攻守交代1

 昼休みの学食は喧喧としている。
 遅めの昼飯を食おうとホールに入ってきた奴らが、席がほとんどあいてないんで諦めて、弁当でも買おうと隣に面した生協に戻っていくのを何度か見かけた。
 そろそろ出るか。ちょっと打ちたい気分だし。
 トレイの上の空っぽの皿を見下ろしながら考えていると、向かいに座っていたクラスの奴が身を乗り出した。
「なあ、お前C組の尾崎とヤったんだろ」
「はぁ?」
 間抜けな声が出る。普段はやけにバカでかいそいつの声が、周りの喧騒に押し負けている。
 C組、立川、ヤった。何秒か遅れて三つのワードが頭の中で組み合わさる。C組のざっきー。先週二人でカラオケに行った。歌が上手いだのなんだののせられて、親のいない家に誘われた。
「なんで知ってんだよ」
「本当なのかよっ」
 自分で聞いてきたくせに、なぜか怒ったような声だった。
「お前こういうときは普通誤魔化すもんだろ」
 なんで知ってんだよへの返答は聞けそうにもない。
「尾崎から聞いたのかよ」
「直接なんか聞けるわけねぇだろ、あんなカースト上位女子に」
 分かってねぇなぁ、と溜息をつかれて、けったるくなった。
 尾崎の目は、そんなに大きくない。よく見てねぇけど、たぶん奥二重だ。だけど色が白くて、肌が綺麗で、ぱっと見はツヤのある白くまみたいな見た目。鼻とか口の置きどころがいいから、なんとなくモテんのも分かる。
 体型は普通よりもぽっちゃり寄りで、裸の腹に手を埋めたら気持ち良かった。女子にああいう風に触るのは久しぶりだったから結構アガっちまって、部屋の引き出しから出てきたコンドームをつけて二回も出した。
「声が可愛かった。あん、て感じで」
 ああいうのあの人は聞かせてくれねぇし。
 ひとつ年上の先輩の、小憎たらしくなるくらいに涼しげなを顔を思い浮かべる。あっちが部活を引退してからはほとんど顔も合わせてない。
「なんでお前はそんなにモテんだよ!」
「モテてねぇよ。付き合ってないし、一回ヤっただけ」
「楽しそうな話をしているな」
 馴染み深い声が背中にぶつかった。
「げ」
 下膳するためにトレイにかけていた指に思わず力が入る。
「赤也」
 季節感度外視に冷え切った声に引きずられるようにして振り返る。口元を軽く歪めた柳先輩は、「部のことで話がある」と俺の肩に触れた。
「テニス部のことなら玉川に……」
「玉川は捕まらなかったからな、お前でいい」
 軽く痛むくらいの力で肩を掴まれて、弾かれたように立ち上がる。まるで本当に逮捕されたみたいだ。
「……わりぃけど、これさげといて」
「お、おう」
 柳先輩の発するただならぬ雰囲気を察したのか、そいつはブンブンと首を縦に振る。
「すまないな」
 軽く会釈して歩き出した柳先輩に伴って、学食ホールを出る。渡り廊下から校舎に移って、階段を登る間、柳先輩はむっつりと黙り込んでいた。
「先輩、俺」
 女子とヤっちゃいました。でも柳先輩の方が良かったっスよ、とか言ったら許してくんねーかな。むしろ怒るか。この人の怒りのツボは分かりにくい。
 先輩とはしばらく前からセックスをしてる。俺が女役だ。先輩とか後輩とか、そういうのの一貫でヤってる感じ。付き合ってるわけじゃねぇけど、セフレともちょっと違う。
「お仕置きだな」
 もごもごしている俺を生徒会室まで引きずって行った先輩は、ふざけている風でもなくそんなことを言った。言葉と同時に、部屋の入り口から突き飛ばされて、みっともなく尻餅をつく。
 いって、と呻く俺を涼しい顔をして見下ろしたその人は、後ろ手に鍵を閉めてからこちらとの距離を詰めた。
「こんなところに連れ込んで、先輩俺にエロいことするつもりでしょ」
 たまにはこういうプレイも悪くない。にやりと口元を緩めると、
「赤也、お前は本当に馬鹿だな」
 柳先輩も満更でもなさそうに言った。
「先輩に比べたら大体のやつはそうでしょ」
「お前はそういう次元を超えている」
