既婚者跡部と嫁に捨てられた日吉

「この箱はね、私のお墓なの」
 ガムテープでしっかりと封のされた段ボール箱をさらりと撫でながら、妻は背中でそう言った。
「また随分と物騒だな」
 怪訝な表情を浮かべて跡部が返すと、妻はゆっくりと振り返り、
「そう? 今は随分と穏やかな気持ちでいますけどね」
 結婚して二年になる妻は、いつでも凪いだ海のような目をして跡部を見つめる。そこに自分と同い年の、二十代の女めいた輝きはなく、跡部は彼女が大きく口を開いて笑うのを一度も見たことがなかった。
「何が入ってるんだ」
 ウォークインクローゼットの扉を開け放ったまま、フローリングの上に座り込んだ妻は、今一度その箱を収納の奥深くに押し込んで、「知らないのよ」とごちた。
「彼が詰めたから」
 彼女はクローゼットの中から目当ての物を取り出して、小脇に抱える。それは小さな裁縫箱だった。
 ウォークインクローゼットから抜け出した彼女は、夫婦の寝室のテーブルの上、おどけたようなチンパンジーのぬいぐるみを手にとって、それにボタンを縫い付け始めた。そのボタンは普通のものよりも随分と大ぶりで、鮮やかな色をしている。子供の玩具なのだ。スピーカーが付いていて、スマートフォンと連携することによって、ぬいぐるみ自身が喋っているように声を上げるらしい。
 正座をして針を扱う妻の腹を、跡部は見つめる。妊娠八ヶ月の彼女のそれは、細身の体に不似合いに膨れ始めていた。そこに宿っているのは別の男の種によって宿った子供だ。
 跡部家の血を受け継がない彼女の子供が、いつか成人して家を継ぐ。それが彼にとっての子供じみた復讐であった。
「子供の父親とは会っているのか」
「この子の父親は、あなたの他にはいません」
 毅然とした態度で言った妻に、かつて彼女との間に子供を作る気がないことを告げたのは跡部自身だ。それは、他に男を作って跡取りを作れ――という身勝手な意思の婉曲表現だったが、彼女は努めて速やかにそれを実現した。
「そうだな。俺たちの子供だ」
 共犯者めいた言葉を呟いた跡部は、チンパンジーと、妻の頭を交互に撫でた。
 安定期に入ったわ、ダイニングテーブルの上に真新しい母子手帳を滑らせて言った彼女を、跡部は避妊具を着けて抱いた。今までに一度も、彼女に子種を注いだことはない。
 家には跡継ぎが必要だ、と祖父が突然連れてきた女が、跡部の氷帝時代の同級生だった妻である。国内でも有数の都市銀行の頭取の孫娘だった彼女には、当時交際していた男がいたようだったが、家によって決められた運命に抗うことはしなかった。
「今晩は遅くなる」
「あら、不倫相手でも見つかった?」
 どこか歌うように言った彼女は、ボタンを縫い止め終えた糸をハサミで裁って、チンパンジーの手を横に大きく振らせた。
「いってらっしゃい」
 白い頬に焦げ茶の髪を一筋垂らしながら自分を送り出した彼女の声は、車を降りて今日の待ち合わせ場所に向かう跡部の耳に未だ残っていた。彼女の凪いだ瞳は、跡部の心の内に残る一人の人間の存在を見抜いているに違いない。
 跡部は、彼女との婚約が決まる直前まで恋人と生活を共にしていた。
 朝目が覚めると持ち回り制で作った朝食を二人でとり、各々家を出て、日が沈んでから家に帰る。夕食を囲んだ後、気が向けば二人で風呂に入り、ほとんど毎晩のように体を重ねてから眠った。そんな穏やかな日々を、ままごと遊びと評した祖父は、今はもう鬼籍に入っている。
 祖父に跡部が婚約したことを告げられた恋人が、荷物を纏めて二人の部屋を出ていってから既に三年が過ぎた。全部終わったことなのだ。それなのに、ティータイムの遠に過ぎたカフェに向かう跡部の足が止まることはない。
『もしもし』
 その電話は、妻が妊娠八ヶ月に入った頃に唐突にかかってきた。電話口の相手は、名前を名乗ることもなく、しかし跡部にとっては馴染み深い癖のある声で、『あなたの声が聞きたい』と言い、その割に跡部の返事を待つこともせず、今日の日にちと時間、待ち合わせ場所のカフェの名前を告げて電話を切った。
 別れて何年も便りのなかった恋人が、どんな理由で自分を呼びつけたのか、それを気にせずにいられるほど跡部の心は冷えていない。ましてや、離れる直前まで好き合っていた相手なのだから。
 三年ぶりのかつての恋人は、眼鏡をかけていた。
「コンタクトはどうした」
 努めて平坦な声をあげた跡部に対して、「仕事が忙しくて、最近は眼鏡なんです」と返した男の手元には、湯気の立つコーヒーが置かれていた。
