3
リンが静かにバスルームから出ると、部屋の明かりは落とされていた、ベッド脇の間接照明が小さな膨らみを照らしている。ゆっくりと音を立てないように冷蔵庫を開けて水を取り出す。
「リン……」
背後からそっと息を吹き掛けられるような声がした。
「エド?起きてたノ?」
脇腹の辺りがざわつく、それを無視してリンは笑いながら振り向いた。
「明日は早起きするヨ、早く寝ナ」
「リン……」
「どしたノ」
「眠れないんだ……」
ベッドの上に身体を起こしたエドワードを見る、グリードから弛緩剤か安定剤を買ってくるべきだった、今更そう思ってみても仕方がない。冷蔵庫の脇のちゃちなバーカウンターから白ワインを見繕って、一口舐めてみる。適当にアルコールは強いし、癖がなくて飲みやすい味がした。
「飲んデ。眠れるかラ」
グラスを両手で傾けるエドワードの白い喉から目が離せない、ふ、と飲み干したエドワードが息を吐いたことで、目を離せなかった自分に気が付いた。
「熱い……」
「水飲ム?」
「うん……」
冷蔵庫に戻っていくと背後でぽすんと軽い音がする、水を持ってベッドに戻れば、エドワードはすでに横たわっていた。
華奢な身体が、大きめのクッションに上半身を預けて、大きく息をしていた。
エドワードの息に合わせて胸が大きく上下する、その度にバスローブが濃い陰影でなだらかな曲線をリンに魅せていた。
「エ……」
「リン、」
「ン?」
「オレ、リンに、何も返してやれないんだ」
「お返しっテ?」
「こんなにしてくれてるのに、何も、返せない」
お返しなんていらないヨ、そう、リンが言おうとして、口を開いたとき、エドワードの喉から音が漏れる方が早かった。
「リン、が、や、じゃなかったら、オレの事…すきにして、くれ…」
リンの動機がどくんと激しくなった、馬鹿な、こんな風に動揺してはいけない。
「そ、んな事、言うもんじゃないヨ」
声が枯れてうまく取り繕えなかった。クッションと細い腕に顔を埋めたエドワードの顔は見えない。
「だって、じゃあ、何でさっきオレにキスしたの」
頭を鈍器で殴られたような気分だった、吐き気がする、実際喧嘩をして後ろから蹴られたときにこんな目眩を感じた。
何もいらない、無償の愛で、エドワードを逃がしてやる。
初めから一度として、そんな風に思っていたわけではなかった。
「リン」
『エドワードが手に入る』と、そう思って、ここまでしている。
なんて浅ましい。
でも、何より、さっきのキスが『見返り』だったのだと、そういう意味で、キスを、したのだと
エドワードにそう思われたということが、リンの心をえぐった。
「リ、」
エドワードがリンの名前をもう一度呼ぶ前に、リンはシーツごとエドワードのバスローブを乱暴に剥いだ。
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