 これから“そういうコト”をおっ始めるんだろうに、柳先輩は閉め切られていた部屋のカーテンを半分開いてタッセルで縛りつける。立ち上がって窓際に寄った俺が、「見えちゃいますよ」と言うと、「そういう趣向だ。興奮するか」とネクタイをくつろげた。
「露出趣味はねぇんすけどね」
 校舎の三階にある生徒会の窓からは、野球部のグラウンドが見えた。放課後は沢山の坊主頭で賑わうそこも、昼休みなので閑古鳥がないている。
「久しぶりに食った女子の体はどうだった」
「どうって、最高っスよ。男のと違ってやらしーことしたらすぐ濡れるから面倒じゃねーし。ナカも柔らかいのにキツキツで、久々にオスに戻れた感じがして、っ」
「ほう」
 反射的にペラペラと語ってしまってから、しまった……と悔やんだときにはもうあとの祭だった。開眼して、鋭い視線をこちらに向けた柳先輩は、俺の体を押し潰すみたいにして窓際に縫い止める。
「シャツを脱げ」
「……はい」
 ここで逆らったら後が怖い。素直にネクタイに指をかけると、「それはそのままでいい」と言葉だけで制された。
 上半身裸でネクタイだけって、この人もなかなかいい趣味してんなぁ。
 次に女子とヤるときに俺も真似しよう。その時は絶対柳先輩にはバレないようにして。
 不義理なことを考えながらボタンを外して、シャツを脱ぎ去ると、「いい格好だな」とネクタイを引っ張られた。
「ぐ、るしい……」
「まだふざける余裕があるのか」
 わざとらしく喉を締め付けて発声したのが悪かったみたいで、更に強くネクタイを引かれる。
「犬のシツケじゃないんですからぁ、もっと優しくしてくださいよ」
「犬のように聞き分けがよければよかったんだがな」
 たっぷり体に分からせてやる、熱っぽい声とともに体を抱き竦められて、五限、間に合わねぇかもしんねーなぁ、と他人事みたいに思った。

「しっかし裸ネクタイって柳先輩のキャラと似合わねえっつーか、なんつーか。もしかして俺とシてない間に見たエロビに影響されちゃったりとか、」
「俺はそういう類のものは見ない」
「ちぇ、つまんねぇ」
 色気のないやりとりを交わしている内に、柳先輩の短く爪の切られた丸い指先は俺の胸の先端に到達していた。乳輪の曖昧な部分をカリカリと引っ掻かれると、腰の奥が甘く痺れて後ろ手に体を支える指先に力がこもった。
「っ……」
「赤也」
 耳元で名前を呼ばれるとたまらなくなって、舌を出す。チューがしたくて必死に誘っているのに、柳先輩はそんな俺を見下すような目で見つめるばかりだった。
「お前の部屋の本棚の英和辞典の中身、」
「げっ」
「成人向けDVDが隠されていると親御さんに知られている確率、九十三パーセント。前々回行ったときは本棚のフチが埃をかぶっていたが、前回行ったときには綺麗に掃除されていたぞ。お前じゃないだろう」
「勝手に後輩の本棚あさらないでくださいよっ、ひっ……いって、」
 いつの間にか硬くしこった乳首の先を指先できりりと押し潰された。いたい、やめて、と形だけでも懇願すると、口元を緩める。
 柳先輩はわりとエスっぽい。それでいて俺のちんこを目の前に突きつけると、イジめてほしそうな目を向けてくるからよく分かんねー人だなと思う。
「やなぎ、せんぱいって──アッ、涼しそうな顔して、めちゃくちゃスケベ、ッ、い、ア」
「お前に合わせてやってるんだ」
 欲しがりめ、と耳を噛まれると下腹部にだるいような重さが走った。
「勃っているな」
 長い足を軽く持ち上げた柳先輩が、張り詰めた俺のそれを前腿でグリグリと刺激する。
「っ……それやだっ」
 その間も乳首を弄る指の動きが止まることはなくて、むず痒いような、気持ちいいような感覚に、足の指先が冷えていく。
「ちんこ、いたいっ……ぁ」
「痛むような扱いはしていないが」
 面白がっているような声だ。
「勃ちすぎて、痛い……あ゛っ、イッ!」
「どうしてほしい」
