ぱたぱたと雨音が簡素な窓を叩く。数日間降り続ける雨を、窓際に肘をついて恨めしそう眺める天使が何度目かわからぬ溜息をついた。 「やみませんねぇ、雨」 書物から顔を上げた司祭がぽつりと呟く。先程から全く進まないページに飽きたとでも言いたげに、栞と一緒にぱたりと閉じてしまった。 「雨は嫌いだ、じめじめするし飛べないし、羽も濡れるし」 退屈そうな白い翼をばさりとはためかせる。数枚の羽根が室内を舞う姿を目で追いながら、司祭もまたこちらも退屈そうに足を組み直した。 「でしたら読書などはどうです?」 先程閉じたばかりの書物を差し出す。 「…、…それ詰まらないんでしょう」 さっきから全然進んでないよ、と付け足されてしまい苦笑を浮かべた。 「おや、外ばかり見ているのでこちらのことまでわかってらっしゃるとは思いませんでしたよ」 ちくりと嫌味を吐く男に、不機嫌極まりないと言いたげな溜息を盛大に吐き出す。 「本当に、嫌味な人間だな」 「すみません、性分なんです」 雨から視線を外し司祭へと向き直った。ああ、やっとこちらを向いた。 「本なんて読み飽きたよ、それよりもっと面白いことはないの」 傲慢な天使の伏せ目がちな視線が司祭の顔を捉える。 「全く、欲張りな天使さまだ」 悪態をつきながらも楽しそうな口ぶりでその場から立ち上がり、挑発的な表情を浮かべた信仰対象へと歩み寄る。 「御所望とあらば、天使さま」 跪き摘み上げた裾へと口付けを贈る姿に、酷く楽しそうに天使は笑った。
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