 西向きの窓に面した個室の席は、いささか眩しい程で、彼の向かいに腰掛けた跡部は、ブラインドのコードを引いた。
 頬を貫いていた陽の光が弱まって、日吉は遠慮のない視線で跡部を貫いた。
 色のない瞳は以前と変わらないが、僅かに頬がこけている。
「お前痩せたな」
 遠慮もなく言ってやると、日吉は返事の代わりに頷いた。とても幸せに生きてる風には見えない表情だったが、日吉は跡部と別れた後間もなくして年上の女と結婚したと人づてに聞いている。
「あんたは少し太りましたね」
「テメーの減らず口は健在のようだな」
「図星だから否定しないんでしょう」
 小生意気な言葉を重ねるときに、その瞳が僅かに輝くのは昔と変わらなかった。
 注文を取りにきた店員に、「同じ物を」と頼むと、
「ここのコーヒー、酸味が強すぎて飲めたものじゃありませんよ」
 店員の背中が見えなくなるのを見計らって言う。可愛げのない男だと、改めて思った。
 三年半の同棲生活の間も、絶えず思っていたことだ。ひいては、付き合い始めた頃からも。
 日吉と初めて体を重ねたのは高校生の頃だった。部活を引退したばかりの跡部と、中学時代と同じく新しい部長になった日吉は、度々学外でも顔を合わせるようになり、気がつけばどちらから誘うでもなくそういう関係になっていた。
 お互いに同性愛者としての素養は持っていたのだと思う。日吉は跡部とする以前に他の男に体を許したことがある様子だったし、跡部も男の排泄口を使って性行為をすることに対する違和感は覚えなかった。
 むしろ普段は生意気な言葉しか吐き出さない日吉の、結ぶと隠れてしまうような薄い唇が、自分の律動に合わせて小さな嬌声を漏らすのが愛おしかった。華美だとは言い難い顔の造作にも、五年も見続ければ愛着が湧く。
 体を重ねた翌朝に、交際を申し出たのは跡部の方からだった。自分からそんな話を持ち出した経験がなかったので、「お前に俺様と付き合う権利をやる」などと、尊大すぎる告白になってしまったが、しかしそれを受けた日吉がそれまで見たこともないような笑顔を浮かべていたことは覚えている。
 今思い返すと、あの時の一度きりだ。日吉の笑顔を見たのは。
 強烈な、光り輝く星の元に生まれた跡部は、そばに置いた人間の影を濃くしてしまう。家に一人残してきた妻も学生時代には、はにかんだような笑顔の似合う女だった。
 元々明るいといえる性質ではなかった日吉も、その例に漏れず、交際が始まって以降は、お決まりの“下克上だ”というフレーズすらなりを潜め、あの追いおとすような強い視線を跡部に向けることもなくなった。
 その代わりにそれまで以上に強く表出し始めた嫌味に近いような、可愛げのない発言ばかりが今でも耳に残っている。勿論彼の口から、「好きです」だの「愛しています」だのと言った愛情を表に出す言葉を聞いたことはない。
 五分程の時間をおいて届いたコーヒーは、日吉の言う通り酷く酸味が強かった。口の中いっぱいに広がるその独特の風味に顔をしかめる跡部に、「珍しい味でしょ」と言った日吉のカップの中の黒い液体は、ほとんど水位が減っていない。
「そんな話がしたくて呼び出したわけじゃねーだろ」
「どうでしょうか。俺は案外あなたとこういうたわいも無い話がしたかったのかもしれませんよ」
「結婚したんだろ」
 矢継ぎ早に切り込むように言うと、カップの取っ手を弄ぶ日吉の指が一瞬震えた。誰から聞いたんですか、と問われて、「誰でもいいだろうが」と返す。
 日吉の結婚を知ったのは、彼が家を出て行ってから半年が過ぎた頃だった。その情報を跡部にもたらしたのは忍足である。
 奥さんのお腹に子供もおるらしいで、と付け足した忍足の、何かを探るような目が不愉快だった。
「たしかに」
 日吉は静かに頷いて、
「だけどもう別れましたよ」
 感情を押し殺したような声でそう続けた。
「不憫に思いましたか。自分の別れた男が、小さな幸せを掴み取ったかと思えば、二年も経たない内に打ち捨てられて」
「捨てられたのか」
 遠慮なく尋ねると、日吉は皮肉げに唇の端を歪めた。細められた目元の皮膚の薄さに、別れたあとに重ねた時間が作り上げた薄幸さが滲み出ている。
「妻の話をしてもかまいませんか」

 俺が妻と出会ったのは、あんたの家を飛び出してからすぐのことでした。あの日は台風でもないのに風が強くて、仕事の打ち合わせを終えたばかりの俺の心をますます憂鬱にさせた。
