攻守交代2

赤柳
「ぅ、く……」
 小刻みな喘ぎ声が部屋の空気に漏れる。俺の部屋のベッドに窮屈げに体を横たえて、引き締まった内腿を晒した柳先輩のケツの穴には二本の指が刺さっていた。
 熟れた肉の熱に差し込んだ指をぎゅうぎゅう締め付けられると、腹の下の方が重たくなってくる。今すぐにでもいきり立ったのを差し込んで、女子にするみたいに抱き潰してやりたいけど、先輩の体の負担を考えるとそうもいかない。
 俺よりも体格がいい分、柳先輩の内側はやたらめったら締まりがいい。それこそ、無理やり押し込んだら、俺の方が怪我しちまいそうなくらいに。
 毎週毎週、部活やら、勉強やら(ほとんどしてねーけど)の合間を縫ってほぐしているのに、貝のように閉ざされたそこはちっとも柔らかくならない。
「柳先輩のケツマンコ、強情過ぎません? そろそろ俺に心許してくれてもいいと思うんスけど」
 軽い口調で言いながら、形の良い尻をはたくと、パンっとやけにいい音が響いた。
「くっ」
 柳先輩は、低い呻き声をあげて、調子に乗るなと言わんばかりにこちらを睨みつけてくる。だけど人差し指をくわえこんだ内側の肉はちょっとないくらいにエロっちくそれを締め付ける。
「先輩ってやっぱちょっとマゾ入ってるっしょ。アナルヴァージンのくせに、後輩にこんなとこイジられて気持ちよくなっちゃうなんて、フツーないっスよ」
「黙れ。お前は……本当に、」
「ゲレツっスか。別にいーっスよ、柳先輩とヤれたら別にどういう風に言われても」
 内腿に前歯を立てて、中を抉ぐるとこれまでにないくらいにナカがうねった。
「ぁ……」
 いつもは苦しげな柳先輩の喘ぎ声も、なんだかやけに甘く響く。今日こそはイケるかも。
 ゴムは、随分前に二、三回ヤった友達の姉ちゃんが部屋に置いてったのがある。いたいけな中学生男子の童貞を奪っておきながら、本当は挿れる方が用意するのがマナーなんだよ、とケラケラ笑っていた姉ちゃんの顔も今となってはおぼろげだった。それどころか、つい数週間前にセックスしたばっかのC組のざっきーの顔もよく思い出せない。
 それくらい、柳先輩とのセックスは俺にとって鮮烈だった。男同士だからか、この人が普段やらしい事に縁のなさそうな顔をしてるからか分かんねーけど、いけないことをしてるって感覚の与えられるセックスはとてつもなく気持ち良い。
「ね、先輩」
「なんだ」
 柳先輩は迷惑げな視線を俺に向ける。その軽く充血した目のフチにうっすら透明のものが滲んでんのがたまらなくそそられる。
「ゆっくり時間かけてならすんで、今日こそは挿れても、」
 そこまで言った俺の耳に、部屋のドアが激しく叩かれる音が届いた。
 その瞬間、つい数秒前まで切なげな呻き声を漏らしていた柳先輩がフッと真顔になった。先輩が上半身を持ち上げると、ローションに濡れた俺の人差し指は、ずるりと音を立てて抜け落ちる。
 ドアの外にはまだ人の気配がある。しばらくの無音の後に、軽やかな足音が聞こえてきた。姉貴の足音だった。

「今日はここまでだな」
 隣の部屋の主が室内に収まったのを確認すると、先輩はそう言った。まだ服も整えてないくせに、やけに爽やかな顔つきで。
 俺のチンコは臨戦態勢のままで、このまま姉貴のことなんて気にせずセックスを続行したいのはやまやまだったけど、真面目なこの人がそれを許すはずもなし、
「はいはい、分かりましたよ」
 ベッドサイドに置いておいたティッシュでローションに濡れた先輩の穴を拭った。無理やり行為を成し遂げるには、俺と先輩には体格差がありすぎる。
「タイミングわりぃ」
 土曜日の夕方、両親は揃って夕食を食べに出ていて、夜九時くらいまでは家の中には先輩と俺の二人きりの予定だった。
「姉貴も今日は彼氏と遊びに行くから遅くなるかもって言ってたんスよ」
「お前、その話を聞いて大浮かれして遅くなってもいいと言ったな」
「……言いましたけど」
「十四年弱もお前の姉をしているんだ。お前の考えていることなんてお見通しだろう」
「俺を見通すのはアンタ一人で充分ですけど」
「大事な弟が家族のいない家で悪さをしないか気にして戻ってきたんだろう。あまり長居をすると坐りが悪い。俺はもう帰るぞ」
 いつの間にやら着衣を整えた柳先輩は、部屋の入り口に置いてあった鞄を持ち上げてさっさと部屋から出て行ってしまった。

 一人きりの部屋にいると、今日こそは抱けたかもしれない柳先輩の体のことばかりが頭に浮かんだ。悶々として、パンツの内側に手が伸びかけたけど、さっきまで先輩の体に触れていたから、一人でするのも味気ない気がした。
