【穏やかなる凶器】


「いつになったら、気が付いてくださるんですか」

そいつは顔を合わせるなりそんなことを言い出した。
それはまだ月も沈み切らぬ時分の話。
冷えた廊下の空気の中、特訓を終えて自室へと向かう途中。
そいつは唐突に現われて唐突に口を開いたのだった。

「何、言ってるんだ」

鼻で笑って横を通り過ぎてやろうと思った。
けれどそうしなかったのはこちらを見る瞳があまりに真剣だったからだ。

「ねえ、本当は気が付いているんじゃないんですか」

言葉の意味が分からない。
ついにこいつは頭がおかしくなったのだろうか。
何を言ってるんだと再び。
質問の答えはかけらも返ってこなかった。
思わず眉をひそめる。

「オレは疲れてるんだ、そこをどけ」
「どきません」
「殴るぞバカ女」
「あなたはそんなことできませんよ」

思わず振り上げた拳は、悔しいかな、いわれた通りになってしまった。

「お前、なんのつもりだ」

こちらの拳をつつみこむ小さな暖かさをほどくことができない。

「気が付いてるんでしょう」

否定の為に頷けないのは、なぜ。
握り返す手は、果たして誰のもの。

「あなたには―」

冷えた廊下、特訓を終えた直後、とても眠たかったのだ。
こんな時に体温を武器にするだなんて、卑怯じゃないか。






あなたのまわりの人は敵でもなんでもなく、仲間なんだよってこと。
アッキーオがいつみんなに懐柔されるのか楽しみです。
でもなんで春奈ちゃんにしたんだろ。
20100414
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