 あんたと別れることになって傷ついていたか? それって話の腰を折ってまでわざわざ聞かないといけないようなことですか。
 答えるまでもないでしょう。あの頃の、いや十一歳の春にあんたのテニスを初めて見たときからずっと、あんたは俺の人生の全てでしたよ。
  足裏に力を込めて立っていても体の軸がブレるような強風から逃れるために、俺は一軒の喫茶店に入りました。
 そうです。この店です。あの日彼女とここで出会ったんです。
 扉を開けて入ってみると、店の中は生憎の満席で、入り口の待合席に座っていた女性の二人組の視線が俺を突き刺しました。四人がけの椅子にはその二人組の他にもう一人女性が座っているだけでしたが、隣に座る勇気もなかった俺は小さく会釈をして店を出ようとしました。店の扉が風で揺れる大きな音が響いて、こんな中を帰るのか、と顔をしかめていたとき、「遅かったね。ほらここ」なんて、彼女が声をかけてきた。
 待合席に一人で座っていた女性でした。彼女はやたらめったら馴れ馴れしい態度で、「疲れたでしょ。座りなよ」自分の隣の空いたスペースを叩きながら続けました。
 人違いではありませんでしたね。彼女もまた風を避けて店に入ってきて、しかし一人でここに居つく気にもなれずに、思わず俺に声をかけてしまったようでした。今思い返すと、出来の悪いナンパみたいですけど、あの日の俺はそれを不快に思うこともありませんでした。
 跡部さんもご存知のように、俺は自分を根っからの同性愛者だと思っていたし、彼女は自分よりも少し歳上に見えたので、警戒心を抱くこともなかった。
 しばらくして個室の席に通されて、向かい合って座ってみてようやく、俺はその人の顔をまじまじと見ました。肌に疲れを感じさせるくすみが見て取れたものの、彼女は綺麗でも不細工でもない普通の女性だった。
 ……俺は元々面食いじゃありませんよ。あんた以外に寝たことのある男たちは皆普通の顔をしていましたし。まあ、毎日部活で嫌ってほどにあんたの顔ばかり見てましたから、普通の人よりも人の顔の造作に対するハードルは高いかもしれませんが。
 待合席に座っている間は陰気げに見えた彼女は、いざ向かい合って口を開くと頬に血色が差して案外明るい人なのだと分かりました。
 笑顔を作るときに半分だけ上がる口角からは、女性を知らない俺を動揺させるのには充分な、色気のようなものすら感じられて……そうですね、あんたの想像通りです。あの晩、俺たちはこの店を出てすぐのところで拾ったタクシーに乗ってホテルに行きました。
 誘いをかけてきたのは、流石に彼女の方からでしたが、俺だって悪い気はしてなかった。あんたのいない生活は、俺の心を想像以上に蝕んでいたんです。人肌恋しいと感じたって無理はない。
 もちろん、女性を抱くのは初めてでしたが、俺の体をゆっくりと慣らして、壊れ物を扱うみたいに押し入ってきたあんたの所作の一つ一つをなぞって、なんとかこなすことは出来ました。下手だとも言われなかった。もっとも思っていたとしても口に出すような女じゃありませんでしたが。
 行為を終えても帰る気も起こらず、二人で布団に包まっていると、彼女はぽつりぽつりと自分の身の上を語り始めました。
 つい半年ほど前までは結婚していたこと、その夫はとても気の合う優しい男性だったこと、結婚してしばらくが過ぎて、彼には子種がないことが分かり、子供を産むことが夢だった自分は苦悩の末に彼に別れを告げたこと、彼はそれをあっさり受け入れたこと――俺は、語っている内に肩を震わせ始めた彼女の唇に指で触れました。
 大丈夫です、と自分自身に言い聞かせるように言うと、彼女は俺の胸に鼻先をこすりつけてきた。それから何度か逢瀬を重ねて、俺は彼女にプロポーズしました。
 結婚相手を捨てた彼女と、同棲相手に捨てられた俺は、傷口を舐め合うように二人で一つになることにしたんです。
 彼女が初婚でなかったこともあり、身内だけで簡単な挙式をしてからしばらくして、子宝にも恵まれました。その子供が、今は一歳になります。
 子供はどこに? ああ、今は妻が育てていますよ。妻と、その元々の夫が、と言ったほうがいいですかね。
 なんて顔してるんですか。仕方ないでしょう。どこかでそうなるんじゃないかと分かっていたんです。俺だって、彼女と暮らしている間も一度だってあんたを忘れたことはありませんでしたから。
 だけど女性はちゃっかりしてますよね。一番に愛した男と叶えられなかった夢を、他の男に託して、それが叶ったらノコノコと戻っていくんですから。