 仕方なく、スマホを開いて漫画を読んだり、SNSを見たりしてみる。そうこうしてる内に腹が減ってきて、俺は財布を持って部屋を出た。近所のコンビニで弁当を買うつもりだった。ついでに、昨日発売の漫画雑誌も。
 リビングまでおりると、明かりがついてた。醤油の焼けるような匂いに、空腹が最高潮に達する。
「腹減ったー」
「チャーハンできるよ。そこ座りな」
 独り言のつもりで呟いたら、キッチンの中に立つ姉貴に呼び止められた。
「はいはい」
 小遣い浮くし、ラッキー。適当に返事をしつつもそういうことを考えながら椅子に座る。つい一時間くらい前にイイところを邪魔された恨みも、皿一杯に盛られたチャーハンを見たら吹き飛んだ。
 副菜とか、スープなんかが添えられてないとこが姉貴らしい。
「いただきます」
 スプーンを握りしめる俺の向かいに姉貴は座った。自分の分のチャーハンを怠そうに口に含みながらも、こちらから視線を離すことはない。
「……んなに見られると食いにくいんだけど」
「アンタさ、ああいうのやめなよ」
「あ、ああいうのって」
 核心に迫る言葉にたじろぐ俺をじっと見据えて、姉貴は溜息を一つこぼした。だからさぁ、と箸を置いて頬杖をつく。
「別にアンタがどういう相手と付き合おうが好きになろうが勝手だけどあの子はやめなって言ってんの」
 柳先輩よりもひとつ歳上の姉貴は、去年は生徒会で先輩と関わりを持っていた。
「お気に入りの後輩じゃなかったのかよ」
「気に入ってたよ。真面目だし、歳下だと思えないくらい落ち着いてるし、生徒会の時には助けられた」
 だけど、と呟いたきり姉貴は何も言わなくなった。あれやこれや言葉を重ねて、感情的になるのは、自分の性格には合わないと思ってるみたいだった。
 姉貴は、しばらく前に全国大会決勝のDVDを見たらしい。あの日と準決勝の日は、家族の誰も応援に来なかった。親も姉貴もどうせ勝つでしょ、と俺を信用していた。実際、立海は負けたけど、俺は試合に勝った。
 それなのに、仲の良い後輩に焼き増ししてもらった試合のDVDを、姉貴は母さんや父さんに見せなかった。見せられなかったんだろうな、と柳先輩は無表情に頷いていた。
「姉貴がどういうこと想像してんのか知らねぇけど、柳先輩のことはフツーに尊敬してるだけだから」
 付き合ってるわけでもないし、そもそも柳先輩のことが好きなわけじゃない。いつかテニスであの人を打ちのめしてやりたいと思う延長線上に、カラダで先輩を支配したいってのがある。
 それをそのまま口に出したら余計に突っかかってきそうだから、とりあえず黙ったままチャーハンをかき込んだ。
「まぁ、いいけど、アンタ立海入ってからなんか変わったよ。時々ちょっと怖いわ」
「成長したんだよ」
「……あっそ。チャーハン出してあげたんだから洗い物はしといて」
 捨て台詞みたいに言って姉貴は階段を上がっていった。

 校内でボヤが起きたのはそれから数日が過ぎた金曜日の午前のことだった。
 誰にとっても気怠い昼メシ前の四限の途中、念仏みたいな英語教師の声をかき消すように鳴り響いた火災報知器の警告音は、朝から続いた眠気を吹き飛ばすには充分なものだった。
 避難訓練以外でそれを聞いたのは、たぶん誰にとってもその日が初めてで、クラスの気の弱い女子が泣き出したのをきっかけに、教室中が大パニックになった。かくいう俺も軽くビビって、隣の席の奴とやべーとか言い合いながら、窓から身を乗り出して、英語の日内に怒鳴られた。
 しばらくして訓練の合図のない校内放送が、火事の火元を報せる。それが隣の校舎の生徒会室で、火は既に消し止められたと分かると、クラスの空気は一気に緩んだ。
 いつの間にやら戻ってきていたクラス担任の指示に従って、時たま無駄口を叩きながらグラウンドに避難する。
 近頃はまた空気が乾燥し始めたからなぁ、という担任の呟きを聞いた瞬間に見上げた空は、青く、澄みきって、高く見えた。

 部活終わりで汗ばんだ体を入念に拭いて、部室から出たら、夜風がやけに肌に染みた。
「ちょっと冷えるようになってきたね」
 隣に並ぶ玉川が、長袖シャツの裾を伸ばしながら呟いた。
 こいつ練習中もずっと長袖ジャージ着てんだよな。暑くねぇのか。
 夜の気温は多少下がってきたとはいえ、部活の始まる夕方前はまだまだ日差しがキツい。そんな中で、あんな暑苦しいのを着たまま涼しい顔をしてる玉川は皮膚の感覚が鈍いんじゃねーかと思う。
「切原、俺はここで」
「はぁ」
 大して会話も弾まないのに、なんとなしに隣に並んで歩いてたら、玉川が急にそんなことを言うから顔を上げた。
 校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下の下に、そっと隠れるようにしてポニーテールの女が一人立っている。最近時々練習を見にくる玉川の彼女だ。
