を開いて舌を出したら、かなり嫌そうな顔で唾液を落とされた。それを口の中で受け止めて、喉を鳴らして嚥下する。
「ほんもんのど変態やないか。こんなんの何が楽しいん」
 チンコがずるんて抜けてった。反転させられた体の前面が、シーツに押しつけられる。
「オサムちゃんの嫌がる顔見たらめっちゃコーフンするわ」
「……頼むからそれ以上歪まんとってな」
「そしたら首輪つけ、てっ……ふ、ア」
 寝バックの格好で押し入られて、潰れた喘ぎが喉から漏れる。俺の尻肉を掴んで、限界まで肉を押し込んだオサムちゃんは、「うわ、気持ちええ」って今冬初めての温泉に使ったオヤジみたいな声を上げてから、ぱちゅんぱちゅんて腰を打ち付けてくる。
「アッ……うっ」
 インパクトのたびに、シーツに裏筋がこすりつけられるのがキツい。ヨすぎて細かい喘ぎを我慢することも出来ない俺の頭を撫でたオサムちゃんは、
「親指ピンってなってんで」
 そんなにええん、と耳元でささやいてくる。
「こんなんええに決まっとるやろ……っ」
「後ろからされるの好きか」
「っ、う……こうやって、潰されるみたいに……アッ犯されるのが、んんっ」
 好きって言い切る前に、一番エエところを抉られた。ぷっくり膨れたしこりを、カリの段差の深いところでグリグリいたぶられて、「ナカめっちゃ動いとる」って指摘されたら、ますますヨくなった。
 シーツを引っ掻く手に手が重ねられて、本当の恋人みたいやってアホみたいなこと考えてたら、耳元で、「好きや」って言われた。泣きそうやった。すぐに、「俺も」って返そうと思ったし、そうするんが一番ええって分かってんのに、快感に脳を犯された俺はまたろくでもないことを口走る。
「オサムちゃんっ、俺が……ぁ、他の人に抱かれとるとこ想像、っして……」
「はあ」
 かなりマジっぽいトーン。しっかり声を低くしたオサムちゃんは、「萎えさすようなこと言うなや」言うて、腰の動きを止めた。
「なんで、萎えてへんやん」
 むしろおっきなってるで、やっぱコーフンするんや──俺の憎たらしい言葉を最後まで受け止めたオサムちゃんは、ほんまに呆れたような声で、「アホ」って呟いた。
「もう終わるまで喋らんでええわ、黙って使われとき」
 冷えた声。使うって言葉に、物扱いされる想像にゾワゾワする俺の頭を、オサムちゃんが押さえ込んだ。シーツに顔が埋もれる。軽く息苦しさすら感じる中、また激しいピストンに襲われた。
「ん……んっ」
 顔を持ち上げることが出来んから、くぐもったら声しか出せんのがもどかしい。オサムちゃんの先走りなんか、出発前に仕込んどったローションなんかよう分からんもので濡れそぼった内側。ぎゅうぎゅう蠢くそこに、オサムちゃんのかったいのが突き刺さる。
「んんーっ、」
 ぐぷん、ぐぷん、と肉と肉が擦り合わされる音。よその男に弄りまわされて熟れきった肉を突き崩されて、俺は体を小刻みに振るわせた。
「やばい、イく」
 切羽詰まったみたいな声。こっちの体ごと揺さぶりをかけるみたいにナカを打ち据えたオサムちゃんは、もう一度俺の耳に歯を立ててから、激しく腰を揺さぶった。シーツに擦り付けられ続けた俺のそこは一度出したとは思えんくらいに硬く張り詰めて、痛いのか気持ちいいんかなんか出そうなんかも分からん。ただ息を詰めて、肉をぎゅうぎゅう押し込まれる感覚に集中してたら、あるとき突然それはきた。
「んっん……ん」
 とろり、白いものがシーツを汚す。内側の肉が小刻みに痙攣する。
「っ、キツ」
 存在感のあるものがぎりぎりまで引き抜かれる。絡みつく肉を割り開くように一番奥にそれを押し込んだオサムちゃんは、熱い吐息を漏らしながら俺の中に熱いものを注ぎ込んだ。

「教え子のセーフティセックスを褒めた自分がナマ中出しって笑えへんわ。後処理めんどいんやで」
「……返す言葉もないわ」
 マットに顔を伏せて、萎れるオサムちゃんは、さっきまで俺の体を無茶苦茶に犯してた人にはとても見えへんかった。
