大好きな人の幸せが自分の幸せだというけれど、人間とはなかなか欲張りなもので。






「風丸さーん」


部室へとむかう途中なのだろう、まだ制服のままの先輩を見つけて呼びとめた。
一度、声の出どころを探すかのようにキョロキョロとしてから、視線がこちらをとらえる。
瞬間、宮坂、と名前を呼びながらふわりとやさしく笑ってもらえて、おもわずこちらも笑顔になる。
もとより、そのうしろ姿を見つけた瞬間から頬はゆるんでいたのだけれど。

「宮坂はこれから練習か」
「はい、風丸さんも」
「オレは忘れ物をとりにきただけだよ」

今日は部活が休みなんだ。
そういえば、グラウンドはラグビー部が使うと書かれていた気がするな、と思考をめぐらせて、ふむふむと頷いた。

「それにしてもホームルーム終わってそうじかんたってないだろ、宮坂は相変わらず熱心だなぁ」

なにしろ、終わった瞬間に教室を飛び出しジャージに着替えてきたんです。
ほめられたことがうれしくて、えへへ、と小さく笑う。

「陸上、好きなんだな」

一番好きな笑顔と、やさしく頭をなでてくれる手。
それだけで、胸がいっぱいになって、嬉しさがあふれてくる。

「陸上も大好きですけど、風丸さんも大好きです」

正直に言えば、お前なぁとほんの少し染まった頬。
きっと、この気持ちはほんのひとかけらも伝わっていないんだろうけれど。

「宮坂みたいに素直になれたらいいのにな」

思ったことを、好意を、きちんと伝えられれば。
やわらかかな手のひらはそのままなのに、のぞきこんだ顔は、こちらを向いてはいなかった。
困ったような照れ笑い。
やさしい瞳。
大好きなそれらがむけられているのは、自分ではないのだ。
ぎゅう、と胸の奥がくるしくなる。
大好きな人の幸せが自分の幸せだというけれど、人間とはなかなか欲張りなもので。

(こんなんじゃ足りない)
(足りないよ)

あなたのその笑顔がくもりませんように。
あなたを包む世界がやさしいものでありますように。
あなたがいつも穏やかな気持ちでいられますように。
もっともっともっと、幸せになってほしいから。
とびきりの欲張りをねだらせてほしい。




Good Luck!!

(たとえば、部室の前で手をふる彼が、風丸さんの気持ちに気がつきますように!)






20100629
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