 新体操部の練習が終わってからもうちの部が解散するまで待ってるんだと思うと、健気さに胸がちりちりする。
「じゃあまた明日の部活で」
 どこまでも爽やかな玉川がそう言うのに続いて、玉川の彼女もこっちに会釈してくる。柳先輩の方が可愛い、とはとても思えねぇし、そもそも俺と先輩は付き合ってすらない。
「じゃあな」
 いやに侘しい気分になりながら、俺は小走りにその場を去った。だらだら歩いて、二人の会話を盗み聞きするハメになるのも嫌だったからそうしたのに、門を出る前に振り返ったら、玉川と彼女は未だに合流した地点に立ったままだった。

 門から外へ出ると、湿り気を含んだ潮風が体を包んだ。少しすえたような、海の匂いだ。毎日のことなのに、未だに汗の匂いと錯覚して、鞄の中の制汗剤に手が伸びそうになる。
「はぁ」
 ひとつ溜息をこぼして、もう一度歩き始めようとした時、誰かが俺の背中を叩いた。
「うわっ」
 完全に油断していた俺が飛び上がると、「大袈裟な奴だ」と呆れたような声が降ってきた。そのまま体を抱きすくめられると、身動ぎのひとつもとれなくなる。
「人が見ますよ。まだ部活終わりの奴らわりと残ってるし、玉川の奴もそのへんにいるし……って、まさかわざと見せびらかそうとしてます? 俺はそういうの嫌いじゃねーけど」
 嫌いじゃない。むしろ燃える。
 だけど俺が言い終えるよりも先に手を離して、隣に並んだ柳先輩は、ちょっとヤになるくらい涼しい顔をしてた。ラブラブモード入ったんじゃないのかよ、可愛くねぇ。
「だいぶ待ちました?」
「十分程度だ」
「なんで私服なんスか」
「一度家に戻って来週の予習をしていた」
「相変わらずマジメっスねぇ」
 テニスのしすぎで頭のネジの二、三本飛んだのか、今の俺はこの人のそういうところを逆にやらしいと思ってしまう。
 普段はデータ収集とか、読書とか、テニスとか、有意義なことにしか自分のキャパを振らないこの人が、男同士のセックスなんて、この世の中でも指折りに身にならないことに夢中になってる姿を拝めるのはこの世の中で俺だけだ。
 その優越感が、俺を縛りつける。
「生徒会室、見に行きましたか」
 部活が始まる前、野次馬根性を出して生徒会室を覗きに行った。見張りに立ってた隣のクラスの担任は、危ないから中入んなよと軽く顔を持ち上げたものの、廊下から身を乗り出して部屋の中を覗き込む俺を止めようともしなかった。
 小テストの採点があるのになぁ、と呟く声が右から左に抜けたとき、視界に煤だらけになった一脚の椅子が映りこんだ。
「先輩がしゃぶってくれたときに俺が座ってた椅子も燃えてましたよ」
「火事場見物の感想がそれか」
「俺にとっては大事な思い出なんスよ。あそこがあんな風になると、柳先輩が俺にケツ穴預けてくれるって言ったあの日の約束まで燃えちまったような気がして」
「勝手に燃やすな」
 そう言って歩みを止めた柳先輩は、俺の腕を強く引いて、
「今晩は祖父母と両親が旅行に出ている」
 そんなことを耳元で呟いた。

「こら、あまり急いで食べると喉に詰めるぞ」
 親に友達の家に泊まると連絡を入れながら、先輩が猫に餌をやるのを横目に眺める。
 柳家に最近登場したその猫は、あまり人懐っこいタチじゃないようで、先輩が玄関の鍵を開けると、ナオナオと嬉しげに顔を見せたが、俺の姿を認めるとギャっと低い声を上げてキッチンに逃げて行った。
「先輩には懐いてるんスね」
 やっかみ半分呟くと、「餌をやることが多いからな」と返ってきた。
「俺も先輩に餌付けされたいなぁ、なんて」
「充分だろう」
 緩く笑った先輩は、俺の手を引いて二階に上がった。部屋の前で、中に入ろうとする猫に、「こら」とかける声が優しい。
「ネコ、誰が飼おうって言い出したんスか。まさか先輩?」
「まさかとは何だ」
 カーディガンをハンガーにかけてからベッドに腰掛けるその姿を眺めながら、そういやこの人も長袖ジャージ族だったと思い出す。
「イヌネコ可愛がるようなキャラじゃないでしょ」
 本当は面倒見の良い人だって分かってんのに、わざとヤナ言い方をしてやった。
「姉が知人から貰い受けてきたんだ。マイペースで、御し難いが、飼ってみると案外可愛い」
「そのおねーさんは今日は」
 隣に腰掛けて、キスを求める、先輩は緩慢な動きで俺の唇を貪ってから、
「友達の家に泊まると聞いた」
 糸のような目を向けて、そう答えた。
「じゃあ今日は“そういうつもり”で誘ってくれたんスね。ひゃー先輩のスケベ」
 ヤる気満々で誘ってくれたんだと思うと、挿れる側にこだわってんのが馬鹿馬鹿しくなってくる。近頃はペッティングばっかで、本番はとんとお預け状態になってるから、今晩は時間の許す限り先輩のアレを受け入れたい。うわ、想像したら勃ってきた。