「ヤられたんそっちみたいやん」
「俺もヤられたけどな」
「割合的には三対七くらいでそっちが強いやろ。オサムちゃんがあんなに強引にしてくれるなんて思ってもみぃひんかったわ」
 ぐったりした体にじゃれつきながら、微妙に顔色の悪いほっぺたを撫でてやったら、ちょっと気まずそうに目を逸らす。さっきのセックスで乗りすぎたんが恥ずかしいんやって分かってるから、俺はあえてそこをイジった。
「こっちが欲しがったの言い訳にしようとしてんのやろうけど、あの感じは元々結構虐めるん好きやろ」
「……普通やって」
 鈍い寝返り。こちらに体を向けた先生は、「白石蔵ノ介くんはそんなに俺のことイジんのが楽しいか」言うて、薄く笑った。
「楽しいで、俺ずっとオサムちゃんのそういうナマの人間っぽいとこが見たかってん」
「学校ではとっつきやすいって評判なんやけどな」
「ええ加減でおもろげな部分で壁作ってるみたいやったから」
 オサムちゃんは、競馬で給料をスった話や、家の電気を止められた話はしてくれても、その時々で付き合っとる女の人の話をするようなことは絶対になかった。
 どういう人がタイプなんて訊かれたら、気の利くお嫁さんならいつでも大歓迎やで言うてたけど、実際校長がうちの娘なんかどうや? って勧めたら、俺にはもったいないですからって逃げた話も朝礼で聞いたことがある。
 そのくせ今俺たちが横たわっとるこのダブルのベッドやら、部屋の隅に置かれとる木目調の可愛いゴミ箱なんかをオサムちゃんが自分で揃えるところは想像もつかんで、やっぱり普通に彼女とか作ってきた人なんやなって、ハタチの俺は改めて噛み締めた。
「ここ、彼女と住んでた?」
 ストレートに訊いたら、オサムちゃんは、「女の子みたいなこと気にするんやな」って唇の端を持ち上げた。
「別に現在進行形でそういう人がおったって俺はええけど」
「ほんまに?」
 ええはずがない。去年の年末、いよいよハタチやって息巻いてた俺は、謙也に年賀状を送るフリでここの住所をきいてもらってた。
 そんなもん自分できいたらええやろって文句たれつつも、聞いてしまった以上は、きっちり元旦にそれを送りつけた謙也のところにオサムちゃんが返してきた年賀状には散髪屋のダイレクトメッセージくらい簡素なデザインが印刷されとったけど、裏面の下の方に国語教師らしい几帳面な字で、「あんまり急ぎすぎんことやで」って一言だけ添えられてた。らしいなぁ言うて謙也と笑い合った俺は、自分の知らん五年間のオサムちゃんに想いを馳せた。
「今はおらんで。この何ヶ月かはお前がほんまに来るんやないかって考えたら落ち着かんで、そんな気にもなれんかったわ」
「いつまでおったん?」
「踏み込んでくるなぁ」
「幻滅したりせぇへんから教えて」
「……去年の秋口まではここで半同棲みたいなことしててん」
「結婚する予定やった?」
「俺はしたいと思ってたけど、その子はあんまり考えてなかったみたいやな」
「その子に振られて寂しかったから俺のこと待ってたんや」
「幻滅したやろ」
「先にせんって言うてしもたからしゃあないやん」
 ごめんな、触れるだけのキスをされて、大人ってほんまにロクでもないズルい生きもんやな、そういうところが好きやなって、これまたロクでもない俺は思った。
「その人のこともここでイジめてたんや」
「もうイジらんでええねん」
「好きな人のこと、気にしたらあかんの」
「……はあ。お前はイジめるとか、痛くするとか、酷くされるとか、そういう話にやたら反応するけど、この年まで普通に生きてたら軽くマゾ入っとる子とどうこうなることも珍しいこととちゃうやろ」
 言い訳がましく自分の性癖は普通やってことをオサムちゃんは強調する。
「確かに俺が今までシてきた挿れんのが好きな人も軽くサド入っとる人が多かったわ」
 そのくせ、世間話の延長みたいな相槌を俺が打ったら、「それなぁ」って糸を引くような目線をこっちに向けてきた。