「触って、ッ、舐めてほし、いっ」
 おねがい、とねだった口に指を差し込まれた。上あごや歯列をなぞられるように指先でなぞられて、まばたきも出来ずにいると、乳輪ごと絡めとられるように乳首を吸われる。
「ヒッ、ほこふぁ、な……い、んん」
 指での刺激によって尖りきっていた俺のそこは、神経が過敏になっている。柳先輩が唇に圧をかけるたびに思いっきり喘いでみたいのに、口に指を突っ込まれているからそれも叶わなかった。
「んん、ふ……」
「いやらしい顔だな。そんなにここを舐められるのが好きか」
 柳先輩は、俺の口から指を抜き去って、唾液に濡れたそれで俺の乳首の先端を弾いた。痛みと一緒くたになった甘い痺れをやり過ごすために、俺は内腿をこすり合わせる。
「好きなわけないでしょ。こんなオンナみてーなコト」
 乳首をイジめられるのは確かに気持ちいい。だけどこういうことをするたびに先輩に吸われまくって真っ赤に充血した自分のそこを見ると複雑な気分になる。
「これ以上開発されたらメスになっちまいますよ」
「メスがオンナを犯すはずがないだろう」
「それはそうですけどぉ。勃っちまったんだから仕方、いっ、た、やめ、」
 仕方ねーじゃん、と言い終えるよりも先に乳首に歯を立てられた。じゅぷじゅぷとやらしー音を立てて乳輪を吸われる傍ら、前歯でシゴくように乳首に圧をかけられる。
 ひぃひぃ情けなく喘いでいると、
「お前にはマゾヒストの気があるな」
 と笑われた。
「アンタがそうしたんでしょーが」
「素質がなければ目覚めることもあるまい。そんな体でよく女子を抱けるな」
「柳先輩をいつか抱くときがきたらこうシてやろうって考えながらヤったんスよ。まあ、アンタにはその気はねーでしょうけど」
 言いながら、乳首への責め苦が止んでるのをいいことにその場に跪く。先輩の制服のスラックスの布地を押し上げている部分に、すりすりと顔を寄せる。
「先輩のもすごいことになってますよ」
「お前がいやらしいからだ」
 そう言って俺の頭を撫でる手のひらに力がこもっている。
「先輩のちんこしゃぶりながらオナりたい、いいでしょ?」
「……程々にな」
「それじゃご開帳」
 ファスナーをさげて、ボクサーから引っ張り出した柳先輩のちんこはガチガチに勃起していて痛ましかった。俺が気持ちよくしてあげますからね、と亀頭の裏側に鼻筋を擦り付けると、「そんなことはしなくていい」と焦ったような声が降ってくる。
「俺、先輩のヨクジョーした匂い大好きなんスよ。嗅いでるだけでイきそうになる」
「馬鹿なことを言うな」
 左手で自分のちんこも取り出して指を這わせる。
「先輩って、涼しそうな顔してんのにちんこは結構グロいっスよね」
「っ、お前は本当に下劣だな」
「ゲレツってなんスかぁ、あーこのニオイ、マジでたまんねぇ」
「人柄や態度が、」
「はぷ、ん、」
「ん……っ、下品でいやらしい、っことだ」
「ん、ん」
 辞書的に説明されると結構ひでぇ言葉だな、と思う。それでも柳先輩の、赤黒く充血したパンパンのちんこを咥えていると、全部がどうでもよくなった。
 かさの張ったカリのくびれに舌を押し付けると、先輩の身体がびくりと震えた。あかや、と熱っぽい声が頭の上から降ってくる。俺の舌で気持ち良くなってくれてるんだって思うと気分がいいし、興奮した。
「っ……」
「せんふぁ、ひもひいー?」
「咥えたまま喋るな。行儀が悪い」
 行儀のいい奴は男のちんこしゃぶったりしねーと思うけど。幸村部長とか、柳生先輩とか。
 ああでも、この人はいかにも行儀が良さそうに見えるのに俺のちんこをしゃぶるのも好きだから関係ねぇかな。
「考えごとをするな。疎かになっているぞ」
「ん、ぐ……っ」
 柳先輩のちんこの先っぽが俺の上あごを叩いた。ぐっぽぐっぽと音を立てて、口の中でピストンされると犯されてる実感が湧いてきてちんこがガチガチに張り詰めた。
「……っ、」
 浮き出た血管ごと力強く握り込んで上下に動かすと、腹の下の方がじんじん痺れる。柳先輩は、俺の口の中の奥へ奥へと入り込もうとするように腰を動かした。
「ぐっ、ぐ、む゛」
 その先端がある瞬間に喉の奥に達する。あんまり息苦しいんで、生理的な涙がこみあげるのが分かったけど、自分のをシゴく手は止まらない。気持ち良すぎて、先っぽから溢れるみたいに漏れ出た先走りで手のひらがぬめった。
「くっ、あかや、」
 切羽詰まった声だ。柳先輩も気持ちよくなってくれてるらしい。口の中いっぱいにしょっぱい味が広がる。
 暴れ回るそれを無理矢理に引き剥がして、
「先輩、もうイっちゃうんスかぁ」
 煽るように唇の端を拭うと、「お前は本当に懲りないな」と後ろ髪を掴まれた。やばい、と頭を引くよりも先に、間抜けにひらいていたそこにガチガチのモノを再度押し込まれる。
「ぶっ……ぐ、んん」
 掴んだ髪ごと頭を前後に揺らされて、容赦ない抽挿をくわえられる。息ぐるしくてたまんないのに気持ちが良くて、柳先輩にももっと気持ち良くなってほしくて、激しく抜き差しされるそれの表面に舌先を差し出したら、太い血管が浮き出てんのにますます興奮した。
 早く先輩のを挿れたい。柳先輩の、長いちんこで、俺の穴をギチギチに押し広げてほしい。
 そんなことを考えてると、前をシゴくだけじゃ物足りなくなってくる。先走りをすくいとった指を後ろの穴に這わせると、ひらき慣れた穴は簡単にそれを飲み込んだ。
 口の中を犯す柳先輩の匂いを鼻呼吸の合間に取り込みながら、引き締まった自分の内側を俺は必死にかき回した。
「そんなに欲しいのか」
 柳先輩が、腰の動きを止める。喉奥に押し込まれていたちんこが、唇に触れるか触れないかくらいまで抜きだされて、俺は名残惜しさに舌を伸ばした。
 先輩は、眉をひそめながらその舌の上にカリをのせた。待ってましたとばかりに、舌先でくびれと鈴口を刺激する。あんなに激しく動いてたのに、それだけのことで先輩は荒い息を吐き出した。この人は責められるのに弱い。
「欲しいのは欲しいっスけど、先にこっちの口から先輩の飲みたい」
 まずいけど、と先端にキスをして、長い幹を大雑把に擦りあげると、先輩は、「くっ」と息を詰めて俺の後頭部を撫でた。
 ちゅくちゅくと鈴口を啜りながら、タマの表面をなぞる。ぱんぱんのそこがぐっと持ち上がって、竿にひっついてるのを確認して、あ、もうイくんだなと思う。
 ラストスパートをかけるみたいに裏筋を擦り上げる速度を早めて、カリに舌を押し付けると、先輩はあっけなく射精した。
「すっげー量」
 みてみて、と口を開いて舌の上にこびりついた白いのを見せつけると、ゲンコツを落とされた。
「いてっ」
 衝撃でゆっくり味わうつもりだったそれを一気に飲み込んでしまう。もったいねえ。
「真田副部長じゃあるまいしやめてくださいよ」
「お前は下品過ぎる」
「俺は柳先輩の上品ぶってるくせにどエロいとこめちゃくちゃ好きっス」
「……お前は」
 床に跪いていたのを無理やりに立たされて、窓際に置いてあった椅子に座らされる。
「あっ」
 その拍子に尻の中に突っ込んでいた指がぬらりと抜け出した。思わず呻き声をあげた俺の足を大きな手のひらで広げた柳先輩は、ガチガチに勃起したチンコを目の前にして何度かまばたきをする。
「しゃぶってもいいっスよ」
「上からな物言いだな」
 文句を言いながらも、先輩は俺のモノの先端に舌を這わせた。俺が柳先輩のちんこをしゃぶるのが好きなように、先輩も俺のちんこをしゃぶるのが好きだ。
 先輩は、せっかちな俺と違って、舐め始めたモノをいきなり根本まで咥えこむようなことはせず、張り詰めたカタチを確かめるみたいにそわそわと舌を這わせる。
「先輩、気持ちいい」
「ん、」
 味わってんだなぁ、可愛い。
 イジめてやりたい気分になるけど、ぐっと堪えて、先輩がさっきしてくれたみたいに、サラサラの髪の毛ごと頭を撫でてやる。柳先輩は、気持ちよさそうに目を細めて、鼻でゆっくり息を吐いた。
「っ、く……やばい、そこすげーイイ」
 先輩の舌先がカリの段差の高さを確かめるみたいにチロチロと動く。何度も何度も、執拗な動きが気持ちよくて頭がとけそうになるけど、三ヶ月前よりもカリが一ミリ膨らんでいるな、とかこういうときでもデータを取られてそうなのがちょっと怖い。
「せんぱい、靴脱いでいい?」
「む」
 勝手にしろ、と言わんばかりにこっちを見上げる目が濡れてるように見えた。それがたまんなくて先輩の、綺麗な形をした耳に爪を立てる。
「っ、」
 あんまり力を入れたつもりもなかったけど、先輩の眉間がひび割れると気分が良くなった。足を圧迫していた室内履きをそのへんに脱ぎ捨てて、目の前に跪いた先輩の、いつの間にかボクサーの中にしまいこまれたちんこを踏みつける。
「っ、やめろ」
「先輩、口離さないで、」
「ぐっ……」
 頭を撫でていた手で先輩の頭を掴んで、俺の先っぽから離れかけた口の中に無理やりねじ込む。一気に根本まで突っ込んで、上顎とか喉の入り口を犯すみたいに腰を動かすと、足の裏に当たる先輩のアレが硬さを取り戻すのが分かった。
「柳先輩って、イジめるのもイジめられるのも好きでしょ」
 否定するでも肯定するでもなく、先輩は俺のちんこに舌を巻きつけた。さっきイったばっかなのにガチガチに勃起したちんこを、優しく足の裏で撫でてやったら、肩を震わせながら目を閉じる。
「せんぱい、口の中の空気抜くみたいに俺の吸って、っ……あっ、イイっス、そのまま裏筋に舌這わせて、」
 言われるがままに口を窄めて、舌を押しつけてくる先輩の顔を見下ろしてたら、下腹部と腰が重たくなった。油断したら今すぐにでもイきそうだ。
「っ、う……やなぎ、先輩……イってもいい?」
 切羽詰まった声を上げた俺の股ぐらで、「ちゅぽ」と音を立てて口を離した柳先輩は、
「駄目だ」
 そう言って笑った。
「そんな……生殺しじゃないスか」
「俺はもう出したからな。多少胸がすいた」
「でもでも、まだ勃ってるでしょ!」
「すぐに収まる。それよりあと五秒で予鈴が鳴るぞ」
「はあ?」
 俺の間抜けな声と同時に、壁際のスピーカーから忌々しい予鈴の音が鳴り響いた。ここから二年生の教室までは歩きだと五分以上かかるから、今すぐ走り出さないと五限には間に合わない。今日の五限は英語。久々に宿題だってちゃんとやってきてる。それでも、
「柳先輩……」
 こんなところでやめられるはずがない。さっきまでの威勢はどこへやら、椅子から降りた俺は急に従順な猫みたいになって、床に跪いた柳先輩の胸に頭を寄せる。
「ちゃんと最後までヤっちゃいましょうよー先輩も久々に俺のナカにハメたいでしょ。俺、このままじゃ授業受けられませんって」
「お前を気持ちよくイかせてやったらお仕置きにならないだろう」
 涼しい顔で言ってのけた柳先輩が、俺の太もものところまでずり下がったパンツのゴムに指をかける。そのまま脱がしてくれりゃあいいのに、少しずつ持ち上げられて、「やだやだ」と子供みたいに抵抗した。
「俺までサボらせるつもりか」
「先輩がこんなんにしたんじゃないスか」
 ガチガチに勃起したちんこをこすりながら、俺は柳先輩の半分勃ったままのそれをパンツから引っ張り出す。
 ゴムもついてないそれの先っぽに、熱のおさまらない窄まりを擦り付けて、「挿れて」と懇願する。
「困った奴だな」
 先輩は薄らとした笑顔を浮かべたまま、俺のアナルに指を突き入れた。
「ひっ」
 一本目が馴染むのも待たず、すぐさま二本目が挿入される。ぎちぎちになった入り口を、無理やりに拡げようとする柳先輩の指は、長さがあるだけじゃなくて案外太い。
「痛いか」
「うっ、痛いっつってもやめてくれねーくせに、ア゛ッ、ッ」
 柳先輩の二本の指が、俺の内側で乱雑に動く。痛いのと、手酷く扱われていることに付随する興奮でトビそうになる。
「あっ、ぐっ、もっと……」
 先輩は、俺の一番気持ちいい部分を避けるようにして指を動かす。
 この人と“こういうこと”をするようになってからもう半年は経つ。実際に繋がった回数も両手両足の指じゃ足りないほどになるから、そこが分からないはずはないのに。
「ひっ、く……」
「だらしない顔だな」
 口を半開きにして壊れたような嬌声をあげ続ける俺の入り口の皺を、先輩は親指で撫でつけた。きゅっと締まった部分を、押し伸ばすようにされると、先輩の指をおさめたところにますます力が入る。
「……せんぱ、いっ、もう」
「こんなところで最後までする気か」
 自分が連れこんで、散々煽っておいてそれかよ。可愛くねぇ。
 アンタは黙って俺にハメてりゃいいんスよ、という言葉は飲み込んで、膝を立てて先輩の指を抜き取る。まだキツいかなって程度に緩んだそこに、いつの間にか元通りの大きさを取り戻した先輩のそれをこすりつけた。
「フーッ」
 ゆっくり息を吐きながら腰をおろしていくと、とぷんと音を立てて先端が内側に入り込んでくる。
 あ、ゴムしてねぇ。柳先輩、イヤがっかな。
「ナマ、ですけど」
 いーすか、と顔を上げると、視線がかち合った。いっそ睨みつけてくれればいいのに先輩の目は凪いでいる。
「ここまでだな」
「っ、ア」
 骨盤をがっちりと掴まれて、それ以上腰がおろせなくなる。
「せんぱい、ムリっス……奥まで挿れて」
「そんなに欲しいのか」
「あ゛っ、ぐ……」
 内側の肉をほぐすように腰を回されると、視界が滲んだ。
「こんなカラダでよく女子が抱けるな」
「んっ、それとこれとは、話が別っ……ァ」
 入り口のあたりで彷徨っていた先端がなごり容赦無く抜き去られる。
 まだまだ欲しかったのに。もっと気持ち良くなりたかったのに。
 ひもじさのあまり奥歯を噛み締めた俺のちんこを、柳先輩の大きな手がシゴキあげる。
「アッ……」
 気がつけば壁際に追い込まれていて、大きく足を広げた俺の股ぐらに体を押し込んだ柳先輩は、
「あかや」
 ゾッとするくらいにやらしー声で俺の名前を呼んだ。
 無理な挿入によってぷっくりと熱をはらんだアナルに押し付けられた、柳先輩のちんこは赤黒い。これはちょっとした凶器だ。
「先輩って、俺以外とも寝たことあります?」
 世間話感覚で聞いたら、先輩は眉間に深い皺を寄せた。やべ、怒らせたかも。
「だってすげー使い込んだ色してるじゃないスか」
 煽るように言って、グロテスクなそれをシゴきあげると先輩の腰が小さく震える。
「くだらないことを聞くな」
「俺、先輩が他の人にハメてるとこ想像したら軽くイキそうなくらいコーフンしますけど」
「お前は屈折している」
「キレやすいけど素直だって評判なんスけどね」
 先輩のチンコがぐずぐずになるやらしい水音をBGMにそんなやりとりをした。
 俺のシゴきを受ける柳先輩のそれは痛々しいくらいに張り詰めていたし、しっかり開かれた目には鋭い光がやどっている。挿れたいオーラを隠し切れてない先輩を見てると、俺の内側もうずきまくってやばいけど、我慢比べみたいになってるからお互いに次の行動に移れない。
「お前は簡単に他の人間と寝るだろう」
「だって俺たち付き合ってるわけじゃないっしょ」
 成り行き上頻繁にセックスはしているだけで、柳先輩と俺は恋人じゃない。だからといってセフレなのかと聞かれたら、それもちょっと違う気がする。
「俺だってたまにはコッチも使いたいんスよ」
 下品な仕草で結局イキそびれたままのチンコを指してやると、先輩の目が細まった。呆れてんのか軽蔑してんのかよく分かんねー目だ。
「まぁ、柳先輩がたまにはヤらしてくれんなら別ですけどぉ……あ、俺がハメるって意味ですよ」
「いいだろう」
「はぁ?」
「だからもう他の人間の肌には触るな」
「ワケわかんね、エ゛ッ……っ」
