対カタール戦は、なかなか苦戦を強いられていた。
体力を削られ、ギリギリの勝負をするイレブンたち。
乱れた呼吸が、ここまで聞こえてくるようだ。
熱い戦いに沸き立つスタジアム。
それとは対象的に、戻ってきたベンチは静かだった。
世界の力を見せつけられて尚、彼らは、彼女たちは、イナズマジャパンの力を信じていた。
信じて、見守っていた。
それがみんなの力になるのだと教えられたのは、つい最近のこと。
ふと蘇った記憶は、どれも愚かしいもので。
幾度となく悩み、その度答えの出なかった問い。
先ほどまで共に走り回っていた自分に、不安を感じる。
ここに、居ることは間違いではないのだろうか。
急に遠くなったフィールドから、思わず視線をそらした。

「あの、」

訝るような声に意識を戻される。
目の前には、心配そうに歪められた瞳があった。

「どこか痛みますか」

そんなに顔に出ていただろうか。
ぽやぽやしているように見えて、もう一人のゴールキーパーは意外と鋭いようだ。
こんなところも、さすが彼の弟子と言うべきか。

「ごめん、大丈夫」

首をふってやれば、よかった、と嬉しそうな笑顔をむけられる。
いっしょに手渡されたドリンクはほどよい冷たさが心地よかった。
考えすぎてオーバーヒートしていた頭が冷やされていく。
バカの考え休むに似たりとは、こういう時に使うのだろう。

「ありがとう」

素直に礼を言えば、大げさに両手を振って当たり前のことをしただけですと口ごもられてしまった。

「あの、」

ふたたび呼ばれて首をかしげた途端、けたたましいホイッスルの音。
どうやらまた数人が戦線離脱したようだ。
困った顔で一部始終を見つめていた彼は、ふと、あわてたようにユニフォームを着替え出した。
そうか交代する予定だったのか。
時間をとらせて悪いことをしたなと思っていると、彼はあっという間にフィールドへと向かって走り出した。
が、二、三歩進んだあたりですぐにユーターンしてきてしまう。

「どうしたんだ、なにかわすれ、」
「ええと」

勢いよく目の前まで戻ってきた彼は、その勢いのままこちらを見上げてきて。
反射的に、はい、と返事を返してしまった。

「みんなで、頑張りましょうね」

それだけいいおえると、また同じようにフィールドへ駆け出していく。

「頑張ります、じゃないんだ」

呆気にとられたままようやく声に出来たのはそれだけだった。
まったく、ここのゴールキーパーたちは油断ならない。
どこまで分かって言っているのだろうか。
彼らの思考を理解するのは不可能だろう。
けれど。

「みんなで頑張りましょう、か」

悪くはないな。
きっと事実は思ったよりもシンプルで、わかりやすいのかもしれない。
こみ上げる気持ちのままに肩の力を抜いてみれば、案外簡単に笑うことができるのだ。

「過ぎたるは尚、及ばざるがごとし」

本日二回目のセリフを吐いて、考えすぎた頭を少しだけ休ませてやる。
今はただ、走り出した小さな背中を、応援したいと思った。






【Joy and sorrow are today and tomorrow.(今日の喜び明日は悲しみ)】
人生、なにが不幸でなにが幸福につながるかわからない






立向居は実は男前なんだよ、という話?
たぶん続く。
この二人はもっとたくさん書きたいです。
20100402
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