2話 「ということがありまして、ひっじょーに困っております」 「……それで、その話を俺にしてどうするつもりなんだ?」 「どうするもこうするもありませんよ。可愛い生徒として、先生を頼りにしているだけです。さあ、アドバイスをください」 放課後の貴重な空き時間を食堂でコーヒーを飲むことで消費していた我がクラス担任の日吉先生はにじり寄る私の横っ面を手の甲ではたきながら小さく溜息をついた。金とも茶ともつかない色をしたサラサラの前髪の隙間から覗く切れ長の瞳には面倒臭げな色が滲んでいる。 「あの人と付き合えるようにアドバイスしてほしいとでも言うのか」 「そんな無茶言いません」 「それじゃあ何のためにここに来たんだ?」 「それは……」 「それは?」 「……とりあえず私にも何か飲み物を買っていただけますか」 「それくらい自分で買ってくれ」 「財布は家で寝かせてます」 至極真面目な表情で適当なことを言えば呆れ顔に拍車をかけた先生が懐から小銭を取り出して私の方へ放った。ちなみに500円玉、釣りは返さなくていいなんて言う日吉先生は意外に気前のいい人なのかもしれない。 紙コップの自販機でココアを買った私が再び先向かいの席に座ると、先生はそのまま戻ってこなければよかったのにと言って本日二度目となる溜息をついた。 「それで、俺に何をどうアドバイスしてほしいんだ?」 「……跡部先生と今後気まずくならない方法」 「無理だな」 「一刀両断ですか」 「あの人はあれで不器用だ。お前がどう上手く接しようが今までのように口をきくことは出来ないだろうな」 「……十年来の友人の言葉は重みが違いますね」 跡部先生と日吉先生は中学時代からの付き合いらしい。なんでも部活の先輩後輩だったとか。何の部活に入っていたかは知らないけど。 「俺とあの人が友人? ありえないな」 「その年になったら一つくらいの歳の差関係なくないですか」 「歳がどうとかそういう問題じゃない」 「それじゃあどういう問題ですか」 「……あの人は、」 「はい」 「俺には遠すぎる」 「遠い?」 「超える前に崩れた壁だ。友人なんて言い方はそぐわない」 「それってどういう……」 「……今日はもう帰れ、俺も忙しいから」 飲みかけのコーヒー片手に立ち上がった先生に、私の相談はまだ終わっていませんと投げかければ、 「明日また聞いてやる」 そんな言葉を返される。そうしてまたしても一人残された私は紙コップに残ったココアをぐびりと飲み干して食堂を後にした。 [back book next] ×
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