瓶詰めの

襲い受けと見せかけてヤられまくっちゃう侑士と、侑士に対して軽く拗らせている謙也

 地獄みたいやな、と思った。それも血の池地獄とか、海地獄、龍巻地獄みたいなメジャーどころのスケールの大きいんやなくて、ちっこい瓶の中に誰かと二人ぎゅうぎゅうに詰められて、食料もなければ水もない、ひもじい上に息も苦しくて、このまま死んでしまいたいって思うのに、こいつより先に死んでたまるかって踏みとどまっとるような、どん詰まりの地獄。
「っ……」
 ちゅぷちゅぷ、粘膜に粘膜の絡みつく水の音。熱い膜に包まれた俺のアソコ。皮張りのソファの上で開いた足の間には、東京に出てきて以来一緒に暮らしとる従兄弟の頭がある。じゅっ、じゅっ、いうてチンコをすすりあげる度に、青みの強い暗い色の髪がさらさら揺れるのが生々しい。
 なんでこんなことになってんねん。そんでまたお前はなんでこんなに上手いねん。なあなあお前ってソッチやったん。昔から俺よりもずっとモテてたのに、少しも嬉しそうやなかったんは、カッコつけのポーズやなくて、男が好きやったからなん。
 頭の中に次々に浮かぶ言葉の一つ一つが、横隔膜のあたりで渦を巻く。その内のどれを口に出したらええんかも考えられんで、ようやっと口に出せたのがこの言葉やった。
「侑士……お前、舌薄いな」
「ん、」
 ん、て。またその吐息かい。それで何人の女の子オトしてきたんや、ほんでその内の何人と寝た。俺なんかゼミでめっちゃ可愛いって、結構本気になりかけてた女の子ここに連れてきたら、その子チラッと見かけただけのお前に本気になってしもて、告白する前に失恋したんやで。分かってんの。
 あかん、そのこと思い出したらますます勃ってきた。あの子は純な感じやったから、こんな風にチンコしゃぶってくれたりはせんかったやろうけど……いや、ああいうタイプに限って、彼氏の前ではド淫乱やったりすんのやろか。落ち込むわ。
「はあ、また硬なりよった。やっぱり若い男のは元気やなぁ」
「……なんやねん、その意味深発言」
 首にまとわりつく長い髪を耳にかけた侑士は、返事もよこさんまま俺のチンコを再び飲み込む。相手が男やってことを認識しながらも一向に萎える気配のない俺のソレの、裏筋に浮いた血管を舌でゴリゴリなぞるその顔は、ちょっとおかしいくらいにやらしい。
 侑士は、声変わりした瞬間から妙な色気がムンムンで、それでほんまに未成年かって親戚の集まりでもいっつもつっこまれとった。同い年の従兄弟同士、仲は良うしてたけど、一応お育ちのええ俺らの間に下ネタめいた話題が介在したことはこの歳までなくて、俺は侑士のソッチの遍歴を全く知らへん。やらしげな奴やとは思ってた。けど、やらしさのベクトルが想像の斜め上過ぎてビビるわ。
 俺は“普通”に女の子大好きやし、昨日オナニーしたばっかで性欲もたまっとらへんかった。それやのに、なんでよりにもよって男に、それも血の繋がった従兄弟にチンコしゃぶられて、腰の下蕩けさせとんのやろ。
 ソファの脇に転がった空のワインの瓶に視線をやる。恵里奈ちゃんが侑士にもたしたぼちぼちお高いの。軽く味見てビーフシチューにでも使ったろ言うた侑士に、ええ酒やのにもったいないやろってワイングラスを差し出した俺があかんかったんかな。
 元々自分らが酒に強ない自覚もあったのに。コルクの抜けた途端に広がったそれの、豊潤な匂いにひきずられるようにして、二人でひと瓶を一気にあけたんが最低の間違い。
 そこまできても血色のない、いつも以上に能面じみた顔を俺に向けた侑士が、俺のスウェットをずりさげた。ふざけとるんやと思って、なにすんねん、と笑う俺のボクサーを床に落としたあいつは、「ちんこ、しゃぶらして」言うて足の間に入り込んできよった。
 なに言うてんねん。こんな汚いもん。侑士の頭をはたいたときに、その汚いもんを今まで散々女の子にしゃぶらせてきとった自分の汚さに気づいて胸が悪なった。
 ええから。それを癒すみたいに侑士は唇を開いて、俺のを飲み込む。せめて下手であってほしかったのに、侑士はめちゃくちゃ上手くて、速攻イきそうになるのを堪えるために頭の中で延々とべしゃり散らかして今に至る。
「……っ、これいつまで続くん」
 ガチガチになった俺の若いチンコ。それの根本から先端にかけてをゆっくりと吸い上げて、鈴口にキスをした侑士が顔を上げる。
「謙也がイくまで」
 気抜いたら今この瞬間にもお前の顔にぶちまけてしまいそうなんやけど。俺にもプライドはあるし、侑士の口の中は極上にヨくて、すぐに出してしまうのも躊躇われる。
「こういうのどこで教えてもらうん。必修科目とちゃうやろ」
 侑士の、耳にかけられた指を髪ですくう。俺からの質問には答えずに、「邪魔になる」と目を細めたそいつの、ほんのり赤く染まった耳輪に爪を立てたら、熱い吐息が部屋に霧散した。
「いっつも髪に隠れて見えへんかったけど、侑士の耳って俺のに形似てるわ」
「自分の耳の形なんか意識したことないわ」
 律儀な侑士は、口での愛撫の代わりに手のひらで俺のを包み込んでくた。長い指がカリと竿の境目に巻きついて、くりっくりって行ったりきたりすんのが気持ちええ。耳やら目やらはよう似とるのに、指は俺より節が目立たんで、すっと長いのが、また。
「俺は穴あけてからはわりと見るで、お前のに似とるとこ含めて悪くない形やと思うわ」
「におてへんで、それ」
 大阪に残した後輩に押し付けられたリング型のピアス。東京に出てきて、ファーストピアスの期間を終えてそれを初めてつけた俺を見た侑士は、「チャラ男みたいや」と目を逸らした。あれは嫉妬やったんやろか。伊達眼鏡を外してから、侑士はますます物言わんなったから、確認する手段はない。
「外そか、他の持っとるし」
 侑士の唇がまた俺のに触れる。そうしたら喋らんでええもんな。チンコなんか咥えんでも、侑士は上手にだんまりを使いこなす。いつでもペラペラよう喋る俺とちごうて、要所要所で黙りこくって意味深に睫毛を下げる侑士の佇まいは、同世代の女はもちろん、いい歳こいたオッサンの心にすらクるものがあるみたいで、俺がちょっとした休みに大阪に帰るたび、オトンは侑士のことばっか聞いてきよる。
 俺だって同じやで。お前のことずっと気にしてた。大阪と東京。直線距離400キロで隔てられとっても、電話でつまらん口喧嘩するとお前のことがやけに近くに感じられた。通話口から響くお前の声は、大阪におるころと全く変わらへんで、こいつたぶん東京に馴染めてへんのやろなって、いらん心配もしとった。
 それやのに、いつぞやに東京で見かけた氷帝のジャージ着たお前は、びしっとして華やかなあの金持ち学校の並びにいやっちゅー程ハマっとって、口を開かん限りはナニワの空気なんて少しも感じさせんのやから参ったわ。案外どこにいってもやっていけるちゃっかりした奴なんやって思い知らされた。
「氷帝のジャージ、まだ持っとる?」
 足の間に収まった頭を撫でてやったら、こくりと顎が動いた。まだ持っとるらしい。そら捨てへんか。
 中学時代の侑士。べっつに根暗でもないくせに、伊達眼鏡のレンズの内側で鬱陶しげに細められとったあの目を思い出すと腰の奥が重たなる。もっともっと強い刺激が欲しくて、腰をぐっと前に進めたら、喉の奥に入ったみたいで、苦しげな呻めきが漏れ出た。あーやばい、興奮する。
 ぐぽんぬぽん、と生々しい音を響かせながら侑士の喉にカリを押し込む。侑士の、苦しげに震える目の端から、生理的な涙が滲む。ぱかっと開かれた唇は、普段の侑士からは想像がつかんくらい間が抜けとって、それにまたゾクゾクした。
「ええ男が台無しやなぁ」
 俺な、まだ蔵とそんなに仲良くなかったころ、あいつがイケメンやって持て囃されとるのを見て、侑士の方がええ男やって、妙な対抗心燃やしたりしてん。まあ、実際仲良うなってから、初めて間近で見たあいつの顔はお前より抜群に華があったんやけどな。それでもお前が纏う微妙に陰に寄った空気感にどうしようもなくやられてしまうヤカラは一定数おって、俺がゼミで気にしとったあの子なんかは、隣に蔵がおったとしても、迷わずお前を選んだやろうと思う。
