溺れる風



そこに残ったのは風丸一郎太というちっぽけな一人の人間だった。
ちっぽけな一人の人間である風丸一郎太は、動けば疲れるし、夜になれば眠くなるし、転べば痛い。
あんなに簡単に宙へ飛びあがれた体は、急に重く、わずらわしいものになった。
もう、風にはなれないのだ。



「すげーっ、早くなったな風丸」

雷門のグラウンドに、嬉しそうな声が響いた。
一人ずつフォームの確認、と、障害物の間をドリブルで抜けてゆく。
その先で待ち構えるキャプテンは、今日も眩しいくらいに笑っていた。
ありがとう、とも、そんなことないよ、と笑って受け流す気持ちにもなれず、聞こえなかったフリを決め込んで、フィールドの外へと戻る。
マネージャーからボトルを受け止ってベンチに座りこんだ。
きっと変なところ敏感なあいつのことだ。
なにか気が付いているだろうけれど、やっぱりフォローしようとも思えない。

焦燥にも似た、割り切れない感情。
これは、きっと悔しさだ。
一度知ってしまった力は、いつまでも捉えてはなさない。
そんな力に手を出してしまったこと。
そして、今尚、その力がなくなったことに空虚を感じていること。
なんて愚かしい。わかっているのに、焦がれずにはいられない。
にぎったこぶしに思わず力が入る。
ボトルがみしみしと音をたてた。
風丸くん、と心配そうに覗きこんでくるマネージャーになんとか笑顔だけを返す。
けれど、動き出すことは出来なかった。
立ち上がれないのだ。
だって、体はこんなに重たいのだから。

仲間たちの明るい声が、幕一枚へだてた向こうに聞こえた。
フィールドが遠ざかる。
そこに残ったのは風丸一郎太というちっぽけな一人の人間だった。

もう、




たぶん続きます。こんなで終わりは嫌だ。
20100411
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