「赤也」
 腰にくる低い声をあげて俺の耳の後ろを先輩が撫でる。そのまま布団の上に押し倒されて、やっぱり先輩もソッチのつもりか、なんて考えながら、口の中に押し入ってくれる舌の感触を楽しむ。
 柳先輩のキスは、見かけに反して案外しつこい。それこそ恋人でもないのにって言いたくなるくらいにジョーネツ的だ。
「せんぱい、」
 息継ぎの合間に、薄目を開くと、先輩の険しい目が揺らいだ。
 日頃の滑舌の良さを表したみたいに器用に動く舌が、歯の裏とか、頬の内側の壁を掠めていく。こそばゆさが、神経を伝って、下半身を刺激するのを俺が意識して、もぞもぞし始めると、今度はねちっこい音を立てながら、舌を吸ってくる。
 このまま、この状態が続いたら溶けてなくなりそうだし、実際溶けて同化してもいいくらいに思ってんのに、ある時唐突に先輩の唇は離れていった。
「はぁ、今日は一段としつこいですけど、なんかありました?」
「今日は九月二十五日だ」
「俺の誕生日、覚えてくれてたんスね」
「忘れるわけがないだろう」
 この忘れるわけがないだろうは、俺の誕生日にかかってるわけじゃない。この人はたぶん、部員全員の誕生日を覚えてる。
「なんかプレゼント用意してくれてます?」
「俺だ。欲しいか」
「めちゃくちゃ欲しいっス」
 何言ってるんスかとか、似合いませんよとか、いつもの俺なら絶対茶化してるとこなのに、思いがけず真面目な声が出た。プレゼントはオレなんて意のふざけた台詞とは裏腹に、柳先輩の瞳は揺らいでる。柄にもなく緊張してくれてるんだと思ったら、心臓がかたまって息苦しくなった。
 酸素を求めて口をパクつかせると、もう一度キスをされた。今日、この人を抱けるんだって思うと、身体中の血がたぎって、体を包んでいた理性の糸が一本切れた。
 さっきとはうって変わって遠慮がちに差し込まれた舌に前歯を立てて、先っぽをしごくように甘噛みする。柳先輩は、自分が責めるときは余裕ぶるくせに、主導権がこちらに移ると泣き出しそうな顔をする。そういうところは少し可愛い。
 ぢゅうっと音を立てて、キスを続けながら、先輩の体をがっちりホールドする。もちろん、身長も体重も全く及ばねえから、拒絶されたらひとたまりもないけど、先輩にその意思は全くない。俺にめちゃくちゃにされるのを期待するみたいに、ねばつく糸のような視線でこちらを絡めとる。
「先輩の、すげー勃ってる、俺とちゅーすんのそんなに気持ちいい?」
 勃起したものに押し上げられた布地を、指先ですっとなぞると、柳先輩は、小さく息を詰めた。
「人のことが言えるようなザマか」
「俺は柳先輩とちゅーすんの好きなんで」
 お互いのズボンの前をくつろげて、ボクサー越しに裏筋同士をこすり合わせる。
「っ」
「はぁ……」
 ガチガチになって、敏感になったそこがこすれ合うたびに、痺れるような快感が背筋を駆け上がってくる。
 思わず漏らした吐息を引き取りたがるみたいに、柳先輩が舌を出したから、またキスをした。別にキスなんて、特別好きじゃないのに、柳先輩となら何回しても気持ちいいのが不思議だった。
「ん、」
 深い舌の抜き差しを繰り返しながら、少しずつ柳先輩のボクサーをずらしていく。先輩の先走りで、腹とか、パンツの布地が汚れるのも全く気にならない。つーかむしろ汚してほしい。
 キスを終えたタイミングで、パンツとズボンを脱ぎ捨てて、先輩にも、「脱いで」ってお願いしてみる。裸なんてお互い見慣れてるのに、どこか恥ずかしげに下半身をむき出しにした柳先輩は、それでもイニシアチブを完全に握られるのには抵抗があるみたいで、もう一度俺の上に跨った。
 軽く体重をかけられる。ずしりとした重さが心地いい。
 痛々しいくらいに勃起した先輩のちんこは、あいも変わらず赤黒くて、グロテスクにテカっていた。涼しげな顔立ちと、そこのギャップがたまらなくやらしい。
 ローション出してって言ったら、ベッドの下にひょいって手を伸ばす。柳先輩の家でするのは久しぶりだったから、ないかもしれないと思っていたのに、結構デカめのペペローションが出てきた。
「このローション、俺と使うの初めてなのにかなり減ってますね」
 明るい口調で言ってみても、柳先輩は黙ってた。俺には、女と寝るなって言ったくせに、自分は他の人間と寝てんのか。部屋に女を連れ込む柳先輩を想像したら、下っ腹が重たくなった。
 柳先輩が、俺以外の人間と寝てるところが見てみたい。出来たらクローゼットとかに隠れて。それで、先輩がその人を見送ったあと出ていって、今度は俺がセックスする。抱かれるんでも、抱くんでもいい。きっとめちゃくちゃ気持ちいいはずだ。