「さっきから思ってたけど、童貞は残しといてバックバージンは捨てとるってどんなジョークやねん」
「童貞は残しとく約束やったやん。もしかして逆がよかったん? 自分は結婚意識した彼女まで作っといて、案外都合ええこと言うなあ」
「ほんまに都合のええこと言うと、どっちも残しといてほしかったわ」
「業突く張りにも程があるで」
 そこまで言われて悪い気もせんのに、俺は拗ねたフリをしてオサムちゃんに背中を向ける。案の定それを抱え込むみたいに擦り寄ってきた俺の先生は、
「ありがたいと思わなあかんのやろなぁ」
 独り言みたいにちっさい声を漏らした。
「なんで」
「男がええにしても他にぎょうさんおるやろ」
 ぎょうさんってなんやねん。それは男も女も同じやろ。
「例えば謙也は実家がふっとい病院やっとって、賢くて、足速いやろ」
「中学生やないんやから足速いから好きはないやろ」
「この前まで中学生やったやん」
「俺からしたら五年は長かったわ」
「時間の感覚がちゃうか。千歳は、背高いし、なんや妙な色気ムンムン出しとったし」
「まあええ男やけど」
 うーんて唸ったら、体に回った腕にすこし力がこもった。嫉妬するなら言わんかったらええのに。
「小春とか一氏はいつでも笑かしてくれるし、銀はいかにも立派な体格やろ。財前は、パソコンとか詳しそうやなぁ」
「最後雑過ぎるわ」
 キーボードをタターンって叩く財前を想像して笑う俺を抱きすくめたオサムちゃんはしばらく黙りこくってた。そんで次に口を開いたときには、えらい真面目なトーンで言葉を綴る。
「お前ももうハタチやし、この五年間の間に俺が知らん人間にもたくさん出会ってきたんやろうな。ただの教師の俺と、お前が一緒に過ごした時間は、三年きりや。短いよな。それが悔しかってん。せやけど今日、久々に動くお前を、息をするお前を間近で見たら、そういう後ろ向きな気持ちも全部吹き飛んでもうた。白石、俺な、お前がぎょうさん持っとる可能性の中の一つに俺が入ってたのが、今は心底嬉しいねん」
「……重いなぁ」
 剥き出しの言葉の強さに飲まれかけて、反射的に憎まれ口を返したら、「お前なぁ」って下唇をつままれた。その指に滲んだ汗にすら気持ちを感じて、顔が熱くなる。
「普段テキトーこいとる人間が、人にストレートに気持ち伝えんのって結構勇気いるんやで」
 そんなん分かってんねん。オサムちゃんは俺のことを、何故かめちゃくちゃええものみたいに言うてもて囃すけど、今の俺が持っとるもんなんて二十年も経てば色褪せるようなばっかや。
 さっきオサムちゃんが言うたことは全部俺に跳ね返ってくる。俺は、きっと女の人としかそういうことをしたことのないオサムちゃんの選択肢の中に自分がひょっこり顔を出せたことが、死ぬほど嬉しい。だって好きやったんやから、初恋やってん。他の人間とシても、テニスをやめても、オサムちゃんのことは忘れられへんかった。
 オサムちゃんが言うたとおり、人に気持ちを伝えるのには結構勇気がいる。せやから中学生の俺は、オサムちゃんに素直に好きって言えへんで、「オサムちゃんで童貞捨てたい」やなんてしょーもない言葉ぶつけるしかなかったし、ハタチになったところでさっき考えてたようなことを伝える勇気はやっぱりない。
 オサムちゃんはやっぱりすごいわ。あんな重たいことを、恥ずかしいことを、俺にちゃんと伝えてくれた。参った。完敗や。
「俺は、誰にでも平等に優しかったオサムちゃんが、みんなの監督が、俺とだけやらしーことしてくれたんが心底嬉しかったで」
 ほら、俺こんなことしか言えへんねん。
 呆れて愛想つかれても仕方ないって思ってたけど、この言葉が妙にツボにハマったらしいオサムちゃんは、
「白石お前綺麗な顔してすごいこと言うな」
 俺の体をきつく抱きしめて、ベッドでもみくちゃにされすぎてアホ毛の立った頭にキスしてくれた。

back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -