痛いのが好き2

 最後に鳥造で酒を酌み交わしてから半年ばかり、謙也とは顔を合わせなかった。一度直接披露したことで気を良くしたのか、あれからしばらくは動物園やらテーマパークでのデートの報告が届いていたが、忙しさを理由にすげなく返している内にそれもこなくなった。
 事実多忙であることもあって、財前はそのことをあまり気にしていなかった。高校で離れて以来、互いのタイミングの合うときには、毎週でも会うが、そうでなければ何ヶ月も顔を合わせないことも珍しくはなかった。表面上は同性同士のただの先輩後輩に過ぎぬわけだから、それは仕方のないことである。
 その分女の方とは月に一度から二度は顔を合わせてからホテルに行く。ヤることをヤってシーツの上に並んでいると、女は独り言のように女は謙也の話ばかりした。
 謙也は私とシたくないのかなぁ、時々寂しげに漏らされるその言葉には何も返さなかった。初めに想像していたよりも、彼女が謙也に向ける想いは強い。
 だからこそ自分を抱いてくれない男と別れることもせず、他の男で性欲を満たすような歪な生活を送っているのだろう。
 人間の心は、体の中にあるわけではない。少しの好意もない女が相手でも、粘膜に擦られれば快感は得られる。
 心なんてそうそう簡単に満たされるものではないから、せめて体だけでも満足させとったらええやん──そう言ったのは白石だった。成り行きで部屋に泊まった一件以降、男は時たま部屋に財前を誘った。
 断って意識していると思われるのも癪なので、三回に一度はその誘いに乗る。白石は財前がその後も女と関係していることについてもとやかく言うことはなかった。
 道を外れた後輩を正さなくていいのかと酔った時に尋ねたら、
「もう部長やないし。俺もそんなにええ人間やないから」
 中学を卒業して十年も経たないのに、お互い酷く遠くへきてしまった気がした。

 もう会えない──ラインのIDも交換しないまま関係していた女からダイレクトメッセージが届いたのは十一月に入ってしばらくが過ぎたころだった。前回会ったときは至って機嫌良く、「またね」と別れた女がはっきり別離を告げてきた理由は一つしか思いつかない。
『謙也さんとシたんや?』
 返事はない。
『最後にもう一度だけ会えませんか。この前ので最後になるのはキツいです』
 今度は女の情に訴えかけるようにして再送信する。
 既読がついてから、『今度の土曜日なら』と返ってくるまでには、大した時間もかからなかった。
 待ち合わせたの安ホテルのロビーに、女は関係を持って以降初めて見せる緊張した表情で立っていた。
「どの部屋にします」
「どこでもいいよ」
 どうやら本当に気乗りしないらしい。いつもなら嬉々としてソファやテレビの位置を確認する場面だ。
 適当な部屋を選んでエレベーターに乗り込む。ドアが閉まったのを見計らって手を握ってやると、彼女は分かりやすく肩を強張らせた。
 ホテルの部屋に入るなり、ベッドの上に身を投げた。
「こっち来てや」
 トントンと叩いた隣の空間に、女はおずおずと横たわった。不安げな瞳に、悩ましげな色が混ざる。他人との関係に固執しない女だと思っていたが、何度も寝た男には流石に情が湧くらしい。
「謙也さんとのエッチどうやった」
 そう尋ねた瞬間に赤らんだ女の耳朶を眺めるだけで、下腹部が重たくなった。家で女をかき抱く謙也を想像していたときには、全てを投げ出したい衝動に駆られていたのに、実際に顔を合わせた女の纏う空気から謙也の残り香を得た財前の体は、例えようのないほどの興奮に包まれていた。
「どうって、よかったよ。ずっとシたかったんだもん」
 拗ねたような女の体から、衣服を引き剥がしていく。大した抵抗もしない女にも、好きな男の女を寝取ることに何の抵抗も覚えない自分にも嫌気が差す。
「満足出来ました?」
 安っぽい成人向け作品に出てくる間男のような台詞を財前が吐き出すと、女は彼の胸を叩いた。
