lemon



「大丈夫だ、心配ない」

なにが、と首をかしげる。
しかし、目の前にいる天才ゲームメイカー様は、分からないのかと言わんばかりに眉をひそめてくださった。

「ところで鬼道」
「なんだ風丸」
「オレは円堂は今日も相変わらず元気だなって話をしていたはずだが」
「奇遇だな、オレもだ」

にやりと笑った彼に悪びれた様子はみじんみない。
ではこの問答は関係のあることなのだろうか。
まったく分からない。

「それで、なにがどう大丈夫なんだ」
「知りたいのか」

再びにやり。
お前が話を振ったんだろう、と反論すべきか悩んでやめた。
話が進まない。
黙ったまま頷いた。

「つまりだな、お前が心配することは何もない」
「元気な奴をどう心配するんだ」

頭か。
頭なのか。
あの能天気さとか鈍さとかそれを心配したらいいのか。
こじれた話(正確にはこじらされた話)を元にもどすべく溜め息をついてみる。

「円堂はな」

ふいに真剣になった声に、姿勢を正す。

「円堂は昨日お前といっしょに下校したと言っていた」
「え、ああ、そうだけど」

そんなことは別になんでもない。
いつものことだ、特別に言うことでもない。
問いかえそうと思ったが、言葉はまだ続くようだった。

「それから、こうも言っていた」

わざとらしく、さも今思いついたかのように、笑んで。

「はじめてのキスってレモン味じゃないんだぞ、だそうだ」

は、と聞き返しながら眉をひそめる。
言われたことを認識するまでに数秒。
含まれた他意を汲み取るまでにまた数秒。
耳の先まで真っ赤になったのが自分でも分かる。
たっぷり時間をかけて理解してから、大きく息をすいこんだ。

「円堂っ!」

あらんかぎりの力で叫べば、遠くの方から、なんだ〜、と間延びした返答。
確かにこれは心配するに値する能天気さで、鈍さだ。
円堂と鬼道が最近よく一緒にいるのは知っていた。
けれど、それだって特別なことじゃないし、チームの中心である2人なら当たり前のことだ。
いったい、いつからどのへんからそんな話をしていたんだろう。

「だから言っただろう」

背後からたたみかけられるように投げられた声に、振り返る余裕はない。
ゆっくりとこちらに向かって来るキャプテンを睨みつけたまま、耳をふさぎたくなった。

「大丈夫だ、心配ない」
「どこがだ、心配だらけじゃないかバカ」
「つまり、」
「なんだよ」
「相変わらずの元気はお前のおかげなんだ、風丸」

思わず振り返れば、なにもかも見透かしたような笑み。
先ほどまでの意地悪なそれではないことが、余計に恥ずかしくて。
風丸どうした、と近づいてきた頭を、知るかバカと殴りつけてやった。

珍しく声をたてて笑った彼のひとみが、ゴーグルのむこうで優しく揺れたのは、また別の話。





書きながらなんかいつもと違う気がしてならなかった。
こういうの嫌いだったら申し訳ない。
円風なんだが風円なんだかはご想像にお任せします。
鬼道さんと風丸さんはよき理解者どうしたどいいなぁという話でした。

20100604
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