 ぶっといのが一気に押し込まれて、頭の中で星が散った。そのまま力強い抜き差しが始まって、ぐじゅぐじゅと潰れたような音が繰り返し部屋に響く。
「あ゛っ、ぐ……うぅ──せんぱ、きもち、イ」
「はしたない顔だな」
 頭をかき乱してヨガったせいで前髪が目にかかった。それを優しい手つきでかき分ける柳先輩も、小刻みに、くっとか、っ……とか喘いでんのがやらしい。
「ヒッ……く、」
 ケツ穴がぎちぎちになるまで押し広げられる感触。これ以上されたら死んじゃう、と切れ切れに呟いたら、「俺がお前を殺すはずがないだろう」薄ら笑った。デビルになった俺を止めようともしなかったくせに。
「ひゃ……っ、ア゛アッ、」
 先輩の血管の浮きまくった硬いのが俺のナカをかき乱す。一番奥の苦しいとこにガツガツと突き立てられて、息がとまりそうなのに気持ちよくて、目から止めどなく涙が溢れた。
「いっ、グ……やばいっ……あ゛あ゛っ!!」
「くっ……あまり大きな声を出すな」
「れもっ……むっ、り、イ゛……おく、きもち……っ、ア゛!」
 あんまりデカイ声を出したら外に聞こえるかもとか、人に見つかったらマジでヤバイとか、考えられないわけじゃないけど、先輩の大きすぎるのに、繰り返し内側の肉を押し広げられると、全部がバカになってしまう。
「せんぱ、やだ……す、げ……イイッ……ん、クッ」
 堪える努力もせずに喘ぎ続ける俺の喉に、先輩が手のひらを回した。
「く、ん……」
 そのままゆっくりと力を込められて、頭の中で色々考えてたことが全部固まる。
「締まるな……こういうのも好きなのか」
 首を締めている間も、俺の上に乗っかった先輩は腰を振り続けていた。酸素が薄くなっていくごとに、ナカの感覚は過敏になって、死にそうなくらいにきもち良くて、ずっとこのままでいたくなる。
 先輩の先っぽが一番敏感なところを突いたとき、気持ちいいのと息の出来ない苦しさが混ぜこぜになって頭が真っ白になった。やべぇ、このまま死んでもいい。
 力なく頭を振っていると、落ちる寸前で喉にかかっていた圧が弱まった。視界に色が戻っていって、複雑げな表情を浮かべた柳先輩と目が合う。
「あたま、ふわふわして気持ちいい……」
「すまない。やり過ぎた」
「めちゃくちゃ良かったっスよ、ハマりそう。先輩のもますますデカくなってたし」
 自分からしたくせに気遣わしげな表情を浮かべるそのねじ曲がり方が先輩らしい。
「もっとシてよ、まだまだ足んない」
「お前は、」
「ん、む……」
 誘うように出した舌を今度こそ吸ってもらえる。歯磨き粉のミントの匂いが気持ちいい。
 柳先輩は俺のことを屈折してるって言ったけど、自分も大概ひん曲がってることに気づいてんのかな。俺の妄言を間に受けて、女役してやるから他の奴には触るなって、なんでそうなんの。俺に他の奴とヤってほしくないなら、お前のことが好きだから、他の人間には触らないでほしいって言えばいいだけなのに。
「フ、ん……ぅ」
 ぬめる舌を強く吸われた。柳先輩の、少し口角の下がった唇が好きだ。女子のと違って柔らかくねぇけど、意外に厚みのあるそれで下唇を挟まれると求められてんだなって感じがする。
「……はぁ、」
 息を整えてから、「きもちいい」って笑ったら、奥までズッポリ入ってたチンコが入り口に引っかかるくらいまで後退していった。
「抜いたらダ、っ……あ゛あ゛っ!」
 一度は抜けかけたモノが、深く突き立てられる。肉に埋もれた一番敏感な部分を刺激されて喚くような喘ぎが漏れた。
「あかや……クッ」
「せんぱい、やばいっ……も、イく」
 カラダの内側がひっくり返りそうだった。柳先輩の腰の動きは、苦しげな表情に反して力強い。先輩の先っぽが肉の奥に突き刺さるたびに、壊れた人形みたいに体が震える。
「イク、イくから……も、」
「もう少し堪えられるか」
「はっ? いや、たえられ──ッ、ぐ」
 キツく目を閉じて射精の瞬間を待ってた俺のあそこの根本を、先輩が掴む。硬いところに集まってた血液が行き場をなくして足の指先に力が入った。
