文.創作 | ナノ




(アブディエル+ルシファー)


「ルシフェル様…何故…っ!」
美しかった神殿、その周りに生い茂る緑や花々、囀る小鳥。何もかもが火の海の中だった。
こんな結末望んでいなかった、だから俺は何度も止めたのに。どうして解ってはくださらないのですかルシフェル様。
「当然の報いさ」
眩しい程に純白の翼を羽ばたかせ笑みを零す貴方は、ただ一人の敬愛する主君。
「報いなどない!貴方は間違っている!」
お願いだ、そうだと言ってくれ。これは冗談なんだと、神まで巻き込んだ嘘なのだと。
「そうだね、盲目的な君達から見たら私は間違っているいるだろう」
 でも、と続けるその表情は皮肉にも辛いように見えた。瞳や口調はこれまでにない程冷たいというのに。
「だから私は君達に伝えたんだろう?それを蔑ろにしたのは他でもない君だ」
音を立てることなく目の前に舞い降りる。美しい顔、女性体とも男性体とも違う、天界最高美を誇る天使。
「ルシフェル、様」
優しく、壊れ物でも扱うかのように酷く優しく抱き寄せられる。
「私と一緒に、来てはくれないか?」
その時の声は感情があるように思えた。あったと信じたい。
しかし、それでも俺は
「…け、ません…行けま、せん」
貴方を止めに来たのだ。
「…そうか…」
温もりが離れる。再び視界に入った表情は感情が消えていた。

「残念だよ、アブディエル」

「ッ」
離れ際に左頬を爪で深く抉られる。
「ここに残るならその左眼を借りよう、大丈夫、痛みやしないよ」
指に付いた俺の血を舐める姿が、背徳的なのに酷く美しい。声さえ出ない程に。
「ああ、あと一つ」
ばさりと翼を広げる。
「私はもうルシフェルじゃないよ、そう、ルシファーと呼んでくれ」
いつもと変わらない笑みを讃えた、その背から生える翼は黒く染まっていた。


堕天
(この先何があろうとも、私は赦されることはないのだ)