「こら」
 馬鹿な妄想をしてたら、頭を小突かれた。集中しろ、と笑いを含んだような声で言われる。今日は先輩に、余裕を持たせたらいけない。そういう顔を見ると、ハメるんじゃなくてハメられたくなるから。
 柳先輩の手からローションを取り上げて、手のひらに、溢れかける寸前まで注ぎ落とす。両の手でねっちゃねっちゃとそれを伸ばして、腹の上で丸を作った。
「せんぱい、俺の手オナホにして」
 恥ずかしげもなく言い切って舌を出すと、
「……お前は」
「っ……」
 勢いよく肩口に噛みつかれた。ぎりぎりと力を込められると、腹の奥がしびれる。痛点を通じて、痛いのと気持ちいいのが交互に顔を出す。
「せんぱい、もっと」
 内腿を擦り合わせながら煽ったら、手で作った輪っかの中にいきり立ったのを差し込まれた。ローションにまみれて、滑りの良くなった手のひらを、先輩の血管の浮き出たちんこが蹂躙する。
「く、」
 苦しげに呻いた先輩が、噛みつく力を強める度に、ちんこの先っぽから先走りが漏れる。
「ぁっ、せんぱ、痛いの、気持ちいい」
 蕩けた表情で喘ぎながら、手の中にある太いのをぎゅうぎゅう握り込む。それこそ痛いかもってくらいの力を込めても先輩のは萎えなくて、むしろ肩口から聞こえる吐息は、荒くなっていく一方だった。
「柳先輩も痛いの好きなんでしょ」
 ヘンタイですもんねぇ、と鈴口に親指を這わせると、先輩の体はびくりと震えた。力を込めてそこを擦るたびに、柳先輩のこぼしたとろとろとしたものがローションに混ざる。
「あ、かや」
 熱っぽい声で名前を呼ばれると、それだけで興奮した。
 先輩の、他人には滅多に晒さないであろうパンパンになったちんこが俺の手の中にある。指の付け根の皮膚の薄い部分に嵩の張ったカリが触れるたび、俺はそれを握り潰したくなる。
 上品げな顔立ちと反比例するみたいに赤黒く充血したグロテスクな先輩のちんこの表面には、太い血管が浮き出ていた。それを絡めとるみたいに撫でさすると、気持ちよくてたまんないって風に呻きながら、俺の頭をかき抱いてくれる。
「っ、はぁ……」
 射精に向かって一心不乱に登り詰めていく先輩は、部屋の外で猫がドアを引っ掻くカリカリって音にも気がつかない。そんなに手で擦られるのが気持ちいいのか。
 先輩があんまりヨさそうだから、自分のなのに妬けてきて、「イくときは俺のナカで」って言いそうになる。もう慣らさなくていいから、今すぐにでも後ろのアナに先輩のぶっといのを突っ込んで、無茶苦茶にしてほしい。
「あかや、もう出る」
 先輩が、熱に浮かされてはっきりしない声をあげる。俺の頭を抱える腕に力を込めて、先輩は腰の動きを早めた。このまま締め殺されてもいい。
「俺の手、そんなにいいんスかぁ」
 ローションにまみれたちんこが立てるぐじゅっぐじゅって音に紛れさせるみたいに言ったら、先輩の腰の動きが止まった。
 狭すぎる輪の内側から、ちんこを引き抜いた先輩が体を起こす。薄く笑いながら、頭を撫でてくれるその顔が、あんまりにも優しいからぼーっとしていると、今度は半開きの口の中にちんこを突っ込まれた。
「ん、ぐっ」
 頭を撫でていたその手で、髪の付け根を引っ掴んだ先輩は、「歯を立てるなよ」と言いながら、最後の抜き差しを繰り返す。
「ん゛っ、ん゛」
 喉の奥まで犯し尽くす先輩の質量に、半分涙目になりながら口を窄めてたら、頭からブチって音がした。あ、何本か持ってかれたな。柳先輩は案外荒っぽいのが好きだ。
「くっ、う……」
 先輩の呼吸の感覚が短くなってきたのを見計らって、舌を血管に這わせる。グリグリと力を込めて、カリの段差とか、裏筋のあたりをいじめてたら、先輩はうわ言のように俺の名前を呼んだ。
「んん゛」
 返事にならない呻きを鼻から漏らした瞬間、粘度の高い液体が口の中に広がった。
「いっぱい出た」
 中の精液を自慢するみたいに口を開いて見せる。前に同じことをしたときは、ゲンコツをくらったけど、「お前は本当に」と言葉を飲み込んだ先輩は、痛む地肌を指でなぞってくれた。
「ゲレツっスかぁ」
「味わって飲めよ」
 猫にしてたみたいに、先輩は俺の顎の下を撫でる。前まではそんなこと言わなかったのに、最近の先輩はやらしいこと、下品なことを心の底から楽しんでいるように思える。
「サイコー」
 青臭い味を楽しむみたいに口の中でもぎゅもぎゅさせてから、俺は先輩の精子達を飲み込んだ。
「たくさん死にましたね」
 粘り気のある液体の最後の一滴を食道に流し込んでから笑うと、
「趣味が悪い」
 下唇に噛み付かれた。勢いが良すぎたのか、それは甘噛みではすまなくて、舌の先っぽが鉄の味をとらえた。わりと深くキズがいったみたいだ。やっぱり最近の先輩は、ネジが飛んでる。
