「答えは簡単です、1たす1は?」
「2、だよね」
「ぶっぶーハズレ!」

ヒロトひっかかった、と円堂くんは嬉しそうに指をならした。
大変失礼なことに、きらきらと笑う彼の頭を本気で心配してしまった、ある日の昼下がり。




僕らの愛した数式




「最初に『答えは簡単です』って言ったじゃん」
「ああ、じゃあ答えは」
「そ、『簡単』だよ」

一瞬でも君の頭を疑ったオレを許してください。
さすが円堂くん、おもしろい問題を出す。
1たす1は2、という日本人特有の反射を利用した見事なひっかけ。
いつもは難しい数学なんかを教えてあげているけれど、今回ばかりは感服だ。
さすがだね、と口にすると、円堂くんは、何てことないぞ、と鼻の頭をかいた。

「じゃあ、もう一度問題!」
「うん」
「1たす1は?」
「『簡単』でしょ」
「ぶっぶーハズレ!」

今度こそはしっかりと答えられたはずなのに。
さっき指摘されたにもかかわらず早速間違えてしまったなんて、呆れられちゃうかな。
目の前がまっくらになったが、それも一瞬、円堂くんのきれいな瞳に反射した光で、目がちかちかした。
「オレ今度は『答えは簡単です』って言ってないぞ」
「あ」
「ヒロトって案外抜けてるんだな」

柔らかい微笑みが眩しい。
なんて見事な頭脳プレーだ。
二重の仕掛けに、まんまとやられてしまった。
いつも能天気にしてるだけじゃない、やっぱりキャプテンをやっているだけある。

「ラストチャンスだぞヒロト」
「う、うん」
「1+1=?」
「2、かなぁ」
「ぶっぶーハズレ!」

1たす1が、2じゃない。
でも今度は『答えは簡単です』もなかった。
3つ目のトラップだ。
オレはわくわくしながら円堂くんの顔を覗きこんだ。

「それで答えは」
「たんぼの田」
「は?」

どこをどうやったら、たんぼの田なんて答えが出るんだ。
もしかして、とてもむつかしい公式が必要なのかな。
それを知ってる円堂くんはやっぱりすごい、オレが見込んだだけある。

「ヒロト」
「ああ、ごめん、つい」
「つい?」
「いや、何でもないよ」

意味が分からない、なんて言ったらがっかりしちゃうかもしれない(しかも違うこと考えてたなんて言ってもきっと幻滅する)
オレは知ったかぶりを決めて、さも分かったかのように頷くことにした。
なかなか難問だね、というと、だろ?と笑顔が返ってくる。
今度は得意そうに鼻をこすった。

「小さい頃に流行ってたんだ、このひっかけ」
「こんな難しい問題を?すごいなぁ円堂くん」

たんぼの田を頭の中で反復しながら言うと、そんなすごいものじゃないよ、と円堂くん。
大抵の子供たちは知っている問題らしい。
どこをどうやったらたんぼの田になるのか分からないままのオレは、つい口に出してしまった。

「たんぼの田」
「そう、たんぼの田」

ううん、あとで誰かに聞いてみよう。
悔しいけれど。
とても悔しいけれど。
1たす1の答えが一つじゃないなんて、世界は複雑だ。
ふたたび目の前がまっくらになったが、やっぱりそれは一瞬。

「大丈夫か、ヒロト」

差し出された手が意識を拾い上げてくれる。
優しく向けられた瞳に、うん、と返事をすると、きらきらとした笑顔をくれた。
この瞬間がたまらなく好きだ。
案外世界は単純かもしれない。
分からない答えは後回しにして、迷いなくその手を取ることにした。
ある日の昼下がり。





答えがひとつじゃないなんて、なんて素敵!

昔のサイトにあったネタをサルベージしてきました。特殊な環境で育ったヒロトには、こういう何でもないことをみんなに教えてもらったらいいよ。

ちなみに「1+1=」の棒を全部組み合わせると、「田」になるという遊び。
知ってる人いるかな。

20100715
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