「アデレード」 聞き慣れない、甲高い声が部屋に響く。幼子の知り合いなどいたか。思考を巡らせながら声のした場所に足を運べば、そこにいたのは羽の生えた子供だった。 「…、…ラムル?」 ひと呼吸置いて導き出された人名を挙げる。 「うん」 こくりと頷く。大当たりだ。いや、そうではなくて。 「どうしたんだその姿は」 どう見ても子供だが、と問えばバツの悪そうな顔でごにょごにょと口籠る。 「…だから、その…」 「はっきり言わないとわからないぞ」 「じ、ジルベールに…」 なるほど、あの調教師か。あれの仕業ならば納得がいく。全く天使にまで効く薬なんてどこから学んだのか。 「アデレード」 思考の海に入ろうとしていた手前で、また高い声に呼び止められた。 「なんだ」 余程子供の姿が嫌なのだろう、心なしか翼がへたりと垂れ下がっている。 「しばらく泊めて」 「…なんで」 理由を尋ねればまた口籠る。ああ、見た目が変わるだけでこうも違うものか。 「さっきも言ったが、はっきり言わないとわからないぞ」 今にも唸り声をあげそうな顔で少々良心が痛む。いや、これは元々子供ではないのだ。かけるとしたら憐れみだ。 「…あれに見られたくない」 「あれ…ああ、あの司祭か」 「絶対、馬鹿にされる」 全く、この天使も変な所で強情だ。素直になればいいものを、 人形に意識をやり、空き部屋を一つ用意させる。動き出したそれにびくりと身体を震えさせるその姿もまた年相応であれば可愛く思える。 「どうせいつまで効果が続くのかわからないんだろう、そこの部屋を使うといい」 「…ありがとう」
〜後日〜 「アデレード!ごはん!」 前言撤回。やはりこの天使は全く可愛げなどない。空の食器を子供用のスプーンとフォークで叩く音が耳に痛い。くそ、誰だ、これを少しでも可愛いと思ったのは。
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