「喋々結びは得意なんです」




すまないと口にしながら、その実、心の奥底では一生許してくれなくていいと思っているのかもしれない。
何より自分で、自分が許せていないのだ。だから同じように許さないでほしいのだと勝手に感じてしまっているのかもしれない。
一度手にいれた力、それがなくなった今もそこにはぽっかりと穴があいたままだった。いつでもその穴は、貪欲に力を欲している。
たとえば必殺技の習得に行き詰まった時、たとえば試合で負けそうになった時、力があればと疼きだすのだ。
求めているのだ、あの紫紺の輝きを。

大切な人を、多くの仲間たちを傷つけたことは後悔している。後悔してもし足りない。
たとえどんな力でも強くなれるのならそれでいい、そんな考えが間違っていたことだって分かっている。
最初から、分かっていた。
そうでなければキャラバンに参加し、エイリア学園を相手に奮闘するはずがないのだから。
サッカーを破壊の道具にすることを、無闇に人を傷つけることを、皆と同じく否定していた気持ちは嘘ではない。
それでも、誘惑に抗えなかった自分。
後悔しながらも今も求めてやまない自分。
時を戻しても、きっと自分はまた同じ過ちを犯すだろう。
その弱さを、一生許してくれなければいいのに。






「風丸、どうしたんだ」

ふいにかけられた声に、今が練習中なのだと思い出す。

「いいや、何でもないよ」

すまない、と口にすれば、いつものように笑顔が向けられる。
さあもう一本、と投げ返されたボール。右足で受ける。
視線の先、構えたのを確認してシュートを放つ。
弧を描くようにゴールへと向かうそれはどうやら読まれていたようで、難なく止められてしまった。
あの時、すれ違った気持ちを無理やり受けとめてくれたように。

「いいシュートだ、風丸」
「あっさり止めた奴が言うセリフかよ」

再び投げ返されたボールの軌道のまま、後ろに下がる。
ほどけかけていた靴紐に気がついてかがんだ瞬間、グローブを叩く音が響いた。

「言っただろ、お前の全てを受けとめるって」

だから、来い。
ざり、と構えた音がする。
しかし当の自分は固まったまま、まばたきすら出来なかった。
気をぬけば、あの日の記憶が、想いが、あふれてしまいそうで。

「風丸、大丈夫か」

呼ばれた声に、はじかれたように顔をあげる。みっともなく肩がはねた。

「あ、なに、が」
「靴紐、大丈夫か」

構えをといて、こちらを指さす彼に、ああ、と頷いて見せた。
ぎゅう、ときつく結び目をつくる。

「よし、じゃあ」

腰を落として構える姿に知らず力が入る。
あの時と同じ、でもあの時にはなかったもの。零れんばかりの笑みを向けて、バシン、先ほどより力強くグローブを叩いた。

「さあ、お前のすべてをぶつけてこい」

こちらを見据える瞳には、何が映っているのだろう。
ボールは嘘をつかないと言う。もしかしたら彼は簡単に見抜いているのではないか。
それでも尚、ゴールの前で両手を広げている。
こうしてボールを持っている限り、ずっと。
ずっと目を離さないでいてくれればいい。

右足がぎゅうぎゅうとしめつけられている。どうやら靴紐を固く結びすぎてしまったみたいだ。



×


どうしたら風丸さんが幸せになれるのかそんなことばっか考えてしまう。

20110307
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