まるで引っ越しでもするんじゃないかというくらい大量の荷物が届いた。
財前家の秘書は、テロかなにかかとそれはそれは驚いたという。
中はすべて問題ありませんでしたという秘書の顔は、なんだか少しあきれていた。
見ればすべてリカ宛で。
ダンボール箱にぎっしりつめられていたのは、色とりどりの洋服だった。

そして、人様のクローゼットの半分を占領して今に至る。
もともと空いていたも同然なので問題ないといえばないのだけれど。

「それにしたって殺風景な部屋やな」
「文句あるなら出ていってもいいんだぞ」

睨みつけてやれば、冗談やと笑いながら肩をたたかれた。
押し出されるように溜息がおちる。
フットボールフロンティア・インターナショナル。
サッカーに関わる者なら誰もが憧れる大きな大会のアジア予選が、ここ東京で開催されている。
それ見るために、はるばる大阪から戦友がやってきたのは数日前。
どうせ全部見に来るのだからとしばらく我が家に居座ることに決めたのが昨日。
荷物はだいぶ早く届いたみたいだ。
ようやく片付けおえたのに、じっとしているのが苦手な彼女は部屋のあちこちを物色しはじめた。
面白いものなんか何もないぞーと、横目で確認しながら手帳をひらいた。

「女の子らしくアイドルのポスターとかないんか」
「そこにフットボールフロンティアのが貼ってあるだろ」
「かわいいぬいぐるみとか」
「クッションで十分だ」
「クローゼットの中も、ぜんぶ同じような服ばっかりやんか」
「スーツ以外必要ないからな」

意識半分で答えながら、ページをめくった。
あ、明日の十五時には一度連絡をいれなければ。

「なあ」

しばらく大人しくしていたと思いきや、突然目の前ににやついた顔があらわれた。
驚いておとした手帳は、まんまと取り上げられてしまう。

「せっかくやし、うちの洋服着てみたら」

これとか似合うと思うんやけどと渡されたのは、デニムのショートパンツに、白地にピンクの花が散ったふわふわのチュニック。
あまりにも自分とは遠い組み合わせだ。

「ほら、こっち」

クローゼットの扉に備えつけてある大きな姿見の前に引っ張り出される。
そのまま、あれよという間に服を脱がされ、瞬きをした瞬間に花柄が体をかざっていた。

「ちょっとリカ、こんなの」
「上が着れたら次は下や」

脱がされたジャケットが無惨に床に投げられる。
しわになっちゃうじゃないか。
眉をよせて隣を見ればにこにことまるで邪気のない笑顔。
逆らえずに、渋々ショートパンツをうけとった。
脱いだスラックスは丁寧にたたんで、短かすぎるそれに足をとおした。

「ほうら言った通りや、似合っとるで塔子」

言いながら帽子をはずされる。
目の前に写されたのは、ただの、女の子だった。

「明日の練習は、これで見に行こうな」
きゃっきゃと盛り上がるリカをよそに、思考はとたんに沈んでゆく。
この姿を見て、あいつらはなんというだろうか。
きっとびっくりするに違いない。
それから、鈍くてデリカシーのなさそうなやつばかりだけど、似合うと笑ってくれるのだろう。
想像するだけで嫌になった。
この服に一番あうのだと出してくれたパンプス。
けれどそれでは走れない。
そんなの嫌だった。
だって、まるで認めているみたいじゃないか。

「と、塔子?」

リカがぎょ、として目を見開いたのがわかった。

「ごめんな、泣くほど嫌だったん」

情けないと思いながら、涙は次から次へとあふれだしてしまう。
こんな風にすぐ泣いてしまう自分も嫌だ。けれどどうしていいか分からない。
じゃあ着替えよ、とあわてて差し出されたスーツを押し返してしまった。
クローゼットを勢いよく開けて、わがまま言って持って帰ってきた雷門ジャージを引っ張り出す。

「塔子?」
「なあ、リカ」

それから、かつて隣で聞いたあのセリフを、今度はわたしが口にするのだ。

「サッカーやろうぜ」

アイドルのポスターも、可愛いぬいぐるみも、素敵な洋服も、今は、いらない。

少女よ、
大志を抱け!


またいつか彼らといっしょに、フィールドを走りたいんだ。






フットボールフロンティアは女の子は出られない。
きっと、塔子やリカは世界と戦いたかったし悔しかったと思います。
20100416
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