「先輩そこに転がって」
 射精を終えた気怠さからか、シーツの上に転がる先輩の動きはやけに緩慢だった。あんまり緊張した状態だと入るモノも入らなくなりそうだから、その辺は狙い通りだった。
 唇から血が滴り落ちるのも気にせずに先輩の腹に顔を近づける。控えめに窪んだヘソにキスをして、陰毛の根本のあたりを指でなぞる。
「ね、本当にここに俺の挿れていいの」
「誕生日だろ。好きに使え」
 冷えた声だった。
「女子はこういう風に言ったらめちゃくちゃ媚びた声あげてくれるんですけど」
「都合の良い生き物なんだな」
 そう言う柳先輩は、この前と違って、嫉妬してるようには見えない。
 この人が俺に体を差し出す理由は、どこにあるんだろう。罪滅ぼしか、独占欲か。どちらにしても、どっちでもなくてもどうでもいいけど。ただ俺は、この綺麗な人が自分をなくす姿が見たい。
「指ハメますよ」
 ハリのある尻肉に埋もれた穴に指を這わせる。
 普段は、指の一本を飲み込むのにもめちゃくちゃ時間がかかるそこが、今日は軽く力をこめて表面を押しただけでとぷんと指の先端を飲み込んだ。
「はぁ、なんでこんなに柔らかいんだよ」
 独り言みたいに呟いたら、先輩の体が小さく震えた。指を進めた内側は、粘り気を伴って濡れている。先輩がいつも俺にしてくれるみたいに指をぐるりと回したら、ぐちゅりと水気を含んだ音が部屋に響いた。
「これ、自分でやったの」
「っ、」
「どエロじゃないスかぁ」
 ぎゅうぎゅうと俺の指を締め付ける肉を、優しく、慎重に押し広げていく。乱暴になんて出来っこない。ここであまり調子に乗りすぎると、全部が振り出しに戻っちまうことくらい俺にも分かってた。
 それでも、
「都合のいいのは自分の方でしょ」
 優しい指の動きと、反比例するみたいに、俺の舌は意地悪く回った。
「くっ、ぅ」
「いくら誕生日だからって、処女のオトコが、ケツ穴にハメられるために普通ここまでします? どうでもよさそうは顔してたけど、本当はめちゃくちゃ犯されたかったんじゃないの」
「馬鹿を言うな、ぁっ」
 俺が嘲るような言葉を吐き出すたびに、先輩の内側はこちらを誘うように蠕動する。一度は射精して萎えていたナニも、半分芯を持って勃ちあがりかけていた。
「イジワル言われたらそれだけでヨくなっちゃうんスねぇ。アンタが普段俺にしてくれる酷いことって、自分がされたいことなんじゃないスか」
 半勃ちのちんこの先っぽを舌でつつきながら、前立腺を押しつぶす。ぐりん、とかたい感触が指の腹に当たった瞬間、
「アッ」
 柳先輩は、今まで聞いたことのないような高い声をあげた。それが面白くて、そこばかりを重点的に責める。
「家で予習してたなんてウソついて、ケツ穴グショグショにして、少しもらしくないじゃないスか」
 あー早く犯してぇ。つーか何なの、この人。やらしいことなんて一度も考えたことないような顔して、なんでこんなにエロいんだ。
 家族の出払った一人の家の中で、俺に犯されるために一人で尻のアナを慣らす先輩を想像する。
 腹に張りつく一歩手前まで勃起したちんこの先端からは、先走りが溢れていた。俺の指を飲み込んで拡がる先輩のアナは、真っ赤に充血していて、今すぐにでも捻じ込みたくなる。
 それでもガマンして、二本目の指をゆっくり挿入した。
 柳先輩みたいな性癖の歪んだ人間は、焦らされれば焦らされる程にヨくなる。俺も似たような趣味だから間違いない。
「あかや、」
 ちゅーしてって言うみたいに、舌を出した。ついさっき俺の唇に傷をつけた、並びのいい歯が白く光っている。横っ面を思いっきり殴りつけて、それをへし折ってやりたい。別にこの人を恨んでるわけでもないのに。俺の暴力性はコートの外でも遺憾無く発揮される。
 それでもまあ流血沙汰はまずいから、だらしなく開いた口の中に唾液を垂らしてやった。流石にヤな顔をされるかと思ったけど、先輩はとろんとした目をこちらに向けたままそれを飲み込んだ。ゆるゆるだった内側がきゅっと引き締まる。
「ヘンタイ」
「あっ、アァ……」
 内側を無茶苦茶に犯してた指を抜き去って、小さな穴のあいた先輩の入り口に、ローションをたらたらと垂らす。内側がとっぷりと濡れたのを確認して、今度は三本一気に挿入すると、「ぐっ」とくぐもった喘ぎ声を先輩はもらした。
 指を動かすたびに、ぐじゅっぐじゅっていう汚い水の音が、部屋中に響く。
「女子みたいに濡れないのもそれはそれでアリっつーかなんつーか、こうやってローションでぐずぐずになってろとこを無理やり広げてくのもやらしいと思いません?」
「っ、知るか……ぁ」