「もう、無理っスからぁ……」
「せっかく剥いたからな」
「むいたって、なに……うわっ」
 内側のものが抜け切って、寂しいと思う間もなく窓際に顔を向けて立たされる。窓の下に見える野球部のグラウンドには、一応人の影はない。
「ひと、きたら洒落になんね、っ、イ゛ッ」
 窓に向かって体を押し潰されるようにして後ろから串刺しにされた。身長差もあって、半ば宙に浮くような形で、奥をぐりぐりと突かれる。
「後ろからだと奥まで入るな」
「みら、れ……ぁ、っ──見られたら、やばいですって、ぐ……っ、ア゛」
「授業中に野球場を使う人間はいない」
 体育でソフトボールの授業でもあったらどうしてくれんだ。
「あっ、そこ、っ……むり、」
 深い段差のあるカリが、浅いところにあるしこりを押し潰すみたいに出入りしてくる。気持ちよくて頭がおかしくなりそうなのに、ピストンが緩むことはない。
 腹に腕を回されて、もう一方の手ではちんこの根本を掴まれて、身動きも出来ずにいる俺のナカを先輩はえぐり続けた。
「せんぱ、い……イって……イって下さいっ」
 言いながら、ゴムをしてないことを不意に思い出した。これは六限も出れねぇかな。
 ちょっと冷静になってるのがバレたのか、先輩は俺のちんこを雑な仕草でシゴキあげた。
「っ……やなぎ、さん、ナマ……ですけど」
「はぁ……っ、」
 ダメ元で言ってみたけど返事はない。この人も必死なんだろう。後処理すんのはめんどくせぇけど、ゴムつけずに煽ったのは俺の方だし。
 ぐじゅぐじゅと、汚い音が部屋中に響くのを他人事みたいに聞きながら目を閉じる。肌と肌のぶつかり合う音が生々しい。
 尻の穴が拡がりきってるのが分かる。先輩のぶっといのが、わずかに硬さを増した。
 あ、もうイくな、と思ったとき、反射的に足の指先が伸びた。
「あっ、う゛……柳先輩、ナカだして……っ、ア゛」
 大きなストロークで俺を貫いた柳先輩のが苦しげに脈を打った。残りカスを搾り取るような抽挿に合わせて俺も達した。

「……尻んなか、気持ちわりぃ」
「悪かった」
 言葉とは裏腹に少しも悪びれた風でもなく柳先輩は制服を整えていた。几帳面にとめられたボタンの内側に、さっきまでの行為の痕跡の一つでも残しておかなかったことを、少しだけ後悔する。
「俺はこれなんとかしないと授業出れねぇっスよ」
 尻の中に指を差し込んで、内側に残った先輩の精液を見せつけるようにする。
「ナカぐちゃぐちゃ、ぜってー漏らす」
 精液を弄ぶようにしながらぼやいたら、
「お前は本当に下品だな」
 ポケットティッシュを放られた。
「自分が出したもんの後始末くらい自分でしてくださいよ。後輩の教育に悪くねーっしょ」
「何度言ってもシャツのボタンひとつまともにつけられない奴がよく言う」
 何枚か取り出したティッシュで、精液濡れの手を拭われて、雑な仕草で差し伸べられたシャツに腕を通す。そこまでやったら、ボタンは柳先輩がとめてくれて、甘やかされてんなぁと思うと口元が緩んだ。前にこうしてるところを姉ちゃんに見られて以来、なんとなく気まずくて先輩のことを避けてたことも忘れることにする。
「柳先輩、」
「声が枯れているな」
 柳先輩は、ぐずぐずになった俺のネクタイに手をかけた。このまま締め殺されてぇなとか、次は俺が挿れてるときに先輩の首を締めてみたいとかしょうもないことを考えている内に、通学前よりも綺麗に結び直される。
「アンタ俺のことどう思ってんの」
 離れていくその手首を捕まえて、力一杯に引き寄せる。柳先輩は、三秒くらい黙り込んでから、口を開いた。
「お前は厄介な奴だよ。単純で、頭が悪くて、マトモにデータが取れない」
 歯切れの悪い返事に満足した俺は、先輩の唇に噛み付いた。
 
 

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