 ある日仕事を終えて家に戻ると、息子が分厚いダウンの上着を着せられていて、妻は俺に離婚届を差し出しました。主人に戻ってきてくれと泣かれた、なんて言いながら。
 籍を入れてから一年以上が経っていましたが、彼女にとっての夫は俺じゃなくて前の亭主だったんですよね。その時はまだ一歳にも満たなかった息子を抱きしめたまま妻も泣いていました。
 俺ですか? 俺は泣いてませんよ。胸の中で冷たい風が吹いているような感じがして、泣きたくても泣けなかった。今思い返すと、あんたの家を出た日も俺は泣けなかった。感情を表に出すのは、苦手なんです。
 だけど泣いてどうにかなるなら、泣いてみればよかったな。
 今からじゃ、流石にもう間に合いませんか。俺が泣いて縋ったら、あんたも俺のところに戻ってきてくれたらいいのに、なんて……つまらないことを考えている内に、気がついたらスマホを握りしめていました。
 今の話を聞いて、俺のことを少しでも憐れに思うなら、抱いてくれませんか。女房一人繋ぎ止めておけなかった、情けない男としての俺をあんたに蹂躙してほしい。

 ホテルの部屋をとったのは、何も日吉を憐れでいるからではなかった。二年半前に置き去りにしてきたものの断片を、少しでもいいから取り戻したかっただけだ。
 ホテルの部屋に入った瞬間、骨の目立つ日吉の体をすぐさまベッドに押し倒してやりたい衝動に駆られた。しかし三十を目前にした体は存外に理性的で、跡部は拳を握りしめてそれをやりすごす。
 一緒にシャワー浴びるか、ハンガーに上着をかけていた日吉に声をかけると、眉間にくっきりとした縦線が二本入った。
「そんなに嫌なら一人で入れ。俺は後でいい」
 そう言ってやると、「言われなくてもそうさせてもらいますよ」と浴室に消えていく。これではどちらが誘いをかけられたのか分かったもんじゃない。
 うっすらと漏れ聞こえるシャワーの水音を聞きながら、跡部は日吉の別れた妻を、妊娠中の自分の妻に重ねた。
 妻には跡部の家に嫁ぐ前、学生時代から付き合っていた男がいた。氷帝の高等部を卒業後、神奈川の私立大学に進んだ彼女は、家柄には不似合いなワンルームの部屋に住まいながら、普通の女子大生をしていたらしい。そしてそこで出会った男と、半分同棲しているような生活を就職後も何年も続けていた。
 それはさながら夢の中の出来事のようで、いつかは終わりが来ることを知っているのは私だけだったのよ、と彼女は呟いた。
 
 彼は他人や、自分の身の周りの人間の家柄なんて一度も気にしたことのないような人間で、美味しいものを食べたら、「うまいうまい」と笑顔になって、 決まらない髪型をからかうと目を真っ赤にして怒って、犬猫の映画を見たらダバダバと涙を流すような、感情豊かな人だったの。一つ年下だったからその全部が可愛かった。あなたも同じような経験をしたことがあるかしら?
 私も一度は自立というものをしてみたくて、大学を卒業してからは親に仕送りももらわずにいたから、いつもお金がなくて、彼のお気に入りのインスタントのラーメンを食べたりもしていたのよ。それはとってもチープな味がするんだけど、キャベツや缶詰のコーンなんかを入れるととても美味しいの。色んなことが新鮮で、楽しかったな。
 だけれどやっぱりそういう日々は、終わりが来るから美しいものでしょう。あなたのお祖父様からもたらされた縁談によって、私と彼の生活もあっさりと幕切れになったわ。
 父に、お前もいい歳なのだから、いつまでも遊んでいるわけにはいかないぞって言われたとき、ああそうだなって自然に思ったのよね。自分で離れることは出来そうにもなかったし、きっかけを与えられたことに感謝をするべきだったのかもしれない。
 それでも長く見続けた夢は、簡単に醒めてしまうには惜しくて、私は彼に最後まで別れを告げなかった。
 もう少し広い部屋に引っ越すだけだって言い含めて、二人で買い揃えた物の一つ一つを一緒にダンボールに詰めたの。
 彼の荷物を車に積み込んで、「それじゃあまたね」って手を振ったときには、映画のヒロインにでもなったような気分だったわよ。
 彼のことを愛していたか? さあ、分からないけど、二人でいると楽しかったのは確かね。ここに来てからはちっとも面白いことなんてないもの。
 戻ることなんて出来ないわよ。彼は私を絶対に許さないもの……いやちょっと違うか、私が彼に許さないでいてほしいだけだわね。

 結婚してしばらくが過ぎた頃に聞いたそんな話を、今更ながらに思い出す。