「当たり前でしょ! 優しかったもの」
 優しかったの声はか細い。女もこの状況に酔っていると確信して、財前は更に言葉を重ねた。
「優しくされるんが好きやったんスね。知らんかったわ」
 こんな女を、至極大切に扱う謙也の手つきを想像しながら女の鎖骨を指でなぞる。壊れ物を扱うように、触れるか触れないかの力加減でそれを繰り返すと、女は苛立ったように首を振った。
「ただセックスするだけの相手と、好きな人に求めるものが違うのは当たり前じゃない」
「よー分からんわ」
 嘘だった。
 耳に歯を立てると女は甲高い嬌声をあげた。苦しげな表情を見下ろすと中心に熱が灯ったが、謙也に同じようなことをしたいとは思わない。万が一にも男とベッドを共に出来たら、抱かれる側になったとしても、抱く側になったとしても、この上なく甘やかしてやりたい。
「あの人実家暮らしやろ。どこで寝たんスか」
「……なんでそんなこと」
「今までどんな子と付き合っとっても頑なに童貞守っとったあの人が、どんな場所で卒業したんか単純に興味あんねん」
「……レンタカー借りて、ドライブに行ったの。温泉にでも行こうって。日帰りの予定だったんだけど、目的地に着くまでに案外時間かかっちゃって、遅くなったから家族風呂みたいなところに泊まった。……私が誘ったのよ。もう我慢出来ないって」
「……力押しが効くんや」
「えっ」
 それだけ本気になったということか。ひなびた温泉宿で二人きり、心底惚れた女に誘われたらあのヘタレでも男を見せるのだ。
「良かったですね」
 不意に力が抜けて、素直に呟くと、女は拍子抜けしたような表情を浮かべた。
「……私、結構本気で謙也のこと好きなの」
 俺だって好きや。
「こういうのもうやめたいから、今日はフェラで勘弁して」
 その晩の女の舌は、いつになく熱かった。

 古びた窓を、にわかに強くなった風が揺らす音が部屋に響いた。首筋に触れた男の唇がいやに柔らかい。視界を奪われているから神経が過敏になっているのかもしれない。
 謙也が童貞を捨てた場所に一緒に行ってみないかと誘ってきたのは白石だった。男二人でそんな場所に、と渋る財前に、そこでセックスしたら胸が空くかもしれんで、と煽ったのも。
 普段だったら一笑しただろう誘いに乗ってしまったのは、女が口を開くたびに生々しさを増した謙也の行為の輪郭を消化しきれずにいたからだろうか。
 らしくないと思う。同じ場所でセックスするにしても、相手が白石というのがおかしい。どうせなら謙也が優しく抱いた女を、同じ場所で酷く抱き潰してやりたい。そうすれば胸が空くことはなくとも仄暗い快楽を得ることは出来た。
「ここからはあんま喋らんから、謙也に抱かれとるの想像しとったらええわ」
 そう言われても。後ろから抱え込むようにしてはだけた胸をなぞる滑らかな指は、いかにも手慣れている風だった。謙也なら、もっと辿々しく触れるはずだ。
 冷たい指が胸の先端に触れる。
「っ」
 呻くように喘ぐと、二本の指で挟み込まれた。くにくにと柔らかく嬲られると、下腹部が甘く疼く。
「気持ちええんや」
 喋らないと言ったくせに。
「んっ、っ」
 男の手から逃れようと身をよじってみたが、ますますしっかりと抱きすくめられて動けない。そこにきて初めて、見栄えばかりは優男風な白石が、自分よりも体格のいい男であることを思い知らされる。
 おもちゃとはいえ手首も繋がれている。その気になって押さえ込まれたら、逃れることは出来まい。
「はぁ」
 どうでもよくなって脱力すると、男は財前の体を正面に向かせた。乳首に濡れたものが触れる。舌先でつつくようにされると、堪えようとしても吐息が漏れた。
「乳首舐められるん好きなん」
「……どうでもええでしょ」
 以前関係を持っていた女の中に奉仕が好きなのがいた。いくらやめろと言っても聞かないので自由にさせていると、何十分でも身体中を舐めていた。それがこんな場面で枷になるとは。
