あなぐらより









「お前の過去の話を聞いた」

言えば、目の前の背中がぴしりと固まった。
数秒の間をあけて、そうかよ、と小さな声が聞こえたが、こちらを振り返ることはない。

「それで同情でもしてくれたのか、いい子の鬼道クンはよ」

溜め息とともにおとされた科白には、言葉の意味ほどに力はこもっていなかった。
その証拠に、未だ彼は背中を向けたまま。

「残念ながら、同情などしていない」

彼を理解するきっかけになったのは確かだが、なにせ自分は、いい子の鬼道クンではないのだ。
そうでないことなど、分かりきっている。

「それとも、同情してほしかっ」
「そんなわけねえだろ」

勢いよく掴まれた胸ぐらに気がついたのは、鋭い双眸の中に自身の姿を見つけてからだった。
ああ我ながらなんて嫌らしい笑みなのだろう。

「誰が同情などしてやるものか」
見開かれた瞳が揺れた。

「過去に縛られているなんて見苦しいと思っただけだ」

怒りが沸騰するのが見ていて分かるようだった。
胸ぐらにある拳にはより一層力がこめられ、視線はこちらを射殺さんばかりに熱い。
思わず口角がゆるんだ。

「お前になにが分かる」

それが気に食わなかったのか、尚も強くなる締め付けに、ぐ、と息がつまった。
けれど、笑みは消さない。

「分かりたくなどない」

白くなってしまっている指を一本ずつほどいて、その手を振り払う。
乱れた首もとを直して、肩で息をしている奴を睨みつけた。

「分かりたくなどない」

もう一度吐き捨てて、今度はこちらが背を向ける番だ。
くるりと踵を返した背中を追いかけてきたのは。

「お前だって、違うとは言わせねーぞ」

縛られたままじゃねーか。
過去に、そう、あの人に。
突き刺さる罵声も許容範囲内。分かりたくなどないけれど、分かってしまうのだ。

「ああ、だから言っただろう」
見苦しい、と。
振り返り様、見えたのは先程と同じように見開かれた瞳。
ようやく、ようやく彼は気が付いたのだろう。

いまさら遅いじゃないか。
お前と、オレは、とっくに同じフィールドを走っていたというのに。








8/14不動と鬼道の日きねん!フライング!
同じ穴のムジナてきな。
100812
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