「普段自分がやってることじゃないスか。柳先輩が俺のことどう思ってるのか知んねぇけど、カラダは好きでしょ。抱きたかったら、俺がハメたあと挿れてもいいっスよ」
 夜は長いし、こうやって先輩のナカをほぐしてる間も、俺の内側は疼いていた。
 空いた左手で自分のを慰めたいのを必死に堪えながら、先輩のナカから指を引き抜く。
「お前の、そういう見境のないところが、ア゛ッ」
 指が抜けたのに油断したみたいに口を開いた先輩のケツ穴に、ガチガチになったちんこを突き立てる。ローションと肉の混ざり合うじゅぷって音に、先輩の荒い喘ぎ声が混じるのにめちゃくちゃ興奮した。
「すんませーん、ガマン出来なかったんで」
 一応余裕ぶってみたけど、本当はちょっと泣きそうなくらいイイ。さっきまで指三本を受け入れてたのが信じらんねぇくらい締まった先輩の穴の中心は、ローションと俺の先走りがぐちゅぐちゅになってしとどに濡れていた。
「あっ、ああ……」
「っ、はぁ……やべぇ、柳先輩のナカ、ヨすぎ……」
 ちんこと先輩の肉の境目が分からない。ヘソから下が溶けてなくなりそうだ。
「く、あかや」
 まだカリの根元までしか入ってないのに、俺のを受け入れる先輩は半分涙目になってこちらを見上げていた。
 この人のこんな顔、初めて見た。
「いいザマっスねぇ。後輩にメスにされた気分はどうスか」
 心にもないような言葉ばかりが、口をついて出る。別に俺は、そこまで激しくこの人をいたぶりたいワケでもない。どっちかつーとイジめられる方が気持ちいいし。
「先輩のキツすぎて、俺の食いちぎられそ」
 だけどイジめられるのが好きなのは柳先輩も同じで、俺が馬鹿にしたような声を上げるたびに、内側の肉をぎゅうぎゅう締め付けてそれに応える。やべぇ、本当に持ってかれる。
 だらしなく広げられた先輩の足を一本とって、筋肉の膜に包まれた腿に抱きつくみたいにして、挿入を深めていく。俺のちんこは、柳先輩のに比べたら、そりゃあ太さでは劣ってるけど、それでもアナルヴァージンのこの人を苦しめるには充分な質量を伴っているみたいだった。
「せんぱい、いたい?」
 いかにも気怠げに首を横に振って、先輩は俺の挿入を助けるみたいに腰を揺すった。はやく、といつもよりか細い低い声で煽られて、頭の中が真っ白になる。
「じゃあ遠慮なくっ」
「アッ、ぐ」
 半端なところで留まってたちんこを、根元まで一気に突き刺す。言葉とは裏腹に強い抵抗を示す先輩の肉壁の最奥が、ぐねぐねとうねるのに、何度も先っぽを叩きつけた。
「っ、ぅ……あっ」
 柳先輩、普通に喘いでる。なんかすげー似合わないのが、逆にやらしくて、ちょっとヤバい。油断したらすぐにイキそ。
「先輩のケツマンコ、俺のが串刺しになってんの見える?」
「み、たく……ない、っ」
「見たらコーフンするくせに」
 俺のちんこを締め上げる柳先輩の入り口は、生き物みたいに充血していた。内側の肉を、穿つように俺が抜き差しするたびに、生き物みたいにひくつく。
「自分で慣らすときはどうしてたんスかぁ。ゆび、それともまさかオモチャ?」
 根元まできっちり挿入して、のの字を描くみたいに腰を回したら、いつの間にか完勃ちになってた柳先輩のちんこが、びくびくと震えた。
「ゆび」
「何本まで入った?」
「っ、三本だ」
「へぇ、柳先輩指太いのに、わりと攻めますね」
 苦しかったでしょ、と笑いながら、指よりも太いもので肉の一番奥をグリグリと押しつぶす。カエルのひしゃげたような声を柳先輩は上げる。クラスの女子が、「テニス部の柳先輩、クールでちょーカッコいい」ってはしゃいでたこの人の、普段とは百八十度違う姿を、自分だけが知ってる優越感で、腰の奥が重たくなった。
 奥に、奥に、ピストンを深めるたびに先輩の声は大きくなる。自分のとも、柳先輩のともつかない荒い呼吸音が、部屋の空気に混じって、頭が変になりそうだった。
「っ、あかや、そこは……」
「そこってどこ」
 くるみ大にふくらんだしこりを、カリ首で擦りつけながら、柳先輩のグロテスクなペニスをシゴきあげる。手のひらの中で小さく拍動するそれの、太く浮き出た血管に指を這わせるたびに、先輩は苦しげに呻いた。
「っ、う」
 一回出したとは思えないくらいに太い先輩のちんこを触ってると、今腰を振って、相手を犯してるのがどっちなのか分からなくなってくる。
 柳先輩の肉が、俺のを締め付けるたびに、柳先輩が、かすれた声で、あかやって呼ぶたびに、痛いくらいに気持ちよくて、背筋がぴりぴりする。
「はぁ、せんぱい、早く俺も」
 ナカに欲しい。先輩のぶっといので、内側全部ひっくり返るくらい激しく犯してほしい。
 痛々しいくらいに張り詰めた先輩のちんこの先っぽからは、とろりとした先走りが溢れ続けていた。それを塗りたくるみたいに手での奉仕を続けながら、持ち上げた足のふくらはぎに歯を立てる。