 日吉の言った通り、女というものはちゃっかりした生き物だと思う。日吉の子供を連れて別れた亭主の元へ戻っていった彼の妻と、長年付き合っていた恋人に別れすら告げずに結婚した跡部の妻にはどこか似たところがあるような気がした。
「上着も脱がずに考え事ですか」
 バスローブを身にまとって洗面室から出てきた日吉が、跡部の顔を覗き込んだ。眼鏡のレンズ越しの瞳はやはり冷えたままで、色素の薄い濡れ髪が艶っぽい。
 キスをするのに邪魔な眼鏡の蔓に、指をかけて取り払おうとすると、
「やめてください」
 大げさな仕草で手を払われた。
「シャワーを浴びてきたらどうですか」
 続けて言われて、不承不承浴室に足を向ける。
 熱い飛沫を体で受け止めていると、洗面室で日吉がドライヤーをかけ始めた。

 窓際の椅子に腰掛ける日吉の横顔には、表情がない。ただ、ゆっくりと距離を詰める跡部を横目に見やる瞳だけが雄弁に、その胸の内の怯えを滲ませていた。
「怖いのか」
 向かいの椅子に腰掛けて尋ねると、日吉はこくりと頷いた。
「久しぶりですからね」
 糸を引くような細い声で言ってから、「それにこんなこと、許されるはずがない」と続ける。
「あーん テメーが誘ったんだろうが」
「だけどアンタはもう俺のものじゃない」
 そう言った日吉の表情は、あまりにも頑なだった。
 無理強いすることも出来ずに、しばらくの沈黙が流れる。日吉は不意に立ちあがって、ベッドに横たわった。
「帰りが遅くなって、奥さんに怪しまれませんか」
「不倫相手でも見つかったかって嬉しそうにしてたな」
 隣に横たわって肩に触れても、日吉は小さく身じろぎをするだけだった。
「冗談でしょう?」
「そういう女だ。あれが産んだ子供は強く育つ」
「……奥さん、妊娠してるんですか」
 日吉は、咎めるような声を上げた。
「気がついたらな」
「他人事みたいな言い方をするんですね」
 実際他人の子なのだから仕方ない。妻が産めば自分の子として育てるし、愛情を注ぐつもりでいるが、それが子供にとっていいことなのかも分からない。
「別れた男のことが忘れられないのは、どこも同じみたいだぜ」
「あんたの子供じゃないんですか」
 妙に察しの良い日吉は、信じられないといった表情で跡部を見つめた。
「籍を入れる前に付き合っていた男の子だろうな。母親が自分の産んだ子供を、子供とは血の繋がらない男と育てる。お前の家と同じだろ」
「……同じにしないでください。祖母は妻のことを、別れた男の元へ戻ったロクでもないアバズレのように言いますが、あんたの奥さんとその相手とは違って、妻にとってのその人は一度は籍を入れた相手ですから、情が深いのも無理はないでしょう」
「それは別れた女房に対するテメーの気持ちだろうが」
「そ、それは……」
 きっぱりと言い放ってやると、日吉は面白いくらいに動揺して、跡部に背を向けた。
「俺は、妻のことを愛したことはありません。あの人とはただ、傷を舐めあっていただけです」
 痛々しい言葉を連ね続ける背中を後ろから抱きすくめてやると、日吉は小さく息を詰めた。
「現状で傷ついてんのは若、お前だけだろ」
 頑なな体を、侵略するように言葉を重ねていく内に、跡部の胸の内に小さな嗜虐心が顔を出した。弛んだバスローブの胸元から手を滑らせて、薄い胸の突起に触れる。
「痩せただけじゃなくて筋肉も減ったな。稽古はしてねーのか」
「仕事が忙しくてそんな暇ありませんよ……変な触り方しないでください!」
「満更でもなさそうに見えるがな」
「そんな、オヤジみたいなことっ、う」
 歳を食ったのはお互い様なのだから仕方がない。
 指先で硬さを確かめるように突起を挟み込んで、小刻みな振動を加えると、日吉の口から呻くような嬌声が漏れた。
 乳首を刺激されると、ペニスなどから与えられる即物的な刺激とは異なり、疼くような快感が体にとどまるという。時たま身じろぎをしながら足の爪先でシーツを引っ掻く日吉の突起を、指先で弾いてやると、彼は顔だけをこちらに向けて跡部を睨みつけた。
「いい加減にしてください。今日は気分じゃないんです」
「男のくせにこんなところ弄られて勃たせてるくせによくそんなことが言えたな」
 バスローブの布地を押し上げる屹立に、布越しに触れた。そのまま握り込んでやると、くっきりとしたカリのくびれまで感じることが出来る。
「ふ、ぁ……あんまり、調子乗んな……!」
「もっと触ってください、の間違いだろうが」
 日吉が頭を大きく横に振るのを無視して、バスローブをいっぺんに剥ぎ取る。
「せめて電気くらい消してください」
 遠慮のない跡部の視線から逃れるように、日吉は体を丸めた。枕元以外の照明を落として、その体を抱きおこす。
 跡部の胸に背を預ける形で座らされた日吉の内腿に手をかけて、その足を開かせる。半分勃ち上がった日吉のペニスが、手元灯に照らされてシーツに影を作った。
「いい姿じゃねーの」
 くつりと笑いながら、ペニスの根元を握りこむと、日吉はその手を払いのけようとした。ここでやめられるわけねぇだろ、の一言でそれを制し、執拗な手つきでしごき上げる。
「っ、や……離せ、あっ」
 初めは表面の柔らかかったそこが、徐々に硬さを増すのを、跡部は楽しんでいた。日吉と別れて以来、男を抱いたことはもちろん無いが、自分にはこれくらい即物的で分かりやすい存在が合っているのだと思える。
 根元から先端にかけて、絞り上げるような動きを何度も繰り返していると、日吉の鈴口からトロリとしたものが溢れ始めた。跡部はそれごと亀頭を握りこむようにして手のひらを回転させる。
「あっ、あっ……だめ、いきなりそんな触り方っ、」
「若、お前しばらく出してねぇのか」
「妻と別れてからは、月に何度か自分で出すくらいで、っ」
「その女と最後にヤったのはいつだ」
 亀頭のくびれを指の腹でなぞりながら尋ねると、日吉は体を震わせた。
「うっ、三ヶ月前……別れる直前です、あっ」
 空いた右手で半分涙声で答えた日吉の顎を掴んで、その薄い唇に自分のそれを重ねる。薄皮一枚だけで触れたそこは、見た目の印象とは異なり熱を孕んでいた。
「チッ、やっぱり眼鏡が邪魔だな。外すぞ」
「やめてください!」
 深く唇を重ねる障害になる眼鏡に触れようとすると、今度は更にはっきりと拒絶された。
「よほど俺様のキスがお気に召さないらしいな」
 流石に少し苛立って、先走りに濡れた指で日吉の菊門の周りを撫でる。無数にはいった襞の一本一本を伸ばすように指を動かすと、その中心が物欲しげに蠢いた。跡部がひたすらにそこを弄んでいると、
「……眼鏡を外したら、跡部さんの顔が見られなくなる。好きなんです、あんたの顔が昔から」
 日吉の口から思いがけずいじらしい発言が飛び出した。
「多少は可愛いことも言えるじゃねぇか」
 にゅぷ、と音を立てて人差し指を日吉の胎内に挿入する。当然、小さな嬌声と共に、「指、やめてください」と甘い声が上がったが、その内部は跡部を誘い込むようにみっちりとしていた。
「テメェはこうされるのが好きなんだろうが」
 耳元で囁いてやるとそれだけで内側がきつく狭まる。
「その声、聞くと、あっ、おかしく、」
「お前の耳のせいだろ」
 耳朶に舌を這わせながら、半端に挿入していた指を根元まで突っ込むと、日吉が艶っぽい声を上げた。耳が感じやすいのは、二年半前から変わっていないらしい。
 深く差し込んだ指を、日吉の良い所を探るように折り曲げる。幾度となく寝た相手なので、迷いもなく動いた指は、すぐにそのしこりに行き着いたが、気づかないふりをして何度も指先で掠めながら通り過ぎた。
「っ、それ絶対にわざと、」
「あーん なんのことだ?」
 あっさりと看破されても、悪びれることもなく焦らし続けると、
「ふざけんなっ」
 日吉が強い力で跡部の手首を掴んだ。そのまま跡部の手を操るようにして、そこに誘う。
「あっ、あ……」
 跡部の指を使って自慰をするような形で前立腺を刺激しながら、日吉は絶え間なく嬌声を漏らし続ける。
「まるで淫乱な雌猫だな」
 くっきりと浮き出た耳輪に歯を立てると、日吉は、「ヒッ」と高い声を上げたのち、
「ん、んっ……跡部さん、指っ、増やしてくださいっ」
 もどかしげに腰を揺らした。言われるがままに指をもう一本挿入して、内側まできつく押し込む。手首を掴む手を払いのけて、自分の意思で前立腺を強く押してやった。日吉の背にじわりと汗がにじむ。
「っ、う……くっ」
「今更堪えてもおせーよ。好きなだけ喘げ」
 下唇に歯を立てた日吉が、ゆるく首を横に振る。その長さは無いが量の多い睫毛が小刻みに震えているのを認めると、どうにも堪らなくなって、跡部は日吉の胎内に挿入していた指を抜き去った。
 日吉をベッドサイドに座らせると、自分は床に降りて、くぷくぷと名残惜しげに蠢く穴を正面に見据える。当然、「見るなよ」と足を閉じようとする日吉の、完全な形で勃起したペニスを口に含む。
「嘘……やめてくださいっ、」
 今更やめるわけがない。跡部は日吉の腰骨を掴んで、控えめに陰毛の生えた根元までをも口に含み、口を窄めるようにして一気に先端まで擦り上げた。
「ひゃっ」
 可愛いとは言い難い、潰れたような喘ぎ声が耳に楽しい。口内を狭めて、竿にかける圧を上げながら日吉を見上げると、今にも泣き出しそうな目がこちらを見下ろしていた。
「最悪、あんたにまた、こんなことをさせるなんて……」
 熱を持った舌で、裏筋とカリの段差をぐりぐりと刺激しながら、蕩けきった後孔に再び指を差し込む。
「そんな、どっちも……っ」
 挿入に備えて、後ろを拡げるような動きでほぐしていくと、日吉の淫肉はぐずぐずになって跡部の指に吸い付いた。早くこの中に挿れたい、そんな衝動が跡部の中に湧き上がる。
 日吉の先走りの、塩っ辛いような味を舌で感じた。その段になってようやくペニスを解放してやると、日吉が荒い呼吸を漏らす。
 濡れたような視線に絡みとられて、腰の奥が重たく疼いた。自分の身に纏っていたバスローブを、ベッドの上に脱ぎ捨てて、「もういいな?」と声をかけると、日吉は返事の代わりに頷いた。
「っ、硬い……」
 寂しげにひくつく穴に、張り詰めたペニスの先端を擦り付ける。
「随分と欲しがりな穴だな」
 あえて冷えた声で言ってやると、
「そういう体にしたのはあんたでしょうが……」
「元々素養があったんだろ」
 初めて体を重ねた日、さしたる準備もなくあっさりと自分のモノを受け入れた日吉の体を思い出す。この体は、自分に出会わなかったとしても男に抱かれるためにあるものなのだ。異性愛者の真似事をしても上手く行くはずがない。
 淫らな窄まりに、かさの張り出した先端を僅かに埋め込むと、痛いくらいの快楽が背中に走った。そのまま奥まで押し込んでしまいたいのを堪えて、焦らすようにそこで出し入れする。
「跡部さん……早く、」
「早く?」
 耳のないような顔をして、極々浅いところでの抜き差しを早めると、日吉は色のない瞳を三角にした。皺の寄った眉間から、苦悶と色気が滲み出ている。
「早く挿れてください……欲しいんですよ、あんたのモノが」
「それがおねだりをする立場の人間の言うことかよ」
 一旦抜き去った先端で、日吉の蟻の門渡りをなぞりながら、こくんと上下する白い喉にかじりついた。
「ふっ、う……」
「もう一度聞く。お前は俺の何が欲しい?」
「……っ、ペニスです! 浅ましい俺の体を、あんたのペニスで雌に戻し、アッ!」
 そこまで聞くことが出来れば充分だった。
 ベッドのマットレスに乗り上げながら、これ以上ないくらいに硬度を増した肉棒を根元まで一気に挿入する。ずぷん、と濡れたような音を立てて日吉の胎内に収まったそれの先端を、ぐりぐりと最奥に押し付ける。
「はぁ……あっ」
 粘膜と粘膜の擦れ合う強烈な快楽を奥歯を噛み締めてやり過ごしながら、跡部は日吉の顔を見下ろしていた。普段は青く澄んだ瞳の白い部分を、眼鏡のレンズ越しにも分かるほどに充血させた日吉は、苦しげな嬌声を漏らしながらも跡部を睨みつけている。
 跡部は日吉の、どこまでも生意気な、その瞳に惹かれた。誰よりも深く自分を求める男の心を、ベッドの上でへし折ることに、次第に快楽を覚えるようになった。
 みっちりとした筋肉で覆われた日吉の内部は、熱でかき分けるにつれて抵抗を強める。その苦しいくらいの締め付けがペニスの表面の性感を刺激するのが気持ち良くて、跡部は激しいピストンを続けた。
「跡部さん、っ……くるし、あっ」
「気持ちいいの間違いだろうが」
「気持ちよすぎてっ、おかしくなる、あ、あん」
 ゴムを着けることすら厭うて挿入したので、跡部のカウパーによって濡れそぼった内側が、くぽくぽといやらしい音を響かせていた。先端が抜けるギリギリまで引き抜いて、根元まで一気に差し込むということを幾度となく続けている内に、日吉の体が小刻みに震え始める。
「あとべ、さ……っ、イく……イキます……」
「テメェは男のくせに後ろから咥え込んだだけでいくのかよ」
「あんたの、気持ちよすぎて、久しぶりだから……あっ、」
 一度ピストンを止めると、だらしなく唇を開いた日吉が、「なんで……」と呟き、それから両手を開いて跡部の体に縋り付いてきた。
 燃え上がるような熱を持った体にぴったりと張り付かれて、「イかせてください……お願いします」と懇願されると、もう堪えきれない。
 ずるずるとペニスを引き抜いて、一気に差し込む。それからはもう腰を止めることは出来なかった。
 パンパンと、肌と肌のぶつかり合う音が部屋中に鳴り響く。軋みをあげるベッドのマットレスの上でもみくちゃになった日吉の瞳からは、ついには涙が大粒の涙が零れ落ちた。
 跡部は日吉の涙を初めて見た。酷く澄んだ色をしているのだな、と空々しく思う。
「こんな体で女と上手くやれるわけがねぇだろ。お前の体には、男が必要なんだよ」
「そんなこと、っ……分かってました、あっ……だけど、俺だって、ぅ、あっ」
 普通の幸せを手に入れてみたかった――掠れた言葉を、重ねた唇で引き取って、跡部はその口内に舌を差し入れた。日吉の薄く滑った舌が、言葉を発する時よりも余程器用に蠢いて、跡部の舌に絡みついてくる。
 気がつくと日吉は射精していて、跡部の腹は精液で濡れていた。自身も限界が近いのを察した跡部が、唇をゆっくりと離すと、日吉は舌足らずに、
「唾液を飲ませてください」
 と口を開いた。この変態、と心の内だけで罵って、跡部は口内に溜まった唾液を日吉のだらしなく開いたそこに注ぎ落とした。丹念に、味合うようにそれを飲み下した日吉が、適度に形良く張ったふくらはぎを跡部の腰に回す。
「テメェはどこまでも淫乱だな」
 他の人間にやるには惜しい。この体は、自分にとって必要なのものだ。
「あんただけですよ、っあっ、や、」
 再び生意気な目つきに戻ってうそぶいた日吉の体を、力ずくでシーツに押さえつけて、激しいストロークで奥を穿つ。淫らな肉壁は、それを拒むこともなくきつい締め付けで跡部の性感を高めた。
 もっともっと、と請うように腰を揺らす日吉の、淫壁の腹側にあるしこりを先端で激しく擦り上げると、強い締め付けに襲われた。狂おしい程の快楽に任せて、跡部は日吉の最奥に白い迸りを放った。

 汗や精液で汚れた体を、跡部がティッシュで拭っていると、事後の消耗からようやく抜け出した日吉がむくりと体を起こして口を開いた。
「もう面倒だからシャワーを浴びましょう」
「一人でか」
「……今度は二人で。一人でいると余計なことばかり考えてしまうんです」
 丸めたティッシュをゴミ箱に放りながら呟いた日吉の手首を掴む。
「テメーは昔から頭でっかちなんだよ。いつもベッドの上にいるときくらい素直になりやがれ」
「ベッドの上で人が変わるのはあんたの方でしょうが。なんなんですかあのサディスティックキングダムは……後から思い出して恥ずかしくなりません?」
「ンな言葉が俺様の辞書にあるとでも思ってんのか。大体煽るのはいつもお前で、」
 そこまで言ったところで黙り込む。呆けたような表情を浮かべて日吉の顔を見やっていると、「急にどうしたんですか」と腕を引かれた。
 そのまま二人して素っ裸のまま浴室に歩いていく。日吉がシャワーのカランを回すと、冷たい飛沫が皮膚の上で跳ねたので、跡部はようやく口を開いた。
「冷てぇな」
「すぐ温もりますよ。跡部さんが急に黙り込むのが悪いんでしょう」
 悪びれもせずに言った日吉は、水温が高くなるとさっさとホースを手に取って自分の体にかけ始める。
「お前といると楽だな」
「なんですかいきなり」
「気を遣わなくていい」
「よく言いますよ。人に気を遣ったことなんてないくせに」
 ぶつぶつと呟きながら、日吉は跡部の体に湯を当てた。あの女と風呂に入ったことは一度もなかったな、そんなことをしみじみと思う。
 彼女はいつだって挑むような視線を跡部に向ける。家の都合によって恋人との生活を奪われた、哀れな囚われの女という立場に陥ることを恐れるように。
 愛した男との日々を、金持ちの娘の道楽の一つとして割り切ったような演技を続ける女に調子を合わせ続ける内に、跡部自身も何かを擦り減らし続けていたのかもしれない。
 妻がクローゼットの奥にしまい込んだ、大雑把にガムテープの巻かれた段ボール箱。あれを自分の墓だと言った女は、いつまで今の生活を続けるつもりでいるのだろうか。
「日吉、お前は俺を憎んでいるか」
 柄にもなく感傷的な質問を投げかけると、日吉の瞳が暗く輝いた。
「許すとか、許さないとか、考えたことすらありませんでした。あんたのことを憎んでいたのかどうかすら、今となっては定かじゃない。ただ、」
 シャワーから勢いよく迸る湯の音が、日吉の声をかき消した。肉の刮げ落ちた男の腕が、跡部の体に回る。
 置き去りにしてきた二年半の歳月を肌の表面で感じながら、跡部は、眼鏡を外した男の濡れた瞼に唇を落とした。

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