 乳輪の輪郭を、薄い舌が撫で回す。自然と浮いてきた腰にぶら下がったものを、男の長い指がなぞった。
「くっ」
 逃れようとして引いた腰を抱き寄せられる。腿に当たった男のモノは兆していない。それなのに、輪っかになった指で持ち上げられた自分のそれは半勃ちになっていた。
 男がふ、と息をつく。煽られるかと思ったが、そこに言葉は続かない。優しい手技でペニスを扱きあげながら、財前の両の乳首を交互にしゃぶり、ジュウっと音を立てて吸い上げる。
「は、ぁ……」
 腰の奥に電流が走った。
 乳首の先端を甘噛みをされて、亀頭の裏側をこねくり回される。異性にしか使ったことのないペニスが、好きでもない男の手によってパンパンに張り詰めている。その事実が情けなくて、財前は嫌々をふるように首を横に振った。
 先走りがこぽりと溢れた。男は変わらず何も言わない。口を利かないとかえってその存在を強く感じる。
「キモいっスわ」
 漏れ出た言葉に力がないのに自分が一番驚いた。
「怖いんや? 天才財前君らしくないなぁ」
「アンタが俺の何を知っとるんや」
「今は謙也よりも知っとると思うけど」
 嫌な男だ。億劫になって口を噤むと、体が離れていく。
「面倒やなぁ」
 手錠が外される。
「動かんとって」
 肩を押されて、仰向けに寝かされた。完勃ちの、ペニスが、濡れたものに包まれる。しゃぶられているのだと理解するのにはそう長い時間はかからなかった。
 薄く長い舌が、カリと幹の段差を執拗に責め立てる。引きずり込まれた粘膜は、いつの間にか熱を持って濡れていた。じゅぷじゅぷと音を立てて啜られると、含まれた部分が蕩けそうな錯覚に襲われた。一体どれだけのモノを咥えてきたのか、白石の舌技は巧みだった。
「ん、っく」
 くぐもった喘ぎ声をあげたのは、自分のモノを咥えている男だった。刺激を与えられているのはこちらの方なのに。なんでアンタが喘いどんねん、と考えている内に竿の全体を虐めていた舌が名残惜しげに離れていく。
「さむ」
 濡れたペニスにまとわりつく室内の空気の冷たさに眉をひそめると、「すぐぬくなるから」という声が降ってきた。
「はぁ、」
 どういう意味だと尋ねようとした財前のナニに、馴染みのある感触が触れる。
「ちょっと、これ」
 するすると降りてきた薄いものが、ペニスを圧迫した。コンドームだと察した瞬間、竿の先が熱いものに飲み込まれた。
「っ、く……」
「アッ」
 男が高い声で喘ぐ。カリを飲み込んだ粘膜は、女のそれに比べれば硬く狭い。その代わり念入りにローションを含ませてあるらしく、奥に進んでいくにつれてぐじゅっぐじゅと濡れたような音が部屋に響いた。
「はぁ……先に挿れるんやなかったんスか」
「めちゃくちゃビビってたやろ、お尻縮こまってたで──んっ、」
 生意気な声を上げる男を打ち崩すように腰を突き上げる。財前のモノを最奥まで埋め込まれた白石は、「あぁ……」と泣き出しそうな声を上げた。
 その反応が面白くて、男の腰を掴む。前後にこねくり回すようにして男の体を動かしながら、相手のいい部分をさぐる。
「っ、んっ……」
「気持ちええんスか」
 相手の余裕が失われていくにつれて、前後不覚の不安が取り払われていく。視界を奪われたままでいるのも煩わしくてアイマスクを外すと、目尻を真っ赤にした男と視線がかち合った。
「ひっどい顔」
 嘲るように言うと、内側が引き締まった。衣一つ纏わぬ下半身の中心で、色の淡い性器がそそり勃っている。それを乱暴な手技で擦り上げながら、行き止まりの肉壁をガツガツと突き上げる。
「あっ、アッ……あかん、あぁ……」
「尻の穴でそんなに気持ちよくなれるもんなんや」
 本来は排泄口であるはずの場所で、これだけ感じられるようになるまでにどれだけの男と寝てきたのだろう。開発具合に反して、内側はきゅうきゅうと締まって財前を追い詰める。
「きっつ」
 跡がつくほどの力で腸骨を掴んで、中を押し広げるように腰を動かす。
「っ……きもち、」