「くっ」
 瞬間、ぬるぬるの内側が俺のを誘い込むみたいに蠕動した。
「あ゛っ、あんま締めたら」
 やっと先輩のナカに入れたのに、簡単にイったらもったいない。
「先輩のナカ、ヨすぎます……ずっと入ってたい」
「っ、う」
 硬いちんこでナカを突くたび、柳先輩の眉間の溝が深まる。らしくないっスよ、と先輩のをシゴいてた手でそこを撫であげたら、ちょっとないくらいに鋭い目を向けられた。
「そろそろ出せ」
「ぁ、もったいないじゃないスかぁ」
 奥まで入り込んだのを、一旦ぎりぎりのところまで引き抜く。来るべき衝撃に備えるべくして、先輩は体を固くする。その姿がめちゃくちゃ可愛くて、舌なめずりをしたら、下唇の傷が開いて、鉄の味が口いっぱいに広がった。
「柳先輩が二人いたら、犯しながらハメでもらえんのに」
 半分本気で言った俺を、柳先輩は瞬きもせずに見上げた。下唇の傷口に手を差し伸べて、指先についた赤い血をぺろりと舐めてから、こんなことを言う。
「一人で充分だ。俺は案外独占欲が強、いっ、クッ……」
 言葉を最後まで引き取る前に、腰を大きく動かした。柳先輩のナカの一番敏感な部分をしつこく責め立てると、先輩は観念したみたいに大声で喘いだ。
「ア゛ッ、あかや、ぁ」
「せんぱい、締めすぎ……っ」
 先走りなのか、ローションなのか分からないもので濡れそぼった先輩の内側がぐねぐねと蠢く。今すぐにでも出したいのを堪えて、必死に腰を揺すってたら、下っ腹が痙攣し始めた。
 やばい、イくっ……! 反射的に息を止めて、ピストンを中断した俺の腰に、先輩の長い足が巻きついた。
「っ、欲しいんだろう。早くイけ」
「アア゛ッ」
 尻肉を擦り付けるように腰を揺すられて、内側をきゅうきゅう締め付けられて、俺は情けない嬌声を漏らした。
「せんぱ、も、イくっ……あっ」
「くっ、」
 ダメ押しに先輩の体が痙攣した瞬間、俺は柳先輩のナカに全部を吐き出していた。

 ナカに出された精液の始末を終えて部屋に戻ってきた柳先輩は、妙にスッキリした顔をしていて、「まさかヌイて来てないですよねぇ、無駄打ち厳禁っスよ」と喚いた俺の額を軽く小突いた。
「くだらないことを言うな」
「俺、誕生日なのに」
「そうだったな。十四歳の誕生日おめでとう」
 取ってつけたように言って、先輩は俺の体を抱き寄せた。心がこもってなーい、とボヤいた俺の下唇の傷口を、尖らした舌で突く。
「っ、そういうことされたらすぐ欲しくなるからやめ、」
「お前のことだから、すぐにでもハメろと言ってくると思ったが」
「ハメ……そういう似合わないエロ語使うのもやめてくださいよ。すげームラムラする」
「誕生日だからサービスしてやってるのが分からないのか」
「俺はもっとピロートーク的なのも楽しみたいんで」
「そうか。なかなか悪くなかったぞ」
 取ってつけたように言った柳先輩が、俺の耳の後ろの髪を静かに梳かす。付き合ってるわけでもねーし、別にラブラブしたいわけじゃねぇけど、こういう体の触れ合いは気持ちがいい。
「そういえば。今日のボヤ、生徒会の担当の教師のタバコの不始末が原因だったらしいじゃないスか」
「どこで聞いたんだ」
「部活中に玉川が、」
「意外と親しくしているんだな」
「玉川が、他の部員に耳打ちされてんのを小耳に挟んだんスよ」
「お前は本当に人望がないな」
「先輩達のせいでしょ」
 試合中にあんな風に正気を失うチームメイトを慕う男子中学生がそうそういるとは思えない。
「まぁそんなことはどうでもいいんスけど。その生徒会の教師の、」
「田之倉先生だな」
「そう、田之倉先生。普段から授業が空いたときなんかにあそこでタバコ吸ってたらしいじゃないスか。鍵もいつも持ってたって聞くし」
「そういう話だったか」
 柳先輩は憎たらしいくらいに平坦な相槌を打ちながら、俺の体をシーツに縫いとめた。
「柳先輩もしかして、この前あそこでエッチしたとき、田之倉先生が入ってくるかもしれないって知ってたんじゃないスか」
 部活中からずっと考えていた疑問を投げかけると、俺の髪の毛を撫でる柳先輩の指の動きが一時止まった。非難めいた視線を俺がやると、唇の端をわずかに緩める。
「それくらいのリスクがないとああいう場所でする意味がないだろう」
「なっ」
 やっぱりこの人はどヘンタイだ。完全に引き気味の俺耳元に唇を寄せた先輩は、
「しかし、お前に教えてやらなかったのは悪手だったな」
 そうすれば二人とも楽しめた、と冗談ともつかない声で囁いた。
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