平行

アリア






フットボールフロンティア・インターナショナル。
サッカー好きなら誰もが知る大会。
もちろん、自分たちが例外であるはずがない。
かつての戦友たちを応援しようと、イナズマジャパンの練習場所である雷門中学校まで足を運ぶのは、すでに日課になっていた。
マネージャーの後片付けを手伝いながら、今日の練習を振り返る。
ボトルの入ったかごを持ち上げた瞬間、背後から声がかかった。

「おい塔子、このあと河川敷に行くんだけどお前も行くか」
「ああ、もちろん」

ハードな練習を終えたあとだと言うのに、疲れをまるで感じさせない声に、思わず苦笑してしまった。
こうして練習のあとに、チームの中心であるメンバーが再び集合し今日の反省をかねて河川敷で特訓。そこに、わたしとリカも混ざるのだ。これもすっかり日課になってしまった。
初めて見るメンバーがいるとは言え、多くは同じチームで戦ったメンバーだ。
わたしたちの意見も参考にしたいと、これは鬼道のアイデア。

「じゃあ、終わったら声かけてくれなー」

おう、と返して再びかごを持ち上げると、今度は別の方から声がかかった。

「塔子ちゃんそれで最後だよ、ありがとう」
「いいや好きでやってるんだ気にするな、アキ」

二人そろってカゴをかかえ水道へと向かう。
周りを見回せば、確かに残っているのは自分たちだけだった。
いくら日が長いとはいえ、のんびりしている余裕はない。
何気なく足を早めると、それに気がついたのか隣を歩くアキも歩調をあわせてくれた。

「悪いな、アキ、さっさと終わらせちゃおうぜ」

いつもの調子で覗きこんだ顔は、しかし俯いていて分からない。
予想外のことに首を傾げた。

「アキ、どうし―」
「いいなぁ塔子ちゃんは」

そう言って上げられた視線。どこか遠くをとらえている。

「円堂くんや、みんなと一緒にサッカーできて、いいなぁ」
「なに言ってんだよ急に」
「急にじゃないよ、ずっと考えてたの」

だってわたしたちは、一緒に戦えなかった。
いつだってフィールドの外から見ていただけ。
仲間たちが次々と倒れていく中で、地上最強チームになるんだと奮闘している中で。
手を差しのべられたか。
肩を貸してあげたか。

「見ていることしかできなかったから」

そう言って力なく笑った。
何かを諦めたかのような横顔に、言葉が出ない。
体の奥からわきあがるようなもどかしさに、じわりと視界がにじんだ。

「なんで」

気がつけば、地面にボトルたちが転がっていて。

「なんでそんなこと言うんだよ」

カゴごと地面に落とした大きな音に、はたまた声に驚いたのか目の前の少女が肩をふるわせる。

「お前たちマネージャーは一緒に世界に行けるじゃないかっ」

たとえ同じボールを追いかけているわけじゃなくとも。
世界という同じ舞台に、立てるのだ。
同じ景色を、すぐそばで見ることができるのだ。
円堂なら言うだろう、マネージャーだってチームの一員だ、と。

「円堂たちと一緒にサッカーしたかった、世界に行きたかった」

けれど同じプレーヤーとして舞台にあがることは許されない。
「わたしは、」

その道を選べなかったから。

「アキたちが羨ましい」

あんなに力いっぱい叫んだあとなのに、最後は情けない声しか出なかった。
なにを言ってるんだ。
こんなところで叫んだとして何もかわらないのに。
急に自分がバカらしくなって、落としたボトルを一つずつ拾い上げる。

「塔子ちゃん」

背中に落ちてきた声。
返事ができずにいると。ふわり。真横に影がおちた。
ゆっくりと顔をあげれば、まるで泣き出しそうな瞳がそこにあった。

「なんだよ、アキ、ひどい顔」
「塔子ちゃんだって」

どちらからともなく笑いが落ちて。
きっと二人とも同じ顔になっているだろう。
ごまかすように、拾い上げたボトルをカゴにまとめて、仕事再開させた。
歩幅同じくグラウンドを進む。

歩く道は違ったけれど。
目指したものは。
共にありたいと願った人は。
見据える先は、きっと変わらない。



「アキ、塔子」
「大丈夫かすごい音したけど」
「よかったら手伝うぞ」
「いつもありがとな」

気がつけば、音を聞きつけたのか、グラウンドに残っていたメンバーが心配そうに集まってきていた。
なんだかまたおかしくなって二人、顔を見合わせる。

「なんでもないよ」

な、ね、とそろった声にみんなは首を傾げるばかりだ。
いつの間にか片付けは大所帯になっていて。
ああでもないこうでもないと始まる大騒ぎの中で、きっと隣にたつ彼女も同じ気持ちでいるだろう。
ほんの僅かにじんだ視界の先にむけて、きっと明日もまた声をはりあげるのだ。




(彼らへと、まっすぐに、響くもの)






20100808
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