「ゲホッ、っ」
 ひとしきり犯しとった喉を解放してやると、侑士は苦しそうに何度も咳き込んだ。
「大丈夫か」
 頭を小さく震わせる従兄弟は、自分のやったことを棚に上げて、心配げな声を上げる俺のことは無視して、もっぺんチンコにくらいついてくる。俺の何がお前をそうさせるんやって、一瞬真面目に考えてしもたけど、たぶんこれは侑士の気質っちゅーか、こいつは山があったら登りたくなる山男みたいなもんなんやろ。
「っ、はぁ」
 舌先がええとこに当たって、喘ぎが漏れる。侑士は上手い。先端を舌で刺激しながら、竿のところをずりずり擦り上げる。ダブル使い。やりよるなって感心しとったら、空いた手の指で俺の会陰のあたりを撫で始めた。トリプルか、それは想像外やった。あっぱれ、お前が優勝やな。
「それめっちゃ気持ちええ」
「ふ、っ」
 殿様気分で褒めたついでに耳をつまむと、息が乱れる。どこぞのオッサンに身体中を開発されて、技を仕込まれる侑士を想像したら性感が引き絞られるような心地がした。 下手したら弟よりも近いはずの同い年の従兄弟。日常の象徴みたいなこいつが、他人に蹂躙される姿を想像して兆すのは、嗜虐心なんか、被虐心なんか、それさえもよう分からん。
 ずぷぷ。唾液でぬめる竿の表面を、侑士の唇が滑った。もうちょい強吸って、と頬を撫でたら、ぢゅうぢゅう下品な音を立てて吸いあげよる。たまらんなって、滑らかな肌を撫でさすったら、ますます興奮して、睾丸が持ち上がってきた。
「あかん、出るわ」
「ん」
 頭に血の上った俺が、後頭部を押さえつけようとするのを、侑士は意外なほどに強い力で遮った。えって驚いとる間に、チンコを口から解放してまう。ちゅぱん、情けない音がその場に響いた。
「最高にええタイミングでイけそうやったのに」
 拗ねくれて唇を尖らせる俺の膝の上に侑士がのしかかってくる。もっとヨうなるから、いつものやらしい声で言うて、寝巻きのズボンを床に落とした。
「謙也、セックスしよ」
 同じ形をした耳を舐められて、「お前のわりとデカそうやなぁ」て、ボクサーの布を押し上げる侑士のを撫でたら、「逆や、アホ」って唇が重なってくる。自分のチンコと間接キスすんのは複雑やったけど、侑士のキスは期待を裏切らず上手い。上唇と下唇を順繰りに喰まれて、ぐっと息を詰めた口ん中に薄い舌がねじ込まれる。
 あかん、融ける。腰砕けになりながら、恐る恐る目を開いたら、画面いっぱいの目を閉じた忍足侑士。8Kもびっくりの解像度で脳に伝達されても、俺の従兄弟はやっぱりええ男やった。
「はあ」
 唇が離れてく。悩ましげな吐息を漏らした侑士と視線がかち合って、「チューはあかんやろ」って文句言うたったのに無視された。口でされるよりも一線超えた感がある。俺は案外純情なんかもしれん。
「慣らしてもええ」
「ノリノリやないか」
 ボクサーのゴムに指をかけて、尻を撫でてやったら、半ケツの侑士は呆れ声をあげた。
「俺は据え膳は食う男や」
「そしたら謙也が彼女にパイズリさせるのにつことるローション取ってきて」
 男のは濡れへんで。膝を降りながら言うた侑士に従って、部屋までローションを取りに戻る。なんで俺が彼女にパイズリさせとんのがお前に筒抜けやねん。そんでそん時つことるローションを部屋に置きっぱにしとんのもなんでバレてんの。
「あんま足音デカイと下から苦情くるで」
 早足に戻った俺を、小言で迎え入れた侑士からボクサーを剥ぎ取る。流石にチンコは萎えとったけど、侑士のそれはぼちぼちええ大きさをしとった。
「こんな立派なんついとんのに、男にハメさすんや」
「ヒトの主義に口挟まんでええねん」
「ヒトの性癖勝手にねじ曲げられたら困るんやけど」
「自分から曲がりにきたんやろ」
 箱から取り出したコンドームのフィルムを破って、むき出しのゴムを俺の人差し指に装着した侑士は、
「ほんまに出来んの」
 挑発的に足を広げる。自分から誘ってきたくせに、「普通萎えるやろ」言うて逸らされた目に惹きつけられた。
「逆になんで出来へんと思うん」
 長い足の片方を肩にかけて、ローションを尻の穴に垂らしてやる。冷たさに縮こまった尻穴を、ぐっと押したら、「はぁっ」て、ハートマークついた感じの吐息。案外簡単に吸い込まれていった俺の人差し指を包み込むゴム越しの侑士の肉は、きっついのにやらかくて、変な感触やった。
「ヌルヌルやん、気持ちええ?」
「それはローション、っ……ぁ」
 ナカにずっぽしハマってる指を、根本から回すみたいに動かしたら、侑士の息が荒くなった。特に腹側、チンコの裏のあたりを押し込むみたいに弄ってやると、それアカンってやーな目してこっちを睨みつけてくる。
「アカンことないやろ。おっきなってきとるで」
「ぅ、あっ……ほんま、あかんから、」
 弓なりに反ったチンコの先を指の腹でなぞる。俺のとどっちがデカいやろ。膨らんだカリのあたりを手のひらでくるんて包んで、手首のスナップを使って刺激する。いやや、いやや、言うて頭を横に振る声を無視して、ナカに入った指を折り曲げたら、従兄弟は一層大きな声をあげた。
「そんな大きい声出しとったら、402号室の男子大学生がセックスしてます言うて、よそんちから苦情くんで」
「っ」
 ローションを取ってきたときの仕返しのつもりで言うただけやのに、侑士は急に静かになった。ナカを拡げる指を一本増やしても、ふうって噛み締めた呻めきが漏れるばっかで、おもろないけど、かえってやらしい。そういうとこやで、侑士。何をどうやっても、お前はええ感じで、俺は今一歩足らへんねん。
 侑士は昔からなんでもソツなくこなす奴で、翔太も俺ユーシ君みたいになりたいわってやたらめったら憧れとった。今でも昨日のことのように思い出すのは、なんでやねん、目指すなら俺やろって言うたった日のことやな。兄ちゃんなんかと一緒にすんなって、ずばっと言われてしもた。あれは結構キツかったわ。兄貴の立場なしやで。
 確かに侑士は顔と雰囲気が良くてモテとったし、親戚のおばちゃん連中にも可愛がられとった。ばあちゃんなんか四人も孫がおるっちゅーのに、未だに侑士を目の前にしたときだけ声が高なるし、息子と違って孫には序列があるんや、なんて平気で言いよる。
 テニスは、結構際どい。お遊びみたいな打ち合いは何度もしたことがあって、お互い譲らへんかったけど、侑士はいわゆる天才型で、そのくせ勝つことに対する執着心も強かったから、本物の試合でかち合ってたら負けてたような気がする。
 それでも勉強は俺の方がちょっとばかり出来て、鼻をあかせるとしたらここだけやなって密かに思ってたのに、高二の終わりがけ、ひい爺ちゃんの年忌法要で、侑士は自分は医学部に進学する気はないってあっさり言いよった。あのとき俺が結構なショックを受けたことを、侑士、お前は知らんのやろうな。
「く、っ」
 二本目の指が馴染まん内に、三本目の指を挿れる。苦しげに眉間に寄った皺。痛いのに、苦しいのにそれを口にせぇへん従兄弟の顔がやらしくて、俺のチンコはもうバキバキやった。
「すごい絵面やな」
 赤く充血した窄まり、コンドームによって束ねられた三本の指を受け入れた侑士のそこは、ひくひく蠢く。
「ナカ見てもええ?」
「ええわけ、っ」
 返事も待たずに指を拡げたら、半透明のゴムの裏にピンク色の肉の色が見えた。
「おーすごいな」
 授業以外で初めて見たわ。ふざけた声をあげる俺の頭を侑士がはたく。調子に乗りすぎや、言われて、自分が元々は強引に迫られとった側やったのを思い出した。
「俺のここ、しゃぶられとったときより大きなってんの分かるか」
「分からん」
「冷たいこと言わんと、触って」
 内腿を抱えとった侑士の手を取って、チンコに触らせる。嫌そうな態度とは裏腹に、仕込みの行き届いとるらしいうちの従兄弟は、ガチガチになったチンコを器用に擦り上げた。
「すごいやろ」
 束に戻した三本の指で、内側のしこりをえぐってやる。うーだのあーだの喘ぎを漏らす唇に噛み付いてから、「もうハメてええ」って聞いたら、侑士は小さく頷いた。
「先っぽからちょっとずつ挿れるから堪忍な」
 ご機嫌取りみたいに優しく言うて、さくっとゴムをつけたチンコの先で侑士の体に押し入る。やばい、めっちゃ柔い、気持ちええ。ずずずって、少しずつ押し込んでいく感覚に体をもってかれそうになる。
「あっ、あああ……」
「まだ先だけやで、大丈夫そうか」
「っ、う……焦らさんでええから、はよ奥まで挿れて」
「お前ほんまにやらしいなぁ」
 そっからはもう無茶苦茶やった。欲しがりの肉の奥までチンコをずっぽしおさめて、欲しがったくせに痛がる侑士の体を押さえつけながら、ガツガツ腰を振る。あかんあかん、て侑士があんまり苦しそうにするから、大丈夫かって一瞬動くんやめたら、止まるな言うてキレられて、ますます強く腰を打ち付けた。
 俺のチンコを受け入れた侑士の肉は、きっついのに柔らかくて、侵入者を絞り上げるように蠕動した。持ってかれそうになるのを堪えようと外腿に爪を立てたら、更にきゅうきゅう引き締まる。
 痛いの好きなん、て聞いたら、形の良い顎の先が震えて、たまらんなった俺は、侑士の半開きになった口に指をつっこんだ。さっきまで俺をかわいがってくれとったあの薄い舌。尻穴にチンコをパンパン突き立てながら、二本の指でそれを挟んだら、侑士の唇の端からよだれがこぼれ落ちる。それを舌ですくってやったら、心底嫌そうな目を向けられたけど、細められた目も潤みきっとるから迫力がない。お返しみたいに喉の奥の方に指を押し込んでやったら、うぐ、あぐ、って苦しそうな呻めきが漏れる。その声にすら俺は興奮した。
「俺エスっ気とかないはずなんやけどなぁ」
 お前見とったら苛めたくなるわ、言うて、指を抜き去ったら、ひとしきり咳き込んだ侑士が、「よう言うわ」て、吐き捨てる。
「前の子、っ、部屋で泣かされとんの、何回も聞いた、でっ、あっ」
「人の女のエッチな声盗み聞きするやなんて、侑士、お前も趣味悪いで」
「はぁ、人と、っ、一緒に暮らしとる部屋で、ぅ、あっ」
 腰骨を掴んで、強いインパクトを与えてやったら、侑士はそれ以上言葉を続けられんなった。お前が聞いとんのにエッチしてごめんな。あの子そういうのに興奮するタチやってん、言うたら、チンコがますます締め上げられる。
「俺がセックスしとる音聞いて興奮しとった?」
「ん……っ」
 侑士は返事もよこさず静かに喘ぐ。チンコのずっぽしおさまった入り口の付近、会陰のあたりを指で撫でてやったら、ぁーって高い声をあげる。高いいうても低いんやけどな。鬱陶しげな吐息まじりの低い呻くみたいな喘ぎ。受け付けん人間もおるんやろうけど、ハマる人間はとことんイカれてまう。
 ちょっと前に俺をフったその子もそうやった。うちでチラッと顔見せたときにビビッときたみたいで、侑士が部屋におるときばっか誘ってきよる。そのくせあいつのこと好きになったんって聞いたら首を横に振って、好きなのは謙也君、でもあの人にエッチな声を聞かせたいのって……ど変態やろ。ヤになったわ。
「はあ……思い出したら興奮してきたわ。なあ侑士、あの子ってお前からしたらどうやったん。わりと好みやった。それとも全然あかんかった」
 そもそもお前って女の子もイけるん。後ろのこのやわやわな感じ、やっぱり男専用なんやろか。俺からしたらお前みたいなええ男が、ハメられるばっかで遺伝子残さへんのは勿体ないって思ってしまうんやけど、そのへんどう考えとん──捲し立てるように口を動かしつづけながらも、肉の奥にちんこをぐりぐり押し付けてやったら、侑士は潰れたような声で喘いだ。
「たまには返事してや、虚しいわ」
 頭が沸騰して、侑士への気持ちがぐちゃぐちゃになる。過ぎたアルコールは侑士の背中を押したかもしれんけど、俺の人格をねじ曲げるほどの力は持ってなかったはずや。
「謙也、っ、す、」
 そこで侑士の言葉は止まる。正確には喘ぎに押し流されて後が続かんなった。そうなるように腰を強く動かしたんは、返事を求めたはずの俺やった。す、から始まる言葉。同い年の従兄弟の心。全部有耶無耶にするみたいに、ぐずぐずの肉に出し入れして、思う存分そいつを啼かす。
「ぁっ、っ、きもち、」
 乱れる髪、震える睫毛、俺のをたっぷりしゃぶってくれた形のええ唇。なあ侑士、お前はあかんわ。
 綺麗で、かっこよくて、掃除してくれて、飯作ってくれて、気持ち良くて、俺の欲しい言葉をくれる。オレにとって、お前は都合がよすぎんねん。付加価値が多すぎて、好きとか嫌いとか、憎いとか愛とか、まともに判断できへんわ。
 肩にかけた侑士の足を、抱え直して、乱暴に腰を振るう。ちんこ、かたいっ、あかん、あかん、イく──抽挿の度に漏れる声。侑士のパンパンになったそこの、くっきりと血管の浮いた裏筋をぎゅって扱きあげたら、ナカがぎゅうぎゅう動いた。
 まだイったらあかんで、根本をきゅって掴んで、唇を重ねたら、薄い舌がとろとろ絡みついてきた。それを吸い上げて、歯の裏を舌先でなぞって、髪に隠れた耳に爪を立てる。侑士は俺の一つ一つの所作にいちいち反応して、体を震わせた。不健全やな、ほんま。
 俺が東京で一人暮らしするんを不安がっとったオカンは、こいつが一緒に暮らすいうて名乗りをあげたら、侑士君はしっかりしとるから安心やわって笑っとった。そのしっかりもんとこんなことになっとる俺は、やっぱ親不孝なんやろか。
 繋がる肉と肉。侑士の肩を抱き寄せて、更に深く繋がる。ぐちゅっぐちゅって、肉がハマるたびにやらしい音が部屋に響いて、明日からもここで生活すんのにどうなんのやろって他人事みたいに思う。
「っ、はぁ」
 舌が離れて、苦しげに息を切らす侑士の首筋を伝う汗。それを舐めとるついでにやらかい肉に噛み付いたら、痛いくらいに締めあげられて頭の奥が白んだ。
「イってもええ?」
「ぅ……」
 返事も待たずに、昔より薄くなった従兄弟の体をガクガクと揺さぶる。同性の、それも血の繋がった男の肉から与えられる快感。
「ああっ、ぃ、あっ!」
 ごつごつ、と行き止まりを打ち据えると、腹に生暖かいものが触れる。ねばい液体。侑士の体が小刻みに震える。精液や。それを認識した瞬間、俺は侑士のナカに白いものをぶちまけとった。

 重たい体をひこずって二人でシャワーを浴びて、それぞれの部屋で寝た。次に目が覚めたら朝の十時で、反射的にヤバイ遅刻やって思ったけど今はまだ春休みやった。
 昨日のあれこれが出来の悪い夢やなかったことを証明するみたいに、二十一の腰は怠い。大学に入ってからはテニスもすっかりご無沙汰やし、最近は女日照りやったから、あんな激しく動いたんは久々で、体の衰えをしみじみと感じる。
 侑士はまだ寝とるかもしれんな。そうであって欲しいっちゅー願いを込めて開いたドアの先、キッチンからええ匂いが漂ってくる。
「なに作っとん」
 何気ない風を装って訊く。侑士は顔を上げんまま、まな板にのったトマトに包丁を滑らせる。
「トマトと生姜と玉ねぎと、コムタンスープの素のリゾット……いや、昨日の残りごはんで作ったから雑炊に近いな」
「おー美味そうやな」
 切られたばっかのトマトが、まな板から鍋に滑り落ちていく。ぼとん、てはねた汁が包丁を置いた従兄弟のスウェットに散って、大丈夫か、言うて腕を引いたら、侑士はようやく顔を上げた。
 爽やかな朝日に抵抗するみたいに鬱陶しげに細められた目。それ自体はいつも通りなんやけど、案外鋭いそれを囲うみたいに丸いフチが……おいおい伊達眼鏡、復活しとるやないか。
「大丈夫そうやな。今朝は軽いもんが良かったからありがたいわ」
 数年ぶりに従兄弟の顔に収まったそれについて尋ねる勇気は俺にはなかった。
 出された朝メシはいつも通り美味い。せやけどダイニングテーブルの向かいに腰掛ける侑士の眼鏡が視界に映るたび、胸が引き絞られるような心地がした。
 ああ、かなわんな。らしくもなく時間をかけて、スープカップに装われた米の最後の一粒まで嚥下した俺は、簡単に荷物をまとめて、東京の家を飛び出した。




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