ずっとずっと傍にあった

北風と太陽〜昇らぬ朝日〜



目が覚めたのは、すっかり月も沈んだ時分。
生き物たちも今は息をひそめて夜明けを待っている。
ふくろうの鳴き声といっしょに溜め息をひとつ落とした。

朝練まではまだ数時間あるが、もう一度目を閉じる気にはなれない。
穏やかな寝息で満たされるキャラバンから、まるで切り取られてしまったかのように意識は冴えてゆくばかりだ。
みんなの目が覚めれば、朝からまた特訓がはじまる。
そのためにもしっかり休養をとりたいのに。
もう一度溜め息をついて目を閉じる。
けれど、睡魔はなかなかやってこない。
夜独特の静けさが耳をつく。

「サッカー、やろうぜ」

唐突に夜闇をひきさいたのは、聞き慣れた声。お決まりのセリフ。
驚いて体を起こすと、自分の傍で毛布がぱさりと落ちた。
寝相のわるいキャプテンが、サッカーボールと間違えて蹴り飛ばしたのだ。
やれやれと思いながらそれをかけ直してやる。
おなかまで出して、いくらバカが風邪を引く心配がないとはいえ、少しくらい気をつけてほしい。

「まったく、時々お前がうらやましくなるよ」

思わずこぼした呟きを知ってか知らずか。
のんきに眠る寝息の合間に、いいシュートだ、と喜ぶ声がまざる。
夢の中でまでサッカーやってるなんて、本当にこいつは。
その声をきっかけにしたように、あちこちで大きないびきや、歯ぎしり、寝返りする音、途端にキャラバン内はにぎやかになった。
一息ついて苦笑しながら、改めて顔を見やる。
なんだかふんわりと柔らかい気分になってきて、規則正しい寝息に、こちらまで眠気にさそわれたようだ。
顔を見つめたまま、ゆっくりと目を閉じる。
呼吸をあわせていたら、きっと同じ夢が見られるんじゃないだろうか。
まぶしい瞼の向こうでは、少しずつ陽が昇ってきている。




人智をこえた力を手にいれてからというもの、休息はほとんど必要なくなった。
しかし、残念ながら体は人間のままなので、どんなに体調がよくとも、陽が沈めば眠るという本能だけはどうにもならないらしい。
現に、他のメンバーはまだぐっすりと眠っている。
まるで誰も居ないかのように静まり返った室内。
いびきを響かせる者も、歯ぎしりをする者も、バカな寝言を言うやつも居ない。
夜とも朝ともつかない狭間の時間、静寂だけが支配していた。
どんなに目を閉じても睡魔はやってこないが、躍起になって眠る必要もない。
足りない力は、未知なる石が補ってくれるのだ。
持て余した時間をどうしようかと、秒針の音をひたすらに追ってみる。
寸分の狂いなどない、規則正しいそれは、まるで終わりを知らず。

開いた瞼の向こう、夜明けはまだやって来ない。





円堂さんの話と対にしたかったんですが。
あともう一個続きます。
20100409
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