「一人でヨくなるなや」
「アッ」
 無駄な肉のない腿をきつくはたくと、男は高い声を上げて背中を逸らした。ペニスの先端からはカウパーがだらだらと溢れている。
 情けない姿だ。普通の男のこんな姿を見せられたら、きっともうとっくに萎えている。
「くっ、う……ううっ」
 下から強いインパクトで打ち込むと、白石は泣き出しそうな顔をしてこちらを見下ろした。上手く姿勢を保てないようで、腰の軸がフラフラとしている。
「前ぐしゅぐしゅ」
「だって、きもちええっ」
「俺がビビっとったとか言うて自分がはよ欲しかっただけやろ」
「アアッ」
 冷たい言葉で責め立てる度に、男の淫肉は生き物のように蠢く。綺麗な顔をしていても、人格者のように見せかけていても、余裕ぶって後輩を導いてみせても、この男の本質はただのマゾヒストなのだ。
 関係を持っていた女にはその手合いが多かったので、サディストの真似事をするのには慣れている。そういった振る舞いに女性器を濡らして応える女達に対しては、好きな相手でなくともそれなりに唆られていた。
「ナカ、ゆるすぎますわ。もっと締めて」
「ぁ……」
 もう一度、パンっと音を立てて肉をはたくと、熱い肉がペニスをきつく締め上げてきた。
 やばい、もってかれる。額に滲んだ汗を拭って、自分の体の上で腰を揺する男を布団の上に押し倒すと、熱っぽい瞳に打ち抜かれた。
 半開きの形の良い唇の内側で、先程まで財前のペニスをいじめていた舌が、誘うように揺らいでいる。
「キスとか、絶対無理なんで」
「そうなん? 俺、わりとうまいけど」
 うまそうだから嫌なんや。白石が取り戻した余裕を崩すように、腰を強く進める。深く貫いた最奥の行き止まりを、ぐりぐりと押しつぶすようにしてやると、
「アーッ」
 表情が崩れた。
 入り口を指で押し広げるようにしながら、ペニスを少しずつ抜いていく。
「ぁ……」
 カリ首が露出するかどうかというところまで抜いて、ぐちゅぐちゅと入り口で出し入れさせる。
「それ、あかん……」
 泣き出しそうな男の声、その入り口はペニスを求めてぱくぱくと口を開いている。カリの先端をおさめた端を指でいろくってやると、
「っう……」
 激しく首を横に振って悶える。
「やらしい顔、男前が台無しやなぁ」
 ペニスの根本を握って、カリ首の段差で引っ掻くように男の淫肉を刺激する。みっちりと張り付くような肉の壁は、赤みを帯びて濡れていた。
「はっ、やっ」
「こんなに馴染んどんのに? ナカやばいっスよ」
 冷えた目を投げつけてから耳たぶにキツく歯を立てる。瞬間痛いくらいにペニスを締め上げた内側を一息に責め立てる。
 コンドームが外れそうな勢いでナカを犯す。
「ざい、ぜん……っ」
 白石ってヌいたりするんかな──かつて謙也がぽつりと呟いたのを、『キモいっすわ』の一言で一蹴したことを今でも覚えている。誰よりも綺麗な顔をした男からは、周りにそんな疑問を抱かせる程に性の匂いが希薄だった。
「白石部長がこんなドMのど変態やって知ったら、謙也さん驚くやろなぁ。あの人案外ムッツリやから、めちゃくちゃハマるかもしれんけど」
 激しい抜き差しを繰り返す度に、カウパーでてかった白石のペニスがぶるぶると震える。案外質量がありそうに見えるが、挿入に使ったことは殆どないのだろう。先端はいやに綺麗な肉の色をしていた。
 それを力任せに握って上下に扱きながら最奥を刺激する。多少緩んできた行き止まりにごつごつと先端をぶつける。
「そこ……っ、あっあっ」
 蕩けるような嬌声が心地よい。女のモノとは違った感触だが、白石の内側はなかなか具合が良かった。ピストンを繰り返すたびにローションにぬめった淫肉と、蕩けた視線がぬらぬらと纏わりついてくる。男の濡れた瞳の内側には、苦しげに腰を振る自分の姿が映っていた。
「っ……」
 長い糸に絡めとられたような心地がして、財前はそれから視線を逸らした。どれだけヨガらせてやっても、男には勝てない気がした。
