「こんな時間までお祈り?全く面倒な生き物だね人間は」 時刻は深夜に差し掛かろうとしている。 頭上から降ってきた声に顔を上げれば、月明かりとステンドグラスに照らされた一人の天使が腰掛けていた。 「おや、天使さま。こんな夜更けにどうされました?」 別段驚いた様子もなく司祭は答える。 天使は詰まらないとでも言いたげに宙に投げたされた足をぶらつかせ、頬杖をついた。 「人の子は眠りにつく時間だからね、暇なんだよ」 「私も同じく人の子ですよ」 「じゃあ何故起きているのかな?」 どうやら今日の天使に屁理屈は通用しないらしい。暇を持て余す天使は司祭の出方を伺っているようだった。 「では、勤勉な私を誑かしにでもいらしたのですか?」 「君が"勤勉"?"誑かす"?」 酷く可笑しかったのか、天使は抑えもせず声を上げて笑った。 「勘違いしないでよ、僕は誑かしに来たんじゃない。"生臭司祭"を、"誘い"に来たんだよ」 背に生えた純白の翼を羽ばたかせて、文字通りふわりと降り立った。 「お誘い?天使さまが?」 これはまたどういった気紛れか。満更でもないようで、一歩一歩近付く天使をゆったりと待ち構える。 「生臭い君が祈るのは僕くらいが丁度いいでしょう?」 まったく何処で覚えたのか、小首を傾げて緩く微笑む天使の背には、既に翼はなかった。
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