 逸らした視線の先には、先ほど放ったアイマスクがあった。
「謙也さんやと思ってもええですよ」
 負け惜しみのように白石の言葉を借りて、男の視界を奪ってやる。視線が遮られると、途端に呼吸が楽になった
「んっ」
 ピストンを中断して男の乳首を爪先で弾く。案の定充分に開発されているらしい男は、腰を小さく震わせた。
「ナカめっちゃ動いとるし」
 ぐっぐっ、とカリ先を押し込むと、白石は「ひぁ」と喘いだ。
 小さく膨らむ先端を、転がすようにして弄り回す。以前コンビニで鉢合わせた大人の男に、白石が犯されているのを想像すると腰が重たくなった。
「ああいう相手って、どこで知り合うんスか」
「んっ、あ……ああいうのって、」
「コンビニで前に会ったとき一緒におった人、ヤっとんでしょ」
 そこで強く腰を打ち付ける。肌と肌のぶつかり合うパンッという音に、白石の掠れた呻き声が混ざる。
「ゲイの……っ、マッチングアプリ」
「出会い系やん」
「んーっ! んーっ……」
 大きく腰を引いて入り口に近い部分にあるしこりに向かって、浅い抽挿を繰り返す。
「ん、あ゛っ」
「謙也さん、そういうの受け付けんやろなぁ」
 自分の恋人を寝取られることに比べれば、どんな出来事も些事だろう。同じようなことを考えたのか、泣き出しそうに喘いでいた男が、「財前は可愛いなぁ」と吐息のように漏らした。
 頭の中に弛まず張っていた細い糸が千切れる。
 財前は、荒い呼吸を繰り返す男の反り返った白い首に手をかけた。トクトクと脈打つ部分を、強い力で締め上げる。
「ん」
 白石の形の良い唇が小さく震えた。淫肉が、財前のペニスを誘い込むように激しく蠢く。指の力を保ったまま繋がりを深くすると、男の体が小刻みに震えた。
 空調もつけていないのにお互いに汗をかいているようで、肌と肌の触れ合う音は、ぱちゅっぱちゅっと湿っていた。
「くっ、けほっ」
 念入りに内側をいたぶってから、細い首を解放してやる。緩んだ唇が、もっともっとと求めるようにパクつく。
「やばい、頭ふわふわする……アッ」
 引き締まった尻に指を埋めて、ぐちゅぐちゅと音を立てるようにしながらナカを突いた。時折溢れる、「嫌や嫌や」という声は、ただの煽り文句であることにも気がついていた。
 そういう部分は女と何も変わらない。むしろそそり勃つモノがついている分女よりも分かり易い。
「はっ、ああっ……っ、た」
 滑らかな肩に歯を立ててしこりをグリグリと擦り上げる。
「アッ」
 地声に比べれば随分と甲高い声を上げた男は、「イク、いく……」と財前の首に腕を回した。
「そこはイキますやろ」
「んっ、ぁ……イきます、あかんほんまイくっ……っ!」
 瞬間、内側が腹筋が激しく痙攣した。淫肉も、財前のモノを搾り上げるようにぐねぐねと蠕動する。
「っ、クッ……」
 ねばつく液体が腹に放たれて、財前も張り詰めていたモノを爆発させた。

「股関節だるいわぁ」
 洗面台の下に用意された浴衣に着替えるなり、布団に横たわった白石が大きな溜息を漏らした。
「結構体柔らかいんスね」
「ヨガしとるからなぁ。つーか首、跡ついてへん?」
 結構力強かったで、と続ける男を無視して、古びた窓を開く。十一月だというのに室内の空気はぬるかった。
「謙也はあんなドSプレイせんやろ」
 気がつけば隣に迫っていた男が、財前の肩に触れた。
「してくれたら最高やのにって顔や」
 せやなぁ、と頷く男の横顔は、絵に描いたように整っていた。救えんなぁと、しみじみ思う。
「ここの空気、カブトムシの匂いがしますね」
 窓の隙間から吹いた風が首筋の汗を冷やす。
「ほんま?」
 膝を揃えて窓から身を乗り出した白石は、鼻をすんと鳴らし、
「ぜんぜんちゃうわ。なんや青臭いし、精液の匂いやろ」
 はだけた浴衣の前を取り繕いながらぼやいた。

back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -